ふさわしい人は
少し間を空けたら何を書こうとしてたか忘れてて愕然。
どんより空気にわたしがどうしたものかとあわあわしてると、レニーは自嘲的な笑みを浮かべました。
「どうせ僕なんて、アニーのおまけみたいなものなんだよ。双子で生まれてきたけど、全部いい所はアニーにいっちゃったんだ、きっと。頭が切れるのも、化け物並みの身体能力も、度胸があるのも、すべて段違いにアニーのが上。困窮していた家の財政状況もあり得ないスピードで回復させたし」
ほう、さすがアニー。
しかし家の財政回復なんて何したかも想像つきませんがな。
とゆーかわたしなんてそもそも我クラウン家が何で収入得てるとかも知りませんし。
「僕がアニーより上って言い切れるものなんて何もないし……。同じ時に同じ場所で同じ親から生まれたのにこうも違うなんて……。双子の姉に教育されるなんて、何でだよって思うし、自分が情けないし……」
ううん? わたしも親は違うけど同い年の義弟のジェレミーによくお世話になってますが、何とも思わんですがねー。
むしろラクチンでいいもんですがな!
年も場所も近い相手はいろいろ便利なのですよ。
例えば代わりに課題をやってもらうとか役目を代わってもらうとか確認しておいてもらうとかとか。
「皆アニーこそが後継である男子だったらって陰で言ってるの知ってるしさ。実際僕もそう思うよ。アニーこそカーティス家を継ぐべきなんだ。何にもできない僕なんかじゃなく。没落していく一方の家を再興し、さらに発展させていけるアニーの方がよほどふさわしい。僕が生まれてこなかったら、もしくは僕とアニーの性別が逆だったら、ごく当たり前にそうなっていたんだから」
性別が逆……。
「……はう? レニーは女の子で生まれた方がよかったのですか? よければわたしのドレスとか着てみますか? ものによっては着れると思うですよ」
「誰がそんな話してるの!? 僕はただアニーがうちの爵位を継ぐのがふさわしいって話をしてるだけなんだけど!? 別に僕は女になりたいわけじゃない!」
わたしの親切心からの提案に、レニーは悲鳴のようにそう叫んだ。
あや、違うのですか。男だ女だ言ってるのでそんな話かと思ったです。
まわりくどい話し方は、何を言いたいのかわかりにくいので苦手なんですよ。
しかしそうですか、跡継ぎ問題の話だったのですね。
だったら初めからそう言えばいいですのに、もう。
確かに当主直径の子供に男子と女子がいた場合跡継ぎは男子優先ですしなー。
当主の子に女子しかいない場合は最初から親族より男子の養子をとったりもしますしね。
それでもと女子に継がせる場合は、爵位継承時に女相続人には条件があって、婚姻関係を結んでる婿かその次の跡継ぎになる養子の存在が必須ですしの。
基本男子へ引き継ぐ為の繋ぎ扱いでしかないんですな、女子が爵位を継ぐってことは。
うちのクラウン家はジェレミーが後継ってもう決まってましたな、そういえば。
ジェレミーは義理の弟とはいっても本当の従兄弟の関係ですし、その辺はあっさりでしたね、うん。
実際わたしが跡継ぎとかって無理ありすぎですしのー。
まあそれはそれとして。
「何が駄目なんですか? レニーがカーティス家の跡を継ぐことの」
はて? と思うので質問をしてみるです。
「駄目って……、別に駄目ってわけじゃなくて、僕よりアニーのがふさわしいって話をしてるだけで……」
うん?
「優秀だからふさわしいのですか? だったらアニーより優秀な人がいればその人のがよりふさわしいってこのなのですか? たとえば……、わたしの従兄弟のニール・エルハランとか?」
とっさにアニーより優秀な人を思い浮かべようとしてツンドラニールの他に名前が出てこなかったですよ。
王子やラスティは明らかに違うし、ジェレミーだと明かにとまでは言えないし、フィル様は優秀の方向性が違う気がして……。というか、わたし交友関係狭すぎでないですか? 同年代の相手、他は名前すら頭に出てこない。
はわわ、愕然なのです……。
「いや、優秀な人って……。別に赤の他人がどれだけ優秀だろうとうちの跡継ぎには関係ないし……」
「ううん? だったらアニーも同じなのですよね? 女の子ってだけで跡継ぎ候補からは外れているですし。……というより、何をそんなに悩んでるかよくわからないのです」
わたしはこてりと首を傾げてみせた。
「レニー、ちゃんとふさわしいのです。跡継ぎになる為頑張ってるんですよね? アニーに言われたからって、言われただけじゃ覚えないですよ、さっきのドレスのデザインや原材料の産地や価格までなんか。努力して、勉強して、それであんなにさらりと何も見ずにいろいろ言えたんですよね。跡取りって決まってるのに、それでよしとするのではなくて、いろいろ悩んで、考えて、頑張ってるんですよね。その場所にいるためにふさわしい人間になるために」
わたしは勉強しても努力しても覚えられる自信はありませんね、うん。
わたしの頭はザル並みなのですよ。
哀しいことに、みんなすり抜けていくですよ。
「それは、すごいことなのです。立派なことなのですよ」
でもでもわたしも頑張ってるですがね!
駄目は駄目なりに頑張ってるですよ!
立派な悪役令嬢になるために!
……あれ、そういえば悪役令嬢って何する人でしたっけ……?
……まあそれは後でゆっくり思い出すとして、
「とにかく、要はレニーはちゃんとカーティス伯爵家の跡取りにふさわしいってことなのです」
うん、それが肝心なのですよ。
次回はおそらくレニー視点になる予定。




