第五十八話 特殊効果のお話
「熱波の岩山」上層。
今回は腕輪は装備から外し、普通に戦闘を行うことにする。
主な目的は、【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】になにか関係があるのか確かめること。どうしても無関係とは思えないんだよなぁ、という事で。
では早速~。
「冷却符」を使用して地形効果を打ち消し、モンスターを求めててくてくと歩く。遠くで戦闘をしているような音が聞こえるから、誰かプレイヤーが居るんだろうね。大きな岩が半ば迷路の壁のように立ちふさがってるから視認はできないけど。
――っと、エンカウント。
口に含んでいた、大分溶けた飴をガリッと噛み砕き、戦闘モードに入る。
前方から現れたのは、ヒノワグマ一体。そして右手側からもモンスターの声がしたので視線をやると、ブランディアが一体出現していた。合計二体とか……はっ。
正直数えるのも面倒になるくらい、ぶっつづけでモンスターを倒し続ける俺的には、いまさら二体だけで来られても逆に困るんだがなぁ。……ちなみに自分が普通じゃないのはとうの昔から知ってた。
普通ここの上層モンスターといえば、特に強力な個体のため一体をパーティーで囲むくらいでもやりすぎじゃないくらいらしいけど、ね。
桁違いの火力と硬さとか言われても、いまいちピンと来ないです。
「【異形の偽腕】【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【賭身の猛攻】」
「グオオオォオ」
「ロロッ」
『偽腕』を周囲に展開し、火力アップスキルを唱える。
はたして、【賭身の猛攻】を手に入れた事による変化は――あった。
『ポーン』
……へいへい後でな。
今までとは、明らかに違う。
【攻撃本能】みたいな瞳孔や犬歯のマイナーチェンジではない、明確な変化が起こっていた。それは主に、スキルのエフェクトである「オーラ」の変化なのだが……
これまでの【捨て身】の薄赤のおぼろげな様子でもなく、【狂蝕の烈攻】のように真っ黒なだけでもなく、そして二つがただ重なったような赤と黒でもなく。
完全に二つのスキルによるオーラは同化していた。混じり合わない以前とは比べ物にならない程、しっくりと溶けあっていた。
しかしそれは例えるなら――禍々しい、濁った血の色。
これまでのように光を色ガラスに翳したような淡い感じはなく、オーラでは無く瘴気といった方がしっくりとくる。
事実、以前は揺らぐ陽炎のようだったのが、今では霧のように粉っぽく俺の周囲を取り巻き、確かな存在感を告げている。
漂う血霧……やってること考えると、間違ってはないんだけどさ。
更に。
その瘴気はなんと『偽腕』にすら纏わりついていたのだ。
おかげで只でさえ不気味な『偽腕』が、一層猟奇的になっているな。
これは以前では決して見られなかった現象であり、持っている「黒蓮」の刃にも血霧がかかっている。ゲームのモンスターは血を出さないハズだがなぁ……
総合。
すっごい禍々しい! ダークサイドオーラが半端ないですねこれ!
運営ェ……良いのかこれで本当に。
……いや、俺的にはかなりアリだからまぁいいけど、さっ。
「ゴォォ」
「ロロ……」
特に『偽腕』とのコンボは心臓の弱い方への配慮が足りて無いと思うんですよね。
とと。そしてスキルについて考える片手間に瞬殺される、上層モンスターさんズ。
お疲れ様です。
戦闘終了と同時に、霧散するエフェクト。
『偽腕』も戻して、レイレイを呼び出す。
「クエェ~」
「うす。じゃ、とりあえず奥に進むからな~。モンスターは無視で、はいダッシュ!」
「クッケェ!!!」
レイレイに乗り込み尻の辺りをペシン、と叩くともの凄い気迫と共に走りだすレイレイ。おお、これおもしろいな……ぺしぺし叩くたびにスピードが上がるぞ。
……まぁ、バテられると困るので自重するが。
そんなことより、先ほどのお知らせ音の確認である。
メニューを開くと、New! の所に“一定条件による特殊効果”と出ていた。
うん、やっぱ出てるよね。さてさて、どんなのかな~。わくわくしながら“一定条件による特殊効果”とやらをタッチして詳細を確認する。
“一定条件による特殊効果”
特殊効果名【惨劇の茜攻】により、
【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】をそれぞれ消費MP1/2で同時発動可能
【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】の同時発動時、以下の効果を得る
①【賭身の猛攻】の効果時間を“戦闘終了まで”に変更
②【狂蝕の烈攻】のStr上昇率1.2倍
③“血色の瘴気”に触れた敵対者のHPを無条件で減少させる
(接触中継続ダメージ、減少量は自身の基礎Strによる)
わお。地味に凄い……かな?
まず、二つをまとめて発動できて、更にMPも半分になるってとこはかなりグッド。
そういえば茜色というと、夕焼けなんかのどちらかと言うと橙系のイメージが強い人も多いかもしれないが、実際アレより結構暗い赤なんだよね。多分ここでは、意味的に血を指してる――うん。酷いなネーミングが。
①はそのままの意味として、普通に便利だ。これでいちいちかけ直す手間が省けると。
②はつまり、HP1だと100%×1.2で120%になるということだよな? おお、20%アップか。スキル枠も取らずにこれは嬉しいねぇ。
そして③だが……とりあえずあの瘴気の正式名称は“血色の瘴気”らしい。やったね、描写がだいたいどんぴしゃだ。効果の方は、モンスターに肉薄したり、武器で攻撃した時とかに発動するのかな?
ただ、その威力を実感する機会にはあまり恵まれそうに無いが。モンスターは一撃だしなぁ。
「ふむ……まぁ、自身が強化されるというのは嬉しいな。なぁ、レイレイ」
「ク……クエ……!?」
「なんだその戦慄の鳴き声は」
「クエェ……」
「ちょ、首を項垂れさすなよ。ちゃんとバランス取って走れって」
「クエッ」
「ダチョウ語は難しいなぁ」
騎獣の言葉が分かるようになるアイテムとかないんかね~。
……や、でもあったらあったで困るか。
こんなに俺に従順なレイレイが、実は悪口とか言ってたりしたら、俺はショックでレイレイをあぼーんしてしまうかもしれないしなぁ。
「!? ……クェ……!?」
「ん? なんで立ち止まってんだ?」
なんか下から物凄い小刻みに振動が伝わってくるんだけど。
不快なのでレイレイから降りてみると、その瞬間レイレイはその場に崩れ落ちた。
「……ちょ!? おま、大丈夫か?」
「クェェェエエ……」
「え、ホントに何? ダメージ受けた訳でもないよな……あ、もしかして餌とか食べるパターン?」
もしかしたら、レイレイは餌が必要だったのだろうか? 店員さんは何も言って無かったけど……あ、飴があるけど、食べるだろうか。
「クエー」
フルフルと首を振るレイレイ。違うのか。
そしてプルプルと立ちあがろうとする……何か、腰が抜けたみたいな感じだが……
「レイレイお前……なんかびっくりするようなモノでも見たのか?」
「クエックエッ!」
必死に俺の後ろを顎でしゃくるようにするレイレイ。
「○村、うしろー!!」みたいな感じだが、振り向いても何もない。ただ岩石質な地面が広がっているだけだ。むむぅ? 一体なんだと言うのか……
「クエ!」
考え込んでいる内に、レイレイの方は無事復帰したようでしっかりと足で地を踏みしめている。
……まぁ、レイレイが元に戻ったのならいっか。
そして俺にその姿を見せるや否や、すぐに地面に伏せ、俺が乗りやすいようにしてくれる。うむ、良い騎獣だなぁ。
レイレイとは良好な関係を築けているようで、良かった良かった。
主人公が凄く……禍いです。
どんどん黒と赤というダークネスカラーで統一されていくクノさん。ガン○ムでいうと、デス○イズとか。
ソニ○クでいうとシャ○ウとか。
そして際限なく上がり続けるKARYOKU。まだまだいくよー?