第四十七話 騎獣のお話③
前話ですが、意味が伝わりづらいということで、「マスタリー」の部分を「プライド」に。
それに伴い本文も少し変えています。
後、第四十二話 呪具のお話① にて、腕輪の効果を少し変更しました。より凶悪さが増しましたよ……
北門から東門にとんで、やってきました「ロビアス」の東側フィールド。
適正レベルは、38~41と、俺からするとレベル的には格上のフィールドだな。
ただ、攻撃力的にはどうせ一撃帯だろうが。
とりあえずここで騎獣を従えるかな。
店員さんは、“実力を見せろ”と言っていた。
つまりそれは、戦闘をしろということだろう。自分の強さを騎獣に見せつけろと。
そんなわけで、俺は格上のモンスターを相手に頑張ることにしますよっと。
プレイヤーの数は、そう多くない。西の半分以下じゃないかな?
おそらく「ロビアス」の周辺フィールドで今最も人が多いのが西だろうね。
逆に少ないのは、言わずもがな北だろう。確か昨日あたり、オルトスさんのパーティー含めた三組のパーティーが、北のフィールドの半ほどのセーフティーエリアに辿りついたらしいけど。
ちなみにセーフティーエリアの中でログアウトすると、48時間以内ならまたそこにログインできる。普通のフィールド上だと12時間で強制「リネン」送りだがな。
後はセーフティーエリアで“セーブ”をしておくと、フィールドに入る時にそこからスタートできたりと、セーフティーエリアはなかなか便利なのだ。
今日あたり、第三のボスの情報が出回って、明日明後日で討伐されるかな~。
いや、オルトスさんのことだから初見で倒すという可能性もあるか。あの人、レベル高いしなぁ。ちなみに只今レベル48。フレンド欄情報である。
カリンより4も高いとか……立派な廃人さんだな。そんな雰囲気は微塵もないんだが。
そんなことを考えながら、俺はインベントリから、先ほど買って来た「召喚魔晶:ドラク・レイヴィアス」を実体化させ、使用する。
すると黒の光が一瞬俺を照らし……次の瞬間には、俺の前にカタログの写真で見た通りの騎獣が現れていた。大きさは、頭の天辺まで合わせると俺が軽く見上げる程度だ。そして、
名前を決定してください:_
というウインドウが同時に展開される。
名前かぁ。
んー、単純にクロとかじゃ駄目かな? 試しに、目の前の騎獣に対して「クロっ」と呼んでみる。
……目を細めて、凄い嫌そうな雰囲気をかもし出されてしまった。「ケッ」と吐き捨てるように鳴かれる。残念、これは却下か。それにしても好感度低いなぁ。流石はプライド☆5だ。
じゃあ……
「ドラ」
「ケッ」
「リュウ」
「ケッ」
「ブラック」
「ケッ」
「レイヴン」
「ケッ」
「レイレイ」
「……クケー……クケ」
判断基準がわからないっ!?
でもなんか最後の「レイレイ」は気にいったみたいだ。
……何故に。
「レイレイでおーけー?」
「クケー」
高らかに鳴くので、それで決定だな。ウインドウに「レイレイ」と入力して、決定を押す。よし騎獣、お前の名前は今から「レイレイ」だ。しかしなんとなく、某綾波さんを思いだすなぁ……
「よしレイレイ、じゃあ早速だが、俺が戦うのを見ててくれ。でもって、お前の主人に相応しいかどうか判断してくれればいいからな」
「ケッ」
そういう訳で、レイレイには乗らずに、連れ立って荒野を歩く。
ついてきてくれるので、最低限嫌われてはいないようだけど……さて、どうなることやら。
「キシャーッ」
「【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】……【異形の偽腕】」
『ポーン』
はいエンカウントー。
条件反射的にStrアップスキルを唱え、続いて【異形の偽腕】も。
出した『偽腕』の数は俺の斜め前後左右、2mほどのところに四本だ。昨日一日で四本『偽腕』をものにしてやった。お陰でまた頭痛だがな。
ちなみに、範囲ギリギリ(5m)のところで出さないのは、それだと『偽腕』と『偽腕』の間に大きく隙間ができてしまうから。そうするとモンスターが本体に殺到してしまうかもしれんからな。
本当は出来るだけ遠くに『偽腕』を設置した方がいいんだが、本数が少ないから贅沢は言ってられない。……しかし、5mに隙を無くして展開するとしたら何本の『偽腕』が必要なんだろうかね……
そしてその全ての『偽腕』に「黒蓮」を実体化させて持たせ、俺自身も二振りの「黒蓮」を構える。これで俺が操る剣の本数は六本。じゃじゃーん。六刀流だ。
……って、今なんかお知らせ音なったか? まぁ、後で確認しよう。
それより今は戦闘だ戦闘。
ヒュオン、と四本の『偽腕』で同時に剣を振る。うん、ばっちし扱えてるな。
さて、準備は万端だ。
俺の前に現れたのは、でっかい蜘蛛だった。土蜘蛛かな? それがわらわらと、ひいふうみい……八匹も。多いな、おい。名前は“タランジュ”か。
「シャーッ」
しかも、今若干増えたぞ。なんだ、俺はモンスターに好かれる体質だったりするのか?
これは……少し考えて、気付く。
あぁ、エリザに貰った呪具の腕輪をしてるせいか。ということはこの蜘蛛達は、ステータスが強化されたハイスペック蜘蛛という訳だな。
「シュー」
「チュウゥ」
更に蜘蛛だけではなく、両腕がダルン、と垂れ、凄い猫背な姿勢をした二足歩行のトカゲ。北に出現する“リザードマン”の劣化亜種“リザードル”や、硬い体毛に覆われた大ネズミ“サンドマウス”もやってきて、次々とリンクしていく。
随分と集まってくるんだな……人が少ないせいもあるのか? まぁ、いい。
数がどれほど多かろうが、俺の攻撃力の前には等しく無力だということを知るがいいわっ!
「キシャッ」
蜘蛛が四匹同時に襲いかかってくる。攻撃方法は飛びかかりか……芸が無いな。
【危機察知】によって、視界に入っていない部分も手に取るようにわかる。『偽腕』を使い始めてから精度が上昇してるっぽいんだが、脳がより複雑な処理に“慣れた”恩恵かね? だとすると、嬉しい誤算って奴なんだが。
ヒュ―――ザシュッ
モンスターを、『偽腕』を使い一刀の元に切り捨てる。黒い刃が煌めき、四匹の蜘蛛は光の粒子と化した。
うむ。確かに敵は速い。速いが、今の俺に対応できない速さではないな。というか俺の剣速から言うと、大分格上まで対応できるだろう。【異形の偽腕】万歳だ。
はい、次ー。
「レイレイ、お前出来るだけ離れとけよ」
「クケーッ!」
「良すぎる返事だ。戦闘向きじゃないってのは本当に本当だったんだな」
タッ、と一足飛びで俺から20mほど距離を空けるレイレイ。騎獣としてそれはちょっとどうなんだと思わないでもないが、躾の途中だし、そもそもそっちの方が都合が良いな。
そんな端から戦意喪失しているレイレイには眼もくれずに、ザザッ、っと荒野の荒れた大地を踏み占め次々と襲いかかってくるモンスター共。数は多いし、呪具によって普段よりハイスペックになってるからそれなりの強さを誇るだろう。
ザシュッ
だがしかし……届かない。
【危機察知】による全方位把握と『偽腕』による全方位高速攻撃を得た俺に、たかが雑魚モンスター程度ではかすり傷一つ付けられないだろう。
……尤も、かすり傷なんか負おうものなら、HP1である俺のHPバーは最短で0になるんだが……まぁ、その辺のスリルも含めて楽しみだな。
向かってくるモンスターの位置が、軌道が、絶えず俺の頭の中に流れ込んでくる。そしてそれに従って、『腕』を操りモンスターを問答無用で屠っていく。
モンスターを一匹倒すだけでも、俺の脳はなかなか酷使されているのだ。まぁ、もう結構慣れたものだけど。自分のこの適応力の高さには、自分でもびっくりだよ、ホント。
後は自分の腕と全く同じ精度・感覚で『偽腕』を操れるように頑張るだけだな。今のままだと若干精度の低い、どこか単調な動きしかできないからさ。
ザシュッザシュッ
まさに一撃必殺。
次々と襲いかかってくるモンスターを、『偽腕』を操り、自らの身体の操る剣で斬り裂き、全てを一撃で仕留める。黒剣が乱舞し、それに触れたモンスターを容赦なく光の粒に変えていく。
俺の周りには仕留めたモンスターの名残が舞い散り、一種幻想的な光景を作り上げていた。
おっと、【捨て身】が切れた……かけなおしっと。連続して襲いかかってくる敵の合間を縫って、スキルを呟く。一瞬の硬直の後、俺の身体が再度赤いオーラに包まれる。『偽腕』はスキル使用直後などの、どうしようもないシステム的な硬直中であっても変わらず操れるから有り難いな。
ザシュッザシュッザシュッ
モンスターの数は、まだまだ尽きない。
流石は呪いの腕輪、後から後から、どんどんモンスターを呼び寄せるな。まぁ、俺の実力をレイレイに示すと言う意味では、この方が好都合だが。この程度の敵がいくらこようと、俺は無問題だしな。
相手に攻撃される前に、こちらの攻撃を当て、相手を葬る。攻撃は最大の防御、を我ながらよく体現してると思う。
さっきなんか、「武器」として扱われるモンスターの部位を斬ってやばっ、と思ったけど、その部位による威力の軽減も突き抜けてHP削りきったからね。完全にオーバーキルです本当に有難うございました。
ザシュッザシュッザシュッザシュッ……
いっそ機械的に、寄る敵全てを切り裂いていく。視認できない程の高速の剣閃が振るわれるたび、モンスターの死が量産されていく。
「はっ、くははは、あっはははっ」
そうして、どれくらいたっただろうか?
久々に全力で楽しめる戦闘に興奮して、ちょっと記憶が飛んでたかもしれんな。
気がつくと、残っているモンスターは僅かで、後から追加される気配も無かった。
腕輪が引き寄せるモンスターに、上限数でもあるんだろうかね。
残されたモンスターを軽く屠って、もうモンスターが現れないことを確認。
「ふぅぅぅ……」
“戻れ”、“解除”っと。
剣の実体化を解き、『偽腕』を靄に沈め、一息をつく。
俺自身はこの場所から一歩も動いておらず、体の動きも最小限剣を振るっていただけだ。剣を振るという一連の動作はStrで処理されるので、スタミナ的にはあんだけモンスターを屠っておいても全く問題無いという、Str極振り最高、まさにゲーム的な状況なんだが……流石に精神的には少し疲れた。
ちょっと休憩、と地面に胡坐をかく。そういえば、お知らせ音がなってたけどなんだったのかなー、とメニュ―を展開する。見れば、スキルが上位変化したようだ。
スキルが上位変化しました
【生存本能】→【攻撃本能】
【攻撃本能】PS
HP10%未満時、Str/Int上昇+25%
おっ。無駄なVitとかの上昇が無くなって、Strの上昇率が結構増えてるな。俺の攻撃力は日夜限界突破を目指す勢いで強化されていくのだ。やったね!
そしてメニューを展開して、それにうっすらと映った自分の姿を見て分かったのだが。スキルの副産物として、俺の体にはある些細な変化が起こっていた。
まぁ、大したことではないんだが、【攻撃本能】……本能……獣、という連想ゲームなのかなんなのか。俺自慢のガラス玉アイの瞳孔が、極限まで縦に細長くなっていたのだ。まるで明るい場所にいる肉食獣のように。更に確認してみた所、犬歯がいやに鋭く変化していた。
変化は他にも有るかもしれんが、今はちょっと分からない。何にせよ、戦闘の邪魔になるようなレベルではなかったのでちょっとしたアクセサリ気分で楽しめるからよしだ。【攻撃本能】の効果によるものだとしたら、HPが10%以上になれば元に戻るだろうし。
ともかく、Strは上がったし、なかなかおもしろいスキルを確認して御満悦の俺……はて、なんか忘れてるような……あ。
そうだそうだ、当初の目的を忘れるところだったが、俺はレイレイに力を示すためにモンスターの大群に襲われてたんだったな。さて、結果はどうかな~?
俺はすぐさま立ちあがり、気軽な足取りで離れた所にいるレイレイへと向かう。何故か尾を丸めて、出来るだけ自分の身体も縮こまろうと努力しているようなんだが、一体どうしたのかね?
俺が近づくと、レイレイは、ビックゥ、と身体を震わせ、視線をざばんざばんを泳がせ始めた。
そして俺がレイレイに触ろうとすると、小刻みな震えはピークに達し……
「クゥー……」
なんとあれだけ気高く、気難しいと言われていたレイレイは、会って数時間の俺の前に頭を垂れて傅いてきたのだ。
わお。先ほどの大量虐殺は、どうやら実力を示すには充分だったようだな。
しかし、この怯えっぷりはなんなのだろうか……頭を撫でてやると、大げさなくらいすり寄り、まるで必死に機嫌をとろうとしているかのようだ。すべすべの鱗が気持ちいいが、
「クエーェ」
さっきの俺、そんなに怖かったかなぁ……
「……あー、なんかごめんな。でも、これで俺を主人と認めてくれるか?」
「クエックエッ!」
ぶんぶんと首をふるレイレイ。これはこれで、ちょっと可愛いかもしれん。
じゃ、早速乗ってみますかね? レイレイに、膝を曲げて若干しゃがんでもらう。
おぉ、すげぇワクワクする。なんだろ、リアルでは馬にすら乗ったことないから、動物にのるのは新鮮で良いな。
では失礼して。レイレイの背中に手をつき、一気に飛び乗る。
「クエー」
おお……
いつもより高い視点からは、世界が違って見えた。陳腐な表現だが、まさにそんな感じだ。ポンポン、とレイレイの首の付け根辺りを叩いてやる。
「クケッ!?」
「いや、ビビりすぎだからな?」
ここはVR世界で、更にレイレイは現実には存在すらしない種族だというのに、レイレイからは恒温動物特有の温かさが感じられた。
鱗におおわれてるのに、やっぱベースは鳥なんだな。鱗を通しているのにその温かさはリアルすぎるくらいしっかりと伝わってくる。
……俺がさっき殺したモンスターにも、これぐらいの温かさがあるんだろうか?
そんなことを思うと、感傷的な気分に……ごめん、ならない。
まぁ、そんなこといちいち気にしてたらこんなゲームできないし、この精神で正解なんだろうね。
俺はあまりにも、VRに慣れ親しんで、リアルな感覚でモンスターを殺し過ぎた。モンスター、という部分だけに心が麻痺しているのか、なんなのか。
でもこれは現代を生きる人の大半に言えること……って言うのは流石におこがましいかな?
まぁ、どうでもいっか。
俺はしばらくレイレイの感触を堪能してから、モンスターを狩りに行くことにした。
流石は速度特化、レイレイはかなりのスピードで走るが、不思議と乗り手の俺は風圧すら感じなかった。揺れもほとんど感じない。手綱も必要無し、只乗ってるだけの簡単なお仕事です。
腕輪ではしばらくモンスターは寄ってこないみたいだしな。そうなると効率的にモンスターを倒すには、狩り場の移動が必要だ。別に湧きを待っていてもいいんだが、折角騎獣があるのなら使わない手は無い。
これからよろしくなーレイレイ。
おまけ:モンスター特性解説
タランジュ…
でかい土蜘蛛、というかタランチュラ。見た目からして気持ち悪い。土蜘蛛の癖に、攻撃を受けると確実にカウンターでネバネバした糸の塊を吐き出す。
が、攻撃を受けた端から死んでいったので、糸の出番は無かった。
リザードル…
リザードマンの劣化亜種。覇気の無くなった無手のリザードマン。独特の動きで相手を翻弄し、隙を作って攻撃を繰り出す、地味に嫌らしい奴。
が、独特の動き自体を無視するクノ君の前には、無力だった。
サンドマウス…
50cmくらいのネズミ。茶色い体毛はゴッワゴワ。自身の戦闘力は大したことないが、戦闘中に「落とし穴」(戦闘終了と同時に消滅)を作る。そしてうっかり嵌ったプレイヤーを袋叩きにする。
が、そもそも動かないクノ君には「落とし穴」は無意味だった。
きっと他のプレイヤーだったら、凄い苦戦したと思いますまる。
【攻撃本能】変化条件:
①【生存本能】取得から一定期間経過後、HPが10%未満になる
②ステータスが、Str+Int>Vit+Minである
分岐
【防御本能】
HP50%未満時、Vit/Min上昇+30%
変化条件:
①【生存本能】取得から一定期間経過後、HPが50%未満になる
②ステータスがVit+Min>Str+Intである