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第五十九話 勇者登場のお話

 



「熱波の岩山」ボス前のセーフティーエリア。

 レイレイが頑張ってくれたお陰で、10分程で到着だ。

 最終的についてきた三匹の雑魚を一蹴し、辺りを見回す。

 ゴツゴツとした四角い小部屋の真ん中に、一段高くなっている御影石のような円形の場所があり、そこに魔法陣が刻まれている。真ん中の転移魔法陣はどこのボス前でも統一規格なのな。


 そして俺の他に、先客が一人いた。

 サラサラな茶色の髪に、金の眼。童顔ながらも意思の強そうな整った顔立ちは、眼の色以外多分弄って無い。そして青と白銀を主体とした布、皮、金属の複合軽装備で身を固めたイケメン君だ。

 なんか幅広い層に受け入れられそうな顔立ちだな~。THEイケメンである。


 にしても、旅人風で裾の擦り切れた褐色のマントといい腰を飾る大きなバックルのついたベルトといい頭のサークレットといい……

 ……凄く……勇者っぽいな。何かの罰ゲームなんか? 

 や、好きでやってたとしたらかなり失礼だが。


 てか俺が言うのもなんだが、ここをソロでくるとか。そして一人でボスに挑もうとか。頭おかしいんじゃねぇの? ……なんてことを一瞬考えたが、これがブーメランか。意外と心にくるな……


 まぁ、俺には関係ないか。精々頑張れ~と心の中で応援するくらいだ。

 俺は俺で肩を回し、身体をほぐしてさぁ準備完了。


 シュン、シュンと「黒蓮」を思考コンボで出したり消したりして脳の方も念のため慣らしておく。最近このタネなし手品が半ば癖になってるんだよなぁ。

 まぁでも、このレベル(無意識)まで熟達したという証明になるしいっか。誰に証明する訳でもないけどさ。


「よし……じゃあレッツ」

「あの」

「ゴー……ん?」


 準備体操を終え、いざボスに挑もうとしたその時。


 不意に先ほどのプレイヤーに声をかけられた。

 どうしたんだろうか……? 自分が先に行くから待ってろとか? ボスは個別で出現だから、順番は関係ないと思うんだけど。それに、勇者さん(仮)はさっきから隅の岩に腰かけたまま動かなかったんだし。


 あ、一応言っとくと、勇者さん(仮)っていうのはプレイヤーネームじゃない。 

 プレイヤーネームは見ようと思えば頭上に表示されるが、いきなり人のプレイヤーネームを見るのはマナー違反だと思うから(仮)なだけだ。


「あの、クノさんですよね? 前のイベでMVPを取った」

「ん。そうだけど」


 勇者さん(仮)は、今まで自分が座っていた岩から腰をあげ、俺に近づいてきた。

 カチャカチャという金属と岩がぶつかる音がするが、その銀のブーツ足裏も金属製なのか? 滑ったりしないのかね。しないんだろうなぁ。流石ゲームだ。


「すみません、僕はミカエルっていうんですけど、良ければ僕と決闘してくれませんか?」


「……はい?」


 いきなり何言ってんだコイツ。

 いや、本当に。いくつかステップ飛ばしてないか。


 まさか初対面でいきなり決闘とか。何コレ、有名税的なアレか?

 勇者さん(仮)もといミカエルは、右手をこちらに差し出し、左手でメニューを操作して決闘申請を行う。が、


「……あれ?」

「何やってんだ」


 決闘申請は受理されない。

 別に俺が拒否ってるんじゃなくて、申請そのものが受理されないんだ。

 何故かと言うと、単純にここがセーフティーエリアの中だから。この中では決闘はできないとwikiにもちゃんと書いてあったのに、知らないみたいだな。


 まぁ、これで面倒事をうやむやにできそうで良かった良かった。

 メニューを連打しているミカエルは放っておき、俺は魔法陣に乗ろうと……


「……あ、あれ? 不具合かな? 運営に報告しないと、」

「いや違うから。不具合じゃないから」

「あれ? そうなんですか?」

「ああ、セーフティーエリアの中じゃ決闘はできないんだよ……って」


 あ。

 運営に報告と聞いて、つい教えちゃった……

 するとミカエルは、成程そーなのかーと頷き、こう言い放った。


「ではクノさん。僕と決闘するためにセーフティーエリアから出ましょう」

「なんでだよ」


 何こいつ……ぐいぐい来るんだけど……


 俺こういうタイプ苦手だわ……。なんか、断っても諦めが悪そうだし。かといってここで強硬に転移したとして、もし後になって会ってしまった時、凄い面倒くさそうだし……


「てか、なんで俺と決闘したいんだ? おま……ミカエルは。せめて理由を聞きたい」


 なんかあるなら、理由さえ聞ければ別に決闘はしてもいいとは思うけど。

 最近対人戦してないし。


 ……おお、そう思うと無性に対人戦がやりたくなってきたな。


 ミカエルはドヤ顔で、こんなことを言う。


「MVPであるクノさんを倒せば、必然あのイベントでのMVPは僕になるでしょう?」

「いやごめん。意味分からん」


 まず理由以前に日本語がおかしかった。

 せめてもうちょい文脈というものをだな……


「やだなぁ、分かって下さいよ。あのイベント、ギルドでの参加だったじゃないですか? だから僕参加できなかったんですよね。でも、ここであなたを倒せば、僕はあのイベントでのMVP以上ということになるじゃないですか?」


 やれやれと肩を竦めながら、説明をするミカエル。


 ……なんだ、ただの自己満足か。

 てか、クリスみたいに一時的に他のギルドに入れて貰うなりすれば良かったのに。

 確かにあのイベントは少し不親切ではあったと思うけどさ。


「僕は自分が強い事を証明するんですよ! フィーアのためにも!」


 誰。


「どうですか? 決闘する気になりました?」

「今のでなった奴がいたとしたら、そいつ頭沸いてんだろ」


 そしてもう半分ほど戦う気満々の俺は、頭が沸いてると。


「やだな、ツンデレですか? 可愛くないです。せめて表情変えて出直してきてください」

「沸いてるのはお前の頭だな、おい」

「いいじゃないですか決闘くらい。心が狭いですね」

「いや、別に悪いとも言っていないが。ただミカエルが急に、」


「あれぇ? まさかクノさん、僕に勝つ自信がないとか?」


 ミカエルはにやにやと笑いながら、馴れ馴れしく肩を突いてくる。


 ……うざっ!?

 会って数分でコイツは俺の中のうざい奴ランキングの二位に浮上した。一位は言わずもがなヤタガラスだが。(クリスの兄で、「テルミナ」で俺の所属していたギルドのマスターだな) 


 しかし、これはもう……さっさと決闘してやった方が良いか。こいつの理由はどーしようもなく自己中心的だが、それは俺になんの関係もないし。

 それに、ここまで自信満々なんだしさぞ強いんだろう。歯ごたえのある戦いができると喜ぶべきかな。


「お前、レベルいくつ?」

「ふふっ。44です!」


 ここぞとばかりにマントを翻すミカエル。

 妙に板についていて、微妙な気分になる。


「わお」


 おお、俺よりレベルが高いじゃないですかー。ならよし。

 これは期待ができそうだな。じゃあ、ここは決闘を受けると返答を……


「じゃあ、」

「もう……確かに僕は対人戦では負けなしですし、第二のボスもたった二人で攻略しましたし、巷では“勇者”なんて呼ばれていますが……まさか、怖いなんてことはないですよねぇ?」

「ねぇよ」


 むぅ。折角答えようとしたのに、被せてくるなよ……

 あと、第二のボスを二人で攻略ってそれ、自慢になるのか?


「しょうがないですね。じゃあ、僕は【光斬剣】と【ホーリープロテクト】なしで戦ってあげますから。それなら多少はマシでしょう?」


 パチリ、とウインクをしてくるがそれを手で払う。

 もう、なんでもいいからさっさと戦おう。この後ボルレクススも控えてる訳だし。


「そのスキル自体知らんが……まぁ、いいやそれで。なんか上から目線なのが腹立つが、この際気にしない。ほら、行くぞ」

「え? あ、はい。なんだ、やはり僕の【光斬剣】と【ホーリープロテクト】が怖かったんじゃないですか。ふふっ所詮はMVPといえどその程度ですか。落胆ですね」

「はいはい乙乙」


 スキル名の部分をやたら強調して言ってくるミカエルと俺がセーフティーエリアから出ると、ミカエルから決闘申請が送られてくる。

 決闘の形式は、「制限時間無し・勝利条件:相手HPを10%まで削る」というものだった……って。


 なん……だと……


「おい。なんでこんな中途半端な条件なんだ。勝利条件は普通にHP0でいいだろう」

「HP0だと擬似ペナが発生するじゃないですか。決闘の常識ですよ?」

「なんだそりゃ」


 聞くと、決闘の勝利条件には

「相手に五回攻撃を当てる」「相手に三回攻撃を当てる」「相手に先に攻撃を当てる」「相手HPを50%まで削る」「相手HPを30%まで削る」「相手HPを10%まで削る」「相手HPを0にする」

 などがあるのだが、最後の「相手HPを0にする」だけ、負けた方は“擬似デスペナルティ”という、死に戻りはしないがデスペナルティと同等のマイナス補正――20分間、獲得経験値/全ステータス減少-50%――を受けるらしい。


 成程、そんなルールがあったのか。

 俺が決闘に関して知ってるのは、決闘の始めには、直前にどれだけHPやMPが減っていても状態異常をくらっていても一時的に全快するとか。あと決闘後、それが決闘前の状態に戻るって事くらいだ。

 消費したスタミナや、削られた精神力は戻ってこないが。


 しかし困ったな……このルールだと、スキルでHPを1にした時点で俺の負けだ。

 コンボ効果があるから【狂蝕の烈攻】は使うけど、Str+1.2%とか笑えんな……メロンソーダじゃねぇか。


 ……って、あ、駄目だ。

【狂蝕の烈攻】にはHP減少効果もあるんだった……使えねぇじゃん……


 はぁ……まぁ、相手もなんかハンデ付ける的な事いってたし、別にいいけどさ。

 なんかテンション下がるわー。折角【惨劇の茜攻】を誰かにお披露目するチャンスだと思ったのに……


 展開されたウインドウの、Yesボタンを押して決闘を受理すると、俺とミカエルから十分に離れた周囲の地面に青い光の線が走る。ここから先はいけませんよって事だな。


「では、決闘開始だっ!!」 



次回は接待プレげふんげふん果たしてどうなる!? 驚愕の展開がッ

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