第閑話 差分のお話
ギルド対抗戦中のエリザの独白で、この場面のことがでてきたので。
ギルドのお話②の最後に付け加えようとして文字数的にカットした部分を加筆修正しました。
完全エリザ回です。どうしてもエリザとの絡みが多くなるクノ君。
エリザ書きやすいです。そしてエリザはまだ変身を残してます。
ギルドに初めて訪れた時のエリザとの会話
(防具の打ち合わせ後)
―――
「いやぁ。しかしエリザのその服凄いな。ゴスロリって奴?」
「まぁ、一般的に言うとそうなるかしらね」
黒いフリルの沢山ついた、黒いドレス?である。細かい所まで意匠が凝らしてあり、本当に凄いと思う。
エリザにはこれ以上ないってくらいぴったりとマッチしているな。
先ほどのクーデレはともかく、エリザはかなり良い趣味してると思う。
「なんというか、語彙が少なくて申し訳ないんだが、綺麗だ。凄く似合ってる」
そういうと、頬を染めて目をそらすエリザ。
別にそんな照れることでもなかろうに、美人なんだから。
俺は思ったことを素直に言っただけだし、こういうことは言われ慣れてると思ったんだが。
「そ、そうかしら? ……有難う。この服の良さが分かる人は、なかなかいないのよね……」
「そうなのか? その意匠とか、全体的な形のバランスとか、色の濃淡の配置とか、最高だろ」
「でしょう!? そうなのよ。これは私から見ても最高傑作といっても過言ではないくらい、力を入れて作ったもの。なのにカリンやフレイに勧めても断られてしまうし……リアルでだって……」
エリザが少し俯き加減になってしまう。
でも、そんな落ち込むこともないと思うけどな。
「んー、でもまぁ、そういうもんなんじゃないのか? 人の趣味は確かにそれぞれだからな。それに、その服はカリンやフレイが着るより、エリザが着るのが一番似合うと思う。相性的な問題もあるんだろう」
主に外見やその人の雰囲気とかで、さ。
確かにカリンやフレイも美少女だし、ゴスロリ着ても似合うっちゃ似合うだろうけど。
でもエリザのそれにはきっと敵わないんだろうなぁ、とも思う訳だよ。
「それに、少なくとも俺は好きだよ。エリザの服」
「すっ!? え? あ、うんそう」
「ん?」
「いえいえなんでもないのよ? そうよね、服よね。有難う、嬉しいわ……
……あの、ご免なさい。男の人と話すのはあまり得意ではないから……少し、おかしいかもしれないわね」
少し、心配気な顔でそう打ち明けるエリザ。
成程、そうなのか。
「いや、大丈夫だよ。会話だってまぁ、少しずつ慣れていってもらえればいいし……エリザが話したいと、思ってくれるならだけど」
「ええ……そうね。有難う。これからも、話し相手になってくれるかしら?」
目をパチクリとさせてから、おどけたように笑って手を差し出してくるエリザ。その手を一瞬取ってから、俺は返答する。
「勿論だよ。いくらでもなってやる。
……とにかくさ。エリザは凄いもん作れるんだから、別に落ち込む必要はないと思うな。理解者が欲しいってのなら、俺がそうだから。いつでも頼ってくれていいぞー?」
「別に落ち込んでなんかいないわよ。小さな子供じゃないんだから、もう」
「そうか? いやごめんごめん、それならそれでいいんだけどさ」
「でも……ありがと」
「ん。どういたしまして」
なんだろう、ちょっと良い雰囲気が流れてるわ。
まぁ、だからって何が有る訳でもないんだけどさ。
俺は話題転換をかねて、ここに来るまで……というか昨日今日通して感じていた疑問をエリザにぶつけてみることにした。
「そういやエリザ、そのゴスロリも服装備だよな? 防具服にしてる奴はぱっと見少なくて、俺ちょっと寂しいわ」
そう、今日ここにくるまで、俺は自分以外の服装備のプレイヤーを見かけていないのだ。
逆に「花鳥風月」では昨日は軽装防具だったフレイ含め、全員が服装備だが。
「そうね。服は普通、お洒落用みたいなものだから。街限定でなら、服装備をするプレイヤーも増えてくるとは思うけれど、この序盤ではそうそういないかしら」
あー、成程。防具揃えるにもお金がかかるしな。
お洒落用だってんなら序盤での普及率の低さも納得だ。
……お洒落用、か。つまり今の俺は、まるっきり普段着でモンスター倒しに行こうとしてるようなものなのね。いや、それいったらそもそも防御力自体アレなんだけども。
「じゃあ皆が着てる服は? フレイが自慢してきたけども、エリザが作ったんだよな。エリザってかなりお金持ち?」
「いえ、そういうわけでもないのだけれど。職人は素材さえあれば装備を作れるでしょう? そういうことよ」
……、あぁ。
「あー、そっか。自分で作る分には金がかからないんだな」
俺が前にやっていた某ゲームでは、装備と言えばだれでも作れたけど、そのかわり素材に応じて金が凄いかかったからなぁ……やっぱゲームがかわると仕様もかわるんだな。
「? なんでそんな成程、って雰囲気をしてるのかしら? 普通は自分で装備を作るならお金はかからないわよね?」
無表情ながら小首を傾げるエリザ。
エリザが今までやってきたゲームはきっとそうだったんだな。
「エリザ。まだまだだな。世の中にはたくさんのゲームが有るんだよ」
やれやれ、と首を振ってやる。
「む。なんかむかつくわね……装備、作ってあげないわよ」
おっと、そうくるか。
割かし軽いジョークだったんだが……いやこれはこれで、
「ふぅん、エリザは自分で交わした約束を違えるのか。そうかそうか。いや別に俺はそれでもいいけど? ただなぁ、まさかエリザがそんな人だったとはなぁ」
「……ぐぐ。クノって、意外に性格悪いのかしら」
心外だな。
「まさか。正当な要求だ」
「むぅ。そっちが正しい分、余計むかつくわね……」
エリザは口を尖らせ、ご機嫌斜めっぽい。
あら、少しからかいすぎたか?
ここらが引き際かね。タイミングを見て謝るのは、一流だ。なんの、といわれると困るけど。
「エリザ、少しからかいすぎたな。悪い」
素直に頭を下げておく。
いきすぎたと思ったらスグに謝る、これが人間関係円満のコツらしい。
あれ? 夫婦円満だったかな? まぁ人間関係に含まれるからいっか。
「……妙な所で素直な人ね、貴方は」
「引き際を心得てるだけだよ」
「……そう。成程、なんとなく貴方と言う人が見えてきた気がするわ」
「そうか?」
この短時間で見透かされるのもなんか悔しいんだが。
「ええ。貴方と話していると、楽しいわね」
「……それは良かった。俺もエリザと話すのは楽しいよ」
エリザが、微笑む。
笑うと今までの無表情が作りだしていたどこか冷たいイメージが消え、一気に花が咲いたかのような、ふんわりした明るさを感じる。
美少女だわぁ……一瞬見とれてしまった。
「……恥ずかしいこと言わないで頂戴」
「エリザが先に言ってきたんだよね!?」
出会って数時間だけれど、俺とエリザはなにか通じ合うものがあったらしい。
「花鳥風月」の中でも、すぐに打ち解けることができたのだった。