第二十二話 ギルド対抗戦のお話⑥
戦闘の終了とともに、俺の身体から立ち上っていた黒のオーラが霧散する。
【捨て身】の方ももうちょいで解けるな。長剣を回収っと。
「クノ」
「よう、エリザ。疲れたから帰ってきた」
「そう、御帰りなさい」
「ん、ただいま~」
現在俺は、何時間かぶりに「花鳥風月」の拠点に帰ってきていた。
その途中で背中向けながら変なバックステップでこっちに向かってくる変な男が見えたんで、つい「黒蓮」を投げてしまったんだが……
「クノさん、」
「クノくん! ナイスだよっ!」
ノエルの言葉を食い気味に、リッカにナイス、と言われた。
どうやら判断は正しかったらしいな。
武器を投げるなってエリザ辺りに言われるかと思ったが、そんなことは無かったみたいだ。
ちなみに物の投躑の威力については、旗を投げた時で実証済み。
旗でプレイヤーが死ぬんだから、剣でやったら余裕だろ、ってな。実際普通に倒せたし……あれ? でもこれ逆に、倒し切れてなかったら俺無手で戦うことになってた?
……これからは武器を投げるのは自重しようっと。
威力に関しては、拠点に近づいたら勝手に戦闘状態になったので、戦闘中にしか使えない【捨て身】と【狂蝕の烈攻】【覚悟の一撃】が発動できたってのもあるだろう。
俺の馬鹿高い基礎Strが更に超強化される訳だからな。よく考えると、これ最終的な攻撃力は凄まじいことになってんだろうなぁ。
いまならブラウグリズラーだって一撃で……は流石に無理だよな。ボスを舐めすぎです。
それと後は、その他のスキルや称号〝非情の断頭者〟、全ての相乗効果ってやつだな。塵も積もれば山とな……塵っていうにはでかすぎるか。
この称号だって、最終ダメージを1.5倍とかいう鬼畜仕様だしな。強すぎんだろ。
流石はプレイヤーの自由性を重視しているゲームってか。
スキルもプレイヤーに合わせたものがでるし、一つの事を極められるという点では、このゲームはかなり良いよな。
ちなみに俺の方向性は確実に「一撃必殺」とかだろう。
てかこの称号、それを考えた上でも凄いレア物だよな……それをさっくり手に入れられた俺はもの凄く運が良かったと。これだから人と違うことをすることには意義があるんだよなぁ。
他のプレイヤー達が極振りをしているって話は聞いたことがないけど、これはこれでかなりおもしろいと思う……まぁ、発売して間もないVRゲームで初っ端、ゲームの正常プレイすら危ぶまれるネタステプレイをする奴は、変人と呼ばれるにふさわしいんだろうけど。
それでしかもそこそこ使いこなせちゃってるから性質が悪い、かな?
「あの……クノさん、そろそろHP回復しませんか?」
「あー、そだな。もう俺は拠点防衛に回るつもりだし。つか襲ってくるプレイヤー多すぎだろ……」
リッカに回復魔法をかけ終わったノエルに回復して貰う。地味に初だ。
ちなみに今回のイベントには、俺はアイテムを何一つ持ってきていない!……威張ることではないが。
「そんなに多かったの~?」
「ああ、どいつもこいつも俺を見かけたら即襲ってきてなぁ。指名手配中の犯人か、俺は」
「あたしはそうでもなかったけどなぁ」
「そうなのか?」
「うん。結構探さなきゃだった」
なん、だと。
運がいいのか、悪いのか。始まる前は、探す手間が省ける、とか言ってたけど実際に体験してみると、かなり疲れる。
なんせ一撃……【不屈の精神】で二撃か……貰ったらアウトだからな。集中力をどんだけ酷使すんだって話ですよ。
まぁ、大抵のプレイヤーは一撃ぐらい貰っても大丈夫だろ的な思考で攻撃を仕掛けてくるので、そこをざっくりいく訳なんだが。正直プレイヤー相手でも一撃で殺れちゃう俺の攻撃力は、怖すぎると思う。
しかし、何回【不屈の精神】まで破られてピンチになったことか。【危機察知】による先読みがなかったらアウトだったな。あとは爺さん直伝の効率の良い回避術かな。
地味に最初の方のあの乱戦が、人数に対する被弾率は一番少なかった気がするなぁ……
やっぱコンビネーションとかって、脅威だわ。
同じ面方向から一斉に飛びかかってきてくれるのなら剣の一振りで全部薙ぎ払えるってのに、器用に角度をいちいち変えながら攻撃してくるのがもう、ね。タイミングもずらしてきたりとかもう、ね。
モンスターなんか目じゃないぐらい速い&正確だから、正直捌ききれない。最悪【不屈の精神】あてにして、もろに捨て身戦法だったし……これ地味に有効なんだけどな。
それにしたって、回避術も捨て身戦法もどこまでもつことやら……まだゲーム序盤でプレイヤー相手に回避に四苦八苦だからな、そのうち手も足も出なくなりそうで怖い。高速戦闘への対処手段を早いとこ手に入れないとだ。
折角【危機察知】で予備動作の段階から攻撃が分かっても、それにちゃんと対応出来なければ無意味になっちゃうんだよなぁ。
「じゃあ、あたしはもう少し走り回ってくるね~!」
「元気だな……」
「元気ね」
「そういう子ですから」
ノエルが若干苦笑気味にリッカを見送る。
「そういや、ノエルとリッカってかなり仲良いよな。やっぱリアルでも友達だったりするのか?」
素朴な疑問。
「あ、はい。そうですね、でもやっぱりこのギルドの中では同い年というのが一番大きいですが」
「ん? リアルで友達ってよりも、同い年だから? どういうことだ?」
普通リア友って方が先にくるもんじゃないのか?年齢よりかは。
「私たちはクノを除いて全員リアルでも何回か会っているわよ? そう言う意味では、リアルでも友達。でも、それはギルドメンバー全員に言えること。その中でも特に仲がいい理由は年が同じだから、と。……そういうことよね?」
「そうです。……すいません、説明不足で混乱させてしまったようで」
ノエルがぺこっ、と頭を下げる。
「いやいや、謝るようなことじゃないって。……それより、全員がリア友って凄いな」
「そうかしらね? あ、私なんかは、フレイの家から結構近くに住んでたりするわよ?」
「マジで!? じゃあ小学校とか中学校も同じだったりしたのか?」
俺とフレイは、校区が違ったので小学校も中学校も違ったんだが。
もしかしてエリザは同じだったりしたんだろうか?
あ、でもフレイからはエリザに関してそんなことは聞かされたことはないな。
「いえ、ギリギリで校区が違ったらしいから、同じではなかったわね」
「ふーん、そっか。じゃ、高校は?」
「行ってないわ」
へ?高校行ってないんだ。ってことは、
「……そのお年で所謂、ニー……自宅警備員とか呼ばれてますか」
若干びびりながらそう問う。
あ! いやでもほら、もしかしたらこの歳で働いてるとか、
「人聞きが悪いわね。まぁ、否定はしないけれど」
「……成程」
さいですか。別にだからといって俺がとやかく言うことはないんだけど。
通りでいつログインしてもギルドにいる訳だな。
もしかしてずっと『IWO』をやってるんだろうか?
「……ちゃんと栄養とってるか?」
「失礼ね。サプリメントさえあれば生きていけるわ」
「不健康っ!?」
まぁ、今の時代のサプリは何かと便利だが、アレ不味いだろ……あれだけで生きていけるかと言われたら、俺はNOだな。
「あ、でもエリザさんは良いニートですよ?その、お家も綺麗ですし、お料理も美味しいですし」
「良いニートってなんだよ……あと折角俺がちょっと濁した所を……」
そして家行ったことあるんだな。
更にサプリなんて言ってたのに料理うまいのかよ!? 眉唾もんなんだが?
「まぁ、そのうちクノも含めてオフ会でもやるでしょう」
「ですね」
「そか。楽しみにしとくよ」
オフ会ねぇ。
そういや俺やったことないな、そういうの……
こんな感じで会話を楽しんでいたが、その後は拠点襲撃にくるプレイヤーも現れず。
途中でフレイ達も帰ってきて。
第一回公式イベント、ギルド対抗戦は、皆揃った所で時間となった。
……結果発表が楽しみだな~。
武器を投擲した場合には、普通に斬りかかるよりも威力は落ちます。が、そもそも“武器”を投擲する奴なんていないです。普通。
武器は武器制限(武器は一つしか装備できない)があるため投げてしまっては手元に武器が残らず、その後の戦闘が圧倒的不利になるので。インベントリに複数個所持していても、装備状態にしてから実体化させないといけないのでラグがかなりできますし。
投擲するなら投げナイフなどの“アイテム”を使います。
【投擲】というスキルもあり、これは物を投擲した時の威力、命中精度を上げるものです。
命中精度に関しては、スキルのあるなしだとかなり変わりますが、実はスキルなし状態やあまりDexがなくてもそこそこ良いです(クノ君場合、プレイヤーに当てようと思うと大体射程が20mぐらい)
これは現実でも物を投げる、という動作は一般的ですので、そこにVRでの力が加わることによるものです。
Dexが必須なのは、主に魔法や弓。魔法は現実に存在しないので言わずもがな、弓などの武器は現実での経験によっても左右されます。
Dexによる補正は、軌道自体が目標に向かって途中で修正される、というもの。これが高いと、集中していなくてもさくさくと針の穴に糸を通すことが……