第百五十八話 お菓子大好きクリアちゃんのお話
※第百五十四話にて、〝ベルセルク〟による経験値減少効果は、アドルミットに挑む前に解消するよう修正致しました。
場所は変わって、石碑のある浮遊島に戻ってきた。行きと同じようにピカッと光ってすぐ到着だ。獣人王の所には、五分も滞在してなかったんじゃないだろうか。早すぎるだろ。
よくよく考えると獣人王さん、いきなり変な男と戦えって偉い精霊さんに言われたと思ったら、いつの間にか死んじゃってた訳で。しかもクリアに饅頭を強奪されている。経験値は美味しく頂いたけれども、なんだか俺がすごい悪い奴みたいだぜ。まあ俺はエリザのためならたとえ王様でも、ドンドコ出落ち要員にしていく所存。
「そういえば、さっきの獣人王大丈夫だよな? リスポンするよな?」
「……彼は魔王のように……この世界に魂を縛られている訳ではないから……だいじょーぶ」
「そりゃあ良かった」
「……それよりも、メニューを確認しなくていいの?」
メニュー? ああ、そういえばお知らせ音が鳴ってたか。
どうせレベルアップの通知だろうけど、一応見ておこうとメニューを開くと……
『称号〝王座を侵す者〟を取得しました』
『スキル【狂蝕の烈攻】が【修羅転心】へと変化しました』
『特殊効果【惨劇の茜攻】が【破界の修羅】へと変化しました』
レベルアップも勿論してしたのだが、その他にこんなメッセージが入っていた。ちなみにレベルは1レベル上昇して、ぴったり90になった。一日で4レベルも上がるとか……ヤバいな。しかもまだ、時刻は午後二時前。強敵と戦うと、効率が良くって笑いが止まらないな!
「ふはははは」
「……な、なに……」
おっと、クリアを怖がらせてしまった。俺だって、いきなり目の前で能面みたいな表情のまま笑い声をあげる男が現れたら、遠慮なく距離を取ってる。でも仕方ない。それにほら、ゲームだし。楽しまないと損ってもんだ。
それじゃあ、新しく手に入れた称号とスキルを確認していくか。
まずは〝王座を侵す者〟から。名称からして、獣人王を倒したのが取得条件だろう。
〝王座を侵す者〟
倒した『王』一体につき、『宝物庫』からアイテムを一つ手に入れることができる
称号詳細を見ると、こんな説明文と同時に横に小さなウインドウがポップした。
『『獣人王の宝物庫』からアイテムを取得できます。取得しますか? YES/NO』
「クリア、宝物庫ってなにか分かるか?」
「……馬鹿にしないで……わたしはなんでも知っている。……知らないことも知っている」
「いや知らないことって思いっきり言ってるけど。それただのねつ造だろ」
某羽川さんあたりの素直さを見習って欲しい。別にあの台詞を言って欲しいわけではないけど。
「……わたしの辞書には、ねつ造という言葉は無いから……わたしが白と言えば、カラスも白くなる」
「この世界なら実際にそれができそうな辺り恐ろしいぞクリアさん」
「人間の認識情報を改ざんして……黒を白と認識させることなんて……朝飯前……伊達に『情報と支配の精霊』じゃないから」
「やるなよ? 絶対にやるなよ?」
クリアの目がキュピーンと光る。振りじゃないからな?
もうその力で魔王もどうにかならんのか。
「まあいいや、それは。それよりも宝物庫ってなんなんだよ」
「……その名の通り……王の宝物が収められている場所……あなたに分かりやすくいうなら……王撃破のアイテム報酬……あいつら素材とかドロップしないから」
「ああ、なるほど……身も蓋も無い言い方だな」
確かに、何にもドロップしなかったけど。アドルミットの試練でも、パチモンは何も落とさなかった。その代わりに経験値が美味しいので、あまり気にして無かったけど。エリザへのお土産なら、ホムンクルス素材が大量にあるしな。なんでも、物理耐性と魔法耐性の特殊能力が付くんだそうだ。バランス良くて使い勝手がいいから、たくさん採って来て頂戴ね♪ って言われた。
「……王一体撃破につき、一つアイテムを宝物庫から強奪できる」
「言い方悪いな!」
「……接収できる」
「あくどさ変わってねーよ!」
あと接収は個人が個人に行う行為じゃないから。むしろ王様が行う側だから。
「……なんでもいいけど……結構いいアイテムしかないから……さっさと選んじゃってね……終わったら、次の王に会いに行くから」
「ああ、うん。了解」
クリアに促され、ウインドウのYESを押す。すると宝物一覧のウインドウが現れるのだが……
……俺の目は、その一番上にあらわれた一つのアイテムに釘づけになった。
『【超越外装《???》??型???】の欠片(1/5)』
クエスチョンマークの乱舞だが、これはアドルミットの言っていた超越外装というやつだろ。
なんてグッドタイミング。クリア、ひいてはその後ろに居るであろうジャッジさんは全て分かっていて今回の件を主導しているのか? と思いたくなるタイミングの良さだ。というか十中八九、ジャッジさんならそうしそうだけど。あんなに可愛くて正義だしな。大体上方に評価しておけば間違いない。
「クリア、他の王ってあと何人いるんだっけか」
「……ウルベリィを含めないと……あと四人……正確に言えば……『魔王』も含めて五人だけど」
「そうか」
ということは、魔王以外の『王』を全て倒せば『超越外装』が揃うのではないだろうか。(1/5)とか明らかに五分の一の欠片って意味だろうし。
一応他もざっと見てみるが、ピンとくる物も無かったので即決定。『【超越外装《???》??型???】の欠片(1/5)』を手に入れた。……あっ、インベントリの枠が全部埋まった。まあいっか。
「……やっぱり、それを選んだの」
「まあ、丁度それっぽい称号をアドルミットから貰ったばかりだからな」
「……そう……知ってたけど……でも、努々忘れないで欲しいことがある」
「ん?」
クリアが真剣な表情で俺を見る。
「……あなたはきっと魔王を倒せる……でも……魔王は他の王とは本当に別格の存在だから……その……これから会う他の王達を撃破したとしても……魔王に勝てるだなんて安易に思わないで……油断せず強くなっていってほしいの」
「要するに、調子に乗るな、中だるみするなってこと?」
「……そういうこと」
そういうことなら。
「安心しろ。油断もしないし調子にものらないし中だるみもしない。そんなことしてる暇は俺達にはないからな!」
「……俺……達? ……ああ……なるほど……。……あなた達が若いのもほんの少しの間……魔王を倒したら……せいぜい線香花火のように短い輝きを楽しむといい」
「なんで例えがそのチョイスなんだよ。悪意感じられるぞ」
せいぜいってなんだ、せいぜいって。悪役か。
「……え、別に……線香花火好きだから……ジャッジ様がよくくださるし」
きょとん顔のクリア。純粋な目ぇしやがって。
「あ、そう……。いや、悪気がなかったんならこっちこそごめん」
……っていうかジャッジさん何してるんですか。紅葉饅頭といい線香花火といい、日本満喫しすぎじゃないですか。そのうちスイカとか割り始めるぞ。
お茶目なジャッジさんの姿(スイカに棒を当てるも力が弱くて全く割れない)を想像しつつ、今度は新しいスキルを見てみよう。……あ、想像の中のジャッジさんがビームでスイカ粉々にした。お茶目だなぁ。
……こほん。
では肝心のスキルがこちら。
【修羅転心】AS
発動後、毎秒自身のHP減少-2%(この効果によっては1未満にはならない)
HPの残存量によって、以下の効果を得る
[残存量100%時]:①全ステータス減少-80% ②アクティブスキル発動不可
[残存量75%以上100%未満時]:①全ステータス減少-50% ②魔法使用不可
[残存量50%以上75%未満時]:①全ステータス減少-35% ②アーツ使用不可
[残存量30%以上50%未満時]:①全ステータス減少-20% ②アイテム使用不可
[残存量10%以上30%未満時]:①Str/Int上昇+60% ②アーツ・魔法威力上昇(大)
[残存量10%未満時]:①Str/Int上昇+120% ②全攻撃威力上昇(大)
このスキルは戦闘開始後60秒以内のみ発動可能
効果時間:戦闘終了まで
テキスト長っ。テキストが短いほど強いスキルだ、というのはTRPGあたりで聞いた話だけど。それを引き合いに出すならこのスキルはめちゃくちゃ弱いスキルということになる。事実そうだろう――――あくまで、普通の場合はだけど。
流石はあの【狂蝕の烈攻】の進化バージョンといったところか。一向に上位変化しないから、てっきりもうこのままかと思ってたのだけど。長年……というほどでもないけど連れ添って来たスキルだし、今回の変化は素直に嬉しいものだね。
効果としては、実質的にStr+120%と、攻撃威力上昇(大)だけである。わぁ短い。これは強いスキルだね。例によって例のごとく、俺のHPは1で固定されているのでした。捨て身系スキルと相性良すぎぃ。
あと、【狂蝕の烈攻】の僅かなデメリットであった、『発動中HP回復不可』という記述が無くなっている。回復してもどうせデメリットに引っ掛かるだけだから、ということだろうか。
なんにせよ、これで戦闘の選択肢が一つ広がることは確かだ。つまり、『蘇生石』の使用制限がなくなったのだ。スキル発動中でも、HP回復効果を伴う『蘇生石』を残機として数えることができる。俺、未だにHP回復と、【神樹の癒し】で使われる復活の違いが分からないんだけどね。下位互換と上位互換の関係なんだろうか。
「教えてクリアもん」
「……もぅしかたないなぁクノび太君は……てってててっててーてーてー……どこまでもドアー」
「…………。ごめん、俺が悪かったから解説してくれる?」
「……よろしい……でもぶっちゃけあなたの認識で正解……要するに奇跡の度合いが違うだけだから……死人を掘り起こすのにスコップを使うかショベルカーを使うかみたいな違い」
「その例えだと、どう考えてもスコップの方がよくね」
重機で仏を掘り返すんじゃねぇよ。っていうか、蘇生スキルって精霊さん的にはそういう認識なの? 俺今までどんだけ掘り返されてるんだ。めっちゃ死人になってる計算だけども。
「……これが……価値観の違い……!?」
「なんでそんな畏れ慄かれなきゃいけないの」
まあいいや。っていうか意外とノリがいいなこの銀髪。
最後は、【惨劇の茜攻】に代わる特殊効果スキル【破界の修羅】である。
【惨劇の茜攻】は【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】が揃って初めて機能する効果だったけど、おそらく【破界の修羅】は【賭身の猛攻】と【修羅転心】が揃うと機能する効果なのだろう。
【破界の修羅】SE
【賭身の猛攻】と【修羅転心】をそれぞれ消費MP1/2で同時発動
【賭身の猛攻】の効果時間を”戦闘終了まで”に変更
【賭身の猛攻】【修羅転心】のStr/Int上昇率1.3倍
"滅びの瘴気"に触れた敵のHPを無条件で減少させる
(接触中継続ダメージ、減少量は自身の基礎Strによる)
【修羅転心】が発動不可の場合、この効果は発揮されない
ということらしい。変わった所と言えば、【賭身の猛攻】に効果時間延長効果のみならず、ついにStr1.3倍効果まで追加されたことと、〝血色の瘴気〟が〝滅びの瘴気〟になったことか。
【賭身の猛攻】のStr上昇が+40%だから、1.3倍すると52%になる。また、【修羅転心】の120%を1.3倍すると、156%に……おい、いいのかこれめがっさ強いぞ。【破界の修羅】単体でStr+48%なんですけど。獣人王と一回戦っただけで、随分と戦力が増強されたものだ。もはやそこらのモンスターでは試し斬りにすらならない火力である。
……まあこれで満足はしないけど。極めるならとことん、それが男の浪漫である。
あー、楽しみだなぁ超越外装。
「……なんか……背筋が寒くなった……風邪かな」
「精霊も風邪とか引くのかよ」
「パトロアは偶に知恵熱出してるけど」
「あー、確かに馬鹿っぽい見た目だった気がする」
ウェーブがかかった青髪にアメジストの瞳をした、AI三姫。精霊さんの一人。声と胸がでかかった気がする。PvPトーナメントでの一回しか見たことないから記憶おぼろげだけど。
そういえば、クリアが俺の所まで来たということは、その次はパトロアがくるんだろうか。なるべくこっちから行ってあげるようにしよう。うん。なんだかクリアを見てから、精霊さんに親しみを覚えるようになったぜ。こんなのでも偉い存在なんだなーって。
「……なに」
「いや別に何も」
別に悪い意味じゃなくてね。いい意味で親近感湧くって言うかね! ……俺は一体誰に対して言い訳してるんだ。
「……じゃあ、そろそろ行く? ……次の王はレベル160だから」
「そういえば魔王って、レベルどのくらいなんだ?」
「……ん……魔王のレベル設定は……300……かな」
ホント他の王と別格ですね!
流石にいくら極振りと言えども、レベル300には今の俺ではどうあがいても勝ち目なさそう。せめてダブルスコアに持っていかないとな、うん。
―――
「吾輩の名は『吸血王ジェネシス』!」
「……吸血鬼の王……ジェネシス……ところで……今日のお菓子何?」
「今日はわらび餅である! ジャッジ様に頂いたのでな! ぬははは!」
「うちの父親とちょっと雰囲気似ててイラっとしました。【斬駆】」
―――
「―――■■■―――巨ガん■■――おウ■■―――タイたん」
「……巨岩王タイタン……人語は苦手なの……今日のお菓子は?」
「――――■黒ミ―――つ■■■ジャッジ様――■二いタダ■――いタ」
「タイたんってなんか可愛いな。【斬駆】」
―――
「クリアちゃん、誰なんだいこの人間は!? ボクという婚約者がありながら!?」
「……『妖精王オーベロン』……べつに婚約者じゃない……おい豚、今日のお菓子は?」
「ジャッジ様よりいただきました、抹茶羊羹なる至高の逸品でございますブヒー」
「ドMかよ! 【斬駆】!」
―――
「儂が『竜王ドラゴニア』じゃ。初めまして、じゃの。人間」
「……竜王ドラゴ」
「クリアちゃん、今日のお菓子は水饅頭じゃよ。そこの人間の思っている通りジャッジ様に頂いたものじゃ。今持ってくるからの。じゃから――――」
「普通の爺さん? まあいいや【斬」
「――――いきなり斬りかかるのはやめてもらってよいかの。お茶を入れ終わったら、この老骨などいくらでも煮るなり焼くなり切り刻むなりしなさい」
そういって、静かに奥へと歩いていく竜王。きしきしと少しだけ床板の軋む音がしたっきりで、それ以外の音は全く感じられない。
「……おう」
レベル190の『竜王ドラゴニア』の住まう地は、ごく普通の日本家屋だった。広大な森林の中にぽつんと一棟だけ建っている。周囲の樹勢に反して、家にはつた一本絡まっておらず丁寧に手入れがされているのが窺える。
その玄関口にて、クリアが勝手に引き戸を開けるや否や、まるで俺達が来ることが分かっていたみたいにぽつねんと目の前に立っていた竜王の爺さん。見た目は人間、普通の好々爺という感じなのだが、魔王を除けば最も強い王なのだと言う。
クリアの言葉を途中で遮り、俺の心中を読んでいるかのような言動と態度。そしてなにより、深い穴の底を覗きこんでいるかのようなあの瞳のありよう。
……強いかどうかで言えば、間違いなく強い。
今までの王は、最初の獣人王を除いて全て不意打ちの【斬駆】で倒してきた。クリアが『……面倒だからあなたが倒してからお菓子だけ全部持ってく』といって俺に不意打ちを推奨したせいだ。これこそ俺を調子に乗らせる行動な気がするけど、クリア的には気兼ねなくお菓子を漁れる方がいいんだとか。最低だなおい。お菓子大好きクリアちゃんが気持ちよくお菓子を強奪するために、王達はまるで収穫シーズンの稲のようにサクサクと刈られていくのだ。
なんかもうクリアに良いように使われている気もしてきたが、俺としても時間短縮は望むところだった。面白そうな相手が目の前に居るのに不意打ちで倒さざるを得ないのは業腹だが、経験値や『宝物庫』のアイテムは貰えるし効率はすこぶる良い。今の俺のレベルは95になってしまった。俺の楽しみのために、エリザを長く苦しませる訳にもいかないのだと自身に言い聞かせ、クリアに連れられるままサクサクとここまで進んできた次第である。
あとまあ、この程度の不意打ちにも対応できないなら、戦ってもあんまり楽しめないと思うし。
最初の獣人王を見ただけでも、王は普通のボスよりもHPが低く設定されていたし、戦闘に入ってからも隙が多すぎた。はっきり言って、戦闘を生業にしているとは考えづらかったのだ。じゃあなにをしてるんだと言われれば、普通に王様やってたんだろうけど。
それならあの微妙な弱さも納得である。獣人王の『最速』もいつの記録だか怪しいものだ、追い風参考記録とかじゃねぇの。
【形態変化・第三形態】の固有アーツである『魔力砲』や『死を運ぶ黒爪』も試してみたかったんだけど、出番が無かった。【斬駆】の一撃で終わっちゃうんだもの。
ともかくサクサク進んで、ここも同じようにやるのかと。ぶっちゃけ【斬駆】使うと家まっぷたつになるけどクリアさん直してくれますよねと。そんな風に思っていた矢先に、先の竜王である。
正直に言おう。出鼻をくじかれたね。
だからこうして、客間でクリアと並んで正座をしながら茶なんぞすすっている訳である。
二話分の文量ですが、前話でサクサク進むと言った手前、前半だけ投稿する訳にもいかなかった……。
『吸血王ジェネシス』
レベル160。裏地の赤い黒マントに燕尾服。ただし顔は髭面で強面のおっさん。自然回復スキルを豊富に持っていたが、クノの一撃の前では無力だった。
『巨岩王タイタン』
レベル170。ミスリルでできた白銀に輝く巨大なゴーレム。『ジャッジ様』以外の人語を話すのは苦手。防御力はピカイチだが、魔法防御の方が高かったので過剰に増強されたクノの一撃の前には無力だった。
『精霊王オーベロン』
レベル180。長い金髪を垂らした凛々しい顔のドM。魔法攻撃が得意だが撃たれ弱いので、クノの一撃の前には無力だった。
王達は一応封印されている身なので、HPや各種ステータスにマイナス補正がかかっています。全盛期なら主人公といい勝負ができたはず。
【修羅転心】変化条件:
①【惨劇の茜攻】取得から、【狂蝕の烈攻】を外さずに50レベル経過
②基礎Str3000以上