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第百五十六話 隠しエリアのお話

 アドルミットの試練を越え、第七の街『エレラケイン』へと辿り着いた俺。

 いつものように中央広場に転移すると、目の前にはふわふわと空中に浮かぶ銀髪の少女がいた。

 何故か体育座り。服装はなんか、黒いローブだ。魔法使いが着るような、丈のなっがいやつ。


「ねぇ……そろそろ……クリアのとこにも……きてほしいな……?」


 少女はなぜか少し落ち込んでいた。

 俺は突然のことに反応できず、しばし固まる。クリア……その名前、どっかで聞いたことがあるぞ。

 えーと、あの、あれだ……

 最近エリザ絡みでドタバタしていたせいか、いまいち思いだせない。もう喉元にまで出かかってるんだけど……


 俺が考え込んでいる間にも、ふわふわと浮遊しているクリア。

 しかしこちらから何のアクションも無いのが心配になったのか、徐々にもじもじとし始めた。なにやら恥ずかしいのか、顔も赤い。


「……あの……なんか言ってくれないと……困る」


 困るらしい。

 仕方が無いので、俺は思いだすのを諦めて本人に直接尋ねることにした。


「あの、悪いんだけどさ。あんた、誰だ?」

「……がーん」


 口でがーんって言うやつ、フレイ以外で初めて見た。

 愕然とした顔についで、今度はわたわたと慌てだすクリア。体育座りが解けて、両手がちょこまかと振られる。


 それにしてもこの少女、空中に浮いてる事と言い、俺より先に第七の街に居ることといい。並みのプレイヤーでないらしい。というか、本当にプレイヤーか? この雰囲気、どちらかというとジャッジさんのような、って。


「……わたしは……あの……クリアで……チョコのやつ……本当に、心当たりがない? ……あれ……人違い?」

「あっ、クリアってあれか! AI三姫の!」


 おもわずびしぃと指さししてしまう。喉元につっかえていたものが取れて、すっきり。


「……うん……今はそう呼ばれてる……情報と支配を司る精霊……クリア、です」

「はぁー、あんたがねぇ。ジャッジさんよりちょっと大きいな……」


 そういえばAI三姫のもう一人、いつだかのPvP大会で司会をやっていたパトロアは普通に大人サイズだった。どうやらこの中ではジャッジさんがもっとも小さいらしい。流石ジャッジさん、プリティだね。


「それで、そのクリアが俺に何の用だ……いや、待てよ。ジャッジさんと同列の存在ということは、この世界や魔王についても正確に把握しているのか。それでこのタイミングに俺と接触してきたということは……何か、俺が聞いておいた方が良い情報があるのか?」


 情報と支配を司る精霊、らしいし。どんな話がでてくるのか見当もつかないが、ここは真面目にやっといた方がよさそうだ。そうと決まれば、こんな所で立ち(?)話も何だし、どこか落ち着いて話せる所に移ったほうが良いかもしれないが、


「……はずれ」

「違うのかよ」


 折角心の準備もしたのに。違うらしい。

 じゃあ、なんだってんだ? そういえば、以前フレイが言っていたのを思い出す。クリアは絶対に表にでてこない、超絶レアキャラだと。VR内で実際に会ったプレイヤーは今のところ存在しないと。

 そんな引き篭もり体質が、わざわざ俺に会いにくる理由とは一体。


「……あなた……チョコ……もってるでしょ」

「チョコ?」

「……バレンタインの……わたしの……チョコ。すっごいドロップ率低くしたのに……」

「ああ! あのミニイベント発生の!」


 そういえば! AI三姫の分だけでもイベントを見ておこうと思って、それからジャッジさんに衝撃のカミングアウトをされたりなんか色々あったから、残りの二人のことは完全に頭から抜け落ちていた。

 ということは、これが件のミニイベント? でも俺は今、ボス戦の後だからチョコなんて持ってないんだが。インベントリの中は、大量の『《邪具》黒蓮・魔式』で埋め尽くされていて、戦闘に必要ないものなんて入っていない。


 しかし、話を聞くとどうやら違うらしく。


「……いつまで待ってもあなたがこないから……仕方なく……そう……仕方なく、わたしが出向いてあげたの……」


 ということらしい。

 ドロップ率を低くしたという割には、案外プレイヤーと会うのを楽しみにしていたらしい。ボッチ度としては中堅クラスといったところか。いや、実際に会いにきちゃうことを考えると、その中でも下の下だな。絶対にプレイヤーの前に姿を現さない幻のボッチだと聞いていたのに……がっかりだよ。


「……ボッチじゃ……ないもん」


 あ、聞こえてた? ごめんなさい。

 凍てつくようなアイスブルーのジト目。正反対の色なのに、なぜかエリザと同じ雰囲気を感じた。

 途端に、なんか優しくしてやろうという気になるから不思議。


「なんか、ごめんな。じゃああれだ、今からギルドハウスに行ってチョコ取って来るから。それでもう一回指定の場所に行くから、そこでゆっくりと話でも……」

「……その必要はない」


 パチン、とクリアが指を鳴らす。

 すると空中に忽然と現れたのは、真っ黒な包装の、小さな立方体。同じく黒のリボンで飾りつけをしてある。


「……チョコならここにあるから」


 おお、流石運営サイドの精霊様。便利だ。超便利だ。

 その便利さを生かして、魔王戦でも手助けしてくれたらいいのに。

 まあ色々制限があるらしくて、ジャッジさんにも支援は断られてるけど。


 チョコはそのまま空中で静止して、


 パチン、というクリアの指パッチンと共に、爆発四散した。

 それはもう、粉々になってどこからか吹いた風に流されていった。


「……ええぇ!?」

「……お役御免……そもそも中身なんて入ってないし」

「身も蓋もねぇな」


 そういえばジャッジさんのチョコも、開封できなかったような。なんだろう、大人の汚い一面を見せられているようだ。まったく、夢もキボーもありゃしない。


「……それじゃあ……いこっか」

「行く? どこに?」


 ふわふわと空中を移動開始したクリアは、そのまま俺に近づいてくると、


「……モンスターがいっぱいいる所」


 そういって、俺の頭を思いっきりぶっ叩いた。




 ―――




 最初に感じたのは、軽やかに吹き抜ける風の感触。

 続いて目に入ったのは、俺の身の丈を超す大きさの、古びた石碑だった。

 辺りを見回すと、地面は一面青々とした芝生。それは思いのほか近くで途切れていて、そこから先にあるのは空の青……石碑を中心として五十メートルくらいを境に、地面が無かった。

 なにここ空中なの? 浮遊島? 


 というか、一番の疑問はまず。


「なんで頭をひっぱたかれなきゃいかんのだ……」

「……待たされた恨み……的な」

「的なってなんだよ。そんなふわっとした理由で人に暴力を振るっちゃいけません」

「……じゃあ……恨み、です。怨恨、断言」


 いかにも呪いとかかけて来そうな格好の奴が言うと、流石に迫力がある。

 どうでもいいけどこの子、ヤンデレとかすげぇ似合いそう。


「それもそれで怖いけど!」

「……ふふん」

「なんだその勝ち誇った顔は……」

「……ドヤ顔……パトロアに教えてもらった……」


 ドヤ顔ならうちのエリザの方が一万倍可愛い。出直してきやがれ。

 と言いたいところだが、そこを掘り下げても何の生産性もないので、次の質問に移る。


「……まあいい。で、ここはどこだ」

「……王の石碑……の管理場所……ジャッジ様に言われて……わたしのチョコを入手した人を……連れていってあげなさいって」

「石碑? これのことか」


 目の前の、苔むした石碑を指さす。よく見ると、かすれた文字で何やら刻まれていることが分かる。これは……なんだ、読めん。たぶん、異世界の本来の言語なのだろう。翻訳機能とかつけとけよ。

 おそらくだが、五つの単語が刻まれている。


「……そう……一度は地上に栄華を誇った……五人の王へと繋がる門」

「隠しエリアってことか?」


 いかにも裏ボスというか、やりこみ要素臭がする。


「……今は隠居している彼らの元へ……遊びに行ける……多分歓迎してくれる……お茶菓子いっぱい」

「なにそれアットホーム」


 え? 本当に遊びにいくだけ? というかそれ、クリアがお菓子食べたいだけとかじゃなくて?

 いつの間にかでていたよだれを、ローブの袖でふきふきするクリア。ばっちい。そして、なんて人間臭い……いや、そういえばパトロアもやたら俗っぽいテンションだった気がする。

 つまりジャッジさんが特別ということか……なら仕方ないね。


「……あと、彼らと戦えば……魔王と戦う準備にもなるって……ジャッジ様が」

「あ、本当に遊びに行くだけじゃないのか。よかった」


 そうか、ジャッジさんの手引きか。気が利く妖精さんだぜ。伊達にちっちゃくないな!


「……わたしは……付き添いで……お菓子食べてるから……」

「あ、そう……いや、連れていってもらえるだけでも有り難いか」


 うん。突然降ってわいたクリアによる隠しエリア訪問だが、これは今まで以上に強くなるチャンスだ。この機を逃さず、確実に自身を強化して一刻も早く魔王へと至らなくてはな。


「……それじゃあ早速一人目……いっとく?」

「ああ。……ちなみに、その一人目の王様のレベルっていくつくらい?」


 ふよふよと石碑に近づいて、その一番下に刻まれていた単語を指でなぞるクリア。

 文字が光輝き、その光はだんだんと強く、俺達を覆い尽すほどに成長していく。


 クリアがふよっと振り向いて、答えた。



「……『獣人王ウルベリィ』は……あなたに分かりやすく言うと……150くらい?」



 その言葉には、全く邪気が無かった。


 ……俺、レベル89なんですけど……。

 ジャッジさん……流石に無茶振り過ぎませんかねー。


 これ、あっさり負けちゃっても再戦とかできるのだろうか。そこまで目の前の銀髪は面倒を見てくれるのだろうか。


 そんなことを思いながら、俺は転移の光に呑まれた。




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