第31話 目覚めるとそこは知らない天井がなんやかんや
「一体何がどうなってんだよ・・・」
凶夜は途方にくれていた
それもそのはず、煩いネズミ共を足で散らし、軋むベッドから体を起こして周りを見ると灰色の壁で囲まれているのだ
一方向だけは黒い鉄格子を介して通路が見てとれた
「これほど、牢獄です って主張してる場所もないよなぁ」
鉄格子の向こうの通路は黒い闇に覆われ先が見えない、結構な距離があるのだろうか
う、結構寒いな・・・ベッドもシーツはペラッペラだし、腹が冷える・・・
不幸中の幸いと言って良いのか、牢獄内にはベッドとトイレだけは付いていた
衛生的には良いとは決して言えない環境だが無いよりはマシだ
くそ、このままここに居ても飯が出てくるとも限らないしな
大抵、牢獄から出される時は無罪か死刑になる時だし
うーん、俺の立場がどうなってるのか判らない以上、迂闊な行動はとれない気もするんだよな
ぁ、脱走・・・かぁ、一応魔法があるし、壁とか壊して飛んで逃げるとかも出来なくは無いんだろうけど
指名手配とかされたらキツイしなぁ、逃亡生活になるのはなぁ・・・
顔を変えるとか、相手の記憶を消すとか出来るかもしれんが、前者はまぁ、でも後者は・・・うーん
「ぐああああ、どーしたらいいんだあぁぁぁぁ」
ぁぁぁーーーぁー ぁー
と、大げさに叫んでみたが
うん、誰も来ないわ まじか
となると、あと頼りになるのはクラリとミール、それに・・・アプリかな?
知り合ったばかりのアプリがどうにかしてくれるとは思えないが、好いてくれてたみたいだし、ちょっとくらいは期待してもいいんじゃなかろうか
そうだな、とりあえず、すぐにはどーにかなりそうもないし、寝ておくか
二日酔いで頭めっちゃ痛いし、そうしよ
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お客さん
うーん
お客さんっ
もーちょっとだけぇ
お・きゃ・く・さ・ん!!
「はひっ!」
「やーっと起きたにゃ」
ミールはキーンとする耳を庇いながら、寝ぼけ眼をゴシゴシと擦る
「うーねむいー」
ぼやけた視界が段々とクリアになってくると
そこは、昨日3人で教団の人間に会うために訪れた村の酒場のテーブルの上だった
「寝かせる処が無くて、これがおっさんだったら床に放置するんですけど・・・流石に女の子は、と思って お連れの方もそこのテーブルに寝かしてますから、連れて帰ってくださいね、あとお代は先に帰ったお兄さんから頂いてるので大丈夫にゃー」
「あ・・・は、はい」
ボーっとする頭で猫娘店員の言う事を聞き流していると、少しずつ頭がハッキリとしてきた
そういえば、昨日はエールを沢山飲んで・・・クラリが倒れて、それから・・・
あっ
「キョーヤ!キョーヤは?」
やっと状況を理解したのか、慌てて周りを見渡すミール
「だから、お連れのお兄さんなら、先に帰りましたって、なんかきれーな女性の方と一緒でしたにゃ」
「女性・・・アプリ・・・アプリコットだ」
ようやく、思い出した・・・あの二人は僕がトイレに行って戻って来たら居なくなってて
それで、机に大量のエールが置いてあって、とりあえず飲んで待ってたら・・・
やられた
あの二人、僕を巻いたなぁ! ぐぬぬ・・・
巻かれた事と、二人でいちゃついている姿を想像して、非常にイラッとしたが
それと同時に、ふと
嫌な予感がした
昨日のアプリの態度はキョーヤに好意的に見えたが時折、違和感があった・・・気がする
それが何なのかはわからなかったが
少なくとも、相手は評判の良くない教団の人間なのだ、用心するに越したことは無いだろう
キョーヤに会わなくちゃ
まぁ・・・これが杞憂で、普通に2人がイチャついていたら、それはそれで殴ろうと心に決める
となれば、まずはクラリを起こさなくちゃ
「クラリ!起きて、キョーヤが危ないかもしれないんだよ!」
「うーん、むにゃぬうにゃぁ」
「むにゃぬうに痛っ うぐぅ・・・それどうやって発音してるの、もう舌噛んじゃったよ!」
口を押さえながらクラリの頭をポンポン叩く
「もうちょい、もうちょいだけ寝かせてください!起きてないですよ、うぬにゃー」
幸せそうに涎を垂らしながら眠るクラリ
これ絶対起きてるでしょ・・・うん
緊急事態だし、起きないクラリが悪いよね
ガッとテーブルに配置されている丸椅子の足を掴む
「ちょ、それは危ないんじゃないでしょうかみゃーぐがー」
・・・
いくら言っても起きないクラリに、ミールはとりあえず椅子をぶつける事にした。




