3.手駒を確保いたしました
館花慶の年齢を変更しました。
会社は、表向き父が社長のままです。
父が見る用の報告書を年のため製作してもらっているのですが、奴はそういうのを一切見ないでしょう。
執事の岩渕がそう言っていました。
とりあえず、叔父のところに潜入できるような優秀な手駒が必要ですね。
実は、ヒロインの両親の交通事故死の犯人は父と叔父なのです。
ヒロインのお母様に、自分たち二人の愛人になるように迫ったのですが、ヒロインのお母様はそれを断りました。
そのことに怒った二人が人を雇い、ヒロインの両親を殺したのです。
その証拠となるものは、叔父の手元に残っています。
この攻略対象に対してだけ優しいこの世界で、唯一、ヒロインに優しいことがあります。
この世界の日本は、『殺人に時効がない』のです。
物的証拠さえあれば、殺人として起訴できます。
最近、叔父は気に入らない者を陥れて莫大な借金をさせました。
それが原因で、家族四人で自殺を図ったある家族がいました。
運良く生き残った少年は、まだ大学生です。
彼は入院をしていて連日、マスコミが病院に押し寄せています。
叔父の血縁者である私が、彼に会うというのは彼の傷を抉る行為でしょう。
ですが、叔父を憎んでいるからこそ私は彼が必要です。
私と岩渕は、彼の病室に行くと病室の前には性質の悪そうな男たちがいました。
私は男たちを無視して扉を開けました。
そして、少年を脅している男に声をかけます。
「こんにちは。はじめまして。このアタッシュケースに、その少年の父がした借金が利息を揃えて入れてあります。ですので、これを受け取り今すぐ出て行ってもらえませんか?」
「ふざけんな、嬢ちゃん。嬢ちゃんが、そんなことできるはずないだろ!」
脅して言う男に、私は笑顔で言いました。
「なら、ご確認を」
アタッシュケースを男は奪い取り中身を確認しました。
「それ以上に入れてるじゃねえか」
「今後、この少年に関わるなという意味を込めて多く入れさせていただきました。それが何を意味するのか、お分かりですね?」
私は悪人風にニヤリと笑いながら言いました。
男は私を見て怯えて、
「もちろんだ。野郎ども、行くぞ!」
「「「わかりました、ボス!」」」
性質の悪そうな男たちは、病室を出て行きました。
「殺気を出しすぎです、お嬢様」
「つい...」
私は、岩渕から目を逸らしました。
「おい、あんた」
「申し訳ありません、少年。自己紹介がまだでしたね。私は、桜ノ宮理沙。あなた方を自殺に追い込んだ男の血縁者ですよ。それと、傷口が広がるので動こうとしないでくださいね?」
動こうとして、私に掴みかかりそうな少年を岩渕が制します。
「お嬢様、もう少し配慮した言い方をなさってください」
「直球の方が用件を伝えやすいですし...。とりあえず、少年。また、自殺します?」
「あれは、無理やり親父にされただけだ。俺は、死ぬつもりはなかったよ。それに、あれは何のつもりだ?」
「借金のことですか? 先行投資です」
「どういうことだ?」
「そうですね。父と叔父を合法的にすべての罪で裁くためですよ。まさか、あなた方が初めてだと思います?あの手の輩は、何度でも同じことをしていますよ」
「ウソだろ...」
「私が初めて知ったのは、私の親友の両親を殺したことを知った時ですね。
ホント、くだらない理由でしたけど。気に入らないでしょうが、叔父の下で仕事をし、証拠を集めて欲しいのです」
「それをあんたは握り潰す気か?」
「まさか、さっきも言ったように合法的に裁きたいんですよ。復讐?殺人を犯してまで、殺す価値のない相手に?」
私は、イラついて殺気立たせて言ってしまいました。
「お嬢様、病人相手に大人げないですよ」
岩渕は私を諌めてきました。
「ごめんなさい、イヤなことを思い出したので」
「こっちこそ悪かった、あんたに関係ないのにな。それに、あんたの方が年下なのにさっきから少年、少年って」
「名前、なんでしたっけ?」
「そこからかよ。俺は、館花慶。ええと...」
「桜ノ宮理沙です。こっちは、岩渕」
「館花さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ...」
「入院費、学費のことなら心配しなくていいですよ。このくらい、私のポケットマネーで」
「それって!」
「大丈夫ですよ、株とか投資などで得たお金ですから。あの人たちが私にお小遣いとして渡してきたお金は、全額返金していますしね」
「何気にえげつないですね、お嬢様」
「じゃあ、あのお金を使いたいと思います?」
「もちろん、イヤです。お嬢様」
「あー、住むとこが」
「それなら、心配ありません。私が住んでいるマンションの一室を使えばいいですよ」
「親と住んでいないんだな」
「あの人たちは生理的嫌悪しかないんですよ」
「そうか」
これからの慶少年のことを話し合い、私と岩渕は家に帰りました。
岩渕は、家族で主人公所有のマンションの一室に住んでいます。
この時、主人公は中学一年。館花慶は大学二年です。