第19話 秘密の依頼とその報酬
「なんだこれ、すげぇ」
ドゥムドゥムの討伐報酬をタンマリ貰った俺達は、これを更に倍に出来るというフォリンの言葉に踊らされ『話を聞くくらいならいいかなー』と安直に、まるで怪しいおっさんに飴で釣られる子供の様にギルドマスターの部屋へとついて行ってしまった
フォリンは後に、赤子の手を捻るくらい簡単でしたと言ったとか言わなかったとか
まぁ、それはそれとして
そこは、いつもの安酒場のようなギルドとは違い、マスターの部屋というだけあって、かなり豪勢な作りになっている
「みてみて、キョウヤー!スッゴい大きいアングリーバッファローの頭の壁掛けだよ!」
アングリーバッファローって言うと、ルークと同じ魔物だったよな、たしか
あんな馬みたいな牛みたいな微妙な魔物の壁掛けを作るなんて物好きもいるもんだなと、ミールの方へ視線を移す
しかし、そこにはルークとは似てもに付かない、般若の様なおっかない顔がこちらを射抜く様に睨みつけていた
うおぉぉ・・・こえぇ、頭だけで俺の全身の倍くらいあるぞ・・・てことは将来的にルークもこんなんになっちまうのか・・・
うん、優しくしよう、主に俺の身の安全のために
「凶夜さん、こっちには世にも希少なゴールデンスライムの瓶詰めがありますよ!うわぁ・・・一体いくらするんでしょう・・・ゴクリ」
クラリが、棚に並んだ黄金色の液体の入っている瓶をうっとりした目で眺めている
「それそんなに高いの?おい、バレないようにやれよ、いてぇ!!」
クラリに的確なアドバイスをしていたところ、後ろからフォリンに殴られた
この女、出会ってからバカスカ殴りやがって、バカになったらどーすんだよ
「あなたは元からバカよ、このバカ!ギルドマスターの持ち物盗もうとする奴なんて初めてみたわよ、ったく」
ちょっとしたお茶目も分からんとは、かわいそーな奴だ
「マジで盗む訳ないだろ、たまたまポケットに入ってしまう事くらいは起こりえるかもしれないけど、いや余裕で起きるね」
「確かに、私も偶々持っていたナイフを貴方の腹部に刺してしまうかもしれないわねぇ」
「で、そのギルドマスターってのはどこにいるんだ?」
命の危険を感じたので、さくっと会話を反らすことにする
ギルドマスターか、俺的には筋肉ムキムキのじいさんや、殺気を身に纏った抜き身のナイフみたいなじいさんが希望だな
「あぁ、そうね」
と、フォリンの視線の先には、大層な椅子がある、パッと見ですら、細やかな細工が為されていて、かなり手間のかかっている一品だ
、恐らくこれがギルドマスターの椅子なのだろう
だが、その主は不在だった
・・・というか、部屋が全体的に埃っぽい気がする、もしかしてこの部屋は長らく使われてないんじゃないだろうか
「マスターは留守なのよ、私は伝言を預かっているだけ」
微妙に腑に落ちないが、わざわざ部屋へ連れてきたと言うことは、他に聞かれると不味い内容なのだろう
これ以上の厄介ごとはごめんだが、聞くだけなら問題無いだろう
判断するのはそれからでも遅くは無い
そう思い、フォリンに先を促す
ギルドマスターの依頼内容はこうだ
ドラゴン信者で結成されているシャトー教団が最近この村に来て何やら怪しい動きをしているらしく、何を目的に動いているのかを探って欲しいと言う、えらく簡潔なものだった
「表向きは、ドラゴンが現れたからその調査で村にって事になってるんだけどね、それ以前からも教団の信者がこの村へ出入りしている目撃情報はあるのよ、考えすぎならいいんだけど、教団は過激で、いい噂を聞かないし」
なんだかんだとあるが結局の所、これは只の偵察任務だ
「まじ?これだけでドゥムドゥムの報酬が倍になるの?」
「ええ、更に結果によってはオマケもつけるらしいわよ」
「・・・ふーむ」
相手が魔物じゃないならいくらでもやりようはある
しかも偵察って事は無理に戦う必要もないし、そもそも本当にドラゴンの目撃情報で村に来ているだけかも知れない・・・ドラゴンは俺が倒しちゃったからもういない訳で、その場合は放っとけばそのうち帰るだろう
ちなみに、今俺の手元には全部で5340ゴルド
ミールは村に家があるし、クラリはそもそもパーティにいれないとして、俺1人だったら宿に100日ちょいは泊まれる計算になる
異世界に来た以上は観光もしたいし
今後、危ない橋は出来るだけ渡りたくない
そのためにも金は必要なのだ
なら・・・この偵察任務はかなり優良な依頼なんじゃないか?
ドゥムドゥムの報酬が倍と言うことは、1万ゴルド手には入ると言うことだ、5000ゴルド手に入れるのに命がけだった訳だし・・・うん
「よし、この依頼受けるわ」
「凶夜ならそう言ってくれると信じてたわ、お金的な意味で!」
「あぁ、村の危機かもしれないしな、この村にも世話になるだろうし、お互い様だ!お金的な意味で!」
俺とフォリンはがっちりと固い握手を交わす
「「えぇ・・・」」
クラリとミールから雑音が聞こえたが無視した
こうして、シャトー教団の調査が始まったのだった




