第百六十話 性能テストのお話
クリアに連れられて、お手軽! 超越外装収集ツアー! を敢行した結果として、【超越外装《666》魔王型ディスペア】なるものを手に入れた。どうもアイテム扱いという訳ではなく、新しく『超越外装』という項目が誕生して、そこに収まるようだ。
性能テストをしようにも、浮遊島にはクリアしかいなかった。お菓子目当てとはいえ、超越外装集めに協力してくれた恩人に向かって刃を向けるなんて恐れ多い。
という訳で、クリアとは分かれて俺はとある場所に来ていた。
「おーい、アドルミット! 超越外装手に入れたんだけどー! 試し切りさせろー!」
自称神様アドルミットの試練の間である。相変わらず無駄に広くて豪華だ。
「え、嘘? こんな短期間で超越外装を手に入れたの?」
「クリアという精霊に連れられて、一瞬で手に入ったぞ」
「うわー、風情も何も無いね。クリアちゃんは本当にもう……」
いつの間にか目の前に現れたアドルミットは、相変わらずの古代ローマ人ファッションだ。テルマ○・ロマエじゃねぇんだぞ。
「ちなみに、何番の超越外装を手に入れたんだい? 君の適性で言うと、人造型とか割と使いやすそうだけど」
「666番だ」
「えっ?」
「【超越外装《666》魔王型ディスペア】だってさ。超越外装って種類ありすぎじゃない? 六百番台まであるとか、なんなの。そのうちプレイヤー全員に投げ売りする予定でもあんのか」
600から699までは魔王型です! 限定モデルですよ! みたいな。
「いやいやいや。超越外装は、《0》から《11》までしかないはずだよ? なんだい《666》って、聞いたことないんだけど。いきなり増えすぎだろう」
アドルミットは首を傾げて、そんなことを言う。
「お前がボケて忘れてるだけじゃなくてか?」
「失礼だね! そんな訳ないだろう。……でも、そうすると……あっ。もしかしてクノ君、古の王の宝物庫から欠片を取り出してきたのかい?」
「ああ、うん。そんな感じだ。一人一人殺して回って」
「……そういうことか……クリアちゃんも無茶するなぁ」
「無茶?」
いや確かに、あの振る舞いは無茶苦茶だったけど。傍若無人クイーンって感じだ。それでも愛されているあたり、にじみ出る何かがあるんだろう。流石は情報を司る精霊、洗脳電波でも出てんのかな。
「完成品の超越外装を与えるんじゃなくて、欠片から本人にあった超越外装を作れれば、そりゃあその方がいいに決まってる。なんたってオーダーメイドだからね。でもその場合、本人にはより強力な……なんていうのか、通常の使い手とは一線を画する、資格みたいなのが必要なんだ」
「……その、資格がなかった場合は?」
「欠片が拒否反応を起こして、魂がバラバラになる」
「こえーなオイ!」
まじかよ。一歩間違えれば俺、魂バラバラ事件の被害者だったのか。そういえばクリア、俺の頭から魂みたいなの取りだしてたな。これこそが超越外装とかなんとか言ってたけど、あそこで魂と超越外装がカップリングされていたのだろうか。で、カップル成立だとさっきみたいに金色に光って、不成立だと俺が昇天するみたいな。
いや、物騒! 滅茶苦茶だなクリアさん! もっと俺の意思とか確認して欲しかった。インフォームドコンセントしてほしかった。
「……生きてるって素晴らしいな」
「まあクリアちゃんも、確証もなく無茶をする子じゃないからね。多分、君がちゃんと超越外装を手に入れることができるという『情報』を得たうえで、行動したんだろうけど」
「ならいいんだが……」
まあ結果オーライということだな。うん。深く考えないようにしよう。
「それで、その新しい超越外装の性能評価をするために僕のところに来たと?」
「そうだ。あのドッペルゲンガーみたいな奴なら、超越外装ごとコピってくれるだろ? 自分がどんな力を持っているのか、客観的に判断できるっていうのも評価高いぞ、アドルミット道場」
「勝手に人の神殿を道場にしないでね? ……まあ、いいけど。ただ、いかんせん君の超越外装はイレギュラーだからね……影でどれだけの能力を再現できるかは分からないよ」
「それでいい。どうせ最終的には、経験値として美味しくいただくんだしな、最悪そこだけあれば構わん。頼むぞ、経験値生成神」
「君、ホント失礼だよね……それじゃあ、いくよ」
アドルミッドがなんだか疲れた顔をして、瞬きのうちに虚空へ消えた。
代わりに現れるのは、俺と全く同じ格好をした偽物、ドッペル君だ。よう、と手を上げると、何故かビクッと反応された。なんだよ、ビビってんじゃねーぞ『俺』。
「さて、一体どんなもんなのかな」
とりあえず、いつものように一通りの強化を施す。
「【多従の偽腕】【破界の修羅】【覚悟の凶撃】――『筋力付加』――『筋力重加』」
三十本あまりの黒い腕が虚空から這い出し、同じく忽然と現れた黒い剣を握る。
そして【破界の修羅】の効果として〝滅びの瘴気〟が発現。俺の周囲を取り囲むように、黒い霧が発生した。補助魔法の紅いオーラが僅かに溶け込み、時折揺らめく。
【覚悟の凶撃】によって自らHPを1にして、【形態変化】、【第三形態】適用。側頭部からは捻じれた黒い角が生え、強膜は黒く染まり、瞳だけが爛々と赤く輝く。荘厳な黒の衣装には鎧片のようなものが貼りつき、これでもかと攻撃性を強調する。
回復したMPで『偽腕』を最大数の五十本まで出して、全ての腕に『黒蓮』を持たせれば、これで超越外装を得る前の俺のベーシックスタイルだ。
王様達は強化も何もせずに【斬駆】で倒したから、実は【破界の修羅】を使ったのは初めてだった。……へえ、〝血色の瘴気〟から〝滅びの瘴気〟になると、色が変わるのか。敵のHPを削り取る効果も、やはり強化されているのかな。
向かい側では、ドッペルも同じように強化を施した。違う点はやはり、髪の毛が少し灰色がかっている所だけだな。
そして、ここからが大事だ。
「【超越外装《666》魔王型ディスペア】、装着」
良く考えたらどうやって使うのかとかクリアに聞いてなかった。が、どうやらこれでよかったらしい。
黒い暴風が一瞬だけ吹き荒れ、全身にずっしりとした重み。超越外装とは言うものの、見た目的には体中に一メートル程の黒いファンネルが無数にひっついただけだな。ドッペルの様子を見てもそれはよく分かる。まるでミノムシだ。
「……これ、どうやって使うんだろうか」
とりあえず一つ、体から毟ってみる。特に抵抗もなく取れた。ひっついていると言っても別に固定されている訳ではなくて、磁石みたいな感じだった。そんなものが、数えてみたら十五個だ。一つ一つ体から毟って、床に並べてみたので間違いない。一つ四、五キロはある。そりゃ重いわ。
『偽腕』と同じく、なんかこう、脳波で操って飛ばすのだろうか。見た目的に。
ドッペルはというと動かない。コピーだし、あくまで俺の分かっている範囲でしか力を振るえないのだろう。使えね―なあいつ。
とりあえず一個手に持って、『偽腕』と同じ要領で動かしてみようと意識を送ったその時だ。
手に持ったファンネルがギャコン! と四つに分離した。もっと正確に表現するなら、ファンネルは始め、四角錐のような形をしていたのだが、それが四つの面に分離したのだ。
まるで花弁が開いたように、十字型を示して止まる元ファンネル。花弁の一枚一枚は、良く見れば剣のように鋭く刃が付いていた。
ちょっと考えて、ドッペルの方を指さす。
「行け、ディスペア」
すると花弁剣の一枚一枚が、俺の思い描いた軌道の通りに高速飛行し、ドッペルに襲いかかる。『偽腕』で掴んだ剣で応戦するドッペルだが、花弁剣を力任せに弾いても、ほとんど飛ばされずに急静止してまたドッペルに襲いかかる。
……成程。
床に置いてある残りの十四個にも思念を送ると、やはりギャコン! と変形して五十六枚の花弁剣になった。ドッペルを襲わせていたものも呼び戻し、合計六十枚の黒い花弁剣が、くるくると俺の周りを回る。
……つまり、こういうことなのだろう。数が五十本で打ち止めになった『偽腕』を補うために、俺の魂が作り出したのが追加の剣六十本と、そういうことか。
見ればドッペルも使い方を学習したらしく、同じように花弁剣を操っている。そして、それが一斉に射出された。当然、こちらも同じように対応する。
『偽腕』の剣と違って、かなり高速で飛来するのが強みだな。しかもカクカクした動きもお手のものだ。凄いなこれ、超楽しいぞ!
「【バーストエッジ】!」
ファンネルなんだから勿論ビームも撃てるだろと思った。
案の定、花弁剣の一本一本から黒い爆風が線状に伸びる。ああ、瘴気が黒くなったから、この爆風のカラーチェンジしたのね。
それをドッペルの花弁剣が盾になって防ぎ、お返しとばかりに数十本の【バーストエッジ】が飛んでくる。
ということは、これもいけるか?
一度も使ったことはないが、なんだかいけそうな気がする。
「『魔力砲』!」
【形態変化】の固有アーツ、『魔力砲』である。
瞬間、花弁剣の先端に黒い光が集まり、耳をつんざくような異音と共に細い光線が発射された。
ついで、爆発、轟音。着弾地点を起点に、黒い暴威が広がる。
あえて簡単に表わすなら、きゅぴん、どかん、である。
爆心地では【不屈の執念】が発動したドッペルが、ガラス片をキラキラさせながら、同じようにこちらを狙っていた。黒い閃光が放たれる。【バーストエッジ】と違って、花弁剣で防いでも爆発が発生する二段構えだ。
とりあえず着弾は花弁剣で防ぎ、直後に【バーストエッジ】を前方に広く展開して爆風同士による相殺を狙った……のだが。
『魔力砲』の威力は【バーストエッジ】を越えていたらしく、あっさり攻撃が届いて俺のHPが消し飛ばされる。こちらも【不屈の執念】で無効化して、お返しとばかりに『魔力砲』を撃ち込みまくる。
縦横無尽に空を駆ける花弁剣によって、同時多方向から撃ち込まれる、死の光線。
空間に異音と爆音が立て続けに鳴り響く。ドッペルは【バーストエッジ】による強制移動で上手く回避をしながら、やはり『魔力砲』を撃つ。
こうなると、両者が常に爆風によって推進力を得ながらの高速戦闘だ。隙を見て各所に『偽腕』を散らばらせてトラップのように使ったり、直接突っ込んで刃を交えたり。
最終的に、やはり【斬駆】による超威力の面制圧が勝負の鍵を握り、お互いに使いどころを見極める。『魔力砲』の欠点は、着弾するまでの光線部分が細すぎることだな。上手く間をすり抜ければ、回避できてしまう。勿論並の芸当ではないが、ドッペルも最初と比べれば随分と学習したというか、強くなっていて、俺の動きをなんなく真似して見せやがる。
「くっはははははぁ! 面白い、面白いぞ複製品如きが!」
ちゅどん、どかん、ずどん。
これだけ派手に暴れ回っても崩壊しない試練の間に敬意を表したい。
ドッペルの学習により俺達の戦いは長引き、最後に俺が『百十本複撃統合【斬駆】』を成功させたことで、戦いに終止符が打たれたのだった。
「じゃあアドルミット。とりあえずこれを、200レベルになるまで続けるから」
「え゛え゛ぇぇえ!? 僕の試練の間が壊れちゃうんだけどぉ!!」
しかし憐れ、システムに縛られた自称神様に拒否権はないのだった。
仕方ないだろ、今更この先のフィールドに出ても、魔王以外は皆等しく雑魚なんだから。
遅れましてすみません。生きてます。