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レニー・カーティス視点

お待たせ致しました。

「レニー、あなた、今度のダンス・パーティでエレナのパートナーを務めなさい」


 ある日突然、双子の姉アニーよりそう命令され、思わず顔が引きつりそうになった。


 パートナー?


 あの、エレナ・クラウン伯爵令嬢と?


 え、嫌だ。 


 正直、速攻で辞退したい。


 別段人間としては嫌いではないが、理解不能な部類の人間で、非常に苦手意識が先立つ。


 しかし、アニーが僕に命令口調でこう言いだしたら、それは覆すことのできない決定事項、ということになる。


 今までの経験からも、それは間違いないが……。


「エレナ・クラウン嬢は、ラスティ・グランフォードという婚約者がいるはず。であれば僕がしゃしゃり出る必要なんか……」


 と、一応の正論で抵抗の意を示してみるものの……。


「問題ないわ。もう話もついてるし」


 あっさりと流された。


 何が問題ないんだ。


 どう話がついてるんだ。


 その、説明は一切なく。


「これは、決定よ」


 その、一言で、この話は終了された。





 そして、僕は今そのエレナ・クラウンを相対している。


 学校のカフェで打ち合わせをすることになったのだ。


 近くの席ではエレナの義弟のジェレミーとアニーも違うテーブルで打ち合わせをしている。


 四人で待ち合せて、集合後に二対二に分かれたのだ。


 別れた途端、エレナ・クラウンが特大パフェを注文したのには少し驚いた。


 アニーはあまりそういったものを好んで食べることはない。


 普通の女性は小食に見せたがると聞いていたが、実際は違ったのだろうか……。


 ものすごい勢いでパフェを食べきったエレナ・クラウンが、意気揚々とドレス案が描かれたスケッチブックを僕に差し出したきたので、ぺラリとページをめくってみたのだが……。




「あり得ない」


「何でよりにもよってこんな」


「まず色からしておかしい。黒ってなんだ。喪服じゃないんだし。似合うならまだしも……。どう見ても基本ベースはパステルカラーだろ、君は」


「しかもこの露出の高いデザインも、なに考えてるのか。品がないことこの上ない。そもそも自分の体型考慮して考えた? どうやって着こなす気だった? これじゃ肩はずり落ちるだろうし、胸元はガバガバになるだろうし、腰は布があまりまくるだろう」


 正直な感想が口をついて出る。


 そして止まらない。


 これなら子供のお絵かきの方がよほどよい出来のものがある。


 なぜここまでひどい出来に!?


 驚きすぎて手加減するのも忘れ、次々駄目だしをする僕に、気がつけばエレナ・クラウンの目には涙が……。


「あ、ええと、そういうのじゃなくて」


 慌ててフォローを入れようと思うも言葉が続かない。


 褒めるべきポイントすら見つからないからだ。


 普通はデザインは駄目だが色合いの選択がいいとか、当人には似合わないがドレス案自体はいいとか、せめて飾り部分はよく出来てるとかいくらでも言いようがあるはずなのに。


 なのにどうしてここまで。


 ここまで良い所が一つもないものを、しかも複数案持って来たんだ…………。


「気にしなくていいのです。それより改善点を言って欲しいのですよ」


 言葉に詰まる僕に、エレナ・クラウンは涙を堪えてぷるぷるしながらそう言った。


 僕は取りあえずのため息を吐くと、頭をぽりぽりとかきいた。


「改善っていうか白紙からのが……」


 いっそ何もなかったことにしたい。


 そして既製品のデッサンでもしてきてくれれば……。


 そう思いながら、おもむろにスケッチブックをパラパラと捲っていると、ふとあるページで手が止まった。


「あれ、このページ……」


「あ、それはニール兄様が新しいドレスを用意してくれると言った時にこんなのがいいのですとおねだりするのに描いたものですよ。実際買ってくれたのは全然別のデザインのドレスだったですけど」


 スケッチブックを覗き込んだ彼女は、懐かし気に、ただ少しむくれたような顔をしてそう言った。


 そこにはリボンこてこてフリルふりふりの、乳幼児に似合いそうなドレス画が描いてあった。


 淡い水色も悪くはない。


 男児の衣装であれば、だが。


「ふうん……、でもまあ、さっきのよりだいぶマシ……」


 僕は修正点や改善点などを赤ペンでサカサカ描き加えていく。


「このリボンとって、のフリルも外して、この布少し長くして……」


 うん、ええと、そうだな、こんな感じで……。


「どう?」


 それまで黙って見ていたエレナ・クラウンに、描き加えたデザイン画を見せてみた。


 淡い水色でもおかしくない、すっきりと、それでいて可愛らしさもあるデザインになってると思うが。


「おおっ、これはいいです。いいですよ!」


 彼女は手を叩いて喜んだ。


 その笑顔を見て、僕もほっとした。


次回もレニー視点です。

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