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各自が持ち帰ったゴミ袋は、一旦会社の駐車場の一番端に集められる。
それからの分別作業は総務だけの仕事だ。一人一人の袋はスカスカで軽いが、集めてみるとこれがなかなかのもので、氷室たちの表情が徐々に険しくなっていった。缶やビン、葉っぱくらいなら幾らでも拾ってきてもらって構わないが、あまりにグチョッとした物を拾ってくる奴には腹が立つ。
原田部長は最初から腰を叩きながらだし、氷室も先ほどの男のことで、なにやら上の空。
あとからあとから「これも頼む」と言われ、また開封。指示系統が曖昧な集団は、せっかく縛った袋をまた移し替えたりと、二度手間、三度手間……。使用済みの袋はもったいない気もするが、縛って廃棄する。ゴミ袋を覗きこんだまま、手が止まってしまった者が一名。直射日光にやられたのか? 意識をしっかりと持ちなさい! という具合だ。
結局、五十人ほどで集めたゴミは、ほとんどが枯れ葉だったので圧縮すると、たったの三袋に収まった。ビン、缶の分別コンテナも、あまり盛況ではない。……普段からわりと綺麗な街だった。
氷室たちは、ゴミばさみを洗って倉庫に片付け、やっと一息ついた。あとはゴミの束を集積所へ持っていくだけなので、原田部長には先に上がってもらった。
氷室は手を洗い、タオルをきつく搾った。それを持って二階の更衣室へいく。
その途中にある扉もない給湯室で、若い女性社員が煙草を片手に、あーだ、こーだ、とお喋りの最中だった。
もちろん、彼女たちの顔も名前も知っているが、挨拶や業務以外の会話はしない。年齢や立場の違いから、随分と遠慮されているような空気を感じるからだ。しかし、これは氷室に限ったことではない。彼女らは、部長級以上を前にすると途端に固まるのだ。こちらとしても、妙に鯱張られても気まずさしかない。
その点、原田部長は若い子に話しかけるのが好きだった。この支店では、女性が煙草なんて……という古めかしい考え方があったが、彼女らも原田の前では堂々と煙草をふかす。
氷室は以前、彼女らと談笑しながら、手痛いツッコミを喰らっている原田を見かけたことがある。恐怖と性的対象、そのいずれからも外されている者の特権か。
彼女らにまったく用はないので、さっさと通りすぎたかった。しかし、その内の一人と、間が悪く目が合ってしまった。
一人は、氷室の黄色いTシャツにちらりと目をやり、煙草を背に隠すと「お疲れさまでした」と小さな声でいって、会釈した。
ただでさえ本社からのスパイと噂されているかもしれないのに、盗み聞きしていたと取られるのはマズいと思って、氷室は咄嗟にマドレーヌの話を持ち出した。
「えっと、ちょっと訊きたいんだけどね」
壁で見えなかった他の女性社員も、誰かと思ってひょっこりと顔を覗かせた。
「じつは知人からお菓子をいただいてね。それがまぁまぁ美味しかったものだから、今度帰省するときの土産にしようかと思ってね。――箱にNEZZOってロゴが入ってたんだ。君らならどこの店かわかるかな?」
彼女らの顔がふっと綻んだ。
「あぁはいはい、ネッツォなら知ってます。津新町の駅前ビルの一階にあるお店ですよ」
「へぇ、そこって有名なのかな。津新町に行かないと買えないの?」
女性たち四人はお互いに顔を見合わせて、一人が代表するように「たしか、あそこだけだったと思いますけど」と言った。
また別の女性が「私、あそこのホームページを見たことがあるんですよ。取り寄せできるとかは書いてなかったと思います」
彼女は同意を求めるように、互いを見合って頷いた。
「ふ~ん、ホームページ……。じゃぁ、私もそのページを見てみるよ。ありがとう」
氷室は、さっと片手をあげて歩き出した。
彼女たちの情報は正しい。氷室はすでにそのページを検索していたので、知っている。二号店などはなく、通販も今のところしていないようだ。
――少し白々しすぎたか? ggrks、などと笑われてなければいいのだが……。




