凪の二
いつものように、皆が知っている洞窟に向かい、そこから小さな横穴を通ってもうひとつの洞窟へ向かった。実は意外と、洞窟同士はつながっていたりする。といっても子供ひとりとはいえ人間が通れるほどの横穴はほとんどない。この横穴にしても、最初は這って進める程度だったものを広げて膝這いできる程度にしたのだ。入り口付近は前の大きさのまま、それに俺は通路の両側からがらくたで塞いでいる。仮に誰かが洞窟に入ってきても、俺の不在に気付くだけだろう。
がらくたを退けて足から入り込み、最後にがらくたを引っ張り込むように入り口を塞ぐ。それから頭を縮めるようにして丸まり、方向転換する。横穴と言ってもそれほどの長さはなく、頭の方向に少し進んだらすぐにまた天井が下がってくるので匍匐前進に切り替える。ほどなく向こう側の蓋をしている木箱に手が届くので、それを押しながら這い出る。
木箱を下の位置に戻して、中から手燭を手探りで取出し勘で火を点け、立ち上がりながら俺は気付いた。
「あれ、明るい」
こちらの洞窟に入り口はないはずだ。だから俺はご老から感謝で、同時に見当違いの恨みも受けているのだが、受け取っている蝋燭を絶やしたことはなかった。だが、今はぼんやりと周りが見える。手燭に火を点けるのは慣れたことなので気付かなかったが、そういえば今日は一度も失敗しなかったのは、それは見えていたからか、とやっと気付いた。
同時に、ひとの気配があることにもやっと気付いた。
「‥‥え、誰」
声もなく音もなく立っている、それは年恰好の同じくらいの、その時は名前を知らなかったが、静という名の女の子だった。俺の背にしている手燭の頼りなく揺れる炎と、そして遠くから差している外の光に、ぼんやりと浮かび上がる輪郭を、俺はしばらくまじまじと見ていた。
それが俺と静との出逢い。それからしばらくの間、恐らくあのことがなければずっとでも、俺たちは互いの顔も知らないままだっただろう。