ニール兄様の知恵袋
今回はニールが黒いです。静かに怒っているのですよ、ツンドラニール。
「口約束の婚約の意味? それはもちろんあるよ」
また我が家に訪れたニールに質問してみました。
その解答がこれです。
……しかしニールさんや、ずいぶん頻繁にうちにやってくるのなんなんですか。
あんたはうちの子ですか。
いっそここに住んだらどーですか。
とはさすがに言えんですなあ。
……現実になりそうで。
「その意味はなんですか?」
だからそれは置いといて、取り敢えず目の前の疑問解消に努めましょう。
しかしニールも初めて会ったころに比べるとずいぶん喋るようになったですなあ。
感慨深いものです、うん。
「ああ、親同士が仲が良くて自分たちの子供を、ということもあるけど、大体は家通しの繋がりかな。子供がお互いに婚約することによって、その家同士の距離が近くなるだろう?」
「破棄してしまうと、逆に険悪にならないですか?」
「それを承知の上での婚約だから、滅多なことではそうならないよ。婚約という言葉に抵抗あるなら、協定とか提携と置き換えてもいいかもしれないな」
「……? よくわからないです?」
「つまりは……、仲良くしようということだよ」
「じゃあ、仲良くしたい相手が出来るたびに、ころころ婚約者を変えるですか?」
「まさか。大概は一度だけだよ。実際そのまま婚姻に至る場合も多いしね。だから口約束とは言ってもいい加減には決められないし、家格もつりあった相手になる。もしその後解消されるとしたら、より政略的に条件があう相手が現れた時か、心から添いたい相手が現れた時、かな」
「……? よくわからないです。やっぱり意味なくないですか?」
「意味はあるんだよ、やはり。実際婚約者のいる相手に手を出すのは覚悟がいる。場合によってはその家を相手取る可能性もあるのだから。実際口約束とはいえ婚約は婚約だ。たとえ口約束の婚約だからってね。安易に解消はしないし、もしする場合は解消を申し出た側はその次の相手が本当の婚姻相手にならなければ筋が通らない」
「うーん?」
今日のニールの言うことはよくわからないのです。
「……つまりは、虫よけだよ。悪い虫よけ」
「虫よけ!」
おお、なんかわかった気がするですよ!
つまりはこうですね。
婚約すれば、おうち同士仲良し感が強まります。
破棄されても恨みっこなしよ、の約束です。
婚約者当人には、よっぽど本気の人しか近寄ってこなくなります。
だから、軽い気持ちで近寄ってくる相手を牽制できると!
それをニールに言ってみたところ、よくできましたと頭を撫でられました。
わーい!
婚約者は虫よけ!
またわたしはひとつ、この世界の常識を手に入れました!
やっぱり、ツンドラニールはよく知ってます。
まさに、わたし専用知恵袋!
「だからエレナも虫よけ代わりに利用するだけ利用して、時期がくればさっさと解消すればいいよ」
「そうなのですね! わかったです!」
「うん、エレナはいい子だ」
「えへへー」
「……しかし虫よけとは。ルフォス伯もやってくれる……」
なんかニールがツンドラブリザード気候を漂わせていた気もしますが、わたしは華麗にスルーですよ!
君子、危うきに近寄らず、です!
あれ? 君子ってなんでしたっけ……?
次回、本当に婚約者登場予定。




