表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

凪の二

 いつものように、皆が知っている洞窟に向かい、そこから小さな横穴を通ってもうひとつの洞窟へ向かった。実は意外と、洞窟同士はつながっていたりする。といっても子供ひとりとはいえ人間が通れるほどの横穴はほとんどない。この横穴にしても、最初は這って進める程度だったものを広げて膝這いできる程度にしたのだ。入り口付近は前の大きさのまま、それに俺は通路の両側からがらくたで塞いでいる。仮に誰かが洞窟に入ってきても、俺の不在に気付くだけだろう。


 がらくたを退けて足から入り込み、最後にがらくたを引っ張り込むように入り口を塞ぐ。それから頭を縮めるようにして丸まり、方向転換する。横穴と言ってもそれほどの長さはなく、頭の方向に少し進んだらすぐにまた天井が下がってくるので匍匐前進に切り替える。ほどなく向こう側の蓋をしている木箱に手が届くので、それを押しながら這い出る。


 木箱を下の位置に戻して、中から手燭を手探りで取出し勘で火を点け、立ち上がりながら俺は気付いた。


「あれ、明るい」


 こちらの洞窟に入り口はないはずだ。だから俺はご老から感謝で、同時に見当違いの恨みも受けているのだが、受け取っている蝋燭を絶やしたことはなかった。だが、今はぼんやりと周りが見える。手燭に火を点けるのは慣れたことなので気付かなかったが、そういえば今日は一度も失敗しなかったのは、それは見えていたからか、とやっと気付いた。


 同時に、ひとの気配があることにもやっと気付いた。


「‥‥え、誰」


 声もなく音もなく立っている、それは年恰好の同じくらいの、その時は名前を知らなかったが、(しず)という名の女の子だった。俺の背にしている手燭の頼りなく揺れる炎と、そして遠くから差している外の光に、ぼんやりと浮かび上がる輪郭を、俺はしばらくまじまじと見ていた。


 それが俺と静との出逢い。それからしばらくの間、恐らくあのことがなければずっとでも、俺たちは互いの顔も知らないままだっただろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ