王子様は意外にアレだったのです
腹黒系になる予定が、あれ?
レフィル・ディランはくくくと口元を押さえ、笑いを堪えるようにしながら、わたし達の方にやってきました。
わたしはといえば、混乱中なのですよ。
何故ここに王子がいるですか。
「……失礼。君達があまりに仲の良い様子だったから、つい微笑ましくて」
王子はにっこりと笑った。
「僕はレフィル・ディラン。君達の一年先輩になるね。よろしく頼むよ」
「は…はい! レフィル王子! 御無沙汰しておりました。これからどうぞ、よろしくお願いします!」
どうやらラスティは王子に会ったことがあるようです。
「……見苦しいところをお見せしました。ご容赦ください」
ジェレミーはそう言って深々と頭を下げた。
慌てて私も頭を下げる。
「そう畏まらなくてもいいよ。エレナ・クラウン。ジェレミー・クラウン。ラスティ・グランフォード」
王子が名乗ってもないわたし達の名前を呼びかけたので、びっくりしたですよ。
それはジェレミーもそう感じたようで。
「失礼ですが、僕達のこと……」
「うん? 顔をあわせるのは初めてだけど、君達のことはずっと前から知ってるよ。ニールに聞いてたから」
「ニール兄様にですか?」
「うん。ニールは僕の学友として、小さい頃から王宮に出入りしてたからね」
「ニール兄様が王子の学友ですか。ほわあ、すごいですー」
ゲームでその設定があったかは知りませんが、さすがツンドラニールなのです。……しかしニールからは王子のこと一言たりとも聞いたことないのは何故だ。
「んー、いいね。その兄様っていうの。僕のこともそう呼んで?」
「はい?」
「ほらほら、レフィル兄様って」
呼べますかい。
一介の伯爵令嬢ごときが王子を兄様呼び。
下手したら不敬罪で首飛ばされそうですがな。
「ほらほら早く、呼んでみて」
「……何をやっている」
困っていたら、地を這うようなそんな声が割り込んできた。
「げっ」
げ? 今王子の口から何やらその顔に似合わない声が。
見ると、不機嫌な様子のニールと、心なしか青褪めている王子の姿。
はて? どないしたのでしょう。
「エレナ、懇親会に遅れる。今準備の手伝いをしているが来ない新入生がいると探しにきたんだが、まだこんなところで遊んでいるとは……、まったく。ジェレミー、エレナを早く連れて行くように。ラスティは後でお仕置きだ」
「あう、そうでした」
「はい、ニール兄様」
「何で俺だけ!?」
ラスティが悲痛な声を上げる。
わたしは受けたことないですが、ニールのお仕置きは怖いらしいのですよ。
「そして、殿下」
「は、はい」
「こんなところで何をしているんですか」
「や、別に」
「そうですか。覚悟はよろしいようですね」
「ふへっ、覚悟!? ニール、いやニール様!」
「言い訳は聞きません」
「そんな……!」
「ほら、エレナ。早く行きなさい」
「僕を無視しないで……!」
わたしは非常にその後の事が気になりましたが、時間もないのでその場を離れました。
しかし、王子。
もうだいぶ薄くなったゲームの知識では、確か腹黒王子だったっような気がしますが、実際会ってみたらその外見を裏切る残念さ。
名づけて残念王子というところでしょうか。
……うーん、本当残念。
中々予定通りにはならないものですね。




