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第二十話 ギルド対抗戦のお話④彼女達の対抗戦

 


 Side:カリンの場合



「むむ。やはり私も旗を奪いに行くべきかな?」


 ギルド対抗戦直後、私は考えていた。

 理由は予想以上に広いこのフィールド。これなら一度に何人ものプレイヤーが来ることは少ないだろうし、だったら自分もポイント稼ぎのために他のギルドの拠点を探すほうがいいもしれない。


 しばらくむむー。と唸っているとエリザがそれを察し、


「そんなに考え込むのなら、さっさといきなさいな。ここは私たちだけでも大丈夫よ」


 と力強い言葉をかけてくれる……私は良い友達を持ったね。

 正直、ギルドマスターである私が本当にここを離れてもいいのかどうか迷っていたんだけれど、エリザの言葉を聞いて覚悟が固まった。

 やはり私も動き回りたいからね。折角のイベントなんだし。


 きっかけを貰えた私はエリザに礼を言い、ノエルに声をかけて揚々と誰も向かっていない南側に足を進めた。


「いってくるね。後は頼んだよ?」

「いってらっしゃい」

「任せてください」

「……じゃ!」


 フレイほどじゃあないが、これでも脚には自信があるのだよ?少なくともクノ君辺りよりはずっと。



 ―――



 広いフィールドを特に当てもなく走り回っていると、何故かだれもいない拠点を見つけた。

 旗はあるのに、どうしたというんだい?

 これは罠かもしれないな。


 そう思い、片手剣を抜き放ち、左腕にはめた腕輪型の“短杖”(エリザ特製)を意識しながら慎重に広場に入るが、何か仕掛けられる感じはしない。


 ならば、旗のほうになにか仕掛けがあるのかな?

『IWO』には無数のスキルが存在しているから、もしかしたら旗に触れた途端に罠が発動するようなことをできるスキルも、あるかもしれないね。


 旗を剣でつついてみる――反応なし。

 旗の周辺の地面を、剣で叩いてみる――反応なし。

 旗の周辺で、ぶんぶんと剣をふってみる――反応なし。

 軽い氷魔法を撃ってみる――反応なし。


 警戒すれど、特に落とし穴ができたり、地面から棘が生えてきたり、空から金タライが降ってきたりはしない。


 おそるおそる旗を抜いてみる――反応、なし。


「なんなんだろうね、一体?」


 思わず問いかけるが、応える者はいなかった。

 仕方がないのでその旗を持って拠点に帰ろうとマップを開くと、うちの拠点のすぐ近くで青い光点が連続で何個も点滅していた。


「これは、プレイヤーが倒された時の合図だったかな……?」


 もしかしたらこの場所にプレイヤーがいないのにも、何か関係があるのだろうかね?

 とりあえず、急いで拠点に向かうことにした。



 ―――



「あ、カリンさん~! やっほーですー!」

「ああ、フレイかい。帰っていたんだね」


 その傍らには赤い旗が置いてある。どうやら無事旗を奪取することができたらしい。

 流石は私が見極めた・・・・ギルドメンバー、一人で拠点を制圧できたようだね。まぁそれを信じているからこそフレイもリッカも、クノ君も、ソロで送りだしたんだけど。


「エリザ、ノエルも御苦労様。……ところで、なにかあったのかい?」

「何か、というと?」

「特に何もなかったですよ~?」

「この周辺、すぐ東の辺りで大量の青い光点が点滅していたのだけれどね」

「東なら……クノがまたやらかしてるんじゃないかしら?」

「成程。クノさんならあり得ると思います」

「ってかむしろそれ以外に考えらんないですよね~、多分。あ、ホントだ、こりゃ尋常じゃない数ですねぇ。そうですね、えーと、助けにいきましょうか?」


 ……クノ君か。良い人なんだが、変人なのがちょっと玉に傷だね。VRゲームでステータスを偏らせるなんて、普通ではないと言わざるを得ないよ。

 しかもそれであっさりボスをソロ討伐してしまうなんて……βテスターである私でも、相性の問題もあるけど、ギリギリで倒しきることはできなかったいうのに。ただまぁ、これから先も力押しで行けるほど、このゲームは甘くないのだけれどね?


 話していても楽しいし、私と同い年ながらしっかりとした芯をもっているように感じられて、頼りにもなりそうだ。なりそうなんだけれど……残念ながら共闘はしたことがないね。


 本人たっての希望で、ギルドに入ってもらう条件も「パーティーを組まない」だったし。

 それを尊重して今回のイベントでも、拠点のことは気にせずひたすらプレイヤー討伐を頼む、と言っているのだけれど。


 いつか一緒に戦ってみたいけれど、クノ君の機嫌を損ねてギルドを抜けられるのが、少し怖いかな。


 彼は言葉にしないかぎり、何を考えているのか全くこちらに伝わってこないような人だからね……常に落ち着いた雰囲気は纏っているのだけれど。

 正直、エリザより感情が伝わってこない人間を、私は初めて見たよ。本当にびっくりだ。

 あれは長年人生を無意味に過ごしてきたような、そんな抜けがらみたいな表情……いや、流石にこれは失礼か。顔立ちはなかなか整っているのだけどね。


 しかし、大量の光点か……乱闘でも起こっているようなら、すぐ近くなんだし加勢した方が良さそうかな?


「そうだね、いってみようか」

「はいです!」

「……私もいきたいのだけれど。プレイヤーの襲撃も今までなかったから、少し動いてみたいわ」

「エリザも?」


 これは驚いたね。

 まさかエリザが与えられた役割を放棄するようなことを言うなんて。

 やはり無表情同士通じあうものでもあったのかな?二人とも服装は真っ黒だし。そういえばギルド内でもよく話をしていたようだし。


「そうか、わかった。じゃあここは私とノエルで受け持つよ」

「ありがとう、カリン」

「いやいや、気にすることじゃないさ……あ、そうだ、リッカを見なかったか?」


 どこか遠くまで旗を取りにいってるんだろうか?くしくもギルドメンバーのほとんどがこの周辺にいる(と思われる)中、リッカだけいないというのは少し寂しいものだね。


「帰ってきてはないわよ?」

「そうか。なら、まぁ、いいんだけれど。じゃあ、早くいくといいよ」

「そうね、行きましょう、フレイ」

「いえっさ―です、エリザさん!」



 ―――



 Side:エリザの場合



 マップを確認して、驚いた。本当に沢山の光点が一か所でひしめいて点滅している。

 本当にクノがこの中にいるのだとしたら、大丈夫なのかしら?


 まだメニューのメンバー覧には、イベントでの脱落を示すバツ印はついていないから、一応安心なのだけれど。

 なぜだか無性に心配になって、気付いたら「私もいきたい」なんて言っていた。


 ……案外私は、心配性なのね。


 自分で自分に苦笑する。たかがゲームなのにね?

 ろくに顔も見せないようなギルドメンバーの事が“心配”になるなんて。

 でもまぁそれは、やっぱり同じギルドだからなのでしょうけど。


 でも、彼と一番話しているのは、なんだかんだでフレイよりも私なのよね。あくまで『IWO』では、だけれど。

 なんと言うか、彼と話していると落ち着くというか。時間がゆったりと流れているような気がする。


 結構趣味も合うし、作った装備も嬉しそうに受けってくれて、ちゃんとお礼を言ってくれるし。


 なんだかんだいって、私のゴシック趣味はあんまり人には良く思われないのよね。リアルでも周囲からは冷たい視線を浴びるし……誰が中二病なのよ、失礼ね!


 でも彼は最初に出会って、いくらか話をした時に、私のこの格好を「綺麗だ、似合ってる」と言ってくれた。

 男の人に褒められたのは初めてだったから、かなり恥ずかしかったのだけれど。


 わ、私の男性との交友関係のなさを見抜いて取り入ってくるなんて、酷い人ねまったく……いえ別に、ほだされたとかそういうのではないのよ?


 ……彼の装備のコンセプトを決めたのも、その時だったかしら。

 私の隣に立っても違和感がないような、同じような意匠の装備にしたいって。

 勿論、彼がこの意匠を褒めてくれたから、同じようなものを作ろうと思っただけで、特に他意はないのだけれどね! 

 ……ないのよ? ……ない、はず。


 うう、なんなのかしら。

 もやもやするわね……


「クノさん大丈夫でしょうかねぇ」


 フレイが話しかけてくる。

 それで今はなにかに悩んでいる場合ではないと思いなおして、頭を切り替える。

 

「まぁ、まだクノがいるって決まった訳でもないのだけれどね」

「あー、それもそうなんですが。なんとなくいる気がするんですよね~。乙女の勘ってやつですよ」

「そう」


 ちなみにこの会話は、走りながら行っている。

 フレイは私の速度に合わせてゆっくり走ってくれているようで、申し訳ないのだけれど。


「それよりフレイ。私がいうのもなんなのだけれど、急がなくてもいいのかしら?」

「大丈夫じゃないですかね? クノさんですし」

「? ……それは。うん、そう、ね」


 確かにそれもそうかもしれない。私は何を心配していたのかしら? ホント、言ってもこれはゲームなのに……

 クノなら何があっても大抵は大丈夫そうではあるのだけれど。

 むしろ何があっても驚かないくらいなのだけれどね? 呆れはすれど。

 ……って。


「じゃあなんで助けに行こうとか言い出したのよ……」

「いやぁ、なんとなくクノさんに会いたい気分だったんですよ~。近くにいるのなら、って」

「随分と適当な理由だったわ……」


 フレイはそう言ってえへへ、と笑う。

 ホント、クノがいない時では自分の気持ちに随分と正直だこと。

 そしてそれが……なぜか、妬ましく思える。

 きっと、自分の気持ちを素直に表現できるフレイが羨ましいのね。この何割かでも私に愛想が有れば……いえ、やっぱりいらないかしら。


 と、その時だった。


「あれ? フレイにエリザ。どうしたんだ、こんなところで?」

「あ、クノさ~ん! やっぱりいましたか~!」


 丁度前方からクノが歩いてくるのが見えた。

 その手には赤い旗をずるずると引きずっている。


「この辺りで大量のプレイヤー消失反応があったから、一応気になって来てみたのよ」

「ん、ああ~、成程な」

「何があったのかしら?」


 気になる。凄く気になるわね。


「ちょっと乱闘してた。んで囲まれて昔の友達と再会して逃がしてもらった」

「流石クノさん! 私たちの理解が追いつかないことを平然と喋りますね」

「あれ、けなされてる?」

「褒め言葉よ、きっと」

「うん、俺の説明もアレだとは思うが、今のフレイのを褒め言葉と取れるのも相当じゃないか?」

「高次元の世界に生きているのよ、私たちは」

「人を下等生物のようにっ!?」

「あら、私はそんな意味でいったんじゃないわよ?」

「というと」

「貴方が下等なのではなく、私たちが上等過ぎるのよ」

「まさかのとんだナルシストだったよ! なんかいつもより毒性高くないか」


 ああ、楽しいわね。クノとの会話は、なかなか愉快だわ。

 言葉に毒が混ざってるのは、きっと私を心配させた罰よ。ホント、何があったのかとびっくりしたのに。

 それなのにフレイはあっけらかんと大丈夫と言って笑うし、クノの説明は意味がわからない上に、ぴんぴんして……はいないけれども。HPゲージ真っ赤だけれども。


「あ、そうだエリザ。これ有難うな」


 そう言って背中の「黒蓮・壱式改」を見せてくるクノ。


「礼ならもう言って貰ったと思うのだけど」

「うん、そうなんだけどさ。これわざわざ前の奴より重量減らしてくれてるだろ?」

「……あら、気付いたのね」

「そりゃあ、いつも使ってるしな。俺のVitが0だからっていう配慮だろ? こういう細かな気遣いがかなり嬉しかったり。だから、有難う」

「……どういたしまして。気にいって貰えて嬉しいわ」

「……照れてる?」

「照れてないわよ」


 まったく、もう。

 無表情でからかってくるクノを、軽く叩く。

 でも、そんなことでいちいち礼を言い直すなんて、律儀な人ね。


「しっかし、この旗まじ重っ……腕に力がはいらねー。Vit0きついわぁ。でもそこがいいっ」


 ……なにやら変態的な発言をしたのだけれど、さっきの律儀さに免じて、ここは流すべきかしらね。

 はぁ。


「ところでクノ。HPがさっきから真っ赤なのだけれど、回復はしないのかしら?」

「ん?ああ、これでいいんだよ。この方が好都合」

「ふーん」


 相っ変わらずの変人ぶりね。新しい戦闘スタイルでも確立したのかしら?


「あ、クノさん。その旗持ちますよ」

「いや、女の子に持たせるのはどうかと思うんだが」

「でもクノさんより私のほうがVit高いですから、持ち続けるんなら私の方が力出せるんです。まかせてくださいよっ!」

「や、確かに俺はVit不足だから、重量物の保持はアレだけども。でもなぁ、」

「クノさんの役に立ちたいんですっ!」

「あー、ん。わかった、じゃあほれ。重くなったらすぐ交代するからな、って……」

「ふふふ、軽い軽い、です」

「あんなに重かった旗を、いともたやすく上げ下げするだと……なんて残念なんだ俺のVitは」

「残念というより、皆無ではないのかしら」

「その通りでございます……」


 ステータスがStr以外0とか、ホント何考えてるんでしょうね?


 最悪まともにゲームプレイできないわよ、普通なら。

 まぁクノは、全然全くこれっぽっちも普通ではなさそうなのだけれど。



 と、そんな感じでイベント中にも関わらず、割と和気あいあいとしながら拠点に戻ってきた私たち。

 イベント前には上位入賞とか息巻いていたけれど、いざやってみると結構そういうの抜きで、その場その場で楽しんじゃうのよね……まぁ楽しむためにやってるのだから、いいのだけれども。




エリザのAgi、一応戦闘を行うことも想定しているため、多少はあります。

職人にも負けるクノ君…



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