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後日談 魔王様の甘い新年

皆様、明けましておめでとうございます(遅)

本年もよろしくお願いいたします。


新年ということで、なんとか一月中に仕上げることが出来ました。後日談その1。後日談はまだまだ更新予定。

クノとエリザが付き合い始めた後の、とある年の瀬のお話です。本編最終話の八ヶ月後くらい。

押される魔王様。



 カッチ、カッチと規則正しく時計の秒針が時を刻む。

 十二月三十一日、大晦日の夜もそろそろ終わりが見えてくる頃だ。

 俺はというと、理紗(エリザ)の部屋でコタツムリをやりながら、隣で丸くなる可愛い(エリザ)を撫でていた。

 部屋の中は以前と変わらず、中央に大きなコタツ、その正面に薄型テレビ、右手にソファ、左手にベッドだ。黒を基調としたシックな内装に、やたらと目を引く1/300スケールのノートルダム大聖堂が実に荘厳。


 さらり、さらりと一定間隔で手を動かしていく。

 春に付き合い始めてからというものの、毎日幾度となく彼女の小さくて形のいい頭を撫でているが、一向にその魅力は衰えることがない。流石は理紗だ、髪の毛の一本一本までもが、俺の心を掴んで離さないのである。


「九乃……ちょっと、撫ですぎじゃないかしら。そんなに撫でられたら、なんだか小さい子があやされているようで、あまり釈然としないわ」


 草木も眠る……というにはいささか早い時間ではあるが、それでもこの家の周囲は静まり返っている。そんな静寂のなか、特に会話もなくまったりとなまけていた俺達だが、不意に理紗がごろりと寝返りを打ってそんなことを言った。


 にょき、とコタツ布団から頭だけ出して、さも頭を撫でやすいようにポジショニングをしている癖に、どの口が言うのだろうか。

 今の寝返りだって、頭の左右を満遍なく撫でてもらおうという涙ぐましい抗議であることを知っている。知っているが、なにやら理紗の子供扱いされたくない病が併発したために、なんだかややこしいことになった。


 彼女はこうやって、たまに素直じゃない。試されているのだろうか、彼氏としての対応力というものを。……いいだろう、ならば俺にも、考えがあるぞ。

 天使の輪を載っけたサラサラの髪から右手を離して、俺は手をズボッとコタツの中に収納した。天板に付属したヒーターのジリジリとした熱が、部屋の冷気にすっかり白くなってしまった掌に心地よい。


 理紗の方を見ると、小さく「……あっ」と声を漏らして、まるで餌を取られた室内犬のように、俺の手の消えていったコタツの中を凝視していた。少しだけ、口の先が尖っている。チワワも瞬殺の可愛らしさだ。


 カッチ、カッチと秒針が進む。

 げしっ、とコタツの内部で俺の脛が強襲を受けた。いたい。ちょっと、地味にいたい。体の小ささを存分に生かして、狭いスペースでも比較的勢いのついたトーキックだ。正確に同じ場所を狙ってくる辺り、流石はIWOでも有数の弓使いである。

 やられっぱなしでは、こちらとしても『魔王』の名が廃る。姫にやり込められていては、沽券に関わるのだ。


「……っ! ……っ! ……!?」


 必死にげしげしやっている理紗のニーキックに、足を"吸い付かせる"。彼女の足の運動と完全に同調させ、全ての衝撃を無効化する柔の技である。ただ相手の動きにぴったりと貼り付くだけだが、極めれば無刀取りなどに使える。コツは相手の呼吸を読むことだ。


 どんなに振り回しても離れない俺の足に、やがて理紗は降参したのか、ぱたりとふかふかの絨毯に足を力無く不時着させた。ふっ……この手のじゃれあいで俺に挑むのは百万年早いということだ。絹のパジャマの上質な生地に覆われた彼女のすべらかな足に、ホールドするように足を絡ませながらドヤ顔で隣を見た。


「……むぅ」


 むくれていらっしゃる。顔は実に分かりやすく不満げだったが、しかしそれとは裏腹に絡ませる足の動きは情熱的だ。端的に言うとえっちい。あー、くそ、すべすべしてやが……あ、待て、ズボンを脱ぐな。それは不味い。

 抗議のアイコンタクトを送ると、不満げ顔から一転して悪戯っぽい表情になった。小悪魔エリザちゃんだ。これで骨抜きにならない男はホモかゴータマ・シッダッタくらいだろう。


「野性に回帰したくなるから、そういうのはどうかと思うんだ」

「あら。私としては別に……それでも、いいのだけれど」


 小悪魔の表情のまま頬を染め、そんなことを仰る。そんなに耳まで赤くなるところは変わらないのだが、付き合い始めてからの彼女はなんというか、発言がなかなか強気だ。


「最低限、俺が高校を卒業するまではそういうことはしないって決めたでしょうが。人間は服を着る生き物なんだから、ほら、ズボン履いて」

「…………ケチ。堅物。甲斐性なし」

「待て、それ以上は心が砕ける。やめよう。……何、そんなエロキャラだったっけ理紗」

「……むぅ……そりゃあ、こんな毎日毎日お預けみたいなスキンシップしてたら、エロくもなるわよ……」


 そう言って、彼女はにじりにじりと頭をこちらに擦り寄せてきた。熱い吐息が首筋に当たって、体温が急上昇した。今この瞬間、世界で一番地球温暖化に貢献してる自信ある。


「いや、待て。理紗。流石に不味い。ほら、あの、大晦日だし。そろそろ年も明けてしまう」

「貴方との距離が一番近い状態で新しい年を迎えるのも、悪くないと思っているわ」

「詩的表現で誤魔化しても駄目なものは駄目だからな!?」


 いよいよ足だけでなく、全身をぴったりと寄せてきたサキュバスエリザちゃんである。おかしい……なぜだか最近、こうやって情熱的に迫られることが増えた。勿論嬉しくない訳がないんだけど、流石にこうやって押しきられてなぁなぁで致してしまう訳にもいかないと思うのだ。高校卒業して、結婚するまでそういうことはしないと二人で決めたのだから、その辺りはしっかりとけじめを持たねばならない。


 ぐぐー、と断腸の思いで理紗を引き剥がす。

 するとしばらく芋虫のように蠢動して抵抗をしていた彼女だったが、ようやく少し離れてくれた。少し。具体的には三センチくらい。全然諦めてないでしょこれ。


「精一杯の妥協だわ」


 おっと、この価値観の違いは二人のすれ違いを生むかもしれないぞ。……まあ仮にすれ違いがあっても、それを乗り越えて愛を深めていくつもりだけど。


「私がここまで妥協したのだから、貴方も私に何か示すべきではないかしら。例えば、そう、――頭を撫でるとか」


 理紗は妙に勝ち誇ったような笑顔で、そう言った。

 む。

 ……なるほど、そうきたか。


「誠心誠意、撫でさせていただきます」


 そして。

 気が付けば、三センチ先の理紗を撫でながら年を越していた。あ、年越しのカウントダウンし忘れた。


 ……来年はあるいは、これよりもっと近い距離で年を越すのかもしれない。

 鬼に笑われてしまいそうだが、そんなことを思った。地球が温暖化した。



 ―――



「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。末長く、ね」


 改まって頭を下げあい、新年の挨拶を行う。

 場所はというと、相変わらず近衛邸の理紗の部屋である。

 彼女が、年を越した時からいそいそとコタツを出ていき、再び現れた時に振り袖を着ていたのにはかなりびっくりした。


 深い青色を基調とした、理紗らしい落ち着いた色合いの着物には、爛々豪華な和柄が施され、蝶が悠々と羽ばたいていた。そして、そんな豪華な振り袖が霞むくらい、髪の毛を結い上げた理紗は艶があって綺麗だった。二時間近くコタツに放置された甲斐があったというものである。俺はすっかり深夜テンションで、持ちうる語彙の限りで彼女のことを誉めちぎった。まんざらでも無さそうに赤面する顔が可愛いのなんの……おっと、この話を始めるとしばらく戻ってこられなくなるから、今はやめておこう。


 元旦の俺達の予定は、二人で去年と同じく灯波神社に初日の出を見に行って、初詣をして、お昼からは『IWO』のお正月イベントに参加することになっている。

 ちなみにイベントの方は、なぜか運営に「たのむからこっち側で参加してくれ」と言われて、イベントキャラクター側での参戦だ。ちなみにエリザとセットで、なんか裏ボス的な扱いらしい。バイトのような感じでお金も出るようなので、全力で楽しんでこようと思う。


「それじゃあ、これからどうしようかしら。初日の出まではまだ時間があることだし……一旦、横になる?」

「さっきまでも……というか大晦日中ずっと、横になってたようなものだけどな」


 コタツで。

 前日は、俺の家の五倍くらいの広さがあるこの屋敷を大掃除していたので、その疲れがあったということも無きしもあらず。


「貴方が手伝ってくれたお陰で、大掃除にあまり手間がかからなかったのは感謝しているわ。この家、無駄に広いんだもの」

「毎年、一人でやってたのか?」

「いえ、姉さんたちが来てくれたのだけれど……あの人たち、うちではあまり働かないというか、サボってばかりだったから」


 姉さんとは、玲花(フレイ)の屋敷で住み込みで働くメイド三姉妹のことだ。たまにあちらの屋敷の管理も手伝いに行く身としては、あの完璧メイドさん達がサボっている様子なんて全く想像できない。


 しかし元を辿れば、この近衛邸もメイドさん達が何やら怪しげな伝手を使って手にいれたらしく、いわば彼女達の家でもあるので、自分の家で寛いだりサボったりするのも普通……なのかな。

 まあ、メイドさん達のことはいいんだ。


「……しかし、眠気も強くなってきたし横になるのはいいんだが、折角理紗が着物を着たのに脱いでしまうのはなんだか勿体ないな」


 皺でもついたらことである。そもそも着付けも大変だっただろう、お披露目は初詣の時にでも良かったのに。いや勿論、いち早く見ることができて彼氏冥利につきるんだが。


 そうやって葛藤していると、理紗は妖しく微笑んだ。


「大丈夫よ……この着物は、貴方に脱がしてもらうために、着てきたんだから」

「んぐッふ」


 ちらり。襟元をぐいと引っ張り、白い肌を大胆に露出させる。別になにも疚しいことは無いのだが、つい視線を逸らしてしまう。馬鹿な……ここでもそんなトラップが待ち受けていたなんて……どれだけ試されているというのだ、俺は。北海道か。


「ちなみに、この下は何も着てないわ。下着も穿いてないわよ?」

「……頼むから、その格好で初詣に行く事だけはやめてくれよ」


 でないと俺は、道すがら出会った男の視力という視力を奪わなければいけなくなる。年始早々、若者の乱心事件として世間様を騒がせる訳にはいかない。


「勿論よ。まさか、九乃以外に見せるなんて有り得ないわ。貴方のためだけの格好だもの」

「すごく……すごく嬉しいよ。俺が結婚できる年齢だったら、もっと嬉しかったんだけど」


 要らぬなら、捨ててしまえよ、倫理観。一句できたな。まあ、その通りにした場合、きっと俺は後悔するだろうからこそ、鋼の自制心でもって抑えている訳だけど。婚前交渉だなんて、そんな破廉恥扱いされかねないことを理紗にさせるわけにはいかないのである。男なら堂々と胸を張って初夜を待つべきだと、我が敬愛する祖父も言っていたことだし。


「……むぅ、これでもまだ"駄目"なのかしら……こうなったらいっそ、強引に……」

「あのー、理紗ー。理紗さーん。エリザー?」


 拗ねた様子で、なにやら怖いことを企んでいる様子の理紗。

 しばらくすると彼女は、ひとつ頷いた。


「……とりあえず今度、紅茶にマムシエキスを入れておくことにするわ」

「やめてくれ」


 俺の憩いの時間が、気の抜けない一時に早変わりした瞬間である。



 ――など、など。こうして二人で話をしているだけでも時間はあっという間にすぎていくのだった。

 ……ああ、幸せだ。



新連載スタートしました。

こちらの方も読んでいただければありがたいです。

話数もそこそこ溜まりましたので、どうぞよろしくお願いします。


『九人目の勇者と駄女神の異世界救世史』

http://ncode.syosetu.com/n4929ds/(このページの下の方にリンクもあります)


……こう、流行りに乗って文章系サブタイトルとか付けた方がいいのだろうか。よかったら、誰かいいの考えてください。


↓いい感じの新作案内方法がないかと探した結果、ランキングタグを使いこなすことに成功した! なろうで時々見かけるついったーとかのリンクってこれだったんですね。

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『九人目の勇者と駄女神の異世界救世史』(小説ページへ飛びます)
魔力馬鹿のぽんこつ勇者と残念ロリ女神が異世界でゆるく生きます。
こちらの方も覗いてみていただけると嬉しいです。
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