第26話 争いは何も生まない
「というわけだから、今夜は帰らねぇわ」
「『というわけだから』じゃないですよ! 凶夜さんっ、本当に真面目にやる気あるんですかぁっ?」
クラリは正義は我にありと言わんばかり胸を張る
自分の事を棚に上げてよく言うなコイツ
少なくとも、ショッピングしてただけの奴には言われたくない
「あのな? 俺がただ遊ぶ為に、童貞を捨てたいが為に、 夜の酒場で!お前らとは比べ物にならない美少女に! 会いに行くと思ってんのかぁ!?」
「むしろ今の台詞に全てが集約されている気がするかも・・・」
「ほんと、クズの極みですね、特に美少女の下には熱が入り過ぎていて若干引きます」
2人の視線が痛い
・・・普段からこんな感じな気もするが
「・・・相手は教団の人間だーーーかなり有益な情報が手に入ると俺は踏んでいる」
それらをスルーして凶夜は続ける
「話を逸らされた気がしますが・・・わかりました、凶夜さんがそこまで言うなら、私達も同行します」
そう言うクラリの横で、うんうんと頷くミール
「は?」
思わず、声が漏れる
こいつら分かってるのか?
美少女と夜に2人きりなんて、俺の人生に一度だって無かった出来事だぞ
そう、まさに夢だ ドリームチャンスだ
このチャンスを逃したら絶対後悔するだろう
それをコイツ等なんて連れて行ったら、唯の情報収集で終わってしまうに決まっている
いや情報は必要なんだけどね?
「だめだ! お前らを危険な教団の人間に合わせる訳にはいかない!」
ドンッと机に拳を打ち付けて、苦々しい顔をする凶夜
数秒ーーー2人の反応が無いので、薄っすらと目を開け、クラリとミールの様子を伺う
じとーーー
そこには逆にこちらをジト目で伺う2人が居た
「キョーヤ」「凶夜さん」
「は、はい」
2人の圧力の前に思わず口ごもる
「そろそろ行きましょうか」
「なっ、だからお前らを連れて行く訳には・・・」
「キョーヤ」「凶夜さん」
「うっ、わーったよ・・・」
結局、2人に根負けして、同行して酒場に向かう事になってしまった
「くそ、まぁいい、チャンスは絶対あるはずだーーー」
「何かと言いました?」
「い、いや」
「丁度良いし、向こうでご飯も食べるんだよ」
「いや、ちょっと待てよ、そんな金は」
「キョーヤは相手の女の子にご飯代出させるつもりだったの?」
「なに言ってんだ、もち奢るに決まってるだろ? そんなところでケチな男だと思われたらその後がーーーはっ」
しまった、これは罠だ
「だよね じゃあ、ご馳走様」
と、いい笑顔で言い切るミール
凶夜は肩を落とし、己の無力さを痛感する
所詮俺なんてミールの掌で踊らされていたに過ぎないのかーーー
こうして、3人で酒場へと向かう事になってしまった凶夜、果たして2人を巻いて美少女との甘いアバンチュールへ繰り出す事は出来るのだろうかーーー




