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第百四十六話 チョコレート戦争のお話⑦

 チョコレート戦争、これにて完。


 俺は目の前で赤い光の粒子になって消えていくヤタガラスを見ながら、息を吐く。

 ふう……なんだかんだいって、流石はヤタガラスだったな。

 いくら攻撃が読めていたからといって、あの距離からの銃弾に【死返し】を成功させるのは中々に至難だった。ってか、なんで銃だったんだ? やはり速度重視だったのだろうか。


 魔法だと、どうしても飛び道具のスピードに勝てない部分があるからな。別にエフェクトが派手だから重いとかそういうのではなくて、単純に仕様なだけだけど。

 しかし、銃と言えばクリスを想い浮かべる。うーむ、ヤタガラスはパクリ魔法でも持っていたのだろうか。妹の威を借るだめ兄貴め。今度、聞いてみよう。


 ヤタガラスのいた、街の外壁の中でもひときわ高い門の上で俺はフィールドを俯瞰する。

 遠くの方では、エリザがこちらに向かって駆けてくるのが見えた。

 さて、いますぐにでも迎えにいってやらないとな。


「【多従の偽腕】」


 フィールドに置いていた『偽腕』は全て消して、代わりに一本だけ新たに呼びだす。


「よっと」


 ……一瞬、こんな高い所からどうやって降りようかと。

 もう落下ダメージで死ぬ流れなのかと、そういや俺落下で死にすぎじゃないかと、そんな風にも思ったが、『偽腕』を動かせるようになった俺に死角はなかった。


 よかった……これで降りられなくてエリザに助けてもらうとかだったら、最高にかっこわるい。それこそ身投げものである。アイキャンフライして命儚んじゃうところだ。


 ほっとしながら『偽腕』に飛び乗ると、俺はすーっと地上に着地した。『偽腕』を消す。


 同時に、凄い勢いで走って来るエリザが俺の目の前で急ブレーキをかけた。

 なんでこんなに速いの。ってか街からくるプレイヤーさん達もそうだったけど、みんな基本的に足速すぎだろ。陸上選手かよ。やっぱステータスの恩恵ってすごいわ。

 荒野の土がざざっ、と舞いあがって、風にのっていく。


「……はぁ、はぁ、ふぅ……いきなり消えたから、びっくりしたじゃない」

「ああ、すまん」

「でも、まあ良かったわね。ヤタガラス、倒したんでしょう?」

「ん。ばっちしだ」


 これで、集まっていたプレイヤーは全て倒し尽したことになる。何人だっけ? 五百人? ……そういえば、朝にはいたミカエルとフィーアはいなかったな……多分。

 まああいつらとは何回か戦ったし、別にいいんだけど。そうすると、完全に連絡役だった訳か、ミカエル。

 ヤタガラスのパシリにされすぎだろおい……ちょっと可哀そうに思えてきたので、次に会うときは少し厳しめに鍛えてあげようと思いました。


 それにしても、流石にこれ以上挑んでくるようなプレイヤーも居ないだろう。

 俺も流石に、気を張りすぎて疲れたしな。

 街に入るかな。


 エリザを促そうと目を向けると、彼女はにんまり笑っている。


「しかしこれはまた、掲示板が楽しみね。うふふ」

「掲示板? ……ああ、そういやこれ、元々掲示板であれこれ集まった結果だったか」

「ええ。数百人にも及ぶプレイヤーを葬り去った貴方は、間違いなく彼らの中で伝説となるでしょうね。今でも大概ではあるけれど」

「なんか、嬉しそうだな」


 まるで自分のことのようだ。


 ……いや待て。そもそもエリザは俺の傍にいたしな。

 俺の強さの核は『偽腕』の操作と【危機察知】であって、それには気力が必要で、そして俺の気力が充実しているのはエリザのお陰である。

 つまり今回の件は言いかえればエリザのお陰だと。うん、流石マイスイートゴッデスだな! 可愛いは正義だ。


「ええそれはもう。

 だって……自分の好きな人が、こんなに凄いんだって、大勢が口をそろえて言うのよ? 嬉しいに決まってるじゃない」


 彼女は頬を染めながらも、まっすぐにそれを言うのだ。

 予想外の返事を貰った。

 ……エリザって、たまに凄い積極的だよな。


「……っ、そ、そうか。ありがとな」

「ええ」

「俺も好きだぞ、エリザのこと」

「……」


 お返しをしてやった。

 きっとエリザが俺を想ってくれているその何倍も、俺は彼女のことが好きだ。なんて言うのは傲慢だろうか。

 エリザは俺の顔を見て、地面を見て、もう一度俺の顔を見て。

 ぼふん、という効果音が似合いそうな感じで顔を赤くした。愛いやつめ。


「……うう、折角主導権を握ろうと思って頑張ったのに」

「はは、エリザは可愛いなーこのこの」

「ちょ、子供扱いしないで頂戴ってば!」


 そんな感じで、和気あいあいと心を満たしながら帰った。

 ちなみに何時になくエリザが積極的な雰囲気だったので手を繋いで帰ろうとしたら、恥ずかしいと拒否されてしまった。残念。代案として、エリザが俺の服の端を掴んで歩いた。

 ちょこんと小さな手で服を掴みながら、黒髪ごしの上目遣いをするエリザさんまじ女神。

 途中で俺が倒したであろうプレイヤー達と何人もすれ違ったが、別に気にならなかった。すごい歯ぎしりしてたけど。


 そして、ギルドホーム。

 歩いてて気付いたんだけど、良く考えたらここは第三の街だ。皆がいるのは、第六の街である。

 ギルドホームに歩くんじゃなくて、普通に『帰巣符』で帰れば良かった。まあ、エリザと歩けるということで黙ってたんだけどね。


 という訳でエリザと目配せをして、俺が『帰巣符』を取り出す。

 ぱぁっと光が弾けて、俺達を呑みこんで消えた。




 ―――




 ただいまー、とギルドホームのドアを開けると、何故かヤタガラスがいた。


「やっはー九の字。おつかれ様ー! ……いや、その様子だと疲れてはなさそうかにゃ? さっすがエリザさん。九の字に対しての癒しパワーがパネェですわぁ」

「……お前なぁ……さっきの今でもう顔出すなよ。もっとこう、殊勝な感じでだなぁ……」

「ええー。……九の字、殊勝な僕とかみたいの? しゅーんとした感じで、真面目に九の字に謝罪とかする僕を、見たいの?」

「あ? そりゃあ……。きもいな」

「言うと思った! でもひっどい! 自分から言っておいてなんて酷さだ! ちくしょー訴えてやる! クリスに!」

「お前あんまりクリスに面倒かけるなよ……」


 騒ぎ立てるヤタガラスの眼球を軽く抉って、ここまでが挨拶。

 こいつの相手、まじ疲れるわ。


「あっ、クノさ~ん! とエリザさん。お帰りなさーい。早かったですね」

「お帰り―!」

「お帰りなさい。お疲れ様でした」


 次いで迎えてくれるのは、フレイ、リッカ、ノエルの三人だ。

 ヤタガラスの後に美少女の出迎えだと、心が洗われる。勿論、一番可愛いのはエリザに決まっているがな!


「って、あれ? そういえばカリンがいないな」

「クノさんの戦いぶりを見てくるって言ったっきり、帰って来てないですね」

「てっきり、クノくんと一緒に帰って来るのかと思ったんだけどねー」

「クノさんの方が終わったので、それに触発されて一人で狩りをしてるんでしょうか?」

「あー。それはあり得るのです。カリンさん、なんだかんだで影響されやすくて負けず嫌いですからねー」

「ふーん……まあいいけど」


 ギルドマスターのこの扱いは、雑と言うのか信頼されているというのか、どうなんだろうな。

 というかカリン、どこから見てたんだろう? 街から攻めてくる以外にフィールドにプレイヤーは居なかったから、街の中からかな。

 そういえばヤタガラスは望遠鏡的なアイテムを最後に持ってた気がするし、そういうのを使っていたんだろう。


「クノさんクノさん! 見てくださいよこれ! 魔王討伐スレですよ!」

「ん、掲示板か」


 フレイがずいとウインドウを近づけてくるので見てみると、なにやら阿鼻叫喚な感じになっていた。意味不明な文字の羅列と、やたら叫んでる奴が多い。


「あら、素敵なことになってるわね」

「素敵……んー、まあエリザがそれでいいならいいけど」

「あなたの強さを理解する人が増えて嬉しいわ」

「お、おう。そうか……俺はこれ、あんまり褒められてるとかそういう感じではない気がするんだが」


 むしろめっちゃ悪口言われてないかね。畜生だの理不尽だの。


「あー、普段掲示板とか見ないとそうかもだぬ~。まあ、これも一種の称賛だから。指揮してた僕言うんだから間違いない、胸を張りなよ九の字~」

「そんなもんなのか」

「そんなもんなんだよ」


 ぽんと肩に手を置かれたので、反射的にねじり上げる。


「アイテテテテ!? ちょ、僕なんもしてねぇ!」

「あ、悪い。つい」


 いやホント、悪気はなかった。


「……も~九の字ったら~。つい、で僕のゴールデンライトアームをブレイクしようとしないでくれるかにゃ~? 日本野球界にとって大きな損失だぞ?」

「お前普通の大学生じゃなかったのかよ」

「ふっふっふ。大学生とは世をしのぶ仮の姿……本当の僕はスーパーウルトラ高校球児さ!」

「それ世をしのぶ意味ないし、年齢下がってるから」


 なんだ高校球児って。お前そんな熱血キャラでもないだろ。


「くぅ~九の字冷たーい!」

「言ってろ。……てか、お前どうしてここにいるんだ?」

「へ? そりゃ、九の字にお疲れ様って言いに来ただけだけど」

「……あ、そう」

「今回のイベントも、結構無理やり巻き込む形になっちゃったしね~。終わった後には一言くらいかけるのが礼儀ってもんっしょ。ありがとねん」


 きょとんとした顔のヤタガラス。

 なんだかんだで義理は通すというか、どうでもいい所だけしっかりしてるというか。


「なんなら、さっき言ってた殊勝な態度も見せようか? 特別サービス!」

「いらねぇよ。……まあなんだ、俺も楽しかったしな。こっちこそ、有難う」

「おお、九の字がデレた!」

「デレてねぇよ。舐めんな」


 俺がデレるのはエリザに対してだけだ。あと、強いて言うならメイドさん。



「クノさん、なんだかんだいって楽しそうですよねー」

「ええ。喧嘩する程仲が良いという奴かしら」


「……ねぇ聞いた九の字? 喧嘩する程仲が良いだってさ。ヘイ、マイブラザー! 河川敷で殴り合おうぜ!」

「もう帰れよ……」


 そんなこんなで、結局その日は一日中ヤタガラスに振りまわされた日だった。


あれ、全然話が進まない。

全部ヤタガラスのせいだな。

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