表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/75

-44-

 各自が持ち帰ったゴミ袋は、一旦会社の駐車場の一番端に集められる。

 それからの分別作業は総務だけの仕事だ。一人一人の袋はスカスカで軽いが、集めてみるとこれがなかなかのもので、氷室たちの表情が徐々に険しくなっていった。缶やビン、葉っぱくらいなら幾らでも拾ってきてもらって構わないが、あまりにグチョッとした物を拾ってくる奴には腹が立つ。

 原田部長は最初から腰を叩きながらだし、氷室も先ほどの男のことで、なにやら上の空。

 あとからあとから「これも頼む」と言われ、また開封。指示系統が曖昧な集団は、せっかく縛った袋をまた移し替えたりと、二度手間、三度手間……。使用済みの袋はもったいない気もするが、縛って廃棄する。ゴミ袋を覗きこんだまま、手が止まってしまった者が一名。直射日光にやられたのか? 意識をしっかりと持ちなさい! という具合だ。


 結局、五十人ほどで集めたゴミは、ほとんどが枯れ葉だったので圧縮すると、たったの三袋に収まった。ビン、缶の分別コンテナも、あまり盛況ではない。……普段からわりと綺麗な街だった。

 氷室たちは、ゴミばさみを洗って倉庫に片付け、やっと一息ついた。あとはゴミの束を集積所へ持っていくだけなので、原田部長には先に上がってもらった。


 氷室は手を洗い、タオルをきつく搾った。それを持って二階の更衣室へいく。

 その途中にある扉もない給湯室で、若い女性社員が煙草を片手に、あーだ、こーだ、とお喋りの最中だった。

 もちろん、彼女たちの顔も名前も知っているが、挨拶や業務以外の会話はしない。年齢や立場の違いから、随分と遠慮されているような空気を感じるからだ。しかし、これは氷室に限ったことではない。彼女らは、部長級以上を前にすると途端に固まるのだ。こちらとしても、妙に鯱張(しゃちほこば)られても気まずさしかない。

 その点、原田部長は若い子に話しかけるのが好きだった。この支店では、女性が煙草なんて……という古めかしい考え方があったが、彼女らも原田の前では堂々と煙草をふかす。

 氷室は以前、彼女らと談笑しながら、手痛いツッコミを喰らっている原田を見かけたことがある。恐怖と性的対象、そのいずれからも外されている者の特権か。


 彼女らにまったく用はないので、さっさと通りすぎたかった。しかし、その内の一人と、間が悪く目が合ってしまった。

 一人は、氷室の黄色いTシャツにちらりと目をやり、煙草を背に隠すと「お疲れさまでした」と小さな声でいって、会釈した。

 ただでさえ本社からのスパイと噂されているかもしれないのに、盗み聞きしていたと取られるのはマズいと思って、氷室は咄嗟にマドレーヌの話を持ち出した。


「えっと、ちょっと訊きたいんだけどね」

 壁で見えなかった他の女性社員も、誰かと思ってひょっこりと顔を覗かせた。

「じつは知人からお菓子をいただいてね。それがまぁまぁ美味しかったものだから、今度帰省するときの土産にしようかと思ってね。――箱にNEZZOってロゴが入ってたんだ。君らならどこの店かわかるかな?」

 彼女らの顔がふっと綻んだ。

「あぁはいはい、ネッツォなら知ってます。津新町の駅前ビルの一階にあるお店ですよ」

「へぇ、そこって有名なのかな。津新町に行かないと買えないの?」 

 女性たち四人はお互いに顔を見合わせて、一人が代表するように「たしか、あそこだけだったと思いますけど」と言った。

 また別の女性が「私、あそこのホームページを見たことがあるんですよ。取り寄せできるとかは書いてなかったと思います」

 彼女は同意を求めるように、互いを見合って頷いた。

「ふ~ん、ホームページ……。じゃぁ、私もそのページを見てみるよ。ありがとう」

 氷室は、さっと片手をあげて歩き出した。

 彼女たちの情報は正しい。氷室はすでにそのページを検索していたので、知っている。二号店などはなく、通販も今のところしていないようだ。


――少し白々しすぎたか? ggrks、などと笑われてなければいいのだが……。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ