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凪と静の六

 俺は(しず)を知った。知りすぎたとも言える。


 気付けばひとりで洞窟に寝転がっていた。だが、充足感と共に永年感じていた欠損が埋められた実感があり、後悔は全くなく、落ち着いて服を直して横穴に這い入った。



 私は(なぎ)を知りました。知りすぎました。


 気付けば私は、暗い洞窟にひとりで寝転がっていました。こんなことになっても意外と頭は冷静で、後悔はみじんもなく、落ち着いて服を直して横穴に這い入りました。



 隣の横穴に出てがらくたを動かし、そして俺は気付いた。



 隣の横穴に出て、穴を埋め、そして私は気付きました。



「‥‥凪?」


「静‥‥が‥‥」


 俺は俺の中に静がいるのだと気付いた。


 私は私が凪の中にあることに気付きました。



 男は女を知って初めて一人前とみなされるという。それと同様に、里では、男は女を知って初めて一ん前の間者として完成するのだとされる。それを以て里での教育は終わり、今後は本来の里へ戻って主のために働くことになる、はずだった。



 私はそれが我慢なりませんでした。凪でない誰かを知るなどと、そんなことはできない。凪以外は知りたくない、それが、これまで生かされてきた里を裏切ることだとしても、それでも私は。



 時間がなかった。俺以外が静を知るなど許せなかった。だが、まさか静を丸ごと知り受け入れてしまえるだけの度量が俺にあるなどと思わなかった。不思議な異常だとは分かっている、分かっているが、これはこれで俺たちにとっては極めて自然なことだと感じた。



 私の意志か、本来の持ち主である凪の意志か、あるいは両方の意志で以て凪の身体は自然に動かすことができました。見も知らない知り合いの誰にも不審は与えなかったようで、万全の準備を終えて、私を抱えた凪は、ふらりと洞窟から彷徨い出て、



 そして、里から姿を消した。



 そして、私の心は凪と共に、凪の世界を旅することとなりました。



 これが、俺と静との邂逅の話。



 静の世界で私の存在がどうなったのか、私には知るすべはありません。



 もしかしたら、あちらの静は壊れてしまったのではないか、俺はそう危惧している。壊れて捨てた心を俺は後生大事に抱えているのではないかと。それでも静は静だと分かっているが、できれば丸ごと救いたかった。そう思うのは傲慢だろうか。



 おそらく私たちは触れ合ってはならなかったのでしょう。それを知っていたから、長い間言葉を交わすだけでいたのだけれど。けれど、私は凪を知ったことを後悔はしません。こうしてその心に巣くって歪な存在にしてしまった/なってしまったけれど、それも。



 これも一つの愛のかたち。

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