表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/98

第0話 俺が異世界に行った訳

「くそがぁぁぁぁ、死ぬっ!死んでしまうっっっ!!」

 

 閑散とした広間

 床には大きな棺桶が1つ

 その周りには多くの骨と魔法陣らしき模様…これら全てが合わさり、異様な雰囲気を醸し出している

 

 そんな中、声の主は目前に迫る 漫画でしか見た事が無い様なレーザービームを間一髪で躱す事に成功していた

 

「おっとっと、うぉぉああっ」

 

 …が

 床に転がる骨に足を取られ転倒し、激しく身体を地面に打ち付ける

 

 もう、さっきからずっと同じ様に躱し続けている気がする


 …やばいな、もう何回躱したかさえ分からなくなってきた

 

 正直そろそろ限界だ

 

「やはり、やはりぃぃぃ、私の見立てに間違いはありませんでしたわぁっ!こんなにも私の愛をお躱しになるなんて…流石は凶夜様きょうやさまですわぁ…あぁ…シビれますわぁぁぁああ! 愛を愛にぃぃぃぃ」

 

 俺の心境を他所(よそ)に攻撃を仕掛けてくる張本人は1人盛り上がっている

 思えばコイツに出会った事が異世界に来てからの最大の不幸かもしれない

 

 どうしてあの時、声をかけちまったんだ

 不可抗力(ふかこうりょく)って言えば不可抗力だったが、見てくれが良かったから下心が無かったと言えば嘘になる

 

 まさかこんなサイコパスだったとは…

 

「愛、愛うるせぇっんだよ、ほんっっっとに、どうしてこんな事になっちまったんだ!? 誰か答えてくれ! why(ほわい)!?」

 

 迫り来る怒涛の攻撃を(なお)も躱しながら、やり場の無い怒りと、自身をこんな状況に追いやったこの世界の不条理について、半ば叫ぶ様に問う

 

 返事が無い事は分かってるよ? いや、分かってるけど

 

 こんなん叫ばずにやってられるかぁ!

 

 凶夜様こと、この俺 ひびき凶夜きょうやはなんやかんやで

 頭のおかしい女に殺されかけていた

 

 

 --------------

 

 

 

 

 

 

 ぼすぼす・・・ぼす

 

 ちーん

 

 ちゃららららーーー

 

 

「おっ・・・」

 

 

 <げきあつ!ちゃんす!

 

 

「おおぉっ!?」

 

 

 くるくるくる

 

 ぼす

 

 ぼす・・・

 

 <ちゃららららーーーリーチ!

 

「うおおおおお、きたっきたきたあああああ!!」

 

 頼むぞ・・・もう2万円も飲まれてるんだっ

 

 響 凶夜ひびききょうやは寂れたパチンコ屋、その中でも一際(ひときわ)人気の無いスロット台の前で人生の岐路に立たされていた

 

 煌々と輝くスロット台に前のめりになりながら、ただボタンを押す作業に従事して2時間

 

 今迄頑なに沈黙を貫いていた悪魔の機械は、

 ついに、凶夜へ一筋の希望への道を示したのだ

 

 ・・・まぁ、あくまで示しただけなのだが

 

 やっと!やっとだぞ!

 これだけ当たらないなら、そろそろ当たってもいいんじゃないか?

 ・・・いや、実はもう当たってるんじゃないか?いや、そうに違いねぇ!

 

 と、そんな考えは何処へやら本人は根拠のない自信に満ち溢れていた

 

 いやぁ、ギャンブルって怖いね

 

 現在、22歳

 一身上の都合により大学は中退

 一身上と言えば、聞こえはそれほど悪くはないが、原因は親父の借金である

 

 普段から「NTRネトラレ最高!」とか「なぁ、凶夜・・・幼女欲しくないか?」とか常々インモラルな親父だと思ってはいたが、なんだかんだ「妻LOVEラヴ」と言ってたから、そういう冗談だと思っていたんだが

 

 まさか浮気するとは・・・

 

 しかも相手は近所のJKじょしこうせい

 

 凶夜家では家族会議おはなしの機会が設けられ

 開幕一番かいまくいちばんでおふくろが包丁を握り、親父におどかった

 

 その姿はまさに某RPGのバーサー〇ーもしくは、くびかりぞ〇

 

 もうね、こりゃ親父は死んだな・・・とか

 

 身内から犯罪者が・・・とか

 

 俺の人生どこで狂ったのかなぁ、子供は親の犠牲だな・・・とか

 

 俺は感慨深く、人生の深さについて考えた

 

 まぁ、ちょっとは?俺が童貞ってのもあって、親父への嫉妬や妬みも無かったとは言えないけど?

 

 しかし、親父は持ち前のしぶとさで間一髪これを回避

 

 予想外に親父の逃げきりか!? と思ったのもつかの間

 

 近所が騒ぎを聞きつけて通報、ポリスメンのお世話になって大騒ぎになり

 

 JKネタでそのまま親父は緊急逮捕

 

 そのまま、それが決定打になって、離婚という手酷いコンボを食らってしまった

 

 人生そうウマくはいかないよね

 

 その後、俺は出所した親父側に引き取られたが(母親は行方不明でしかたなく)、親父は多額の借金を抱え失踪

 

 その借金が俗に言う闇金やみきんだったらしく、ここ連日はヤクザなお兄さん達と華麗なる逃亡劇を繰り広げているというわけだ

 

 もちろん家も差し押さえられ、手持ちは残金2万という最悪な状況って(わけ)

 

 俺は考えた、この状況を打破するためにどうしたらいいか…

 

 バイト?自販機漁り?密漁?窃盗?強盗?違うね

 

 後半に至ってはもはや犯罪だしな

 借金地獄に身を落としても、人様に迷惑を掛けるほど俺は落ちぶれちゃいない

 

 そんなこんなで俺が行き着いたのが昔、友人と数回だけ行ったことがあるパチンコ屋だ

 

 そこは所謂(いわゆる)思い出の地

 ビギナーズラックなのか合計で10万は勝った事がある

 

 その時、俺は思ってしまった

 

 そう!千円が数時間で数万円に化ける・・・ここはエデンだと!

 

 ・・・と、数時間前までは思ってました

 

 うん

 

 事務的にコインを台に流し入れて、ボタンを押す作業に没頭したものの

 

 俺の残金は0円になり、台に置かれたコインは残り25枚

 

 現金換算で500円

 

 頼む・・・頼むっ!

 

 某ギャンブルマンガの主人公ばりにスロット台へ願いを込め、くるくる回る絵柄を見つめる

 

「はぁ・・・はぁはぁ」

 

 この数十枚のコインに己の運命が掛かっていると思うと呼吸が荒くなる

 

 俺はドコで間違えた?

 

 手段と方法はこれで本当によかったのか?

 

 店のチョイスは?こんな寂れた店じゃダメだったんじゃないか?

 

 寂れてるって事は当たらないからなんじゃないのか?

 

 色々な疑惑が沸いては消え、後悔が津波の様に押し寄せてくる

 

 頼むっ

 

 願いを込め、3つ目のボタンを押す

 

 ぼす

 

 <ででっでれれれれーーーー・・・

 

 画面にはこの台特有のキャラクター

 丸に目と手足をつけただけの酷く適当なデザインのフィーバーくんが走り回っている映像が流れている、このままフィーバーくんがゴールすれば当たりなのだが・・・

 

 <もうちょっと!

 

「おおっ?」

 

 画面にはゴール目前まできたフィーバーくんとそれを応援する観客が映し出され、風船が空へ飛ぶ映像に切り替わる

 

 <ばひゅーん!

 

 これは・・・めちゃめちゃ熱いんじゃないか!?

 

 どきどき

 

 心臓が高鳴り、目の前が白くなっていく

 

 風船が飛び去り、フィーバーくんがゴールへと駆け込む

 画面には砂埃が映し出される

 これが晴れた時に、フィーバーくんがゴールしていれば・・・

 

 もくもくもく・・・

 

「こいっ!こいこいこい!」

 

 <ざんねーん

 

 砂埃が晴れると、ゴール手前で倒れているフィーバーくんの姿が!

 

「くっそぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 勢いよく台座から立ち上がり、”空”を見上げて絶叫する

 

 凶夜、魂の雄叫びーーー

 

 

 終わったーーーグッバイ俺の青春

 これで失うモノは何もない、あとは人間の尊厳くらいなもんだな・・・

 

「もうだめだ、死のう・・・そうだな一面緑に囲まれた湖でもあるところがいい・・・そこはきっと風が気持ちよくて・・・」

 

 圧倒的な絶望が心を支配し、思わず凶行を口にする

 

 現実逃避をし、死に場所を考えていると

 

 ひゅう、と

 

 ふいに凶夜の顔を風が撫でる、同時に草の強い香りが鼻についた

 思わず目を開けると、空が見える

 

 そこにはビルも陰鬱な雲も’何も邪魔するものがない’青い空があった

 

「え」

 

 凶夜は思う

 

 自分が居たのは寂れたパチンコ屋だったはずだ、と

 

 そして、寂れたパチンコ屋に草の匂いがする風が吹くなんて事はありえない

 ここで匂ってくるのは、せいぜいタバコの煙やメダルの錆くらいのはずだ

 

 決して’見渡す限りの草原’なんかあるはずがない

 

「う、うえぇぇえええええ!?」

 

 スロットで負けて叫んだばかりだったが、再度、思わず叫んでしまう

 

 つーか、こんなん叫ばずにいられるかぁっ!

 

 な、なんだ?ど、どどど、どうなってるんだ?あれ?スロットは?パチンコ屋は一体ドコに!?

 

 慌てて、周りを確認するが、やはり見渡す限り草しかない

 

 唯一、凶夜がついさっきまで座っていたスロットの椅子だけが草原からにょっきりと生えていた

 

「げ、現実なのか・・・」

 

 とても受け止められないが草原から生えている椅子がこれが現実だと自己主張しているようにみえた

 

 いやいやいや、それにしてもこれは・・・

 

 俺は草原の真ん中に椅子が生えているだけの夢をみる変人だったのだろうか

 

「も、もしかして神隠しとかそういうやつ・・・なのか?」

 

 本人は気づいていないがーーー

 

 実は、さっきのスロットのディスプレイには、異世界ボーナスと言う文字が躍っていたのだ

 ハズレの音声で『終わった』と思った凶夜は見逃してしまっていたのである

 

 スロットはハズレと見せかけて、落胆させてから実はアタリという事も多々あるのだ

 

 しかし、初心者の凶夜はそんな事はつゆ知らずーーー

 

 何はともあれ

 この日、響 凶夜は闇金から完全に逃げ切る事に成功した

 

 もっともーーー混乱した本人がこの事実に気が付くのはもうちょっと先の話ではあるのだが


これからよろしくお願いします。

感想、レビュー、評価、ブックマークは励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ