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第八話 ギルドのお話①

「ここが「花鳥風月」のギルドホームか」


 レンガ造りの小洒落た外見。小じんまりとしたカフェのような感じで、二階建てだ。

 入口の横には、「Kacho†Hugetsu」と筆記体で書かれた小さな看板が下がっている。


「ごめんくださーい」


 とりあえず備え付けの呼び鈴を鳴らしてみる。

 チリンチリン、と小さく綺麗な音が鳴るが、これでなかまで届くんだろうか?音が届いてる訳じゃないのかな。

 しばらくして「はーい」と扉が開く。


「どちら様です?」

「フレイの友達の、クノっていうんだけど。フレイから何か聞いてる?」


 出て来たのは、ノンフレームの眼鏡をかけて緑髪をした、おっとりした感じの女の子。


「あ、貴方がクノさんですか!どうぞ入ってくだしあ……く、くださぃ」


 噛んだ。口を押さえて真っ赤になる眼鏡さん。


「……大丈夫ですか?」

「あ、はい。だ、大丈夫です……」

「ノエルー。クノさん来たー? ……あ、クノさん。遅いですよ~。ささ、入って入って」


 フレイ登場。

 昨日見た青い鎧ではなく、水色のワンピースのような服を着ている。


「ん、悪い。ちょっとな」


 中に入ると、そこはちょっとしたカフェのような空間だった。

 長いカウンターもあり、中央には丸い大きなテーブルが一つ。その周りに小さめのテーブルが4つ。


「皆さーん。こちらが昨日話したクノさんですー」

「クノです。どうも」


 とりあえず挨拶をしてみる。部屋のなかには、フレイと眼鏡さんのほかに3人のメンバーがいた。

 ……案外少ないけど、全員女か。フレイの言うとおり美人揃いだし。


「……」


 場をしばし沈黙が支配する。

 うむ……これではいかんな。


「じゃあまあ、とりあえず自己紹介的なことをするか、ね?」

「そ、そうですね! そうしましょうか!」


 良かった。フレイが乗ってきてくれた。


「じゃあ、まずギルドマスターのカリンさんです」

「え? 私からなのかい?」

「そりゃギルマスですし。とりあえず名前と、後、使ってる武器あたりでいきましょう」

「そうだね、あー、『花鳥風月』マスターのカリンだ。片手剣と氷魔法をメインにしてる魔法剣士だね。よろしく頼む」


 カリンは、白の長い髪をポニーテールしていて、女子としては結構背が高めだ。大体俺と同じか少し高いかもしれない。

 鋭い目つきで、女豹を思わせる。


 にしても魔法剣士か……この『IWO』では、スキルさえそろえれば案外簡単になれるんだよなぁ。

 魔法使いの武器、杖なんかは武器スキルとしては見なされず、属性魔法のスキルを取ったら使えるようになるみたいだし。事実最初の武器選択の時にも、『杖』とかじゃなくて、『火属性魔法』とかあったし。

 まぁ、使いこなせるかどうかは別として。


「次はノエルね」

「あ、はい。えっと、サブマスタ―のノエルです。光魔法が得意です。宜しくお願いします」


 丁寧にお辞儀をしてくれる眼鏡さん、もといノエルさん。

 前髪直線の緑髪、そして意外にグラマラス。


「次はあたしだね。火魔法使いのリッカだよ。よろしくね、クノくん!」


 ピンク髪のリッカ。

 身長はこの中で一番低く、中学生くらいにみえる。髪型は右側にしっぽのある、サイドポニーだ。


 あと一人はさっきからカウンターの向こうで無表情に座っている、真っ黒なゴスロリっぽいフリル(これまた黒い)過多な服で黒髪を肩ぐらいのショートにした女の子。

 時々ちらちらとこちらをみるが、喋る気配はなさそうだ。


「君は?」


 なのでカウンターに近づき、ゴスロリさんの紅い目を見ながらこちらから尋ねてみる。

 無口系の人とのコミュニケーションの基本は目を見ることだな。これは実体験(クラスメイトの山田君)から。

 しばらくじぃっと見つめ合っていると、


「……エリザよ」


 根負けしたのか、若干たじろぎながらそう答えてくれる。

 周りのメンバーは、何故か苦笑していた。


「エリザさんは職人系なんですよ。βテスターで、私たちの武器や防具も全部エリザがつくってるんです。この服なんかそこらの軽装備より防御力高いくらいで、すっごく腕がいいんですよぉ!」


 へぇ、それは凄いな。

 俺の装備も作ってくれたりしないだろうか? 

 俺はエリザに、なんとなく期待のまなざしを送ってみる。


「何? 私になにか作って欲しいの?」


 なぜか、やれやれ、と大げさなくらいの表情で尋ねてくるエリザ。

 あれ?さっきの無表情ぶりは?

 そして察し良いな。これが女の勘ってやつか?


「……お願いできたりするのか?」


 見た所エリザは多分、ギルド専属の職人なんだろう。

 だとしたら可能性は低そうだよなぁ……


「条件次第では、作ってあげてもいいわ」

「って、いいのか……条件ってのは」

「貴方がギルドに入るんだったら、作ってもいい」

「ギルドって、『花鳥風月』か?」

「そう」


 ギルド専属なんだったら当たり前のこったな。

 だが、女しかいないギルドに入るのは……いや、それ以前に無理があるな。


「あー、いや、それはちょっとな。やっぱ今のなしで」

「ギルドに入れば、色々とお得よ? 今なら美少女5人がついてくるわ」

「お断りします。ってか、エリザのキャラがわからないんだが」


 なんでこんなぐいぐい来てるのエリザさん。

 この人第一印象と違ってかなりキャラ濃い人だよ!?


「さっきのはちょっとした雰囲気作りよ。無表情系クーデレキャラをイメージしてみたのだけど、どうだった?」

「え? ああ、似合ってた、よ?」


 つまりこっちが素ってことか。何というか、変な人だな。

 クーデレて……エリザの容姿には、確かに似合ってはいたが。ただしデレ要素はなかったからクー”デレ”って言われると微妙。


「そう、なら良かった。それにしても、無表情キャラには意外と自信があったのだけど。貴方は凄いわね」


 そう言うエリザさん。

 今も表情はそんなに変化してませんけどね。


「何がだ?」

「こちらを見通すような、その冷たい眼。正直さっきのは効いたわ。思わずくらっときたわよ?」

「はぁ、さいですか」


 眼、ねぇ。

 そういえば山田君も挙動不審になってたけど、なんか不味かったかな?


「まぁ、それは置いておいて。どうかしら、ギルド。歓迎するわよ?」

「いや、だからいいって。……えーとカリン? ちょっとエリザを止めてくれないか?」


 異様にしつこいな。

 ギルドマスターに断りもなくどこの馬の骨とも知れないやつを勧誘するのはどうかと思うんだ。


「いや、いいんじゃないか? 是非入るといい」

「あれっ、そういう反応?」

「クノさん。カリンさんもこう言ってるんです。入ったらどうです?」

「わたしもいいと思います。フレイさんのお友達ですし」

「はいっちゃえよ~」

「そういう訳よ。貴方に味方はいないわ。おとなしく『花鳥風月』に入りなさい」


 なんでこんな全員から勧誘されてるんだろうか、俺は。

 モテ期なのか? あれって確か都市伝説じゃなかったかな……

 それとも、何か事情があるのだろうか。とりあえず聞いてみるか。


「えっと、何かあるのか? 俺がこのギルドに入らないといけない訳みたいなのが」


 すると、彼女たちは一斉にフレイの方を向き、


「ちょっと作戦タイムよ」


 エリザがそう言って、カウンターから離れたテーブルの方へ行ってしまう。何なんだ? 少し気になって耳を澄ましてみると、


「なかなかの強敵ね。これだけの美少女5人に言い寄られて頷かないなんて」

「クノさんは何というか、鈍感というか、鉄壁というか。独特の価値観を持つ人ですからねぇ」

「フレイ、自分から言い出したんだから何か他に策はないのか?」

「いやー、皆で押しきったら行けるだろうとしか」

「えっと、無理に誘うのもどうかと思うんですが」

「だよね~。でも事情を話したら分かってくれるんじゃない?」

「そうね……というか最初からそうすれば良かったのよ」

「う~。やっぱそうなりますか」


 ぞろぞろと戻ってくる少女たち。

 結局何の話なのかさっぱりだ。なんとなく原因がフレイだってことは理解したが。


「では、説明しよう……実はだねクノ君」


 カリンが、説明を始める。


「昨日フレイと一緒に狩りをした後、紹介したい人がいるといわれてね。是非私のギルドに入れてほしいと。なんでもその人が他のギルドに入ってしまう前に自分たちの所で確保したいとかうんぬんかんぬん。

 それでだよ。フレイの乙女心をくみ取った私たちはその人、つまりクノ君をなんとかしてギルドに入れよう、ということに決まったわけだ」


「いや待て。大事なところが省かれてる気がするんだが」


 なんだようんぬんかんぬんって。過程素っ飛ばし過ぎだろ。

 そう言うとカリンは、はぁ、とため息をつき、


「そこは察するのが男の務めだろう。察しなさい」

「や、何を」


いきなり言われても無理ですわ。


「はぁ、まったく。お姉さんの言うことはよく聞くものだよ? 私が察しろといってるんだ。少しは考えたらどうだこの朴念仁め」

「お姉さんて。いくつだよカリン」


 っとこれはマナー違反か。

 俺が慌てて取り消そうとするとカリンは、


「フレイの一つ上、17だね。ちなみにエリザも同い年だよ。さぁ、人生の先輩を敬え」


 あっさり暴露。こういうのは気にしない人だったか。

 てか、なんか趣旨変わっちゃってるよ。そしてエリザ巻き込むなよ。

 と、いうか。


「いや、俺も17なんだが」

「……ん? いや、え?」


 フレイ、カリン、そしてエリザが?という顔をする。

 ノエルとリッカは話についてこれないのか、二人でお喋りをしている。俺もあっちに混ざりたいなぁ。


「え? え? クノさん高1ですよね? じゃあ16じゃ」

「あー。俺高1の時に留年したから。ホントなら高2だな」

「!?」


 おおー。驚いてる驚いてる。

 そう言えばいままで言うタイミングがなかったんだよなー。


「え、でもクノさん学年トップの成績じゃないですか!? 二回目とはいえそんな人が留年するなんて、」

「理由はいろいろあったり無かったりするけどな。簡単にまとめると、VRやってて出席日数足りなかった」

「は?」

「テストも受けてなかったからなー。むしろ良く退学になってないよな、俺」


 我ながらびっくりだ。うちの高校はゆるゆるだなー。

 まったく、そんなんで大丈夫かといいたい。


「……ぇぇー」


 フレイは完全に固まっている。そんな衝撃的だったか?


「まぁそんな訳で、カリンとは同い年だな。で、誰がお姉さんだって?」

「……ぐぬ。す、少なくとも留年しているクノ君よりはお姉さん度は高いだろう!」


 お姉さん度ってなんだよ。

 そりゃ高いだろうよ、俺男だもん。


「成程。では私たちは同い年なのね。では親しみをこめてクノっちと呼ぼうかしら?」

「それは勘弁してくれ。なんか語感がヤダ」

「そう」

「……ってマジですか!あーもう、えー……同い年じゃなかったんですかぁ……ちょっとがっかりです」


 お、フレイが復活した。


「まぁでも、言われてみればそんな気もしますけどね。クノさんですし、仕方ないですね」


 フレイは納得、という表情を見せる。

 ホント、フレイの中で俺はどういうポジションなんだろう。

 変人とか思われてたとしたら心外……や、あながち否定できないかぁ……




カリンとエリザが驚いたのは、事前にフレイの同級生だと聞かされていたため。

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