いじめは一時中断なのです
エレナさん、シリアス展開なのに一人シリアスになりきれません。
重い空気にわたしはかたまってしまいました。
「エレナもジェレミーもだいぶ大きくなったから、やっとみんなで会えるわねって話していたところだったのに……」
ママさんが泣き崩れます。
「知らせをもらった時は、嘘であって欲しいとどんなに思ったことか……。ジェレミーだけでも助かってくれたことが、せめてもの救いだが……」
絞り出すように言うパパさん。
「…………」
無言のジェレミー。
「ジェレミーが無事だったのは、ご両親が身を挺してかばってくれたおかげだったかららしいの……」
ほろほろと涙を流すママさん。
「乗っていた馬車は、無残な状態だった。ジェレミーがこんな軽傷で助かったのが奇跡だったんだ……」
そう言われてみれば、ジェレミーの頬にはガーゼがありました。
「…………」
真っ白な顔で表情なくうつむくジェレミー。
お、弟が登場したら。
い、いじめてやらなくては……。
い、いじめ……。
って。
で・き・る・かー!
どこの鬼だ。
どんな悪魔だ。
そ・れ・は!
両親亡くして傷心の幼子に、そんな無体なことできるはずがないじゃないですか!
だって、いまにも死にそうな顔してるですよ、この子!
泣いててもおかしくないのに、泣いてもないですよ、この子!
ふー、いじめは一時中止です。
元気を取り戻してからでまったく問題ナッシングです。
モーマンターイ、なのです!
まずは生気を取り戻してやらないと、うっかりあの世に逝ってしまいそうで怖いです、この子!
しかし、なにをすればよいですか。
無言でうつむいてる、この子に。
身長がわたしより少し低いせいか、頭のてっぺん見えてるですね。
わたしはそっと、その頭に手を伸ばすと、ゆっくりとその柔らかな髪を撫でた。
ふれた瞬間、ジェレミーの身体はビクッとふるえたようだった。
「よーし、よーし、なのでしゅよ」
ゆっくりと、撫でる。
「いたくなーい、でしゅよ」
ゆっくりと。
「なーい、なーいでしゅ」
ジェレミーはゆっくりと顔をあげた。
どこか、怯えたような瞳をしている。
心が、痛む。
「だいじょーぶでしゅ。もうこわくないでしゅよ。エレナがおねーちゃんでしゅ。これからずっといっしょにいてあげるでしゅ」
そう、心をこめて話かける。
「ね……え……さま?」
「あい。おねーちゃんでしゅ」
呆然とするような表情から一転、ジェレミーの顔が痛みに崩れた。
「ふ…うえええええええー!」
そして、パパさんから離れると、ごすっとわたしに体当たりしてきた。
おおうっ。
一瞬勢いに倒れそうになったが、なんとか堪えました。
足がぷるぷるですが!
「泣いた……」
パパさんが驚いたように言った。
「今までどんなに声をかけても泣くどころか反応もなかったのに。それが、逆に痛々しくて、それが……」
「よかったですわ。エレナにあわせて。この状態ではまだ早いかと思いましたけど、やっぱりよかったのですわ……」
寄り添うパパさんとママさん。
号泣しながらしがみついてくるジェレミー。
よかった。
よかったね。
だが!
ジェレミーがものすごい力でしがみついてくるのでわたしもう足限界です!
もうぷるぷるなのです!
このままでは後ろに倒れてしまいます!
パパさんママさん、浸ってないで!
ヘルプミー! なのですー!
次回は姉弟の会話が入る、といーな。




