レニー・カーティス視点
話がなかなか進まない……。
顔が「女の子のようだ」と言われることは多々あるが、まるっきり女と間違われたのは十の歳を越えてからは初めてだった。
思わず苛立ちで顔が歪んだ。
そんな僕に身をすくませたのが、エレナ・クラウン。
何をどう勘違いしたら女子が男装して貴族の子を多く預かる学校へ通うことになったと思ったのか。
正直理解に苦しむ。
僕には双子の姉がいる。
背の高さと髪の長さ以外はほぼ同じ容姿。
しかし中身はまったくといって似てはいない。
女のように見える、ということは、つまりは姉のように見える、ということ。
僕にとっては女に間違われることよりも、姉に間違われることの方が苦痛だ。
姉は、はっきり言って化け物だと思う。
僕は、姉には逆らえない。
いや、正確に言うと、逆らえば何をされるかわからないから逆らわないのだ。
その姉に言われたから、苦手なエレナ・クラウンをわざわざ待ち伏せてまで呼び出したのだ。
エレナ・クラウン。
彼女単独で見れば別に苦手でも何でもなかった。
が、彼女の後ろにいる人間達がやっかいな者ばかりだった。
あれらは、姉と同じタイプのにおいがする。
出来うる限り、近寄りたくはない。
だから、そのやっかいな存在を引き連れた根源の彼女を避けていたのに、姉はあっさり彼女を呼んでくるよう僕に告げた。
しかも、そのやっかいな者達は置いてくるように、と。
どんな無茶ぶりだ、と思った。
何故なら、エレナ・クラウンのまわりには、奴らのうち常に誰かは傍にいるのだから。
やっと、……の時には一人になることがわかった。
出来れば、僕だってそんな場所で声をかけたくはなかった。
だけど、僕は姉には逆らえない。
そして、今こうしてエレナ・クラウンを連れ、姉が指定した場所へと向かっている。
姉は、指定した場所に立っていた。
僕は思わず、ほっと胸を撫で下ろした。
途中、気まずい思いをしたり、苛立たしい思いもしたが、これで僕のお役目も終わりだ。
僕に言われていたのはエレナ・クラウンを姉にひき合せる為一人で連れてくること。
「はじめまして。わたしは、アニー・カーティス」
僕をスルーしてエレナ・クラウンに声をかけた僕の双子の姉・アニー。
僕の役目は終わったとさっさとこの場を去ろうとして、何気なくエレナ・クラウンを見てぎょっとした。
彼女は、エレナ・クラウンは泣いていた。
ずっと彼女の前を歩いていたから気づかなかったのか?
それとも、僕の知らないうちに、姉と何か関わりがあったのか?
狼狽える僕に、姉は視線だけで言った。
『もういいからどっか行け』
無言のまま笑顔でそう指示できる姉が怖い。
化け物のような姉のもとに一人泣いている彼女を置いていくのは気が咎めるけれど。
僕は、やはり姉には逆らえない。
僕は、エレナ・クラウンを気にかけつつも、その場を離れた。
何故だか、僕の脳裏にエレナ・クラウンの泣き顔が焼きついて離れなかった。
次回よりはしばらくアニー視点で話が展開予定。
たぶん。
おそらく。




