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共用廊下 「ポチャ子さん(仮)」

───────────


──エッドガルドと言う名の世界──



 始まりは、アティク公国の北、魔族生息域との緩衝地帯となるオネウ大森林を監視する為の城塞砦。

 百五十年おとなしかった魔族の進攻に曝されたのだ。

 人的被害は常駐していた衝槍騎士団1400名と下働きの奴隷100名の内、192名の拉致。

 残った1308名は、怪我の大小はあるものの、生きていた。

 当初アティク公国は、被害の少なさ故、事態を甘く見ていた。もしかしたら、脱走者が出た事を隠す為の言い訳なのではないか、と。

 しかし、一月程経過して北部の村々が襲われ、被害報告が届き始めると、首脳達は顔色を変えた。

 報告の内容が異常だったからだ。

 女子供や老人には目もくれず、若者や働き盛りの壮年男性の中から数名、村によっては十数名のみが拉致されるに(とど)まっていた。

 被害が少ないから良い、とはならない。相手の目的が全く見えて来ないのだ。

 食料や繁殖用に女子供を拐うわけでも無く、虐殺するでもない。

 しかし、明日は対象や目的が変わるかもしれない。

 オネウ大森林に近い周辺諸国は一斉に色めき立ち、対魔族の戦闘準備に入った。

 ノウハウを持つ国は、馬鹿の一つ覚えよろしく、躍起になって勇者召喚・異世界召喚を連発。

 召喚される側の気持ちも事情も無視である。

 ダブり上等で各国が勇者コレクションに熱を上げ、対魔族の軍備を強化していく中で、奇妙な被害状況は忘れられた。

 ‥‥‥そこには魔族側の、死ぬ程くだらない脱力感満載の理由があったのだが。



──────────




「えーと‥‥アルディス、お代わり」

「マスター。この悲惨な状態では、現実逃避に無理があるかと」


 いや、悲惨だからこそなんだけどな。

 味噌汁や玉子焼きが散らかり、伸ばした俺の右腕にはポッチャリ系の魔女コス娘。

 所謂、魔法使いが被る黒いマジシャンズハットに黒いマントと赤いケープ。その下のシャツは‥‥テカってるな、材質が。鞣した爬虫類の革っぽい。

 パンツは‥‥たっぷりした白いスエットみたいだな?材質がゴワゴワしてそうだが。

 僅か15時間程でドえらい騒ぎの連続で胸焼け気味だよ。

 あーあ、味噌汁が染み込んで、漏らしたみたいになってるし。


「△◇○!※#●◎□▼!」


 は?ロシア語か?全く解らん。

 髪の色は、バイオレットで、セミロングのクセっ毛だな。あちこち跳ねてる。

 顔だちはロシアと日本のハーフっぽいな。丸い輪郭と大きな丸い目。瞳は榛色かな?小ぶりな鼻も丸い印象で、全体的に童顔なんだな。

 ただ、唇だけが扇情的な厚みと潤みを帯びてる。

 体型は‥‥うん、ポッチャリだな。デブじゃないけど、ポッチャリだ。

 あと巨乳。


「えー‥‥あー‥‥取り敢えず退いてくれっかな?」「≒£¥■■☆ゐ?」


 駄目だ、こりゃ。


「アルディス、どーにかならんか?意志疎通が困難だわ。早く退いて貰いたいんだが」

「イエス、マスター。先ほどの伊達眼鏡端末をご利用下さい。弦腕を彼女の脳に侵入させ、言語体系を記録しました。マスターの寿命46年と精力1500を使用して、タイムラグ無しの相互翻訳機能を追加しました」


 俺の寿命と精力は錬金術の素材か?‥‥まあ、両方とも有り余ってるからいいけどさ。


「なんだろうな、その万能具合。【えもん】系だね」


 そんなコト言いつつも、アルディス謹製伊達眼鏡型端末(改)を装着して、目の前のポチャ子(仮)に話かけてみる。

 ‥‥散らばった玉子焼きをつまみ食いするんじゃない。


「あ〜、テステス。俺の言葉、通じるかな?」

「んぐっ、いきなり通じた!!すいません、食事お呼ばれしまして」

「食卓の真上に突然現れて、食事をくっちゃくちゃにするのをお呼ばれとは言わないよな?」

「いやー‥‥此所は何処ですかね?」


 聞いてないのか通じてないのか、白菜の浅漬けを手掴みで食いながら、周りをキョロキョロと見回すポチャ子(仮)。


「チクショウ、言葉が通じるのに話が通じねぇ‥‥それは海苔の佃煮だ。匂いを嗅ぐな」

「ノリノ付くダニ?ダニを食べるんですか?そんな貧しそうには見えないんですが」

「食うか!大体その量のダニ集めるのが大変だわ‥‥ヤベー、首絞めたくなってきた」

「貴女は何処の何方でしょうか?因みに、貴女は次元転移をして此所に現れたと思われますが」


 ナイス、アルディス!後は任せた。取り敢えず俺はお茶を飲む。


「あ、はい。私はイマニム王国の宮廷魔術師第三位、ペドロン・モーラリス様の一番弟子、イーヴリンと申しますです」


 おお、宮廷魔術士とか実際に居るんだな。


(マスター。魔術【士】ではなく魔術【師】です。弟子持ちはほとんど魔術【師】になるようです)


 おっと。喋りながら情報抜き出して、同時に念話か。これがチートの片鱗っすか?アルディスさん。


(いえいえ。飛行は出来ませんので、然程でも。あ、マスターの脳の未使用領域に、並列思考の領域を作成しておきました)


 でも、お高いンでしょ?


(ところが!なんと‥‥寿命83年と精力5000ポッキリでした!!)


 あらやだ、リーズナブル‥‥じゃねーよ!無許可で人体改造施してんじゃねー!つーか、飛行出来たらチートなのか?


「なんつーか、『早く人間になりたい!!』じゃなくて、『早く人並みの平凡な人生を取り戻したい!!』とか叫びたいんだが?」(並列思考って、こんな感じか?)

「マスター、贅沢言ってはいけません。ワタクシみたいに有能で美人でモデル顔負けのスタイルを持つ嫁が、お側に仕えておりますのに」(イエス、マスター。外面そとづら良いままに相手を糞味噌に扱き下ろすのに便利ですね)


 並列思考って、そんな使い方で良いのかなあ‥‥と、こんな二重会話を試している最中にも、アルディスは容赦無くポチャイーヴリンの脳から情報を拾ってるらしい。

 人権もヘッタクレもあったモンじゃねーな。


「‥‥あの‥‥」

「あー、失礼。そのイマニム王国の魔法使いのポチ‥‥イーヴリンさんが、いきなり俺ン家に転移してきた理由は?あと、早く俺の腕の上からケツ退けろ」

「あ、すいません。ところで、この黄色い食べ物美味しいです。もう一切れ下さいね。‥‥私は魔術士です!魔法とは【魔力】の【法則】です!これだから魔術の使えない一般人は!!です!」

「色々と情緒不安定かっ!?」


‥‥その後、ポットを見ては『お湯が出る魔道具です!』と叫び、LEDの照明を見ては『コンティニュアル・ライトが封じてあるのです!』と笑い、トイレ使わせたら暖かい便座とウォシュレットに錯乱状態となり、風呂に入らせりゃ『王公貴族です!』と目を見開き、ボディソープとリンスインシャンプーにハマって『売って欲しいです!』と涙目で懇願され、最終的にカルチャーショックで知恵熱を出して寝込んだポチャイーヴリン

 何しに来たんだよ、マジで。


「しかし‥‥こりゃアレか?異世界転移の逆パターンか?」

「そうですね。彼女が【こちら側】に来たのは、勇者のヘッドハンティングが目的のようです」

「あー。異世界召喚なんて、ぶっちゃけ拉致だもんな。出向いて来てスカウトするなら、まだマトモか‥‥え?勇者のスカウトって‥‥もしかしての魔王とか?」

「そのようです。どうですか?スカウトされたら行きますか?」

「えー、嫌だよ。現代的な娯楽が無いだろうし、風呂なんて無いだろ?お湯や水で体吹いて垢こすり落とすだけなんて不潔だからな。どんな可愛い子でも臭そうだ。で、脇毛ボーボーに決まってる。きっと口も臭いし服も臭いはずだ。臭さ爆発無駄毛炸裂の残念美女とかガッカリ美少女が、更に激臭のゴブリンとかイカ臭いオークとかに凌辱されてンだろ?臭さのミルフィーユ状態なんて、最悪のコラボレーションだ。エルフとか居たとして、臭さ爆裂のエルフなんて、こっち側のファンタジー好きにしたら阿鼻叫喚の地獄絵図だぞ。それに塩とか香辛料が高価で庶民のメシなんて病院食同然なんだろ?保存食なんか乾パン以下に決まってる。オマケにトイレ事情なんか最悪に決まってる。あちこちに野グソが散らばり、壁という壁はションベンまみれ。メタンガス漂う街並に違いない。誰がそんな汚さ満載の世界になんか行くもんか。ノイローゼになるわ」

「マスター‥‥独断と偏見に満ち溢れた演説、お見事です」


 いやいや。

 中世ヨーロッパテイストの異世界なんて、どう考えたって悪臭漂うイッツフケーツワールドだろ。


「大体、行ったら帰れなくて向こうに永住っぽくねーか?エドモン・ダン○スの精神力でも耐えられんわ」

「彼女に送り返して貰えば良いのでは?」

「あのポチャ子が死んだりしたらアウトだろ」

「では、転移用のビーコンを内蔵したマーカーを作成しましょうか?日時をセットして置けば、あちら側で何年間過ごした後転移しても、セットした日時に戻って来れますが」

「マジか!?俺の寿命と老化速度を考えたら、気楽に旅行に行ける感覚だな」


 まさに【えもん系】。

 そこまでして俺を異世界に行かせ‥‥あれ?ちょっと待てよ。それなら‥‥グフフ。


「なあ、アルディス。そのマーカーを複数作ってセット出来る?」

「イエス、マスター。あちら側にもセットすれば、自由に双方向転移が可能です」


 百均とかで安く買った物資を向こうに持ち込んで高く売れねーかな?で、向こうに豪邸買って別荘にするってのはアリだよな。臭ぇ地域には極力近づかないようにして、風呂とかは、こっちに戻って来りゃ良いし。


「だけど‥‥魔法有りの世界から魔法無しの世界に来て、実際帰りはどーすんだろな、この娘」

「【世界の成り立ちの土台となるロジック】が異なる世界に来るくらいですから、あちら側の空間を体の周囲にコーティングした状態を保ってますね。彼女の周囲だけ、あちら側のロジックが成立してます」

「なんつーか大概だよな。腕利きの魔術士なんだな」

「横紙破りの体現ですね。次元転移の立体積層魔法陣の術式を完成させて、人体実験がてらやって来たみたいです」

「無茶苦茶だな。そんで、あの魔女っ娘スタイルでこっちの街中徘徊して『アナタユウシャヤリマセンカ』とか勧誘してみろ。マッハで通報されるわ。どこのインチキ宗教だよ」

「いえ‥‥そもそも言葉が通じません」


 あ、そうか。

 全言語理解とかは、ラノベで神様とかが付与する能力だもんな。


「アルディス。俺ちょっと買い物行って来るわ」

「ご一緒します」

「いや。お前は、さっき言ってた双方向転移用のマーカー作っといて」

「‥‥イエス、マスター。2個1セットで寿命200年と精力30000デス‥‥」


 目に見えてテンション下がったな。めっちゃへこんでるじゃんか。

 リアクションが人間と変わらなくなったなぁ。

 あの宇宙人がアフターケアがどうこう言ってたのは、セックスでエネルギー補給とかだけじゃなくて、こんな部分も含めての事だったんだな。

 取り敢えずキスしたら、ご機嫌な様子だ。

‥‥チョロいのかな?

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