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第百五十五話 試練のお話④

 今しがた倒した自分自身を見て、俺は呟く。


「俺を真似するなら最低限、目を瞑っていても【死返し】は使えるようにするべきだったな。所詮、パチモンはパチモンか。まったく、前回苦戦したのがアホらしいわ」


 とはいえ前回の情報があったから、今回楽を出来たのも事実だ。

 前回の感触から、俺はパチモンの弱点を四つほど発見していた。


 まず一つ目。これはまあ発見ではないのだが、蘇生石が使えないこと。俺とパチモンでは、残機数に一つ差が生まれる。単純に削り合えば、まずまちがいなく勝てる相手なのだ。

 二つ目は、『偽腕』を使いこなせていないこと。やつの『偽腕』の使い方を見ていると、そもそも全て使いきっているようには見えず、何本かはまったく暇をしていたのだ。

 三つ目は、複撃統合の限界が三十本であること。こちらが先に五十本をだせば、それだけで優位に立てる。

 そして最後は、【死返し】を使いこなせていないことだ。前回の最後に、パチモンは俺が背後に転移したのを分かっていながら、【死返し】ではなく自ら迎撃しようとした。反応速度でいうと間に合うはずもないため、これは愚中の愚といっていい。

 にもかかわらずそれをしたということは、それ以外にとるべき行動がなく、【死返し】を使いこなせていないという証左にほかならないのだ。


 おそらくパチモンは、感知能力を視界に頼り過ぎているのだろう。『偽腕』の使い方にしても、自らの死角になる後方や、『偽腕』が密集して見えづらくなると、途端に動きが悪くなっていた。

 だから、背後からの攻撃に【死返し】を合わせることができなかった。……【危機把握】さえあれば、難しいことではないと思うんだけどなぁ。

 残念スペックなコピーだこと。神様っぽいのめ、偉そうにしやがって。


 ボス撃破のファンファーレが鳴り響き、続いてポーンとお知らせ音。

 メニューを開くと、どうやらレベルが87にあがって、更に称号を獲得したみたいだ。

 86になりたてで試練に挑んだはずなんだが……もしかしてあのパチモン、めちゃくちゃ経験値効率いい?


 これはボス回しが捗るな……とほくそ笑みながら(内心)、称号の方も確認する。


『称号〝超越者〟を獲得しました』


 〝超越者〟

 全ての基礎ステータス上昇+5%

 最大HP/MP上昇+30%

【超越外装】への適正付与


「……【超越外装】?」


 思わず、首を傾げる。

 適正付与とか言われても、そんな単語初めて聞いたぞおい。

 ……ひょっとしてこれもスト―リ―を進めてない弊害だったりするのだろうか。やだ怖い。


「今はまだ、気にしなくていいと思いますョ。うん、ええ……」


 いつの間にかアドルミットが目の前にいた。引きつった笑みを浮かべている。


「今はまだ?」

「ああうん、そのうちレベルが上がればクノ君なら手に入れられると思います、ええ」

「なんで敬語なんだよ……」

「だって怖いんだもんクノ君……」


 怖いって、あんた本当に神様なのか。まあアドルミットの口調なんてどうでもいいから流すけど。

 それよりあれか、つまりこの適正付与というのは、いずれ手に入るであろう強力なアイテムないしスキルの取り扱い資格みたいなもんか。【超越外装】……名前からしてもう凄そうだが、はたして魔王を殺すためにどれだけ役に立ってくれるのだろう。


「その通り。まあクノ君なら普通に攻略を進めていれば手に入ると思うし、その時まで気にしなくていいよ」

「ふぅん……じゃあそうするけど」


 一番事情に詳しそうな奴がこう言ってるんだし、従っておくことにするか。

 アドルミットに頷いて、それから俺は周囲を見回す。

 ……あれ? ないな。


「何を探してるのかな?」

「次の街へのゲート。試練終わったし、出てくると思ったんだけど……無いな」

「まあまあそう焦らないでよ」


 眉根を寄せてアドルミットを見ると、彼は凄く曖昧な笑みを浮かべていた。まるでやりたくないことを規則だからとしゃくし定規に行わなければいけない、疲れ切った大人のような顔だ。ああはなりたくない。


「ゲートは僕が出すけど、その前に君に渡しておかなければならない特典があるんだ」


 今にもため息をつきそうになりながら、アドルミットはなんとか笑顔で話を続ける。

 なんなの? なにがそんなに気が進まないの?

 思わず小さく舌打ちをすると、びくっとなったアドルミットが、やや早口で告げた。


「試練を乗り越えし者だけに許された強力な力――――そう、君だけのユニークスキルだよ」




 ―――




 ユニークスキル。


 いわく、そのプレイヤーのこれまでのこの世界での行動に応じて、自動的に生成される強力なスキルのことらしい。まったく同一の行動をしていない限り、似たような効果や名前になることはあれど、完全に同じものは生成されないのだとか。ゆえに、ユニークスキルという。


 アドルミットの試練を乗り越えると、スキル枠が一つ増えて、その増えた枠にこのユニークスキルが収まる仕組みになっている。

 そういえば関係ないけど、俺のスキル枠って一つ空いてたな。スキルリングαを前のイベントの賞品として獲得したお陰だ。早いとこそこを埋めるスキルも見繕いたいものだな。


「それじゃあ、君にユニークスキルを発現させよう……」


 神妙な顔でアドルミットが言って、その次の瞬間ポーンという間抜けな電子音。

 雰囲気もクソもない仕様だなぁ……。


「ん、これでいいかな。君のユニークスキルは……」


 とアドルミットが俺の瞳の奥を見透かすように、じっと眼を見てきて、次の瞬間大きくのけぞった。

 おいこら、のけぞりたいのはむしろ俺の方だから。急に野郎の顔を至近距離に出された俺の気持ちにもなれよ。


 だが彼はそんなことお構いなしのようで、のけぞった体勢から戻って来ると、目を見開いて声を絞り出すように叫んだ。


「魔王のスキルじゃないか!」

「……はい?」


「オーマイガッ!」と神様なのに顔に手を当てている馬鹿は放っておいて、俺もそのユニークスキルとやらを見てみる。


『ユニークスキル【形態変化メタモルフォーゼ】を獲得しました』


形態変化メタモルフォーゼUSユニークスキル/PS

 戦闘中に自身のHPが2/3より多い場合、【第一形態】の効果が適用される

 戦闘中に自身のHPが2/3以下になった場合、【第二形態】の効果が適用される

 戦闘中に自身のHPが1/3以下になった場合、【第三形態】の効果が適用される

 戦闘中に自身のHPが0になった場合、【最終形態】の効果が適用される

 上記スキルの適用は戦闘中1回のみ

 また上記のスキルは戦闘終了時に適用が解除される


 ええっと、変身スキル?

 どうやらこのスキルの更に下に四つほどスキルが有るようで、それぞれのスキル名をタップしてみる。


【第一形態】EX(エクストラ)/PS

 全ステータス上昇+5%

 最大MP上昇+10%

【第二形態】【第三形態】【最終形態】のいずれかの効果が適用された場合、その戦闘中このスキルは適用されない


【第二形態】EX/PS

 全ステータス上昇+15%

 最大MP上昇+20%

 このスキルの効果が適用された瞬間、MPを最大値まで回復する

【第三形態】【最終形態】のいずれかの効果が適用された場合、その戦闘中このスキルは適用されない

 固有アーツ『魔力砲』発動可能


【第三形態】EX/PS

 全ステータス上昇+30%

 最大MP上昇+35%

 このスキルの効果が適用された瞬間、MPを最大値まで回復する

【最終形態】の効果が適用された場合、その戦闘中このスキルは適用されない

 固有アーツ『魔力砲』『死を運ぶ黒爪』発動可能


【最終形態】EX/PS

 全ステータス上昇+45%

 最大MP上昇+50%

 このスキルの効果が適用された瞬間、HP/MP全快で復活する

 固有アーツ『魔力砲』『死を運ぶ黒爪』『夜纏の翼』発動可能



 ……これは。


「魔王のスキルって、ああ、なるほど」

「わかってもらえたかい?」


 無駄に豪華で高い天井を仰いでいたアドルミットが、聞いてくる。


「まあうん。そうだな」


 段階的に強くなるスキル……それどこのゲームの魔王だよ。

 ていうかよく読むと、これ俺が使ったら最初から第三形態なんだけど。いいのそれ? ねぇ?

 つーか残機がまた増えてるし。やったね。


「実は僕、そのスキルを過去に一度だけ見たことがあるんだ」

「ユニークスキルって、被らないんじゃなかったのかよ」

「それはそれ、遥か大昔の話だよ。今はもう討滅された……もっとも魔の王に相応しかった、初代魔王と呼ばれた存在がもっていたスキルさ。あれは手ごわかったよ。思わず僕が自分で手を下してしまったからね……」


 昔を思い出すように語るアドルミット。

 魔王って、やっぱ初代とかいるのか。

 ……そういえば、これはまだ聞いてなかったな。


「なあ神様。そもそも魔王って、一体なんなんだ? この世界の力ある存在は、精霊と神と魔神って言ってたよな。じゃあ魔王は、力がない存在なのか?」

「いや、そういうわけではないけど……そもそも魔王は、この世界の存在じゃないからね。ああ勿論、この世界と言ってもゲームの中のことを指している訳じゃあない。正真正銘、僕が……僕の『本物』がいる世界のことだ」


 ……なんだ、やっぱりこの神様は自分がどういう存在なのか理解していたようだ。

 そういえば、同じ力のある存在として精霊が上がったが、あれはジャッジさん達AI三姫と呼ばれる存在のことだ。有る程度以上の力があると、自覚的にこのゲームの中の世界で過ごせるということなのだろう。

 自分がどうしようもなく偽物だと知っているというのは、どういう気分なのだろうか。聞いてみたい気もするが、流石に配慮に欠けるのだろうからやめておく。

 かわりに、アドルミットの言葉に静かに耳を傾けた。


「魔王っていうのはね、世界の外側からくる侵略者みたいなものなんだ。まあ宇宙空間を飛んでくるんじゃなくて、無数に存在する世界群の一つから、時間と空間を割って僕達の世界にやってくるんだけど」


 それなんてSF。ファンタジーなのかSFなのかはっきりしろよ世界観。


「彼らがどうしてこの世界にやってくるのかは、実はわからない。もしかしたら偶然次元の裂け目に落っこちちゃって、偶然僕達の世界にやってきて、それで帰る手段がないから自棄になって世界征服をたくらんでいるのかもしれない。あるいは本来魔王とよばれるべき、偶然別の世界からやってきたモノはたくさんいて、その中のごく少数が一旗揚げようと魔王と呼ばれるに相応しい存在になったのかもしれない」

「やけに具体的な予想だな」

「伊達に神様じゃないからね、僕も。もしかしたら、とは言ってるけど実際このどっちかなんじゃないかなーって思ってる。でも、たとえ彼らがそういう同情の余地のある存在だったとしても、僕達の世界に害を与えるのならば、排除しなくてはいけない。まあ、実際にやるのは実害を受ける人間諸君だけどね」

「……なるほど」


 魔王というのも、なんだその、結構人間っぽかったりするのかもしれない。


 まあそれはそれとして、エリザに呪いをかけたクソ野郎は存在の欠片も残さない程ブチ殺すけど。


「それで初代魔王はねぇ、いや本当にその後にでてきた魔王と比べても別格で強かったんだよ。その時は勇者召喚魔法なんてのもなかったから、あやうく人間が絶滅しそうになってね。いやぁ、あの頃は本当に大変だったなぁ……」


 結局、アドルミットの老人臭い昔語りがやたら長引き、俺が次の街へのゲートを出してもらえたのは、昼過ぎのことだった。朝から挑んで、一分で試練を片づけて、それから三時間以上話に付き合わされるとか、訳がわからない。最後の方とかアドルミットがいかに今現在暇な身であるかの愚痴だったし。

 知らねーよそんなこと。ボスの初撃破報酬がやっぱりもらえるみたいだったので、その一覧を眺めながらそれでも静かに聞いてやった俺はまじ善人。ちなみに報酬は紅砕の霊薬にした。


 つまらん話に付き合わされた対価として、パチモン五体と連戦させてもらう権利を得た。レベルが2あがって89になった。どうやら一番最初のパチモンは、経験値に特殊な補正がかかっていたらしい。補正を抜いてもやっぱり美味しいので、しばらく通うことになりそうだとアドルミットに告げて、俺は第七の街『エレラケイン』へと足を踏み入れた。



 そしてそこで、一人の少女と出会う。



「ねぇ……そろそろ……クリアのとこにも……きてほしいな……?」


 膝をぎゅうっと抱えた、所謂体育座りのまま空中に浮かぶ銀髪のちんまい少女は、なんだかちょっと落ち込んでいた。



〝超越者〟:取得条件:アドルミットの試練【紫】をソロでクリアする



そういえばどこにも載せてなかったかもしれないアイテム情報

『紅砕の霊薬』 

 Str+300% 与えるダメージ1.2倍 相手物理防御力-50%

 効果時間:60秒間

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