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第三十五話 vs巨大蛾のお話②


 俺達は有る程度散開して、各自が思い思いに無差別攻撃に備える。


 俺は手に持っていたナイフをついでとばかりに投げつけてから、背中の「黒蓮・壱式改」を引き抜き、構える。

 剣が何本か有れば『偽腕』も当てにできたんだが、残念ながらエリザに頼み損ねてしまった。

 ホント残念だ。


 そして、ソルビアルモスが激しく羽ばたき始めるとともに、全方位に生まれる薄緑のカマイタチと、これまた薄緑に色づいたフィールドを覆う強風。


 ビュォォォオオ!!


 この強風、普通ならスル―するレベルの些細なダメージ量なんだが、そんなんでも俺にとってはやはり致命的だったらしく、HPががりがりと削られていく。

 うっわぁ、エグイことするよなぁ。

 そんな中で、視界の端に見えた、いつもより激しくたなびく【捨て身】の赤いオーラ。

 こんな状況でなければ、綺麗だって思えたかもなぁ。……あ、効果時間終わった。


「【捨て身】」


 もはや無意識、反射のようにかけ直す。日頃の戦闘習慣って奴ですね。


 ガキン!


 と、視界に灰色の軌道が見え、カマイタチが迫ってきたので弾き返す。強風もなんのその、安定の剣速です。

 ダメージは0。もうカマイタチだけだったらいっそ楽だったのに……


 ……て、あ。


 ゴッ!


 弾かれたカマイタチは、偶然にも俺が出しっぱにしておいた『偽腕』に向かっていく。


 ……しまうの忘れてたぁ! 


 やばい。

 感覚リンクしてるから『偽腕』が受けたダメージはそのまま俺のものとなる可能性が高い。

 慌てて“解除”と念じるがもう遅い。


 カマイタチは無情にも『偽腕』に直撃……


 ……せずに、スッ、とすり抜け、消えた。


 あら? 

 HPを確認してみる。ガリガリと削られてはいるが、大きく減った様子は無い。


 ふぅ。


 どうやら助かった……ぽいか。恐らくだが、『偽腕』は敵の攻撃をすり抜ける性質を持ってるらしい。

 の、割には武器とかは持ててるし、俺も触れることができたんだが……んー、どういう条件なんだろうか。

 床殴りもできたし……相手の攻撃だけをすり抜ける? いや……


 ガキン!


 と、思考に耽っている場合じゃなかった。

 今度はどこをどうやったのか、何故か後ろからやってきた。前言撤回、カマイタチだけでも楽じゃないわ。

 いや、どこを、っていうか軌道は見えてたんだけど。俺の遥か前方で大きく曲がりやがったよ、このカマイタチ。


 ……ってか今気づいたんだけど、【危機察知】って後ろからの軌道も分かるんだなぁ。

 なんだろう、脳に軌道がイメージされるっていうか。対抗戦の時はよく分からなかったんだけど。

 範囲と軌道に関しては視覚情報だけかと思っていたけど、違ったみたいだな。嬉しい誤算だ。

 そういや、範囲にしてもあの雷の魔法は、地面の灰色を見る前にどのくらいの大きさか分かってたような……

 まぁ、いっか。便利だなー、でFAだ。


 ビュォォオオオ!!


 俺が順調にカマイタチを弾いても、関係無しにHPを削り取っていく薄緑の強風。

 うあああ、うぜぇぇ! 

 ってかHPがまじめにヤバい! 早く終われよボスのターン……


 と、俺の願いが通じたわけではないだろうが、ソルビアルモスはその羽ばたきをぴたりとやめ、ゆっくりと地上に近づいてきた。

 俺の残りHPは二割ぐらい。イエローゾーンを示している。おお、かなり減ったなぁ……


 ……ふむ。


 よし、この際だ、いっか。

 流石に大技の直後はおとなしいだろうしなー。ナイフ投げばっかりだと飽きてくるんだ、よっ。


 俺は「黒蓮」を手に、地上に降りてくるソルビアルモスに向かって全力で駆けながら、スキル名を呟く。とはいっても、その全力ですらフレイのスピードの半分以下程度なんだがな。


「【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】!」


 とたん、俺の身体から立ち昇る、重なる透き通った黒と赤。

 そして右手には白い六芒星。


 さて、キツイの一撃ぶち込んでやろうじゃないかっ!

 このまま地上戦で一気にカタをつけ、


「ちょ、クノ君! 気を付けて、突進が来るからっ!」


 ……え?


 その言葉が聞こえたのは、俺が走りだし、同時にソルビアルモスもこちらに向かって来たところだった。どうやら突進までが一つの攻撃パターンだったようで……


 回避、は無理っぽいよなぁ。

 翅を広げて地面スレスレを滑空して来てるから、横に避けようにも間に合わない。


 だったら……


「ふぅ……」


 ザッ


 俺はその場で立ち止まり、長剣を両手で持って大上段に構える。

 両手で持っても別にダメージが増えるとかそういうわけではないんだがな。気分だ。


「クノさん、なにやってんですか!?」

「……アホね」


 後ろではフレイとエリザが、何か言いながらも静観している。

 どうでもいいけど、いや、どうでもよくはないか。

 避けろよ! ……俺がいうことじゃないけど。

 あ、でも皆はギリでも回避できんのかな? 【ステップ】使えるし、格上だし。


 そうすると俺、軽く見世物状態……?


 あー、まぁいいや。

 そんなことを考えている間にソルビアルモスは目前まで迫って来ていて。

 その威圧感ときたら、半端ない。スピードといい、まんま大型のトラックが突っ込んでくるがごとしだ。撥ねられたら転生とかしそうな雰囲気。

 というか、虫の顔面がグロい。リアルすぎんのも考えものだ。

 俺の視界から色が消え、いよいよ全面が灰色に染まる。


 そして、目測と【危機察知】による感覚を頼りに、そのグロい顔面が剣の間合いに入った瞬間を逃さず――


「はァっ!」


 ヒュンッッ!!


 気合い一閃。

 脳が強化されたこのVR世界でさえ、眼で追うことが困難な程の速度で。

 つっこんでくる勢いで身体ごと真っ二つになれとばかりに、俺は全力で剣を振るった。一瞬だけ、剣風によってソルビアルモスの巨体が後ろに押し戻されたように感じる。


 キュジャァァァアアアア!!?


 そしてその攻撃は、確かにソルビアルモスのHPを全て・・、一気に吹き飛ばし。


「ぐはっ」


 そして同時に、俺も盛大に吹き飛ばされることになった。

 うわぁ、交通事故なんてものすら生ぬるいな、絵面的には。衝撃はそうでも……なくないかも……


「クノさーん!?」


 フレイの慌てたような声が聞こえる。

 あーあ。こんだけ高くふっ飛ばされるとか、最悪だよ……


 パリィン!


 すかさず【不屈の精神】が発動し、助かった


 ……と思うだろ?

 違うんだなぁ、これが……


『ポーン……ファッファファ~……』


 俺は突進の勢いで盛大に宙を舞い、眼下でソルビアルモスが光の粒子と化すのを見ながら。

 ボス討伐達成のファンファーレのようなものを一瞬聞いた後。


 空中でなんとか体勢を立て直して地面に着地し―――


 ―――死んだ。




 こんなに落下ダメージが鬼畜だと思ったのは、生まれて初めてだよ……



クノ君、投擲まで合わせるとボスの体力を一人で半分以上削ってます……まぁ、ギルメンがボスを引きつけてくれていたおかげではありますが。

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