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中庭 「冒険者さん達と鬼畜」

不愉快な表記あり


──────────



 バブロドック村からの依頼は、オトム・ユフ大森林の調査だった。

 この村は、イマニム王国領内において最西方に位置し、オトム・ユフ大森林が目と鼻の先にある。

 北方における魔族の侵攻と呼応するかの如く、大森林の浅部での魔物の活動が活性化しつつあるらしく、村の財源の大半を占める狩猟や薬草採集に支障を来す前に、先手を打って集落や巣穴を捜し出し、一気に討伐してしまいたい。

 そんな村からの依頼を受けたアクァンナム冒険者ギルドは、まずは調査の為に4つのグループを送り出した。

 【レジオネア】【DDクライ】【ドーンスラッシャーズ】【グロスブレイズ】のCクラス4チームである。

 王家の直轄領において、この様な危険領域に程近い村の治安維持費はイマニムⅤ世の個人資産から出されていた。

 オトム・ユフから入手可能な、希少な薬草の数々や魔物の素材と食用肉。

 それらの採取を冒険者に以来しようにも、村の常駐冒険者の仕事は飽くまでも【村の防衛】である為に、狩りや採集に護衛として連れて行く事は契約書違反となってしまう。

 さりとて、村にギルドの支部を作ろうとしても仕事内容と危険度から、全くもって人が集まらずに頓挫している状況だった。

 にもかかわらず、この村が存続している理由は、儲かっているからに他ならない。

現王妃ジークリンデの出生地であり王家の直轄領でもあるこの村は、オトム・ユフから採取出来る各種薬草の優先採取権を与えられている。

 冒険者が討伐クエストの最中に『偶然見つけて』採取する分は暗黙の了解で見逃されるが、持ち込みや買い取りの上限が厳しく定められているため、見つかると重罪が確定している。

 最も距離の近いアクァンナムのギルドからでも、行き帰りの経費を考えると『偶然見つけた』分量だけでは、大した儲けにならない。

 したがって、冒険者がバブロドック村絡みの依頼で目にするのは、比較的安全な街道を通る輸送の護衛か、手強い魔物の討伐になるのだった。

 そんな中での、大発生の危険を孕んだオトム・ユフ大森林の調査である。

 これは王家からの直接の依頼と同等の扱いであり、アクァンナム冒険者ギルドに席を置く冒険者達に強制力が働く依頼でもあった。

 しかし、所謂『親方日の丸』状態の為、報酬は破格である。参加報酬(出撃決定までの拘束料)だけで1日一人大銀貨1枚と言うのだから、新人やロークラスには旨味があり、実際に大発生が起きた場合、目覚ましい活躍をすれば、成り上がる事も可能となれば、荒事が飯の種である彼らには願ったり叶ったりとも言えた。

 そんな状況の中での調査であれば、先ずはその任務に選ばれたい連中でギルドのメインフロアーは溢れかえる。調査の結果、『大発生は無い』となれば、調査に携わったチームのみが、普通の調査よりも割増の報酬を手に入れてお仕舞いだからだ。

 この様な場合、普段通りの早い者勝ちでは速攻で血の雨が降る修羅場と化す。したがって、前述の4チームはギルドマスターの承認を受けた、ギルドの直接指名のチームだった。

 そして現在、繋ぎ役のチームを一組村に残し、【レジオネア】【ドーンスラッシャーズ】【グロスブレイズ】の3チームが大森林の直近まで来ていた。


「しっかし‥‥ここに来るまで遭遇した魔物は居ねえんだが‥‥こりゃガセか?」

「フム。調査せん前から決めるな、アナコンダ」


 独り言とも問い掛けともつかない【レジオネア】のリーダーであるマーク・ルービンの呟きに、【ドーンスラッシャーズ】のリーダー、ドワーフのゼス・ゴルテガが律儀に応える。


「ちっ。その二つ名は止めてくれよオッサン」

「仕方無いでしょ?軽戦士のクセに、ディバウアーリザードを素手で絞め殺したんだから。ねー、ア・ナ・コ・ン・ダ」

「うっせーぞ扁平胸」


 ゼスの尻馬に乗りマークを弄ったのは、女性オンリーのチーム、【グロスブレイズ】のリーダー、森エルフのシェリンダ・ビリジアンアイである。


「ハハハハ!扁平胸とは言い得て妙だわい」

「よし判ったわ。歩く生殖器と生ける酒袋、決闘よ」


 シェリンダのショートカットのブロンドが若干逆立ち、碧い瞳の虹彩がキュッと収縮する。

 その様子を後ろから窺っていた三人の人物が、呆れた口調で喋り始めた。


「また始まった。面倒くせー」


 伸びをしながらそう言ったのは【レジオネア】の重戦士、巨漢のベスタク・カルホン。


「何でしょうね。あの三人が寄ると始まる、この生暖かい予定調和は」


 立禅の状態で穏やかに応えるのは痩身のモンク。【ドーンスラッシャーズ】のアブド・ラザ。


「放置で宜しゅう御座いましょう。飽いた光景で御座います」


 【グロスブレイズ】の治癒術士である狐のセリアン(獸人)、モニカ・カーライルが目尻に涙を滲ませながら、欠伸を噛み殺した。


「‥‥お?ありゃーお前さんとこのレンジャーじゃねーの?グロスブレイズさんよ」

「あら」


 杖代わりに体重を預けていたグレートアックスから片手を離し、ベスタクが指差した方向には、両手を大きく振り上げながら、『此方に来い』と合図する人影があった。


「声を出さないのは‥‥敵が近くにいる可能性‥‥ですか?」

「左様で御座いましょうね。皆様!わたくしどものジャクリーンが何やら発見したらしゅう御座いますわよ」


 モニカの声に、緩みかけていた雰囲気が引き締まる。


「オーケー、俺はここに残って警戒がてら、北側に足をのばしたウチの二名とオッサンとこの三名、待つわ」

「ウム、頼む」

「決着はこのクエスト終わってからね」

「シェリ、怒り皺が増えますわよ」

「余計なお世話よ!」

「ふむ‥‥森エルフとはシェリンダさんの様に、直ぐにカッとなる民族なのですか?」

「そりゃー無いな。結界の外で活動してる森エルフなんて、大体は当たりが柔らかいぜ。モテモテってヤツ?」

「処女ですからねぇ。肩肘張ってて見苦しい事ゾンビの如しで御座いますわ」

「よくぞ言ったわ、性悪女狐。あんたも決闘よ」


 軽口を叩き合ってはいるが、五人全員が森の方に神経を集中させながら移動して行く。

 やがて緩やかな上り坂を越えると、彼らの視界に入って来たのは放棄されたと思しい横倒しの荷車と、その前でしゃがみ込んでいる2人の人物だった。


「ジャクリーン!」

「あー‥‥シェリ。これ見てよ」


 シェリンダの声にに顔を上げた犬セリアンのレンジャー、【グロスブレイズ】のジャクリーン・ビネットは、周囲に散らばる凶行の痕跡を指差しながら立ち上がった。


「荷馬車が襲われた?」

「だろーね。雑然としてるけど、足跡と何かを引き摺った後が森に、ね」

「匂いは?」

「オークと人族は確定」

「生存者は?」

「聞くの?」


 シェリンダの問いに、ジャクリーンは淡々と答える。

 妊娠可能な女は繁殖用の苗床で、それ以外は食糧。

 判りきった事である。

 判りきった事ではあるが、シェリンダを始め、幾人かが辛そうな表情を浮かべた。


「しかし‥‥なんで商人がこんな街道筋から離れた場所に‥‥」


 そう呟きながら立ち上がったのは人族の魔術士、【グロスブレイズ】のレフェル・ネー。


「ま、あれだよな。禁制品?」

「フム。関所かわして商国に強行しようとして自滅ちゅう事か」

「で、どうするんだよ」


 いつの間にか合流していたルービンと北側外縁探索班。ルービンは片側の眉を上げながら、誰とも無く尋ねる。


「そりゃー儂等の任務は大森林浅域から中域にかけての調査だ。どうもこうもありゃせんわい」

「そうね。偶然誰かを助けてしまうかも知れないけどね」

「‥‥聞かなかった事にする。罰金はシェリンダだけで払って」


 チームリーダーのお人好し発言に、呆れたように天を仰いだレフェルは額を掌で押さえながら、そう告げた。


『ハールェェェェーイャッフィィィィィ!』


「え!?」

「ちょっ、何?」

「ドワーフの【戰叫ウォークライ】か?」

「馬鹿もん、ンなワケあるか!」


 大森林の中から轟く人らしき叫び声を聞き、3チームはオトム・ユフに足を踏み入れた。



──────────





「ああ‥‥現代社会では、僕の欲望は満たされる事は無かったんですよ、刑事さん。知ってますか?自分の内臓を見た時の、彼女達の眼に浮かぶ恐怖と絶望を‥‥それはそれは美しいんですよ。ああ‥‥もっと犯したかった。もっと解体したかった‥‥でも【此処】では、もう無理ですよね?死刑ですもんね?いや、これで人権派の馬鹿弁護士が責任能力云々言いだすなら‥‥この国、終わりですよ。‥‥あ、異世界って知ってますか?‥‥いや、ね。ろくな科学捜査も無いような中世レベルの世界なら、やり放題かなあ、と。奴隷とか獸人とかエルフとか‥‥今度はそんな少女達を‥‥え?やだなあ、至って正気ですよ」


──────────



 朽木事件。

 近代日本に於いて、最も世間を震撼せしめた凶悪事件である。

 連続少女誘拐の犯人として検挙された朽木哀作(当時23才)。

 彼の異常性が明るみに出たのは、取り調べに於いて数々の余罪が明らかになってからだった。

  朽木によって誘拐され、性的暴行を受けた上で無惨に殺害された人数、37人。全てが12才未満の少女である。

 押収された証拠品の数々は、宛ら地獄パノラマの様相を呈していた。

 暴行と殺害の過程を記録した映像や写真は、文字にする事すら悍ましかった。

 判決は、勿論死刑。

 控訴は無く、本人も執行を強く望んでいた。

 そして、逮捕から1年と言うスピードで、刑は執行された。

 それが18年前の事である。

 尚、取り調べに於いて朽木は、素直過ぎる程に、事細かに全てを余す事なく語り、反省の様子は全く見せなかった。



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