凪の四
静は俺の何だろう、と思い、俺は首を力なく垂れた。答えなんて分かっていた。一目見て撃たれた。追いかけたいと思ったのは彼女だけだ。そういうことだ。
いつもの洞窟、けれどそれは静に出逢えないときの真っ暗闇で、俺は座り込んで放心していた。もうどれくらいの間か、こうしている。静、静、静のことを想っている。
今日、里での教育の総仕上げについて聞かされた。それは通達だったから、まず間違いなく数日の内には執り行われるだろう。そうなれば、俺はもう静には会えない。そう理解したから、無我夢中で俺はここに来た。静の洞窟に。
どうせ真っ暗闇だから、俺は目を閉じた。そして思うのはおぼろな静の影のこと。火を点ける気にはならなかった。静がいないのなら同じだ。きっと俺のこれからの時間は真っ暗闇だ。
そう、思っていたのに。諦めたはず、だったのに。
「‥‥静」
俺は、静かなその足音を聞きとった。幻聴かもしれないそれの、名を呼んだ。
「凪‥‥」
俺の名を呼ぶ、その声は甘い。いつからか、そう感じられるようになった。いつからか?そんなもの、初めからだ。
束の間、静は目を閉じた。痛烈に触れたくなり、堪えた。それを見透かすように静が目を開けた、あまりに静かな、その視線。静かな、そのくせどこか焼け付くような。あぁ、その視線はまずい、だろう。けれど逸らせない。
「私は、知るなら凪がいい」
一瞬で頭に血が上った。これは本格的に幻聴かもしれない、そうあってほしいような、そうあってはならないというような、あるいはそう、静は自分でもよく言うけれどぼんやりだから、意味なんて分かってなくて言っているのではないかと。そうあってほしいような、そうあってはならないというような。
「‥‥その、」
だが、いろいろなものを堪えた俺の言葉に。
「意味は分かっているのか」
恥ずかしそうに俯いて、はっきりと静が頷いたから。
俺は。