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中庭 「モブな奴ら」

 イマニム王国。

 建国僅か117年の年若い国家。

 だが、この国は異世界エッドガルドの列強5国に名を連ねる。

 150年前の魔族大侵攻を、唯一経験していない程の歴史の無い国が、列強5国に数えられるまでにのしあがった理由。

 それは主に、群雄割拠だった大陸中央から南部にかけてを統一した三代目国王と、四代目国王の七番目の息子であり相続順位7位であるのを良いことに、早々に王子の地位に見切りをつけて出奔し、長い間冒険者として活躍して、大陸のほとんどの国家に【無敵鉄拳】や【クラッシュ・ザ・ブルーザー】等の二つ名を轟かせた現国王、イワン・ボルコフ・イマニムⅤ世の功績と言える。

 だが、そのイマニムⅤ世も、止むを得ぬ理由により本国に呼び戻され、齢41で即位して以来、体を動かす事がめっきりと減ってしまった。

 そうなると、若い時の無茶無理無謀が祟り、肉体の衰えは信じられない程の速さで、老いを表面化させて行く。

 肉体の衰えは、反比例して精神を老成させては行くのだが、それを良しとしないイマニムⅤ世の覇気は、日を追って失われつつあった。

 そして、イマニムⅤ世が齢57を数えたその日、150年ぶりの魔族侵攻の報が、イマニム王国に届いたのだった。


──────────



─何時かの日本の何処か─



 薄暗い廃倉庫の中に、足音と小刻みの呼吸が響く。


 はぁっはぁっはぁっはぁっはぁ‥‥‥はぁっはぁっはぁっはぁっ‥‥‥。


 その足音と呼吸の主は、まだ幼さの残る少女。

 その顔に浮かぶのは焦燥と恐怖。

 その瞳に浮かぶのは、涙。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い!助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!パパ!ママ!れい君!)


 少女は身を隠す場所を求め、視線を、顔を、激しく左右に振る。

 そして目に入った、古びた木製のコンテナボックスの陰に、走り込んでしゃがむ。


(はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ)

「○○ちゃ〜ん、どーこかなぁー?」

(はぁっ‥‥‥)


 廃倉庫の中に響く絶望を告げる声を聞き、荒い呼吸を隠す為に思わず自らの手で口を押さえる少女。


「あれー?かくれんぼしたいのかなぁ?苦しいの我慢してるのかなぁ?ほら、呼吸したら見つけちゃうよ〜‥‥ほらほらほらほらぁっはははははは」


(イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ助けて助けて助けて助けて神様神様神様パパママ‥‥れい君助けて!)










「みーつけたぁぁぁ」










──────────



「‥‥おい、こりゃ何処だよ?」


 思わずそう口にした怜の周囲は、見たことの無い草木の生い茂る森林だった。

 上に目をやれば樹木の枝葉の隙間から、僅かに陽光が零れ落ちてくる、そんな森林である。


「コントローラーの方々の話では、イーヴリンさんを転送した座標と同じ位置のはずですが」

「そもそもポチャ子を飛ばした時がランダムだったんだろ?*じゅもくのなかにいる!!*とかになってねーだろうなあ?」

「まさか‥‥と否定しきれないのが怖いですね」


 怜とアルディスは、辺りの樹木とイーヴリンが一体化しているのではないか?と周囲を確認して廻る。どうやら人樹合一の即席デーモン族は居ないようで、怜はほっと一息ついた。


「いやいやいや、ほっとしてる場合じゃねーよな?」

「意外とオーク辺りに同族と思われて、集落でのんびりしているかもしれません」

「‥‥そこまで言うか?ポチャ子が気の毒になってきたわ」

「マスター。一応ステータスの確認をしておきましょう。魔術の有無の違いなどから来る表示の変化も有り得ますので」

「無理矢理な話題の路線変更だな。あの娘も悪い子じゃねーと思うぞ?少しは優しくしてやれよ」

「善処します」

「やれやれ」


 軽く溜め息をついた怜は、【ステータス】と頭の中で指示を出す。

こちらの世界では、伊達眼鏡端末を使用せずとも『己のステータスは確認出来る』と3柱から聞いていた怜は、現在は眼鏡端末はネックレス代わりに胸にぶら下げている。


「おー‥‥なんかツッコミどころが多いな、俺」


■名前 レイ・オガミ

■種族 (低確率で)人間

■職業 大家

■性別 男

■年齢 28

■血液型 全方位全天候型

■Lv.1


「態々()で括るんじゃねー!俺は人間だ、クソが!!大体、何だ!全方位って‥‥どこぞの伝説巨神のミサイルか!?こんチクショウ!それに職業が大家って何だよ!?」

「マスター。私が右腕に入居済みです」

「それかっ!!」

■HP 68兆とんで5

■MP 0

■筋力 5(+29800+8480)

■知力 7

■魔力 0

■体力 82兆とんで3

■耐久力 54兆とんで6(+29800+1980+8480)

■敏捷 8(+14800)

■持続力 4京

■魅力 10000(+32000)

■精力 62京とんで6億

■残寿命 820843年


「魔術関連が軒並みゼロか‥‥まあ、それは構わん。しかし!カッコの中のプラス数値は何だ!?」

「マスター。恐らくは装備品の性能では?」

「装備品って‥‥スカジャンとか刺繍入りのデニムとかが!?」

「ギフトで完全鑑定を付与して貰いましたね?後程鑑定する事をお薦めします」

「うん、嫌な予感しかしねー」


■スキル

【完全鑑定・改】‥‥レア度クラス(レイ・オガミ固有)

■ 物品や人物、モンスターなどに使用する事で対象の能力や状態など、詳細な情報を入手可能。対象が常時発動の完全隠蔽や完全偽装を持っている場合でも、精力を使用する事で全てを看破出来る。


【体毛・爪自在】‥‥レア度クラス(レイ・オガミ固有)

■ 毛髪を含む体毛や爪の長さや色を任意に変更可能。髪形も同様。長さ調節・色変更・髪形変更ともに、それぞれ精力を使用する。


【精力武装】‥‥レア度クラス(レイ・オガミ固有)

■ 精力を使用する事で、入居者を装備可能。使用する精力の量は、武装の形態や部位により変化。(現時点での対象入居者・101号室アルディス)


【精力変換】‥‥レア度クラス(レイ・オガミ固有)

■ 精力を一時的に能力値に変換出来る。また、入居者のアビリティブーストにも使用可能。能力の上昇値や持続時間により、使用精力は変化する。


【精力付与】‥‥レア度クラス(レイ・オガミ固有)

■ 対象に精力を与える事で、対象の治癒力を高める。使用精力の量で、瞬間治癒や欠損部位再生等も可能。


「ここら辺はまあ、助かるよな。特に体毛と爪。なまじっか頑丈になったもんだから、髭剃ろうとしたらシェーバーの刃が真っ二つになったもんなぁ。これでヘアカットでも行こうモンなら店潰れるからな。頭髪がハサミを切断なんて、シャレにもならん」


 そう言いながら怜は、プラチナブロンドのロン毛になっていた己の頭髪を、漆黒のリーゼントに変化させた。使用した精力は、併せて20000である。


「そうですね。マスターの精力の大瀑布は、私1人で処理するのは、ほぼ不可能と判断出来ますので。何かしらで放出しないと無限夢精が待っています。下手をすると、日常生活の中で出てしまうかもしれません」

「‥‥エロ漫画の絶倫キャラも裸足で逃げ出すよな。ンな事になったら自殺モンだぞ」

「頑丈過ぎて自殺が成功するとは思えませんが」

「っふう‥‥」


 深くタメ息をつきながら、スカジャンのポケットから煙草を取り出し火を点ける怜。

 深緑の中に、紫煙が溶け込んで行く。


「とは言え、やはり女性との行為で発散放出するのが一番です。出来れば正妻の私以外にも、多数の入居者を‥‥」

「ハーレムっすか。‥‥つーか、さらっと正妻とか言ったよな!?」

「私の体を散々に弄んだあげく、飽きたら捨てるのデスネ‥‥マスターは鬼畜デス」


 思わず裏返った怜の声を聞いたアルディスは、判りやすい位に落ち込んだ表情を浮かべる。


「あのなあ‥‥」

「冗談です。本妻でも正室でも第一夫人でも構いませんので、末長く可愛がって下さいませ」

「意味合い同じですよね!?たしか現代日本って重婚は犯罪だよ?」


【装備品】

右手 未装備

左手 未装備

体1 【スカジャン】〔スカル&ドラゴン〕‥‥レア度クラスSS

■ 背中にドクロとそれにまとわりつく龍、左右の腕部に登り龍、左胸部にドクロの刺繍が入ったカスタム品。色は腕部に錆銀とアイボリーホワイト、背中と正面は黒とアイボリーホワイト。刺繍はレイ・オガミの特注。値段分だけ、筋力と耐久力が上昇する。値段29800円。


体2 【ロンT黒】‥‥レア度クラスE

■ 量産品。値段分、耐久力が上昇する。値段1980円。


脚部 【刺繍入りデニム】〔ウイング〕‥‥レア度クラスB

■ 脚部に翼の刺繍入り。値段分、筋力と耐久力が上昇する。値段8480円。

足 【スニーカー黒&黄】‥‥レア度クラスB

■ 黒にエナメルイエローのラインが入ったスニーカー。値段分、敏捷が上昇する。値段14800円。


アクセサリー

【ウロボロスの指輪】‥‥レア度クラスS

■ 2匹の龍が互いの尾をくわえて∞の意匠を形作っているリング。全ての状態異常を吸収・放出し、値段分魅力が上昇する。値段32000円。


「‥‥こんなデンジャラスな性能、何時実装された!?」

「おそらくは、こちらの魔術が日本で発動しない理屈と同じなのでしょう」

「世界の土台となるロジックってヤツか?文字化けかよ」

「イエス、マスター。こうなると、持ち込んだ品がどう化けているか予測が出来ません」

「やらかしちまったか‥‥何かしら大爆発したりしねーだろな?炭酸とか」

「まあ、そうなっても我々は無傷ですので大丈夫ですね」

「お気楽だな!?」


 そうツッコミながらデニムのポケットから吸殻入れを取り出した怜は、煙草を放り込んだ後、2本目を啣える。

 

「‥‥‥マスター。こちらに接近してくる生命体があります。距離100メートル。数は30です」

「うーい、マジかよ。アルディス、金属バット出して」

「イエス、マスター」


 再び火を点けた煙草の煙に目を細めながら怜は、アルディスがヴォイドホールから引っ張りだした金属バットを受け取って素振りをする。


【装備品】

右手 【金属バット】〔ストロング・オズマ〕‥‥レア度クラスA

■ 精霊銀を素材に使った特殊な形状のメイス。長さ84cm。重量930g。値段27200円。物理攻撃+27200。両手で使用した場合、更に+12000。

■ 【固有打撃技】

① インビジブルスイング

回避不可能の見えないスイング。使用回数1日に3回。

② ツーテンカクアッパー

対象を空高く打ち上げるアッパースイング。使用回数1日に5回。


「‥‥もう色々と危険な名前と性能だなぁオイ。何時からバットはメイスにクラスチェンジした?それに精霊銀って‥‥」


 元はただの金属バットだった筈の、今は邪悪な撲殺兵器を呆れた様子で眺めるそんな怜達の前に現れたのは、全身薄汚れた緑色の、小柄な生物の群れだった。


「おー、初遭遇がゴブリン。これもテンプレだわなぁ‥‥え?」


 20メートル程離れた場所で、武器を振り回し悪意に顔を歪め、涎を撒き散らしながら威嚇の叫び声を上げる緑色の生き物に鑑定をかけた怜に飛び込んで来た情報は、何の冗談だとツッコミたくなる内容だった。


─鑑定結果─


【モブリン】×20


■ ゴブリン亜種。武装や衣装、体毛の一本や皺の一筋、細胞の1片まで全く同じで個体差が無い。この特徴を利用した【謨武淪スパイラルエイト】などのインチキ分身を得意とする。


【ホフリン】×5


■ ゴブリンのレア種。敵をほふる事しか頭に無い。攻撃力は高い。


【オブリン】×4


■ ゴブリンSレア種。腕を欠損したゴブリンが、脚を欠損したゴブリンを背中合わせで背負った形で融合している変種。腕の無いゴブリンは移動とキック、脚の無いゴブリンはパンチや武器攻撃を担当する。別名ミラクルカンフー阿○羅


【ポプリン】×1


■ ゴブリンSSレア種。香草や香辛料などを主食とするゴブリンの変種。なんとも言えないフレグランスが漂う。肝臓と魔核は高価で取引されている。


「‥‥」

「マスター?」

「ここは駄洒落の森に違いない決まってる今決めた。臭く不潔な街に不潔な住人に不潔な駄洒落デミヒューマン‥‥きっとエルフも加齢臭満載の不潔な腐りかけ豆モヤシに違いない。何がテンプレだ」

「マスター!?また推論にすら成らない独断と偏見を」


 額に極太の青筋を浮かべ、歯軋りする歯の隙間から呪詛の呟きを洩らし、金属バットを肩に担ぎながらモブリンの群れ目指して歩いて行く怜を、若干引きながらも追いかけるアルディス。

 そんな怜達に、我先にと殺到するモブリン×20。

「よぉぉぉっしゃあ!!気合い入れっぞオォォ!!ハールェェェェーイャッフィィィィィ!」

「マスター!?昔を思い出すとか仰ってましたが、まさかの控室の外人レスラーのテンション上げが出るとは」

「こんなもん、雰囲気ぶち壊しの3流ファンタジーのノリで充分だ!」

「ファンタジー系の異世界で、スカジャン着て金属バット振り回している時点で既に雰囲気ぶち壊しですが?」

「うっさい!!」


 錆びたショートソードを振りかざし、跳躍して遅いかかって来たモブリンに対し、右手だけで金属バットを振り抜く怜。

 パァンと破裂音が森に木霊して、モブリンが1匹粉微塵に弾けた。

 飛び掛かって来た残りのモブリン×2匹の棍棒が怜の頭に、錆びたショートソードが肩口にヒットするが、両方とも砕け散る。

 怜は、飛び散る破片が不愉快なのか、軽く眉を潜めたが、特に痛みも感じない自分に軽く驚いた。


「マスター?」

「うーい、ビックリした。戯けた耐久力は伊達じゃねー‥‥なぁっ!!」


 そう言い放ちながら、武器を失い着地したモブリンを、怜はツーテンカクアッパーを使用して、2匹纏めて天高く打ち上げた。

 何故か解らないが、非常に乾いた高音の、『カッキィーン』というSEが付属している打撃技だった。

 覆い被さる木々の枝葉を突き破り、モブリン2匹は彼方へと消えた。

 同時に脳内にファンファーレが鳴り響く。

≪レベルが上がりました!ステータスを御確認下さい≫

「おおう、安っぽい合成音声。取り敢えず後まわしだ。アルディス。お前、攻撃手段を持ってる?」

「元々は攻撃手段ではありませんが、弦腕を流用してみましょう」

「あー、あのポチャ子の記憶盗んだ時の?」

「人聞きの悪い‥‥スラッシュワイヤー、伸びなさい」


 迫って来る後続のモブリン達を、バッと指差すアルディス。その指先から不可視に近い程の細さの金属糸が迸り、モブリン10匹を絡め獲る。

 それを確認したアルディスは、指先から射出された金属糸を手首を回して掴み取り、クンッと軽く引っ張った。

 同時にモブリン10匹は、見事にスライスされて崩れ落ちた。


「おお〜。どこぞの三味線屋と水鳥拳を足したみたいな感じだな。カッコいいなぁ」

「あら。恐縮です」



──────────



 オトム・ユフ大森林の樹海に張られた、森エルフの結界からなる迷いの森最奥にある宿り木の村・アディ。

 その日、アディの中心部の広場にゴブリンの亜種、モブリンが2匹降ってくるという、1500年前に村ができて以来初めての怪奇現象が発生した。

 ゴブリンやオークの大量発生を警戒した森エルフ賢人会は、2つ名持ちで結成した探索部隊を結界の外まで送り出した。

 ‥‥まさか、興味本位プラス小遣い稼ぎで遊びに来た異世界人が暴れている結果だとは、気付く訳がなかった。

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