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第百四十八話 メイドさんを訪問するお話①

 二月二十二日、火曜日。


 今日は朝から学校に行かず、歩いて御崎邸まで来ている。

 まあ、どうせ行ってもテストが返されるくらいだしな。

 正直なところ、もう興味が無いのでどうでもいい。


「あれ? 九乃さん。おはよーございます! どうしたんですか朝から家にくるなんて。あ、もしかして私と一緒に登校してくれるんですか!?」


 ……ちょうど、玲花が学校に行く所だったようだ。門のところでばったり出くわしてしまう。

 むぅ、ジャッジさんの話が気になって気になって、早く来すぎたか。これからメイドさんに話を聞きに行くということで、少し緊張もしているところに、にへら~っとしまりの無い顔が飛び込んでくるのだ。すわテロか。


「ああ、おはよう玲花。悪いが、それは違うな。今日は学校休むから」


 ぱたぱたと駆けよってくる玲花に、手を挙げて答える。


「うええっ!? ちょ、九乃さん体調悪いんですか!? あ、でもその割に元気そうですね」

「いや、体調不良とかじゃないんだが、ちょっとメイドさんに用事があってな。有り体にいうと、サボりだ」

「いやそんな堂々とサボりとか言わないでくださいよ。めっちゃ反応に困るんですけど。それはアレですか、暗に私に口裏を合わせてサボりの手伝いをしろといってるんですか」


 悪いことは駄目ですよー。

 と、まるで優等生のようなことを言う玲花。

 ……あ、いや実際優等生なのか。普段の言動が言動だから忘れがちだけど、一応お嬢様だし。


「いや、そんなことは無いぞ? だが、まぁ、俺は玲花のことは信じてるからな。お前は人を裏切らず、いつでも人のために動く良い奴だ」

「なんですかその取ってつけたような言葉!? 完全にクロじゃないですか! わたしはサボりの片棒を担がされる瀬戸際にいますよ!? やですよ先生に、『あ、九乃さんなら今日はお休みですー』とか白々しく申告するの!」

「……玲花ならやってくれると信じてる」


 じー。


「う……いや、その……まあ、そのくらいなら良いですけど」

「まあ冗談だけど。もう休みの連絡してあるし」

「私の葛藤を返してください!?」


 まったく、玲花はおもしろいなあ。

 ころころと変わる玲花の表情を見ていたら、さっきまであった変な緊張が取れてきた。


「あの、ところで……一つお聞きしたいんですけど。メイドさんに、用事、ですか? 学校を休んで、こんな朝から?」


 玲花が首を傾げる。

 あ、やべぇ。つい素直に言ってしまったが、普通に考えてこんな朝っぱらからメイドさんに用事があるとか怪しすぎるだろ。誰だよそいつ、不審者かよ。俺だよ。

 ……うーん、別に話してもいいのかもしれないが、説明しづらい。

 ここは適当に誤魔化しておくか。あんまり時間を取ると、玲花が遅刻するしな。サボりの俺が心配することでもないのかもしれんけど。


「いや実は、家庭の事情でな」

「え? あ、いや家庭の事情とうちのメイドさんになんの関係が、」

「家庭の事情でな!」

「……えーと、」

「……」

「……すみませんごめんなさい私が不躾でした。だからそんな深淵みたいな目でみないでくださいごめんなさい」



 適当に誤魔化すって、難しいね。




 ―――




「おはようございます」

「……おや、九乃様。おはようございます。こんな朝方からどうされたのですか? そろそろ学校へ向かわないと、遅刻してしまいますよ。それと、私に敬語は不要でございます」


 御崎邸の庭にて、メイドさんを発見する。

 近衛理呼。主に園芸を担当しているメイドさんで、今も花に水をやっていた。

 こちらに振り向いて話す様子は、本当に他の二人のメイドさんとそっくりだ。逆にエリザ……近衛理紗がこの人達とそっくりでないのが不思議なくらい。やはり彼女だけ年が離れているからだろうか。成長したら、やっぱりそっくりになるのかぁ。まあ理紗がどういう風に成長しようが、可愛くない訳が無いか。できれば身長はもう伸びないでほしいけど。ちっちゃいは正義。


「いえ、今日は少し、メイドさん達にお話があってきたんです」


 あえて、敬語のままで通させてもらう。

 今日だけは。

 いつものように、ふんわりと流されてメイドさんのペースに乗せられる訳にもいかない。


「……ああ。なるほど。聞いたのですね? あの子のことを。一体誰から……ああ、いえ、大丈夫です。大方あの精霊からというところでしょう」


 理呼さんはゆっくりと如雨露を置いて、立ち上がった。

 そして、にっこりと微笑む。


「なるほど。そうですか……であれば、もう話してもいいのかもしれませんね。どうぞ、こちらへ」


 まだ、用件言って無いんだけど……ちょっと話しかけただけなんだけど。


 流れるように言葉を紡ぎ、主導権をかっさらう。流石、メイドはスペックがダンチである。さとり妖怪かよ。

 一人で勝手に納得すると、俺を案内しはじめてしまった。俺の表情が分かりやすいってことは無いはずなんだけどなぁ。


 手で示すのは、御崎家の通用口。

 いつもメイドさんや、手伝いに来た時の俺が利用している入口だ。


「……ありがとうございます」

「敬語は不要でございますと、申し上げたはずですが」

「あんまりペースを持って行かれ過ぎるのも困るので」

「あら、そうですか。残念です。では、そのように」


 メイドさんに続いて、御崎邸の中に入る。

 しばらく歩いて、通されたのは使用人室……メイドさん達三姉妹の住む部屋だった。

 俺も入るのは初めてだ。


「あまり物を置かないんですね」


 予想通りといえば予想通りだが。

 そこには簡素なベッドとしっかりとした作りの木のテーブル、そして椅子。隅の方にある箪笥、窓に付けられた白いカーテン。そのくらいしか家具が置いてなかった。ザ・シンプル。

 理紗は意外と少女趣味というか、シンプルな中にも洒落っ気があったけど。要所要所でレースやらリボンが目に飛び込んできたりね。

 だがこちらはシンプルの一点張りだ。キング・オブ・シンプル、シンプル・オブ・シンプルズ。


「なにかひどく、乙女として良くない評価をされている気が致します」

「……ノーコメントで」

「……これでも、頑張ってお洒落というものを学んでみたのですが」


 この椅子とか。

 そう言って、手前にある木の椅子の背を撫でる。


 めっちゃ猫足だった。


「あ、いや……俺は好きですよ?」

「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。では、少々お待ち下さい。理恵と理莉を呼んで参ります」

「あ、はい」


 メイドさんがスゥっと扉を閉めて出ていく。

 相変わらず音がしないなー。流石メイドさん。見習わないと。


 そんなこんなで、待つこと数分。


「……しっかしこれすげぇな。猫足っつーかゼンマイじゃん。ぐるんぐるんじゃん。座り辛そ……お、」


「「「九乃様、ただいま戻りました」」」


 メイド三姉妹、揃って登場です。声も相変わらず揃ってます。


「突然お邪魔して申し訳ありません。お仕事の途中でしたよね? 差し障りがあるようなら、お仕事が終わってからでもいいんですけど」


 気がはやって、いてもたっても居られなくなって来てしまっただけだから。

 今更ながら、メイドさん達に申し訳なくなってしまう。


「「「いえ、構いませんよ。それに……あとで、九乃様にもお手伝いいただくつもりですので」」」


 少し首を傾げながら、そんな少し皮肉なことを言う。

 そういうところは、理紗もそっくりだ。やはり姉妹、なんだな。


「俺でよければ、喜んで」


 何かを得るためには、何かを差し出さなくてはならない。

 俺の労働程度で、彼女のことを話してもらえるというのなら、こんなに安いものは無い。

 まあ正直に言うと、最初からメイドさんの手伝いをしてご機嫌取りでもしようかと思っていたけど。ご機嫌を取るまでも無く、とんとん拍子に話が進んでいるので少し拍子抜けだ。


「「「では、また後で九乃様には頑張っていただくとして……今は、おかけになられてはいかがですか?」」」


 さし示されるのは、めっちゃ猫足の椅子。

 お言葉に甘えて、座ってみる。


 ……おお、凄い安定感。

 ふざけた外見とは裏腹に、メイドさんの好みそうな良い仕事をする椅子だった。

 しかし、この部屋には何故か椅子が一脚しかない。


「あの、メイドさん達は、」

「「「勤務中に座るなど、言語道断でございます」」」

「あ、そうですか」

「はい。ですから、私共はこのままでお話させていただきます」


 それにしたって、何故部屋に椅子が一脚しかないのか。そういえばベッドも一つだし……まあ、深く考えても仕方ない、というか今回の話には関係ないか。


 それよりも早く……本題に入りたいのだ。


 窓辺から差す光が、徐々に翳ってくる。見れば、灰色の雲が太陽を覆い隠していた。速い雲だ。それでいて、当分途切れそうな気配は無かった。雨が降りそうな雰囲気だった。


「じゃあ、その。今日の用件なんですが。

 ……前にメイドさんは、俺に言いましたよね。『ゲームを頑張れ』って。俺はずっとあの言葉がなんなのか、分からなかったんですけど。昨日、ゲームの中でこんな話を聞いたんですよ」


『IWO』の中で、ジャッジさんに聞かされた、『模倣世界』のお話。

 そしてその中には、『魔王』が封じられているという話。


 そして――――


「もう一つの世界に閉じ込めた魔王が、未だに一人の少女を蝕み続けている」


 その少女は代々続く、ある秘術を守ってきた家系に生まれて。

 類稀なるその力で、魔王を世界から追放し、隔離し。

 少女は恐怖に震えながら、それでも、世界を守った。

 そして。

 その代償として……呪いを背負った。


 宿主の魂に根差し、成長するそれは、時が来れば一気に開花し……宿主を、喰らい尽す。


 呪いを解く方法は、ただ一つ。

 呪いをかけた張本人を、『殺す』こと。


 電子の世界に捕らわれた魔王を倒す。そうしなければ、少女は――――理紗は助からないんだと。



超・展・開。好きに書いた結果がこれだよ

次回は遅くとも二週間後には書きあげます。ファンタジー成分多めで、ちょっと眩暈がしてます。プロットの段階では、こんなにファンタジーファンタジーするなんて思って無かった(白目

ちなみに次回はもっとファンタジーファンタジーする予定


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