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本社というのはあらゆるデータを集めたがる。
経理報告はもちろん、契約の件数やクレームの件数、その内容まで。その他にも、支店は従業員の交通事故等も申告しなければならない、という規定がある。厳密にいえば、違反キップを切られるだけでも報告しなければならないということだが、駐車違反を正直に申告する者などは極々少数だ。
今回の渡辺の場合、支店で隠ぺいすることが困難な状況になっていた。
富山部長は低頭で先方の家族に詫び、なんとか物損事故扱いにしてほしいと頼んだのだが、当の渡辺が「お宅の息子が、わざとぶつかって来よったんや!」と、病院内でわめきたてたらしい。
それで、自転車の弁償はもちろん、肘を擦りむいた程度の中学生に慰謝料を払い、結局、人身事故扱いになってしまった。これでは本社への報告は免れない。そして、物損と人身とでは、まるで受け止められ方が違う。
あれは福岡支店だったか……これと同じような事故を起こして、支店はそれを報告しなかった。事故対応のまずさからか、被害者がネットに流したことにより、本社の知るところとなった、というケースがあった。
あのときに本社から下った処分は、上役の減給三か月。その後の人事にも影響があったと噂には聞いている。
警察による事故検分に立ち会って帰ってきた渡辺は悄然としていた。落ち着きを取りもどしてみれば、見えてくるものがあるのだろう。
帰社後、報告のために支店長室にやってきた富山部長と、意外にも遠藤課長までが感情を露わにしていた。渡辺に対してではなく、その被害者家族に対してだ。
支店長室へ呼ばれた氷室は、彼らから事の顛末を聞いた。それによると、どうも身内可愛さで一緒になって腹を立てている、というわけではないようだった。
「企業としての誠意を見せろ、の一点張りですわ。息子の怪我なんかはどうでもええ感じでしたな」
遠藤課長は、セルフサービスで注いだ茶を口を尖らせてすすった。
「その息子と一緒に現場におったっちゅう友達も、後ろでニヤニヤしくさって。ほんま腹の立つこっちゃで。わざととかは考えすぎかもしれへんのやけど、貰えるもんは、みな貰ぅたろうっちゅう腹やな」
富山部長は、自前の扇子でバタバタと忙しなく扇いでいる。
荒木支店長は、腕を組み座椅子を背もたれを小刻み揺すっていた。
「とりあえず治療と通院の足代に使ぅてくれ、いうて三万握らしたんやろ? あとは同じ型のチャリを買ぅたったらええがな。それで終わりやろ」荒木は氷室を一瞥した。「それ以上言うてくるようなら、なぁ氷室さん」
「ええ。クレーム処理に回すしかないでしょうね。すぐに顧問の先生が飛んで来ます。――そっちはいいとしても、支店長、本社への報告はどうされますか?」
「ああ、今後の対策と、危険予知のうんたらかんたらってやつかいな?」荒木はうんざりといったふうに嘆息した。「そうやなぁ……」




