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第十六話 装備と土曜日のお話

 


「クノ、これ」


 作戦会議が終わった後。カウンターに座っているとエリザが強化し終わった装備を渡してくれた。

 いつものことながら仕事早いよなー。


「多少数値が強化されてるわ。弐式には至ってはいないけれど」

「おぉー……ありがとな、エリザ」


 心からの感謝をこめ、目を見てちゃんとお礼を言う。 

 こういうところはきちっとしとかないとな。


「……不思議ね。何も伝わってくる気がしないわ」

「え」


 そんな……俺の誠心誠意が、伝わってこないだと?


「すまん、俺としては心からの感謝をこめて真面目に言ったつもりなんだが」

「どうも貴方は感情を表に出すのが苦手なんじゃないかしら?なんというか、特にその“目”のおかげでいろいろだいなしになってる気がするわ」

「目?」


 最近よく言われるんだが、俺の目がどうしたってんだ?


「いつでも変わらず、こちらを見透かすような底が見えない……それでいてガラス玉みたいな目」

「綺麗とかそういうニュアンスなのか?」

「死んだイカの目とは言わないだけ感謝なさい?」

「それは感謝するようなことなのか!?」


 てか死んだイカって……どんだけ虚ろさを強調したいんだよ、おい。

 そんなに酷いか、俺の目は!?


「まぁ、いいのだけれども。それが貴方なんでしょうし、貴方がどんな人かというのも……分かっているつもりよ」

「はぁ、そうか」

「気にしないでいいわよ。貴方は、貴方だから。ね?」

「うん、まぁ、有難う?」


 なんか良く分からないとこで慰められたんだが。

 途中フォローらしきものが入った気がするが、結局目が死んでるっていわれただけじゃないか、これ?

 失礼だな、おい。そんなことないと思うんだけどなぁ。……ない、ハズ。


「あ、後、感謝の気持ちが伝わってこないっていうのは、冗談よ。流石にそこまでじゃないわ。ただ少し、からかってみただけ」

「冗談かよ、わかりずらいわ!」


 うんまぁ、本気でこっちの感謝が伝わってないんだとしたら、それはそれで俺の今後の人生におおいに関わってくるから、ちょっと安心したんだけど。


 まぁ、いいや。切り替えよう。

 それよりも装備詳細の方を見てみるか。剣も服も、見た目変わった所は見当たらないな。

 剣は装備状態にし、防具の方はすぐに着替えてしまう。体が一瞬光って、着替え完了だ。

 《equip》を見てみると、


「黒蓮・壱式改」(長剣) Str+215

「黒百合・壱式改」(inner~others)合計Str+93

「黒百合・付」(アクセサリ) Str上昇+10%


 大分上がってんなぁ。多少じゃないだろ……黒蓮の方は140→215、黒百合は55→93か。

 しかし、壱式改て……素直に弐式じゃ駄目だったのかよ。いや、俺が文句いえることじゃないけども。

 そんな俺の心の声を感じたのか、エリザは言う。


「ちなみに弐式にはStr+350はないとシフトしないわ。ま、まぁ、名前は気にしないで頂戴。黒い装備を作るときは、少しテンションが上がってしまうのよ……」

「さいですか。りょーかい」


 若干後悔しているような顔で、少し赤くなるエリザ。

 エリザの中にもルールみたいなものがあるんだろうな。細かい数値まで……

 俺はそれよりも、気になっていたことを聞く。


「そういえば第二の街のボスってどんなのだった?」

「攻略wikiを見た方が早いわよ」

「いや、こういうのは実際の体験談が役に立つものだろ?」

「よく言うわね。なんだかんだ言って結局力押しのくせに」

「それはそうなんだけどな……」


 むぅ。否定はできないが、その力押しだってかなり厳しい条件の下で成り立ってるんだよ。

 特に相手の攻撃は一回くらったらもう後がないし。まぁ、そのへんはいろんなゲームでも同じような条件でやってきたプロ(自称)だし、リアル準拠の技術も、【危機察知】もあるからいいんだが。

それでもやっぱ、速度が足りない、動き回れないってのはきついよなぁ。普通に回避も間に合わない事が多いし。


「でも、wikiを見た方が良いのは事実よ。第二のボスはカリンが攻略情報を編集したから。それに私は後方支援で、貴方とは役割が違うしね」

「へぇ、カリンがねぇ」


 そうなのか。それを聞くと、うちってやっぱ攻略組と呼ばれるようなギルドなんだなぁって思う。かなり前線にいるのは事実だし、この人数にしては凄いことだろう。俺はそも数に入ってないようなもんだし。

 後、ちらっと覗いてみたらなんかファンクラブ的なものも掲示板で出来上がってるみたいだしな……まぁ、女性陣は皆美少女(しかも違和感なしの)だからなぁ、必然とも言えるだろう。


 ……そういえば皆のレベルって今いくつくらいなんだろ?

 気になったのでちょっと話を中断してギルドメニューを見てみる。


 GM(ギルドマスター)

 カリン Lv43


 SbMサブマスター

 ノエル Lv37


 フレイ Lv38

 エリザ Lv36

 リッカ Lv38

 クノ  Lv34


 ……あれ?俺まさかのギルド内最底辺?


 生産系職人のエリザにすら負けてるって、おい。

 いやまぁ、ブラウグリズリーはボスとは言っても所詮は格下だし、レベルが上がりずらいんだろうけど、なんかショックだわ。

 ってかカリンはまた一人なんかレベル高いし……確か第三の街のボスの適正レベルが45だったけ?これをみるかぎり攻略にはまだもう少し時間がかかりそうだな。

 まぁ、いいや。なるべく早く第二のボスを倒して、なんとか追いつこう。


「・・・頑張ります」

「?何が?ボスかしら?」

「いや、なんか全体的に」

「そう」

「おーいクノさん、エリザさん!私たちそろそろ落ちますけどー?」

「あ、じゃあ俺も」

「私もそうしようかしら」


 ということで俺達はぞろぞろと二階に上がって、自分の部屋でログアウトをした。

 ドアの前にはもうネームプレートがかかっていた……全ての街のギルドホームにかけておくつもりなのかな?



 ―――



 翌日の土曜日、御崎邸にて。

 時刻はお昼前だ。そろそろお腹減ったな……


「九乃さん、いよいよ明日は対抗戦ですねぇ!」

「だなー」

「もー、テンション低いんじゃないですかぁ?えいっ、このこのー!」

「今からそのテンションの高さはないと思うんだ」


 玲花の部屋のソファーに座って、メイドさんの淹れてくれた紅茶を頂いていると、そわそわと歩きまわっていた玲花が隣にバフッ!と勢いよく座ってくる。

 反動で揺れるソファー。


「ちょっ!零れるから!やめい」

「あ、すいません」

「まったく。ここお前の部屋なんだから、困るのお前……じゃなかった、メイドさんだな」

「……ですねぇ」


 しかもこの屋敷、こんな広いのにメイドさんが三人と料理長しかいないとか。過労で倒れたりしないのかな?あの三つ子メイドさん達は。


「その心配は不要で御座います」

「ん?ああ、メイドさん」


 ちなみにメイドさんは三つ子で、ほとんど見分けがつかない。雰囲気でなんとなくわかりはするけど、そもそも名前知らないし、区別する必要もないと言われたので呼び方は三人共メイドさんで統一している。


「はい。わたくし共はそれぞれの得意分野を分担しておりますので。一人でおよそ5人分の働きを期待されてよろしいかと」

「へぇー。じゃあ実質15人分?流石だな、メイドさん達」

「いえ、それほどでも。お褒めに預かり恐縮です」

「メイドさんは謙虚だな」

「九乃さん」

「ん?どうした?」


 玲花がすこしびっくりした感じの声で呼びかけてくる。


「九乃さんって、メイドさん達の神出鬼没ぶりには全く動じませんよね。私なんか最初のころはもの凄い驚きようだったんですよ?いつの間にか後ろにいるんですよ?」

「ああ、だってメイドさんだもん。なぁ?」

「そうで御座いますね。その解釈で正しいかと」


 メイドさんが神出鬼没なのは、当たり前のことだ。玲花は何をいまさら言っているんだろうな。


「ずれてる……絶対なんかおかしいですよぅ。カリンさんの時はびっくりするのに」

「カリンはメイドじゃないだろ?」

「……そーですねぇー」


 玲花はぐでー、とソファーの背もたれに体を預ける。どうかしたんだろうか?最近冷え込んできたから体が重くなってきてるのかな?


「そういえばメイドさんはどうしてここにきたの?なんか要件があったんじゃ?」

「そうで御座いました。……そろそろ昼食なので、食堂にいらっしゃるようにと、料理長から」

「そっか、じゃあ行くか。ちなみに今日は?」

「掃除の手伝いです」

「ういうい。玲花ー、いくぞー」

「はぁい」


 俺が玲花に声をかけている隙に、メイドさんは姿を消していた。流石だなー。


「お昼食べ終わったら最終調整のためにログインですよ~」

「だな。第二のボスでもさくっと倒しにいくか」


 食堂への道すがら。『IWO』の話をする。

 朝のうちにボスの情報は仕入れておいたし。カリン編集のまとめは結構見やすかった。あれを見る限り俺との相性は悪そうだったから、さくっとは無理かな……

 ちなみに今日は明日のイベントのため、12:00~20:00までしかログインできない。例の加速装置?の導入のためだそうだ。


「調整って言いましたよ!?なんでそんなハードなコトしようとしてます!?自重してください」

「うん。流石にさくっとは無理そうだわ」

「倒しに行くのを諦めてください!」


 でもなー。俺だけまだ第三の街に入れないんだよなぁ。

 まぁそこまで言うなら諦めるけども。対抗戦終わったら倒しに行くことにしようか。


「はいよ。じゃあ新しいスキルの使い心地とか確かめて、後はゆっくりするか」

「ですかね。耐久値の回復とか、アイテムの補充とかしなきゃですし」


 と、食堂に到着。テーブルにはすでに肉のソースがけやら魚の切り身やら野菜とスープやらの料理が置かれていた。料理の名前?知るか。流石お金持ちは普段の食事から凄いよなぁ。

 そして一番上座に当たる部分には、玲花の父親、御崎清十郎が座っていた。


「清十郎さん、お久しぶりです」


 ぺこりと、腰から頭を下げる。


「やぁ、九乃君。久しぶりだね。すまないな、せっかく来てくれても顔を出すこともままならなくて」

「いえ。清十郎さんは御多忙の身ですから、俺のことは御気にかけてくださらずとも結構ですよ」

「そんな訳にもいかないさ。なんせ、娘の“命の恩人”なんだから」


 命の恩人ねぇ……そんなつもりはないんだけど。

 ちなみにこれは半年前のある事件についてのことなんだが、あれはホントにくだらないものだったし。


「大げさですよ。それにもう半年以上前のことですし、お礼も頂いています。あ、そうだ、『Innocent World Online』も、楽しくプレイさせて貰っています。有難うございました」

「そうかね、なら良かったのだが。あのゲームは玲花の一押しのものでな、是非これをプレゼントしましょうと猛プッシュされたものだったんだよ。気に入ってくれたようでなによりだ」

「そうだったんですか」


 へぇ。肝心なところで自分の意見が弱いあの玲花が猛プッシュ……なんか意外だ。だから清十郎さんから貰ったのかと聞いた時に若干歯切れが悪そうだったのかな?


「すいません、私の判断で決めてしまって。カリンさん達もやるそうだったので、どうせなら九乃さんも一緒に、と。やっぱり九乃さんの希望をとった方が、」

「いや、謝ることじゃないだろ。MMORPGはしばらくやってなかったから、良い機会だったよ。ありがとな、玲花」


 実に一年近くぶりだったな。今年に入ってからはPvPメインの格ゲー系にハマってたから、10カ月ぶりか?


「そういって貰えると嬉しいですけど」


 玲花は少し恥ずかしそうに微笑む。


「それより明日はイベントなんだし、さっさと食べ終えてログインしないとじゃないか?」

「ですね。あ、でも九乃さんは恒例の……」

「今日は掃除だから、得意分野だ。玲花は先にログインしといてくれ」

「りょーかいです。時間内にはきてくださいよ~?」

「ういうい」


 恒例の……とは、今俺が食べている昼食の事だ。

 これらはびっくりするほどの値段がする。そしてそれを平然と食べれるほど俺の肝は太くないんだよ。

 という訳で自分の中で正当化するために、俺はいつもメイドさん達の手伝いをさせてもらってるんだ。まぁ、それで対価を支払えるかというとそれも微妙なとこなんだが。


 メイドさん達はスパルタなので、俺の家事スキルはどんどん上がっていった。今ではこの屋敷の管理の一端を担えるほどだ。担えてどうすんだって感じだけども。

 もっとも料理だけは料理長に手伝わせてもらえないため、上達しないが。俺そんなに料理得意じゃないしなぁ。


 一回本気でこの屋敷に就職しないかと誘われたが、学生だからと断った。流石にそれはまずいだろう。


 今日は掃除だから、メイドさん(掃除担当)と協力すれば3時間弱で終わるかな?メイドさん一人だと4時間ほどかかるらしいから、俺による時間短縮はおよそ一時間。メイドさんぱないっす。

 その一時間はメイドさん(掃除担当)の休憩時間に充てられるのだ。

 そのせいで俺が屋敷を訪れると裏でひそかにメイドさんが睨みを利かせ合っているご様子。結局誰の手伝いをするかはじゃんけんで決めるらしいけどな。


「今日もおいしーです」

「だなぁ。料理長さん流石としか言いようがない」

「うむ。うちの自慢でもある」



 ―――



 御崎邸から帰ると、パソコンにメールが届いていた。送り主は、姫。

『IWO』の前にやっていたVRMMOPRGで出会った人で、今もちょくちょく連絡は取り合っている。姫も『IWO』をやってるらしいが、残念ながらまだゲーム内で会ったことはないんだよな。

『IWO』やってるってわかったのが丁度熊ラッシュの最中だったためだ。ちなみに当たり前のようにβテスターだった。


 文面は、っと。


 “お久しぶりですわ、クノ。

 明日は『IWO』でギルド対抗戦がありますわね。

 クノも参加しますの?返信待ってますわ。”


 相変わらずこてこてのお嬢様口調だな~。むしろこれ見ると安心感さえおぼえるよ。


 “出るよ

 花鳥風月ってギルド。姫の方は?”


 返信。

 返事が返ってきたのはすぐだった。パソコンに張り付いてたんだろうか?


 “わたくしはセブンレインというギルドの八人目のメンバーとして参戦しますわ。

 普段はソロなのですが、今回のイベントのためだけに、一時的にギルドに入れて貰ったんですの。

 お互い頑張りましょうですわ。背後には気をつけてですのよ?

 では、対抗戦で会いましょう。わたくしはそろそろ用事がありますので、さようならですわ。”


 へぇ、臨時メンバーか。

 背後に気をつけろって、怖いなおい。魔弾姫がいうと洒落にならんぞ。

 【危機察知】で攻撃の位置・到達時間がわかるから、今の俺は遠距離攻撃にも対応できるが、どうだろう。会いたいけど会いたくないような、変な感じだ。


 “いきなりバーン、はやめろよ!?

 見かけたら声かけてくれ

 あ、でも倒すのは見逃してくれると素直に嬉しいわ

 じゃあまた、明日会える事を願ってるよ”


 この後は、ログインしてスキルの使い心地を軽く確かめて、ギルドで駄弁って終了した。

 明日はいよいよ対抗戦か。頑張りますかね!



久し振りに“半年前の事件”とかの中二的ワードが出てきたので、次回は過去編を二話同時投稿です。伏線があからさまに下手で、申し訳ありません(反省)

ギルド対抗戦は来週からになります。


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