パートナーはドラゴン殺し-1-
「おい、聞いたか?」
「あぁ、あの『神殺し』が来るって話だろ?」
酒場の立飲み用テーブルに肘をつき、面倒くさそうに男は続ける。
「こんな街の闘技場に唐突にエントリーしてきて、本当に『神殺し』は何を考えているんだろうな」
男は空になったグラスの氷を噛み砕きながら、腰にぶらさがっている長剣の柄をカチン、カチンと指で弾きながら会話を続ける。
「でもよ、『神殺し』に勝てば一生遊んで暮らせるだけの賞金が手に入るチャンス到来って訳だ、お前参加してみろよ」
再びガリッ、ガリッと氷を噛み砕いてグラスの中身を空にした男は、どうやら俺に『神殺し』との試合に参加しろと勧めているようだ。が、俺としては当然勝てない試合はしたくないのである。
「悪い、良い話があるっていうから聞いてみたんだが、分の悪い仕事は引き受けない主義でな」
話を持ち掛けた白いバンダナをつけ、露店でよく売られている布の服を着た男にそうこたえる。よく俺に商売の話を持ち掛けて来る、名前すら知らない旅の商人に俺は問いかける。
「で、お前さんの本当の要件は何なんだい」
カチンッと弾いた長剣が鞘におさまり、乾いた声で喋りだす。
「『ドラゴン殺し』の事は知っているかい」
神殺しに続いて今度はドラゴン殺しときたか。
「あぁ、あの女ばっかりの家系で人間離れした力で大剣振り回して暴れてる家系の事だよな」
俺は答えながら、ふとドラゴンについて深く思い出してみる。ドラゴンは、魔人クラスと同等の力を持つ巨大な生物であり、兎に角ブレスがやっかいな生物だ。と、深く思い出してみたが実際に遭遇したことがないのでそれくらいの知識しか持ち合わせていなかった。
魂の器が、『世界の価値観』から超えると心格に世界から称号が刻まれる事がある。その称号は世界の生きる全ての生命が認知できるようになるのである。その実例の一つがドラゴンを大剣一つで引き裂き、見事に討伐した実話を持っている『ドラゴン殺し』である。
「そうそう、その『ドラゴン殺し』の家系の一人が『神殺し』に挑むらしいんですわ」
「……」
「頼む、『ドラゴン殺し』と組んで試合に出ろ!そして『神殺し』を倒してくれ。な」
要するにこの商人のおっさんは、俺と『ドラゴン殺し』で組んで見事に『勝つ』事が出来れば、俺達に賭けたあんたもボロ儲けできる算段、といったあたりか。
「実はな、『ドラゴン殺し』とは話がもうついてるんだ。後はあんちゃんが了解してくれれば皆幸せになれるぜ、な」
訂正だ、紹介料を先払いで受け取ってやがるなこいつめ。だが、ドラゴン殺しと組める、か……
「……少し考えさせてくれ」
「いい返事、期待してるよ」
既に俺からの了解を得たかのようにニヤッと笑みを浮かべ、商人のおっさんは酒場を後にした。
『この街の闘技場も今回ばかりは一気にランクがあがっちまうな……』
金には興味がないが、強い相手には興味がある。しかし、限度というものはあるのだ。相手が『神殺し』となると勝機は皆無に等しいのである。
元々は人間だったらしいが『多数の呪い・多数の加護・多数の契約』そして4大属性を持ち合わす長剣を持つと聞く。人間としては既に死人といってもいいだろう、神を殺した際に神の体を授かったとさえ言われているのだから。実に神が死んでから数百年は経っているのだ、どこまでが真実かはわからないが心格による神殺しの称号が世界に刻まれているのである、その存在は今も間違いなく生き続けている。
俺は今回の話を考える、商人が言うには『神殺し』との試合には1対複数が可能という特別ルールが設けられるという事だ。そして俺のパートナーに『ドラゴン殺し』の称号を持つ者をあててきたわけだ。僅かにでも勝機はあるのかもしれない。
『ドンッ』
酒場の扉が勢いよく開かれ、外から顔を真っ青にした男が駆け込んできた。
「誰か、誰か助けてくれ」
何かから逃げてきたような怯えた形相で酒場を見渡す男。しかしこんな真昼間から酒場で油をうってるような奴は誰も居なかった。俺を除いては。
そして、その男と目が合った俺は面倒な事になったと思うのだった。




