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第4話 この決着に祝福を

「グオォォォォォ」

 

 ドラゴンの吐く地獄の業火ともしれない、炎が凶夜の全身を包み込む

 

 目前に迫ってくる恐怖を前に当の凶夜本人は(あ、これ死んだわ)と、ある意味悟りを開いていた

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉ」

 

「キョーヤ!」

 

 灼熱の炎は轟々と唸りを上げ、辺り一面を火の海と化す

 周辺の草原は焼け野原となり、その炎の威力が伺える

 あんなものに飲み込まれては普通の人間であれば5秒と持たないだろう

 

 辺りに漂う熱風が到底人間のかなう相手では無い事を物語っていた

 

「あ・・・ああ・・・」

 

 余りにも無残な凶夜の末路を目の当たりにしたミールは声を上げることも出来なかった

 

 僕を守るためにキョーヤが死んじゃった

 まだ出会ったばかりで・・・

 (ほとん)ど他人のはずの僕のために

 僕を置いて逃げ出す事だって

 いざとなったらルークを奪って自分だけ助かることだって出来たはずなのに・・・

 

 命を投げ出してまで人を助けるなんて

 

 キョーヤ・・・バカだよ

 

「ぶもおおおぉぉ」

 

 今まで凶夜に不遜な態度をとっていたルークも、思うところがあったのか悲痛な叫びを上げる

 

「グアァァァ」

 

 ドラゴンは満足したのか、一鳴きすると翼をゆっくりと動かし始めた

 恐らく飛び立とうとしているのだろう

 

 そうだ、凶夜に助けてもらった命

 なんとしても生き残らないといけない

 一刻も早くこの場を離れ、村に報告しないと・・・

 

 ミールは地面に潜ろうとルークに指示を出そうとした、その時

 

「グァァァァァァァ」

 

「えっ・・・なっなんなんだよ?」

 

 ドラゴンの突然の叫び声にミールはルークに指示を出すのを思わず止めてしまう

 

 ドラゴンをよく見ると、キラキラしたモノが首の辺りに刺さっているのが見る

 

 そして次の瞬間、凶夜が居た辺り一面に透明な破片がキラキラと舞い、そして消えていった

 

「キョーヤ!?」

 

 間違いない、アレはキョーヤが使っていた魔法だ

 

「まさか・・・」

 

 予想外の、しかし嬉しい出来事にミールの胸は喜びに高鳴る

 

 一方、ドラゴンの炎から無事に生還した凶夜はというと

 

 

 

 

「やべぇええええ、スロットマシンが邪魔だからどけようとしただけなのにぃぃぃ」

 

 

 

 

 ミールの心配を他所に、全力で後悔していた

 

 

 

 ーーー

 

 

 ドラゴンが炎を吐く直前

 

 スロットを使う時間は無かったため、凶夜は1つの賭けに出た

 

「スロットスロットスロットスロットスロットスロットスロット・・・」

 

 ピコンッピピコンッ

 

 これでダメなら、もうダメだなぁ・・・うぅ、どうしてこんな目に・・・

 

「スロットスロット・・・」

 

 ピコンピコン

 

 人生でかつてこんなにスロットという言葉を口にしたことがあっただろうか

 もう一生分言ってしまうのではないかと不安になる

 まぁ、言ったからなんだというところではあるのだが

 

 凶夜は一心不乱にスロットマシンを召喚し続けていた

 スロットマシンはそこそこの大きさと質量があるため、人を一人隠すくらいの面積は直に確保出来た

 

 問題は耐久性、これは何とも言えなかった

 

 以前、使った時は直後に粉々に砕けてしまったが、ならば逆に使いさえしなければ砕けないのでは?と考えたのだ

 

 まぁ、そもそもこの方法に頼るしか術が無かったのだが、これが見事にうまくいき、凶夜はギリギリ生き残る事に成功した

 

 炎を受けて分かったことだが、召喚したスロットマシンは非常に頑丈で、熱にも強かった

 しかも、軽いので非力な凶夜にも軽々と持ち上げる事が出来た

 

 ただ不運だったのは

 邪魔だから放り投げたら思いの(ほか)遠くまで飛んだことと、その先に炎を吐いて満足し、今にも飛び立とうとしていたドラゴンがいた事だった

 

 もう少し言えば、スロットマシンが思ったよりもドラゴンにダメージを与えた事も

 

 あんな軽いものが何でダメージなんて与えられるんだ??と疑問に思ったりもしたが

 

 もしかしたらスロットマシンが軽く感じられるのは俺に対してだけなのかもしれない

 

 その後、放り投げなかった残りのスロットマシンは、少ししてから粉々に砕けた

 

 どうやら一定時間、何もしなければ勝手に砕けるみたいだ

 

 ・・・もっと早く言ってくれよ

 

 ーーー

 

 

「グアアアアァァ」

 

 ドラゴンは体振り乱し、首に刺さったスロットマシンを振り払おうとする

 

 凶夜が生きていた事で興奮していたミールもその光景を見て冷静になった

 反撃なんてせずに、あのままドラゴンを行かせるべきだったんじゃないか、と

 ドラゴンの大きさを考えると凶夜の使っている魔法は小さすぎる

 いくらダメージを与えられるといっても所詮小さい傷を与える程度にしかならず致命傷には至らない

 そんな事をしても、余計にドラゴンを怒らせるだけだ

 

 と、ミールは色々と考えていたが、そもそも全て事故なのだから仕方がないのだ

 別に凶夜だって好きで攻撃したわけじゃない

 

 もっとも、それをミールに知る由はないが・・・

 

「キョーヤ!もういいよ!早く逃げよう!」

 

 ミールは必死に凶夜へ言葉を放つが

 

「うおおおぉぉぉ、これ絶対死ぬやつだわ セーブ!セーブしないと!」

 

 命の危機に、いっぱいいっぱいの凶夜にはミールの言葉は届かない

 

「キョーヤーーーー!」

 

 凶夜より先にミールの声に反応したドラゴンが標的を変える

 

 そのドラゴンの様子の変化に凶夜も気がついた

 

「セーブッ、セーブポイントは!?って・・・ミール! あいつまだ逃げて無かったのか!? こうなったらしょうがねぇ、腹をくくるしかないのか、ちくしょう!」

 

「ガァァァッ」

 

 ドラゴンが雄たけびを上げミールへと襲いかかる

 

 ミールは自分へ向かってくるドラゴンを見て

 死を悟った

 

「逃げるんだよっ」

 

 このままじゃルークまで犠牲になってしまう

 と思い、咄嗟にミールはルークを力の限り突き飛ばす

 

 だが、所詮は13歳の女の子

 ルークはそれを物ともせず、ミールを守るようにドラゴンの前へと割って入った

 

「やめてぇ!」

 

 ミールが叫んだ、その時

 

「スロット!」

 

 ほぼ同時に、凶夜の声が草原に響く

 

 ピコンッ

 

 凶夜の前にスロットマシンが召喚され、慣れた手付きでボタンを押しレバーを倒す

 

 その動作に一切の迷いはない

 

 スロットにドラゴンを惹きつける何かがあったのか

 

 はたまた野生の感で'本当の脅威'に気がついたのか、それは定かでは無いが

 

 事実、ドラゴンは突如として急旋回し、標的を凶夜へ変えて

 炎を吐く準備に入る

 

 タンッ

 

「また炎かっ? 馬鹿のひとつ覚えだな!」

 

 タンッ

 

 ブレスよりも先に、凶夜は3つ目のリールのボタンを押し終わる

 

 タンッ!

 

 絵柄は十字架が3つ並び、スロットマシンのランプが激しく点滅する

 

「頼む!あいつを倒せる魔法きてくれっ!」

 

 <フィーバー!

 

 機械的な音声を発したマシンは以前と違い砕けず

 

 <ドラゴンを目標とし適正な魔法を選択しています・・・

 

 魔法を・・・選択?

 

 <ビッグボーナス確定!ボーナスの範囲内に殲滅可能な魔法を発見しました!

 

 ボーナスの範囲内・・・殲滅可能な魔法

 魔法はランダムに発動する訳じゃないのか?

 

 まぁ、そんな事は今いい

 

 この場を乗り切れれば、なんでも構わない

 

 <魔法、ホーリーレインを発動します

 

 凶夜が意味深な発言をするマシンを不思議に思ったのも束の間、空が輝き、巨大な光の矢がドラゴンに突き刺さる

 

「グァアアォアォァ」

 

 絶叫、この世のものとは思えないドラゴンの断末魔が草原を包み込んだ

 

 <連続モード突入!

 

 尚もマシンは音声を続ける

 

「よっしゃああああって、ART・・・なのか?」

 

 ーーーアシストリプレイタイム

 リプレイ確率が大幅にアップしている状態、所謂いわゆる当たりでは無いが

 連続してコインが出る状態の事を言う

 

 マシンのボタンが光、凶夜はそれを追うように押していく

 

 押すたびに、ドラゴンへ光の矢が落ち続け

 

「ガァァ・・・」

 

 凶夜が丁度10回目のボタンを押した時、スロットは砕け、ドラゴンは息絶えた

 

「はぁ・・・なんとかなったみたいだな」

 

 ドラゴンはその場に崩れ落ち、今や動く気配はない

 

「凄い・・・」

 

 ミールはその光景に思わず言葉が漏れた

 ドラゴンを1人で倒すなんて聞いたこと無い・・・

 

 それにあの光・・・あれは魔法なの?

 

 ドラゴンを殲滅出来るレベルの魔法を撃つには腕の良い魔術師が30人は必要だって聞いたことがある、それを凶夜は1人で撃った事になる

 

 そんな・・・そんなこと出来るわけが・・・

 

 ミールはかぶりをふると、とりあえず考えるのを止めた、何が何だか理解出来ないし、とりあえず助かった事は間違いないのだからそれでいい

 

 ・・・まぁ、凶夜からしてみれば、ひたすらスロットのボタンを押してるだけなので酷く地味な作業なのだが、遠くから見ていたミールには凶夜が何やら呪文らしきものを唱えて、空から光の矢が降ってきた様に見えているのだから、物凄い魔法使いに見えても仕方がない

 

 ドラゴンを倒すという離れ業をやってのけた光景を目の当たりにしたミールは、絶対にキョーヤを敵に回すのは止めようと硬く誓うのだった

 

 


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