6.ヒロインの価値
ヒロイン佐藤柚月さんの祖父は、実力ある名家『土岐家』の当主。
政財界に、様々な影響を持つ人です。
ヒロインの母『土岐美枝子』さんは、当時使用人の『佐藤 大基』さんと恋仲になりました。
娘を有力者の息子と結婚させたい美枝子さんの父は猛反対。
美枝子さんは父の説得を諦めると、大基さんに一緒に駆け落ちすることを迫りました。
美枝子さんの必死の説得により、大基さんは駆け落ちを決意。
ヒロインの祖父は、数十年後、自分の娘が不慮の事故で死んだことを知る。
そのことを後悔したヒロインの祖父は、必死で娘の忘れ形見である孫娘二人を探す。
という、テンプレ。
クズな攻略対象たちにとってのヒロインの価値は、『土岐小次郎』の孫娘であるというだけ。
クズな攻略対象たちは、自分のワガママを叶えるためだけに家の資産を食潰してきました。
そして、ヒロインが高校に入学する前にこのままでは借金で家が没落するという事実を両親から教えられたのです。
家を没落から救う方法は、ヒロインを攻略することのみ。
土岐家と繋がりを作り、借金を返済するのです。
どうやって、ヒロインが土岐家の孫娘だと調べれたのか分かりませんが、ゲーム補正というやつでしょう。
私とヒロインの姉にとってのヒロインの価値は、ヒロインが転生者でないという事実。
ゲームでの愛すべき心優しいヒロインという事実のみ。
彼女が彼女である限り、私たちは彼女を大切に護るでしょう。
盲目とはよく言ったもの。
しかし、盲目すぎる想いがないといけないこともあると分かっているのです。
私自身が持つ繋がりを利用して、土岐家のことを調べ上げ、ヒロインが土岐小次郎の孫娘である証拠を掴みました。
もちろん、使った繋がりは外部に漏らさない者たちのみ。
会社の株主の中に、土岐小次郎の親友と言われる人がいます。
その方にお願いして、土岐小次郎と会えるようにしてもらいました。
彼自身は、私が私の両親と弟を追い落とすのを期待しているのでしょう。
今まで、攻略対象とその親たちの動向を探っていたのですが、私が高校一年になった時にヒロインが『土岐小次郎の孫娘』だとバレた事が分かりました。
そしてすぐに連絡をしてもらったのですが、土岐小次郎さんは忙しい人なので中々会う時間を取ってもらえませんでした。
事前に、話し合う内容を伝えればいいのですが、どこで攻略対象の親たちにこのことが漏れるのか分かりません。
なので、ただ会って話がしたいと伝えるに留めてもらいました。
そして、冬休みのある日に会う日ができたと向こう側から伝えてきました。
会社が休みの日に、土岐小次郎さんとお会いしました。
そこにいたのは、土岐小次郎さん以外に土岐家の人たち数十人と土岐家の執事さん。
私が伝える内容の酷さに、土岐小次郎さんはお怒りのようです。
もちろん、土岐家の人たちも。
それも当然。
自分の愛する娘の忘れ形見である孫娘が、自分勝手な理由で利用されるからです。
ヒロインを利用するために、『土岐小次郎の孫娘を落とせ』と攻略対象の親たちが攻略対象たちを炊きつけている様子も伝えました。
そして、私の父と叔父と弟がヒロインに対して持っている願望、世の女性からしたら顔を顰めるものすごく酷いことをするつもりだといことも。
後は、私の知る限りのすべて。
これに彼は、激怒。
自分の最愛の娘が死んだ原因の欲望が、今度は孫娘にも向かうと知って。
「なぜ、早く言わなかった?知っていれば、無理にも都合をつけてお前とあっていたものを!」
威圧感いっぱいに言われるのですが、私はそれをさらりと流す。
「大切な友人を危険にさらす真似を私がすると思います?下手に動けば、彼らは現状よりも早く柚月さんのことを知りますよ。私としては少しでも猶予が欲しかったんです」
私はイラつきながら、答えました。
この程度のことも分からないのでしょうか?
「旦那様、桜ノ宮様の言う通りです。もし、旦那様がこのことを知り早く動いていれば、柚月様を危険にさらします。彼らの経済状況を見れば、火を見るより明らか」
土岐家の執事さんが言いました。
「それもそうだな。で、柚月と美月の保護を今すぐしよう!いいな!」
「必要ありません」
「旦那様」
きっぱり断る私と非難がましく言う土岐家の執事さん。
「なんじゃ。儂の孫娘だぞ。儂の下にいた方が安全だろ」
「それ、柚月さんを狙えと言っているようなものですよ」
「そうです、旦那様。桜ノ宮様、このことを伝えた理由をお聞きしても?」
「先ほども言った通り、彼らが柚月さんが土岐家の者だと気付いたと知ったからです。彼らの取る手段によっては、そちらで事前に潰していただければと」
「確かに、そうですね。桜ノ宮様が、ご両親と弟君と対立しているのは有名な話。何か理由があると思っていたのですが、これが原因ですか」
「そうです。父と叔父と弟に対してはすでに手を打っているので、その他を何とかしないとですね」
「潰すか?」
「合法的に潰すのが、理想ですね。彼らの会社が潰れるように、根回しをすでにしていますが。誰だって、泥船に留まらないでしょう?」
「ほぅ?いずれ、儂も手を出すことにしよう」
その後は、私と土岐小次郎さんと土岐家の執事さんによる和やかな話し合いだったのですが、そばにいた人たちは話合いが終わる頃にはなぜかいませんでした。