分電盤 「ドラゴンさんと王族さん」
ハンギャアァァァァ!
(揺れが激しいよな〜。こんな絶叫マシンあったよな?たしか子供用)
シャギャァァァァ!
現在、緒神怜は絶賛シェイク中‥‥いや、シェイクされ中である。
それはもう、常人であれば皮袋に詰まった血肉の霙状態なっている勢いで。
ゴァギャァァァァ!
そして、絶賛気をつけ中でもある。本人の意思など関係なく、強制的に気をつけ中なのだ。
理由は簡単。
ドラゴンの右前脚の足の甲に突き刺さっているからである。
大工さんが五寸釘を踏み抜いた様なモノだ。
割合的には、人間が魚肉ソーセージサイズの釘を足の甲で踏み抜いた状態の縮尺を、ドラゴンサイズに拡大した感じである。
謎強化された筋力が29800上昇するスカジャンを着ていても、気をつけ状態で固定されていては力が入り難い。
アニメ版悪魔人間のOPみたいに、体を拘束する肉塊を格好よく弾き飛ばす事は出来なかった。
パチもんゴブリンの群れを金属バットで撲殺していると、残数が5〜6匹になった時点でパチもんゴブリン達は逃走。Web小説等の思い出さなくていい知識を思い出してしまった怜は、『わざと追い付かない程度の速度で追跡したら、インチキゴブリンの集落とか在るかな?当然、上位種のジェネラルとかロードとかキングとかいるよね?居るよな!?寧ろ居ろ!!』と、有るかどうかも定かじゃない、パチもんゴブリンの貯め込んだ財宝やら経験値やらに目が眩み、逃げるモブリン達を追い付かない・逃がさない速度で追跡。
当然、『ヒャッハー!!』と、産地は某世紀末的なザコテイストに染まる事も忘れなかった。
既にゲーム感覚である。
で、突然出会した、テッカテカの鱗に覆われた全高8メートル超、全長30メートル余りのデカいコモドドラゴン擬きに踏みつけられた結果、ドラゴンらしきヤツは怜を踏み抜いたのだった。
そして『バギャオーン』と、先程からクソ喧しい咆哮を垂れ流しながら、刺さった怜を何とか抜こうと足をブンブン揺するドラゴンみたいな奴に、結果的にシェイクされている怜だった。
一方アルディスはと言うと、ドラゴンみたいな奴にかぶり付かれて、見た目は某映画の鮫ハンターの船長の末路みたいな状態である。
かぶり付いた状態で叫び声を出せるのかという疑問は、この際置いておく。
「丁度いいや、試してみっか。【精力変換】アルディス、筋力・耐久力ブースト。精力‥‥えーと、各1億使用!」
「マスター‥‥多すぎです」
「ケチる理由ねーもん。使っとかなきゃ夢精が怖い」
「マスター御自身が使用しても良かったのでは?」
「う‥‥い、行け!西新宿の煎餅屋メタリックバージョン(♀)」
「ツッコミませんよ?‥‥舞いなさい、スラッシュワイヤー」
アルディスの両手小指から伸びた弦腕が、緑の巨大コモドドラゴンの首と、怜が突き刺さっている右前足首に高速で巻き付く。
直後、巨大コモドドラゴンの首がずり落ち、右前足首は荒微塵状態になる。
「‥‥アルディス。一瞬だけ某ゲーム映画版の、黒人隊長の末路が頭を過ったわ」
「ご冗談を。あの程度の攻撃力で、マスターに擦り傷1つでも付くとか、あり得ません」
「あり得ないとか不可能とか言うと、思考的な機械的な教授に叱られるぞ」
「1+1は、何時如何なる時でも2なのですねぇ」
「振った俺が言うのもアレだが、やめなさい。‥‥あ、このジャンボトカゲの死骸、回収しといて」
「イエス、マスター」
暢気な会話をしつつ、アルディスはヴォイドホールに巨大コモドドラゴンの死骸を収納していく。
「なんつーか、わりと弱っちかったけど、回収しといて後に売る展開ってありがちだよな‥‥あ、アルディス。首収納する前に、一応鑑定すんわ」
「イエス、マイ・マスター」
【フォレストドラゴン(雌)の頭部】×1
■ 大規模な森の深域に生息するグリーンドラゴンのエルダー種の頭部。鱗、鶏冠、目玉、牙、脳、頭蓋骨、血液等、全てが高値で取引される。因みに雄の場合は頭部の衝角が最も高額。
「‥‥やっべ‥‥やらかしちまったか?つーか、トカゲじゃなくてエルダードラゴン!?弱すぎだろ!?」
「マスターの硬さと精力が非常し─」
「お黙りっ!お前も大概だろが!」
「さて、移動しましょう。あちらの方角に大量の生命反応が‥‥」
「無視かよ!?」
「いえ、虫ではありません」
「そっちじゃねーよ!!」
「あぁ‥‥やはりマスターはボケよりも、色んな意味で突っ込んで下さる方が素敵です」
「なんだろうな、セリフ中に微量ながら含まれるエロ成分は」
「私、溜まって来ました‥‥と言うか、そろそろエネルギー補給を」
「早くないか?」
怜は落ちていた金属バットを拾うと、グリップを握ろうとして眉をひそめる。
「なんか俺、ドラゴンの血塗れだな。緑色の血液とか‥‥」
「イエス、マスター。怪我だらけのガ○ラもビックリです。案外ドラゴンの血を浴びたどこぞの英雄みたいに不死身になっているかもしれません」
そう言いながらアルディスは、タオルとペットボトルの水をヴォイドホールから取り出した。
「まさかな。そう言えばレベルが幾つか上がったみてーだし、ステータス確認してみっか」
ペットボトルの水で頭と顔を洗った怜は、滴る水をタオルで拭いながら自分のステータスを呼び出した。
■名前 レイ・オガミ
■種族 人間?
■職業 大家
■性別 男
■年齢 28
■血液型 全方位全天候型
■Lv.6[5UP]
「‥‥レベルが5つ上がって遂に種族に疑問符が付きやがったか」
「おめでとうございます」
「めでたくねーよ!?」
■HP 68兆とんで10[5UP]
■MP 0
■筋力 5(+29800+8480)
■知力 7
■魔力 0
■体力 87兆とんで3[5兆UP]
■耐久力 59兆とんで6[5兆UP](+29800+1980+8480)
■敏捷 8(+14800)
■持続力 9京[5京UP]
■魅力 15000[五千UP](+32000)
■精力 67京とんで3億98673500[5京UP]
■残寿命 870843年[50万UP]
「やな予感はしてたんだよ‥‥なんだ、これ?種馬まっしぐらな数値の偏りじゃねーか!寿命ってレベル上がると伸びンのかよ!?50万年増えやがったぞ!!」
「腎虚知らずの巨根超絶倫長命イケメン。世の男性のヘイト管理職ですね」
「嬉しくねえっ!!」
「まあ性交以外で使用した精力は回復しない仕様みたいですから、何かしらでどんどん使えばよろしいのでは?」
「使った傍からレベル上がる毎に1京増えてんだが?」
己のステータスに嫌気がさしてきた怜は、眉間にシワを寄せながらタバコをくわえる。
そのタイミングにピッタリと合わせ、アルディスがオイルライターで火を点けた。
「ん‥‥ナイスタイミング」
「嫁ですから。マスターの喫煙の前兆は把握済みです」
何となく言外に褒めて欲しいニュアンスを嗅ぎ取った怜は、黙ってアルディスの腰を抱き寄せキスをした。
身長190センチを超えるアルディス相手では、アルディスが覆い被さる状態になるのが、やや不満ではあるようだ。
「ン‥‥マスター、ここでシますか?」
「バカ言ってんなよ。こんな森の中じゃあ、どんな雑菌やら不愉快な小虫やらが居るか判ったモンじゃねーだろ」
「では立ったままで‥‥」
「お前、溜まりっぷりが恐ろしいな。‥‥お預けです」
「今、ニヤリと笑いましたね?Sですか!?」
「英語圏と日本じゃSとMの意味が逆転するらしいな」
「そんな豆知識は要りません。あんまりお預けされると、私は嘔吐するかもしれませんよ!?」
「吐くのかよ。まあ、さっき言ってた大量の生命反応っての確認したら、マーカーをセットして一旦帰るか。シャワー浴びてーしな」
「イエス、マスター。お風呂で致しましょう、沢山!!」
「どんどんドスケベになっていくな、お前」
──────────
イマニム王国の王宮を挟む様に存在する2つの離宮。
その内の1つ、天狼宮最奥に最高評定所はある。
──────────
「叔父上!」
主席宰相ニキタ・ボルコフは、廊下に朗々と響く若さ漲る声に呼ばれ、後ろを振り返った。
確りとした足取りで近付いてくる声の主に対し、ニキタは苦笑いを浮かべながら頭を左右にゆっくりと振る。
「アレクサンドル王太子殿下。私は申し上げたはずですぞ?余人を交えぬ時以外では‥‥【公】の時は、私を叔父と呼ぶのは、臣下に対して示しがつきません、と」
イマニム王国王太子アレクサンドル・ボルコフは、ニコニコと笑みを浮かべながら早足でニキタ主席宰相に歩み寄る。王太子の後を追う様に、近衛の騎士達が慌てて小走りになった。
「貴様等は、それでも殿下御身を護り奉る騎士か!?子鴨の様に殿下の後ろをくっついて回るなら、童女にも出来るぞ」
「ハッハハハ。叔父‥‥ニキタ主席宰相、そう責めないでやってくれ。次からは俺がゆっくりと歩くゆえ」
「御意」
胸に右手を当てて深く頭を垂れる宰相に対し、アレクサンドルは頷いた後に口を開く。
「良い。楽にせよ主席宰相」
「はっ‥‥して、殿下におかれましては‥‥」
「うむ。この後評定だろう?例の件に関して」
「はい殿下」
「久しぶりに父上‥‥陛下と御一緒出来れば、と思ってな‥‥叔父上、やはり堅苦しくないかな?」
「‥‥アレク。国主となれば、この比ではないぞ。‥‥如何に戴冠は一年後とは言え、今から慣れておくにしくはないですぞ、殿下」
連れ立って歩く主席宰相と王太子を囲む様に、近衛騎士と侍従からなる集団が、ぞろぞろとイマニムⅤ世の私室へと向かう。
「しかしな、ニキタ主席宰相。早すぎぬか?陛下はまだ58だぞ。仮にも【無敵鉄拳】が。俺に至ってはまだ27の若僧だぞ?」
「誰しも若僧の頃は御座います」
「答えになってないが」
「古来より、立場が人を造ると申します」
やがて一行は、ハルバードを構えた近衛の騎士達が護る王の私室に到着した。
「陛下は御在室か?アレクサンドル王太子殿下ならびにニキタ主席宰相が御迎えに参上した旨、陛下に御伝えせよ」
ニキタ宰相の言葉に、クロスさせていたハルバードを構えなおした近衛騎士は「既に王妃殿下もおいでで御座います」と告げた。
「‥‥母上が?このように朝早くからか?」
一瞬、不審な表情を浮かべたアレクサンドルだったが、気を取り直してドアに近付き真鍮のドアノッカーを使う。
「‥‥おはようございます。父上、母上‥‥アレクサンドルです」
暫く待ったが部屋の中から返事は無い。
「父上‥‥母上?」
再び不審な表情を浮かべたアレクサンドルの後ろに控えていたニキタが口を開いた。
「開けよ」
「で、ですが、主席宰相閣下‥‥」
「ニキタ宰相の言う通りだ。構わん、開けよ!俺が責任を取る!!」
「はっ!」
近衛騎士達が慌て気味に王の私室のドアを開くのもそこそこに、空いた隙間から部屋に入り込むアレクサンドルとニキタ。
「いらっしゃらぬではないか!貴様等、何を隠している!?」
声を荒げて王の近衛騎士達に詰め寄るアレクサンドルを、ニキタの冷静‥‥と言うより氷点下の声が止める。
「殿下‥‥その者達に責はございません」
そう告げたニキタは、飲みかけの紅茶が残されたテーブルの上から、一枚の紙を取り上げた。
「宰相、それは?」
「はぁ‥‥ホント久方ぶりに‥‥やりやがったな、クソ兄貴!!」
呆れた様に掌で顔を押さえ、先程までとは打って変わり、荒れた口調で言葉を吐き出すニキタから紙を奪ったアレクサンドルも、其処に書かれていた文章を見て口元を引き攣らせた。
【ジークリンデとお忍びで遊びに行ってきます。もう後譲るんだから良いよね?いや、良いはずだ!!探さないで下さい】
「マジか?」
「義姉上が【銀髪の魔女】の2つ名を持ってるのを忘れてた!【上位転移】か!不測の事態の為に、外に転移する魔術のみを発動可能にしていたのが仇になったわ!!」
「叔父上、俺に口酸っぱく言ってた言葉使いが‥‥」
「うっさい!それどころじゃないぞ、アレク!」
「えー」
「クソっ、戴冠してからおとなしかったから、すっかり気を抜いてしまっていたわ!何が立場が人を造るだ!!奔放過ぎるトコは治ってなかった!!」
すっかりブロークンな喋り方になった王太子と主席宰相を遠巻きに取り囲む近衛や文官達は、何とも言えない表情でお互いを見やっていた。