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プロローグ

2XXX年某日

唐突だが俺、田中和樹 は通り魔に襲われ刺殺された。

歳は今年で27。

職業はサラリーマン。趣味はゲーム。

他人と何の代わり映えもしない普通の人生。


何の面白みも無く語る事などない人生だった。

その 日は会社の給料日で仕事帰りATMでお金を速攻で下ろし大型家電量販店に直行した。

一ヶ月頑張った自分へのささやかなご褒美にゲームを買いに行くのである。


ゲームの世界はいい。

現実世界のようなしがらみなど無く、どこまでも自由。


ゲームをしている時が一番心が安らぐ至福の時間であり趣味の為に生きて稼いでいると自負している。


一時間ほどかけてお目当てのゲームを買いこれから始まる至福の時間に胸を弾ませながら閑静な住宅街を歩いていた俺を悲劇が襲う。


街灯にぼんやり姿を照らし出されたその人物は俯き佇んでいた。


見つけた時点で変だと違和感を覚えたが自宅であるアパートまではもうすぐだったこともあり道を迂回することはしなかった。


早くゲームがしたいという想いが判断を鈍らせたのかもしれない。

言い表せない不安を抱きつつ足速にその人物の横を通り抜けた瞬間、背後から激痛が襲う。

ブスリと深く突き刺された刃物が内臓を(エグ)るのが分かる。


痛みに泣き叫ぶ俺をそのままうつ伏せに押し倒すとそこから抵抗することなど出来るはずもなく一方的だった。


馬乗りになり何度も何度も執拗に振り下ろされるナイフ。


ここまでくるともう痛みがなく何も感じない体がズタズタにされている事だけが音でわかる。


その音さえも次第に遠くなり俺の意識は薄れていく。

(くそ。そういえば見通しの良い片側一車線と閑静な住宅街には気をつけろと母ちゃんにいわれてたっけな。積みゲーとポチした漫画とラノベがぁぁぁああああああ。どうしてくれるんだ!)


こうして俺は死んだ。

本来ならばここで物語は終わるはずなのだが俺の人生には続きがある。

1度死んでることを考えると第二の人生と言った方がいいかもしれないが。


◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

どのくらい時間が経ったのだろうか。

俺は今、不思議な空間に漂っている。

その空間は暗くもなく明るくもなく、冷たくもなく暑くもない。

全ての概念がないような全てを内包するような二律背反。そんな空間に俺はいる。

何やら見知らぬ人物が俺に語りかける。

「すまない。こちらの神為的ミスだ」

「神為的?人為的の間違いじゃないのか?それじゃお前が神であると言ってるようなもんだ」

「神だが?まぁ形式的な名称はなんでもいい。問題はこちらのミスでお前が死んだということだ」

「っておい!俺が死んだのお前のせいかよ。自称"神"!」

「そうだ。だからお前をモンスターが跋扈し血と狂気に彩られた異世界に転生させてやる。それで許してくれ。大好きなファンタジー世界だぞ。嬉しいだろ?」

「ちょ!一方的で無茶苦茶だ!?俺は現実世界でゲームが出来ればそれで良いんだ!ファンタジーはゲームの中だけで良い」

「みんな望んだ世界に喜んで転生して行くぞ?」

「おい!前科あんじゃねぇかよ。それに望んでないわ。いい加減にしろ」

「お前は心の底で望んでるはずだ。仮想に生きるな現実に生きろ」

「かっこいいこと言ってまとめようとすんなよ」


体が光に包まれる。


「じゃあ、後は頑張れ!」

「おい自称"神"!人の話を聞けよ」

意識が遠のき体が浮上する感覚に襲われる。

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎


〜王国南東のエスリード領:某所〜



俺が転生し三年が過ぎた。

ようやく、最近、自我の形を取り戻し始めている。

そのおかげで俺は混乱しているわけだ。

何故こうなったのだ、と。

何百回も繰り返した自問自答をまた繰り返す。

それもこれも現実世界に転生させてくれればいいのにわざわざ頼んでもいない異世界に転生させた自称"神"が全て悪い。


今頃、家でゲームをしていたはずが気がつけば俺は孤児で石造りの教会の中で保育士らしき修道女にお世話をされている。



「エルくん、はい、アーン」

誰だエルって。

俺ではなくエルくんとやらが食べればいいのに何故俺にスプーンを差し出す?


エルが誰なのか仮に気がついていたとしてもこの不味い料理は食べたくない。


「好き嫌いはいけませんよ。しっかりお口をあけましょうね。はいアーン」


柔らかく煮た何かがスプーンで口に捻じ込まれ俺が《エルくん》である現実を突きつける。

ドロドロの何かを飲み込む。

これが離乳食という物なのだろうか。


「よくできました。えらいぞ、エルくん!」

修道女がパチパチ拍手をする。


見た目は3歳だが精神年齢が通算30歳の俺には見ていて辛すぎる。


食事の時間は味といい、この対応といい憂鬱だ。

早く大人になりたいと常々思っているのだがこればかりは時間がかかるだろう。


教会に併設された孤児院での1日は午前中が簡単な読み書きなどの勉強で午後からは自由時間だ。


自由時間といっても孤児院の中で他の孤児と戯れる程度なのだが流石はファンタジー世界である、孤児の中には猫耳や犬耳を持つ者がおり大変興味深い。


「エルくん、いっしょにあそぼう」


しばらくは退屈せずに済みそうなので何よりだ。


◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎


俺は6歳になった。


孤児院学校の健康診断で魔術適性がある事が分かり魔導師学校に進む事になるらしいそしていづれ徴兵されるそうだ。


三年間で培った知識によると俺の住むこの王国の国境は以下の通りだ。


南にはゴブリンやオークなどの住む森が広がり常に魔物の脅威にさらされている。

東には軍事大国である帝国。北には同盟を結んでいるが内乱で揺れる共和国。西には植民地支配を始めた連邦国。


最近になって国際情勢が不安定らしく戦争が起こる可能性があるらしい。


そのため王国は軍事力拡大が求められており優秀な人材を幼い頃から育てる事になった。


平和に暮らしたい俺にとって徴兵されるなんて痛恨の極みと言える。


何が血と狂気に彩られた世界だ。

神は争いを憎むものだろう。

あいつは"神"ではなく"悪魔"だったのだ‼︎

そうに違いない。


忌々しい事に2ヶ月後赤紙が届き正式に軍事学校の魔導師科に進学が決まった。

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