第32話 女性は秘密が多いほうがいい?
「・・・キョウヤ様、キョウヤ様」
ううん
なんだよ、うっせぇなぁ
ガンガンガンガン
ん?
「・・・キョウヤ様っ」
自身の名前を呼ぶ声と、何かを叩く音が交差している
ガンガン・・・
ああ、わーったよ
今起きるよ、まったく・・・
「って、この声は・・・アプリか!?」
がばっと質素なベッドから身を起こし、鉄格子の方を見る
「ええ、私ですわ♪」
鉄格子の向こう側に立っている彼女の傍らには、同じように白いローブを纏っている男が2人、彼女の両サイドに傅いていた
同じようなローブだが、装飾が施されていないところをみるに、アプリよりも階級が低いんだろうか、階級ってのがあればだけど
「なぁ、俺は一体どうなっちまったんだ? 気がついたらこんな所にいるし」
アプリはフフっと笑い
「私、キョウヤ様を愛していますの」
「へ?」
想定外の回答だった、というか回答にすらなっていない
アプリは、にこにこしてそれ以上の事を言う気配はないので、とりあえず言葉を続ける
「あ、ありがとう、それはまぁ、う、嬉しいんだが、とりあえず状況をだな」
何で急に告られてるんだ、俺は
こういうのって攻めるのはノリで行けるんだが・・・攻められると拍子抜けというか・・・
調子が狂うな・・・つか恥ずい
「キョウヤ様はどうですの?」
「は?」
今はこんな話をしている場合ではないだろう
こいつは何を考えてるんだ・・・
「いや、俺は・・・てかまだ会ってそんなに経ってないだろ? こういうのはもっとこう、時間を掛けてだな・・・あ、いや嫌いって訳じゃなくてだな・・・」
凶夜がおずおずと言うが、その間
アプリは自身の身を抱きしめ、しかし瞳は真っ直ぐに凶夜を見据えていた
凶夜が言い終わった後、少し間をおき、アプリがぽつりと言った
「・・・キョウヤ様は愛を、私の愛を受けられないと言うのですね」
その刹那、アプリの両サイドにいた男の一人がピクリと肩を震わせる
一体なんなんだ、何が起きているんだ・・・明らかにアプリの様子が変だ
なんというか、会話が通じていない気がする
凶夜がその思考に至った時
「何を、貴方、貴方、勝手に動いてるんじゃありませぇぇぇぇんぅぅぅぅ!!」
アプリが男を無造作に殴り付ける
何処にそんな力があったんだとばかりに男は吹っ飛び、地べたに倒れ、ピクリともしない
「貴方ぁぁぁ、貴方は私の愛の信徒でしょう? 愛を、私からの愛を受けておいて、それを蔑ろにするなんてぇぇぇ、あぁ・・・蔑ろにするなんて、蔑ろにされる私ぃ、あぁ・・・心が濡れますわぁ」
アプリは、自身を抱く様な仕草をし蕩けた表情で、尚も倒れた男に馬乗りになり、殴り続ける
「・・・・・・は?」
何が起こったんだ、状況についていけず、思わず声が漏れる
その間もがすがすと、男が殴られる音が牢獄に響く
「あぁ、あぁああああ、これこそ愛、私からの愛を受け取るのですわぁあああ」
アプリの拳は真っ赤に染まり、それが男のものなのか、彼女のものなのかも判別が出来ない
男はピクリとも動かない、もう一人の男もこの状況に微塵も動じていないように見える
なんだ、なんなんだよ・・・!
アプリのあの変わり様はなんだ?
とてもあんな事をする奴には見えなかった
そうは言っても出会ってそんなに経っていないのも事実
そんな簡単に人の本性を見抜けるってのは驕りってもんか・・・にしても
今後の教訓にしようと心の中で固く誓う、・・・最も今後があればだが
「貴方の声が、肉が、聞こえますわぁ、愛される喜びを!」
ひえぇ、あれは、ダメだ、ダメなやつだ・・・メンヘラ?アレが流行りのメンヘラってやつなのか?
ただ、なんとなくだが分かった事もある
恐らくこの牢屋に俺を入れたのはアプリだ
つーか、この状況で他に黒幕がいたら脳の処理が追いつかないわ
まぁ、どちらにせよ牢獄に閉じ込められている俺にとっては絶望的な事に変わりは無いけどな
唐突に男を殴る音が止み
アプリが首だけをぐるりと動かし、こちらを見る
その顔は、先程の蕩けた顔とは打って変わり酒場で会った時と同じ綺麗な笑顔だった
殴った男の返り血で髪が顔にへばりついている事を除けばだが
「キョウヤ様? お顔の色が優れないようですが、大丈夫ですよ? 直ぐに出して差し上げますからね♪」




