レフィル・ディラン視点
エレナさんとの接点なしにいきなり視点話突入です。
第二王子として生まれた僕が、初めてニール・エルハランと出会ったのは七歳の時だった。
同じ年であるということもあり、僕のご学友として選ばれた子供だった。
第一王子である兄は年が離れていたし、皇太子である兄とは離されて育ってきたため、兄弟が出来るようで嬉しかったのを覚えている。
が、実際に会ったニールは兄弟とも、ともに学ぶ学友としても微妙な存在であった。
まず、兄弟にしてはまったく親しみを感じられない。
王子ということもあって、まわりに愛想を振りまく人間が多い中、ニールはまったく笑みを浮かべることも、世辞の一つを言うこともなかった。
というか、僕嫌われてないよね、と心配になるほどそっけない。
また学友としても、ともに学ぶことは何もないんじゃないかというくらい、何でもよく知っていた。
それどころか、教師の間違いを指摘するほどで、ニールの突っ込みに教師もびくびくする。
こいつは子供とはいえもう王宮で大人に交じって仕事でもしてればいいんじゃないか、とよく思ったものだ。
王族の婚姻として、世継ぎである皇太子は他国の王女を、第二子以下は男児は国内の有力な貴族の女性と、王女は他国の王族か高位貴族に嫁がせる慣例があった。
もしもニールが女性だった場合は、己の結婚相手の第一候補になっていた可能性が非常に高い。
顔は稀にみるほどの秀麗さだが、中身が氷結のようであり得ない。
せめて男で良かった、と心底思っていた。
そんなニールが、ふと、表情を綻ばせた時があった。
ニールの従姉妹、エレナ・クラウンの名前が話題に上がった時のことだ。
初めてニールの笑みを見た時は、自分の目がおかしくなったかと思った。
ただ、それ以後もエレナ・クラウンの話になると極上の美貌に輝かんばかりの笑みが浮かぶ。
ニールがどれだけエレナのことを大切にしているか、それだけでよくわかった。
興味を覚えた僕は、ぜひ一度会ってみたいと言ってみた。
その時のニールの顔は忘れられない。
……虫唾が走る、そんな顔をした。
その時にニールが発した言葉も忘れられない。
……エレナが穢れます、と言った。
酷い!
僕は一応君が仕えるべき主なんだけど!
だけど、それ以上は触れられない空気をひしひしと感じて、僕は沈黙を選んだ。
そんなことがその後も一度あった。
エレナ・クラウンの婚約者にラスティ・グランフォードが選ばれた時だった。
あの時のニールには、近寄ってはいけない感が、ひしひしと。
君子危うきに近寄らず。
しかし、その時にニールが零した呟きにも僕は震撼した。
……あの馬鹿犬、どう始末をしてやろう、というその言葉。
僕は何も知らない、知らないから!
そんなこんなで実は楽しみにしていた。
学校であれば、噂のエレナ嬢に会ってもおかしくない。
あのニールをあそこまで豹変させる人物だ。
お母上は美しさで知られる麗人だが、その娘である彼女もそうであろうかと。
気になってのぞきにいった入学式後の会場で、彼女を初めて見た。
マナー違反かとは思ったが、ニールが懇親会の会場準備でおわれている今がチャンスと、好奇心には勝てなかったのだ。
エレナ・クラウンは思っていたのとは違う、落ち着きのないくるくる表情が変わる女の子だった。
可愛らしくはあるが、美人ではない。
だけど、どこか目を離せない、そんな。
どうやら始末されずに済んだ婚約者のラスティ・グランフォードと、義弟のジェレミー・クラウンに挟まれ、男同士の取りあいの原因に気づくこともなく二人を軽くいなすその無邪気な様子に、思わず笑いが漏れた。
きっと、ニールもそうなんだろうと思ったら、つい。
集まる三人の視線に、隠れて見るだけのつもりだった僕は、まずったかな、と思った。
バレた時のニールの反応が怖い。
が、同時に少しわくわくした。
キラキラしたまんまるな瞳の、小さな頃から話でだけ聞いていた気になる存在、エレナ・クラウン。
もっと、君を詳しく知りたいと、僕はそう思った。
君を、もっと教えてくれないか。
なんだかんだ言って王子、ニールのこと好きなんでしょう。
そんなニールの特別な相手、エレナさんに興味深々中です。




