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アニー・カーティス視点

お待たせしました。

 わたしは今、学校の敷地の端にある大きな木の下に立って、彼女を待っている。


 レニーには、誰にも見つからないよう彼女だけを連れてくるように言ってある。


 おそらく、転生者は彼女だ。


 エレナ・クラウン。


 医者も驚かせるほどの驚異的な早さで怪我を治したわたしは、学校へ戻ってきた。


 そして、見た。


 実際の彼女達を。


 やはり、レニーの使えない報告書より実物を自身の目で確認するに限る。


 そして、出た結論。


 ただすべての事柄に言えることであろうが、間違いなく必ず、とまでは言えない。


 もしエレナでなければニールだとは思う。


 が、ニールのあの人間味の無さはやはり転生者のそれとは思えない。


 だから、まずは彼女と誰もいない所で対峙する必要があるのだ。


 その為にはレニーも邪魔である。


 レニーにはエレナを連れて来たらさっさと場を離れるように指示をしてある。


 もしこの世界にわたし以外の転生者がいるのであれば、それはこの世界の異分子なのだ。


 わたしと同じ。


 異分子は、世界にどう影響するかわからない。


 だから、確認しておく必要がある。


 わたしが今後、安穏に日々を送るためにも。





 気持ちのいい風に髪をたなびかせながら彼女の訪れを待っていたわたしの耳に、届いた足音。


 さあ、正念場ね。


 わたしはゆっくりと振り返る。


 そして、彼女を視界に入れる。


 ゲームの中の、そのままの彼女の姿。



「……あなたが、エレナ・クラウン?」


 意識して、優しくそう言葉を発する。


 彼女は、どう反応するだろうか。


 青褪める?


 驚愕する?


 睨みつける?


 そんな反応であれば、転生者で間違いないだろう。


 そして、少しでも敵意を見せたら、それはゲームの正規ヒロインであるわたしを邪魔者だと認識している証。


 その場合はこちらもそれなりの対処をさせてもらうわ。


 それとも。


 困惑する?


 訝しむ?


 エレナが転生者でなければ、わたしに呼び出される意味がわからないことだろう。


 その場合は次点候補の確認に移らなければ。


 もし転生者であっても、敵対するとは限らない。


 ただ単に記憶を持ち越してるだけであるのなら、良い関係を築くか、逆に一切関わりあわないようにするか。


 その場合でも情報だけは頂きたいものだわ。



「はじめまして。わたしは、アニー・カーティス」


 そして、やんわりと微笑む。


 まず相手の出方を見るには、余計な警戒心を抱かせないのが吉だ。


 と同時に、慎重にエレナ・クラウンの反応を観察する。


 が、思いもよらない反応が返ってきた。


 どこか呆然とした様子でわたしを見ていたエレナの瞳から、一滴ひとしずくの涙がこぼれおちたのだ。


 そして、細かに震える、その華奢な身体。


 そして。


 エレナ・クラウンは突然わたしに向かって駆け出してきて、そのまま体当たりするようにして抱きついてきた。


「…………った」


「え?」


 思いもよらないエレナの反応に、かたまりかけた思考がエレナの言葉をとらえきれなかったようだ。


 そんなわたしに、エレナは溢れる涙をそのままに、迷子になった子供がやっとのことで母親を見つけ出した、そんな顔をしてわたしを見上げて言った。


「ずっと、ずっと……会いたかったのです……っ!」


 その言葉は、今まで何か欠けていたわたしの心に隙間に、すっと入り込み溶け込んだ。


 ものごころついたばかりの年齢で転生前の記憶が戻ってから、どこか張りつめていたものが、ふっと解けたように感じた。


 世界にとって、異分子であるわたし。


 排除しようとする世界から、弾き出されないようにずっとずっと闘ってきた。


 その同じ異分子であるはずの彼女。


 けれど、何故かしら。


 今この瞬間、わたしはこの世界に受け入れられたような気がする。


 わたしは、そっと腕の中にあるその華奢な身体を抱きしめた。


 ああ、そうね。


 確かに、そうだわ。


 きっと、わたしも。


 そう。


「わたしも……、ずっと会いたかったのだわ……」


 そして、わたしの瞳からもつっと一滴ひとしずくの涙がこぼれおちた。


長く続けたアニー視点もこれにて終了。

次回からまたエレナさん視点へ戻ります。

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