1号室「アルディスさん」その③
「うう、やだなぁ」
既に駄目な雰囲気が濃密に漂っとる‥‥。
「こちらをご利用下さいませ」
アルディスは、卓袱台の上に手を翳す。
すると、翳した手のひらと卓袱台の間に伊達眼鏡が現出し、コトリと音をたてて落下した。
「これは?」
「ヘッドマウントディスプレイに近いモノとお考え下さいませ。各種データをグラス内側部分に表示可能です。有害な光線の類いを表面で拡散しますので、目に優しい仕上がりとなっております。ワタクシの体組織を利用してマテリアライズしたアイテムで御座います。ワタクシとリンクしております」
「これ、両眼ス○ウター‥‥」
「断じて違います、マスター」
取り敢えず、アルディス謹製伊達眼鏡型端末を装着してみるか。
お、表示が。
■ 名前・緒神怜
「このように表示されます」
「うん」
「‥‥えー、マスターにとって、かなりショッキングな数値ですので、少しずつ表示させていただきたく存じます」
‥‥果てしなく嫌な予感しかしねー。
■ 年齢・28
■ 血液型・AまたはBときどきOところによりAB
はい、早速おっ始まりやがりましたよ。
「俺の血液型は天気予報か!?」
「血液型を選ばないと考えれば、輸血の際に便利で御座います」
「ならばせめて、表記を万能型とかオールマイティーとかにしてくんないかなぁ!」
「マスター。ここは流して下さいませ。後がキツくなります」
「えー‥‥もっと酷ぇのが来るのかよ」
■ 筋力・5
■ 知力・7
「低いな!?」
「いえ。筋力は日本人の20代平均と、ほぼ変わりません。知力は平均よりやや高いかと」
なんか、尻尾の生えた戦闘民族に『ゴミめ』とか嘲笑されそうなんだが。
■ 体力・82兆とんで3
■ 耐久力・54兆とんで6
「‥‥‥アルディスさん?」
「イエス・マスター」
「バグってますよね?」
「いえ。特に不具合は御座いません」
「はあ!?」
ふざけんな!既に神の数値じゃねーのか、こりゃ。 と言うか、茶のおかわりしてる場合か!
「どうぞ、マスター」
「あ、ども‥‥じゃなくて!なんだ、この天文学的数値は!」
「恐らくは、あのスカプラチンキの仕業かと。次に同じ事故に巻き込まれた際には、無傷で痛みも感じません。月に亜光速で激突しても『あ痛っ』で済む事間違い無しで御座います」
「月に亜光速ってどんな状況だよ!!」
え?俺、人間だよね?
■ 持続力・4京
‥‥‥‥‥‥ズズ〜‥‥‥‥‥‥‥嗚呼、お茶が美味しい。
「‥‥マラソンランナーになったら金メダル獲れるかなぁ‥‥」
「筋力5では無理で御座います、マスター。時間無制限耐久マラソンならば、マスターが生き残りますが。あと、地球で最も深い深海の海底の水圧も余裕で御座います。無呼吸で4万8千年活動可能で御座います。あと、簡単には疲れません」
「でしょうねっ!!」
シィィット!現実逃避が許されねー。
俺、泳げねーし。
「自然と沈めて楽チンで御座いますね。ギネス記録が前人未到確定かと」
「沈んだまま浮いて来れないけどなっ!!」
■ 精力・62京とんで6億
「こりゃ、アレか。持続力からの流れで‥‥そう言う事か?」
「それはもう、ずうっとカッチカチで御座います。創世神から邪神まで自在にイかせられます。おめでとうございます」
「もう他人事だよなっ!?」
■ 寿命・残り849972年
「はあぁぁぁぁっ!?」
「ユナイトの際に、マスターのネーミングが承認キーとなり、マスターの寿命15万年と精力1億を使用して、ワタクシの現在のボディをマテリアライズ致しました。ユナイト前の寿命は100万年となっておりました」
「なっておりましたじゃねーよ!なんだ残り85万年弱の寿命って!?死にたくても死ねなくて、考えるのやめるパターンだぞこれ」
「あのスカポンタンが、寿命の再設定時に100年と100万年を間違えたのですね」
どんな間違えだよ!あン時の『あっ』てのは、このミスか?チキショー、あのボケ宇宙人にデスバレーボムを喰らわせてやりた過ぎる!!
「あと85万年老い耄れ続けるのかよ‥‥」
「いえ。現在、老化速度が1万分の1で御座います、マスター。おめでとうございます。鳩尾まで反り返る期間が後45万年程御座いますので、まさしくやりたい放題かと」
「お前、ちょいちょい下ネタ挟むよな!?」
鳩尾まで反り返るって、本当なら誰も相手にしてくれねーサイズじゃねーか?
「そんな作品も多数見受けられますが?」
「それ、ほとんどフェイクだからな!」
つーか、詳しいなコイツ。
「帰宅中にマスターの携帯端末を通じて、必要とされるであろうデータのみ、ワタクシのメモリーエリアにダウンロード致しました」
「何、エロに特化しようとしてんだよ!別にAV作品の知識は無くても困らねぇけど!?」
「ジャケ写詐欺を悉く見抜いて御覧にいれます‥‥お嫌いですか?」
‥‥‥好きだけど。
ゴメン。否定できねーわ。
「マスター?」
「‥‥‥っふぅ。なっちまったモンは仕方ねぇな。ある程度年月経過したら怪しまれる前に引っ越して‥‥あ、アルディス。個人情報をパーフェクトに改竄出来るか?マイナンバーとか」
「そちらに関しましては全く問題御座いません。時空を司るライフメーカーすら欺いて御覧にいれます。あと村西と○るも」
「個人名出すな」
○西とおるを完璧に欺いてどーすんだよ。
「マスター。そんなクソ戯けた事より、差し迫った問題が‥‥」
「お前が振ったンだろがい!」
クソ戯けとか、だいぶ言葉使いがブロークンになってきたな?
「マスターがツッコミたがっておいででしたので」
「一回モニター周りの自己点検してみようか!?」
「それは、さて置き」
「チクショウ‥‥おちょくられてる感がハンパねー」
今でも超絶に差し迫ってンのに、まだ何かあるのかよ。
「マスター。今の状態のままだと、無制限に夢精し続ける事になります」
「な‥‥んだと?」
「寝る度に寝具がビッショビショのガビガビで御座います。毎日布団を交換する羽目に陥ります。それはもう、溺死しかねません‥‥と言うか、マスターは4万8千年無呼吸オーケーでしたね」
「ホーリークラップ!あれか?あの人外の精力の影響か!?」
「イエス、マスター。当面はワタクシが御相手を致しますが、1人では限度が‥‥」
「今なんて?」
「ワタクシの活動エネルギーがマスターの精液ですので、丁度よろしいかと。只、ワタクシ1人ですと、早晩エネルギー吸収過多になるのが目に見えています」
なんか、そんな設定の漫画あったなあ…。
イヤイヤイヤ、何を当然の如くニッコリ笑ってンだか。
「え?あれ?お前、ロボだよな?」
「先程も申し上げましたが、マスターとユナイトした時点で【メタリックビーイング】となりました。新種の生命体で御座います。色々な意味で、マスターは初物食いとなります。おめでとうございます」
「じゃかましわ!!」
本来なら、こんな美人はウェルカムなんだが‥‥‥クソッ、元が○ぐれメタルだったと知ってる俺としては、勃つモノも勃たねぇ‥‥事は無いな。‥‥待て待て待て!何を反応しちゃってんだよ、俺!!相手は超高額なラブドールみてーなモンだぞ!?
「オリ○ント工業を彷彿とさせるよな、お前」
「存分に欲望を叩きつけて下さい。アッチもコッチも使用感抜群で御座います」
「否定をしろよ‥‥‥はあ。取り敢えず風呂入って寝るか」
「お供致します。是非とも【入欲】を実体験させて下さいませ」
「だから、エロ方向で誤字るんじゃないよ。わざとだよな、絶対」
「御背中と言わず、身体中の洗浄はお任せ下さいませ」
「無視かよ‥‥自分のボケには責任持とうかっ!?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
午後14時過ぎ。
布団の中で目覚めたら、横にはド美人が一緒に寝ていて、俺を見て微笑んでいる。
やっぱ、昨日の一連のトワイライトゾーン的な体験は、夢じゃなかったワケだな。
「おはようございます、マスター」
なんとも言えない優しげな表情を浮かべ、潤んだ瞳が近づいて来る。
‥‥‥えーと。
「おはよう、アルディス」
軽くキスを交わした後、アルディスは布団から半身を起こした。
あれ?このロボ娘、こんな表情豊かだったか?
「如何なさいましたか?」
「ああ‥‥うん。今朝に比べて、随分と表情が柔らかくなったな、と」
立ち上がったアルディスは、一瞬で裸身に外装を纏う。今度は白いロンTとデニムだ。
「あ、ちゃんと色が」
「4時間程かけて、十二分に愛して頂きましたので。各種応対のパターンもアップグレード出来ました。エネルギーチャージも完璧です」
「そんなモンなのか?‥‥あ、避妊してなかったなあ」
「御心配なく。マスターの許可無く妊娠はいたしません」
「すげーな、オン・オフ自在かよ」
「イエス、マスター。食事を準備いたしますので、シャワー等をどうぞ」
「え、作れるの?」
俺の問い掛けに、アルディスはクスクスと笑った。
「おおよそ、マスターの生活に必要なデータは入手出来ておりますので。‥‥‥エロ特化でも御座いません」
そう言ってアルディスは、キッチンの方に歩いて行った。
‥‥‥嫁?嫁なのか?‥‥‥つーか‥‥‥まだギンギンのままなんだが。
「はあ‥‥うわっ!?」
何の気無しに鏡を覗き込んだら、知らねー美形がこっち見てて驚いた。
「俺‥‥だよな」
ビビったお陰で萎えてきたわ。取り敢えず、シャワー浴びるか。
「あ、体型変わっちゃったんだよな。今迄のサイズ、着れるかなあ‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「如何ですか?」
「あ、うん。美味いな」
「ありがとうございます、マスター」
アルディスが作ってくれた食事は、見事に日本人の食卓を再現している。
ジャガイモとモヤシとワカメの味噌汁、玉子焼き、白菜の浅漬け、海苔の佃煮と焼き鮭。
1人暮らしでこんな豊かな食卓、彼女と別れて以来だな。
うん。結果的には美人の秘書みたいな嫁的な同居人?が出来て、ラッキーなんだろうか。
寿命だの神の防御力だの、気にしてたら禿げる。禿げ散らかす。プラチナブロンドで禿げたら最悪だ。インチキ○ルク・ホーガンである。
「マスター。お代わりは如何ですか?」
「お、うん。頼むわ」
あれ?なんか俺、幸せなのかな?
‥‥‥そんなコト考えた俺が悪かったのだろうか。
「あ、マスター。物体の次元転移を確認しました」
「え?」
空の茶碗をアルディス渡そうと伸ばした右腕が、衝撃と共にテーブルに叩きつけてられた。
ひっくり返った味噌汁や玉子焼きの上には俺の右腕。
そして、その右腕の上には、結構なボリュームの尻。
「‥‥‥お前誰だよ!!」
そう叫んだ俺の目の前には、ポカンとした表情の、ポッチャリした少女が居た。
「この格好‥‥所謂、ステレオタイプかと思われます」
「う〜わ〜‥‥ピピルマ・マハール・シャランラってか?」
判り易い位の魔女スタイルだわ。
ホグワー○は此所じゃありませんよ。