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第百四十二話 チョコレート戦争のお話③

 

 ――――現在時刻は、チョコレート戦争開始まで三分を切ったところ。

『偽腕』の数も現在出せる最大数、四十本まで出して、準備万端だ。


 ちなみに出せる数の増加に伴って、事前にエリザから追加の『黒蓮』は受けとっている。ぬかりはない。しかし、この調子だと拡張したアイテムインベントリが追いつかないぞ……。あれ拡張してて最大で六十枠だからね。ナイフやMPポーションや帰巣符や蘇生石、『茨の黒手』を入れるスペースを考えると、剣に使えるのはまあ、五十四、五くらいか。単純に考えると、110レベルあたりで到達してしまうな。その時までにもう少し増やせるようになってるといいんだけど。


 めったな武器所持数に思いをはせる。マーベラス。


 そんな中、俺の【危機把握】は街からこちらに向かってくる一つの人影をキャッチした。

 すわフライングかとその人物に向かって意識を集中させると、プレイヤーネームが把握できる。

 そしてその名前を確認して、俺は思わず固まってしまった。


「……え?」

「クノっ!」


【危機把握】が察知したしたのは、黒薔薇のお姫様。

 可愛らしいゴスロリをふりふりさせながらも、俺を遥かに凌ぐ速度でこちらにかけてくるエリザさんだった。

 彼女が近づくと、俺は自身の周りに要塞のように漂わせていた『偽腕』を一部かぱっと開き、エリザを招き入れる。……いやホント、招き入れるって言い方が正しい。密度的に。


「……エリザ? どうしたんだ一体。何か用なら、出来れば後にしてもら……わなくても……いや……しかし……」


 俺の気持ちは、エリザを蔑ろにしてしまっていいのかという思いと、これからの戦いを楽しみたいという思いの間で揺れる。揺れる。さながら天秤のようだ。あ、戦いの方が吹っ飛んだ。

 気持ちの整理がついた所で、ちょっと息を切らしているエリザの方にちゃんと向き直る。


「さて、何の用だ? エリザ」


 しかし俺がそんな事を言うと、エリザの方は『?』な顔をする。そして眉をひそめながら、こんなことを言って来た。


「え? 用って……貴方が私を呼んだのでしょう?」

「……え」


 どういうことなの……。

 更にエリザに話を聞いていくと、まあつまりこういうことらしい。


「『グロリアス』のヤタガラスに、クノが呼んでるから至急向かってくれって言われて来たのだけれど」


 ヤタガラス……またお前か。

 しかし、どういう意図があるんだろう。これでは俺の士気が上がるだけなんだが。

 敵に塩を送るような奴ではないし、なにか考えがあるんだろうな。


 しかしそういうのは、目の前で可愛らしく小首を傾げている女神の前では些細なことだ。


「えっと……それじゃあ、私は……ど、どうすればいいかしら」

「うーん、そうだな……」


 考え、開きっぱなしにしておいたウインドウに目をやる。

 すると丁度その端っこに付いているデジタルの表示が、『13:00』に変わった所だった。

 同時に、俺の真下で動きがあったのを【危機把握】で確認する。


「――――とりあえず、俺の後ろに来てくれるか」

「え? え、ええ」


 エリザがたたっ、と移動するのを横目に、

 地面に突き刺しておいた黒蓮に、手を添える。


「【バーストエッジ】」


 ドォォォォォオオオン!!


「きゃぁあああ!?」


 剣先から噴き出した爆炎が地面を抉り取り、辺り一帯に土くれを降らせる。

 槍状に加工した爆発は、地面に深い穴を穿ち……俺の真下にあった、三個の魔法陣を吹き飛ばして無力化した。


「ヤタガラスめ、罠とか地味に卑怯だよな」

「え、っと。罠? 地面になにか仕掛けてあったのかしら?」


 不意打ちは流石に驚いたのだろう。

 耳を抑えて顔をしかめながらも、聞いてくるエリザに、答える。


「トラップ系の魔法……だと思う。魔法を予め仕掛けておいて、そこを起点に効果を発動するんじゃないかな。よくわからんが、そんな感じの奴。エリザの方が詳しいんじゃないか?」

「えっと、土属性魔法に設置型魔法があったと思うけれど……時間と魔力を大量に消費する代わりに設置できる地雷みたいなものかしら。……よくわかったわね、そんなの」


 正直、対人で使うようなものでも、使われるようなものでもないわ。

 と少し呆れ顔のエリザさん。

 まあ今回は、あからさまにヤタガラスが場所指定をしてきやがったからな。


 ……というか、ざっと見回しただけでも俺の周囲に設置型の魔法とおぼしき代物が結構な数あるんだが。属性は風と水かな。どちらも空気中に起点がある。

 発動する様子はない。厄介と言えば厄介だな……存在が分かっても、魔法陣が現れるまで破壊することができない。除去不可の機雷とかホント、よくプレイヤー一人に対してこんだけ仕掛ける気になったわ。


 ただ、あちらが発動させる気になっても、その前にすべて魔法陣を破壊する自信はある。ナイフ一本で十分だからな。だから今は、一旦放置でいいか。


 気にするべきは、それよりも。

 街から押し寄せてきている、大量のプレイヤーの方だな。


『おぉぉぉおおおおおおおお!! 魔王だぁぁあああああ!!!』


 ざっと見て、百人……うん、ぴったり百人か。

 押し寄せるは、プレイヤーの波。徐々に大きくなっていくそれは、まるで大地を覆い尽さんとする蟻の群れのようだ。


 やっべぇ、超気合い入ってる。まあそうじゃないと困るんだけど。

 彼我の距離が百メートルほどになると、やっと戦闘状態に移行した。ついでに相手方は、近くに来て俺の威容(主に偽腕)に圧倒されているのか、ちょっと勢いが弱まった。ええい軟弱な。

 ……まあ自称魔王討伐隊の軟弱さはさておき、これでやっと【惨劇の茜攻】が使える。……が、その前に。


「エリザ、丁度いいや。ちょっと頼みがあるんだけど」

「……何かしら。というか私は、どうしたらいいのかしら。逃げた方が良いのかしら。それとも残って貴方に加勢した方がいいのかしら」

「んーそうだな。逃げた方がいいんじゃないか?」


 まあここに居たら割と危ないし。いや危なくはないか、俺が全力で守るしな。そういう意味では、結局居ても居なくてもどちらでもいいということになるかもしれない。いやむしろ、俺のモチベーション的に言うと居てくれた方がいいまである。


「あ、やっぱり居てくれないか?」

「どっちよ!?」


 一瞬で考えを変えた俺につっこむエリザ。空気が弛緩しているが、眼と鼻の先には討伐隊の皆様です。


『怯むなーーー!! 作戦通り突っ込めーーー!! アーツぶっ放して数で押しつぶすぞ!!』


 荒々しい怒号が聞こえてくる。切り込み隊長みたいな人が言ってるんだろうか。

 百メートルなんて、VRで強化された足の速さの前ではゴミみたいな距離だ(一部の極振りを除く)。このままエリザと漫才をしている時間は、残念ながらなさそうだ。

 なので俺は、簡潔にエリザにお願いをする。




「エリザ。俺を殺してくれ」




「…………。は?」




 むさ苦しい雄叫びのBGMが一瞬聞こえなくなるほどの、つかの間の空白。


 そして漏れ出たのは、無理解の単語だった。あー、流石に省略しすぎたか。


 これで、下準備にかける時間は無くなってしまったみたいだ。討伐隊が、偽腕と接触する。

 仕方が無い……まあ、現時点でも火力は足りるか……


「〝彼の者に強き力を与えよ〟『筋力強化』。〝彼の者に更なる力を与えよ〟『筋力重加』。【賭身の猛攻】」


【惨劇の茜攻】は、使わない。なぜなら【狂蝕の烈攻】が発動した時点で、蘇生アイテムである『蘇生石』の効果が失われるからだ。これは、〝復讐者〟発動のリカバリーとして使わなくてはならないからな。流石に【神樹の癒し】で発動させる気はしない。これを発動させるためには、スキル発動の優先順位的に先に【不屈の執念】も発動させないといけないのだ。この規模の戦闘ともなると、命の保険はあるに越したことはないからな。


 〝復讐者〟の効果は、HPが0になってから25分間。そして俺が自分のHPを0にしようと思えば、エリザにってもらうか、相手の攻撃をわざと一撃受けなくてはいけない。最悪なら、【死返し】で自滅という手もあるが。相手の攻撃をわざと受けるのはできれば避けたい。一撃で済む気がしないし。…………って、ああ! さっきの地雷、一発だけ残しとけば良かったのか。しくったな。


 とにかく現在の状況からすると確実なのは、エリザの協力を得ることなのだが。

 肝心のエリザはというと、「へ? えぇぇぇ!?」といった状態なのであてにならなかった。ちくしょう、可愛い。っていうか残るか逃げるかの問いとか、もはや意味無くなっちゃったな……。


 大量の討伐隊諸君を間近に、生産系であるエリザが逃げられる訳が無かった。戦闘中だから『帰巣符』も使えないし。おそらくエリザは、俺に加勢しに来たって思われているだろうし。


 よし、だったらやることは一つである。

 エリザは、全力で守る。それだけだ。あわよくばこれで俺の株が上がるんじゃないかとかそんなことは、決して、決して考えていない。

 まあ、俺の近くに居れば――――


「がぁ!?」

「ぐふぉっ!?」

「ナ、ナイフが来……ぁっ」

「アーツが掻き消され……ゴボッ」

「くそ、なんなんだこの不気味な腕は!?」


 要塞の外周では、幾人もの兵士たちが鎧袖一触に命を散らしていく。アーツの発動も、絡め手の攻撃も、俺の圧倒的な感知能力の前では許されない。発動の兆候と共に、ナイフや剣を射出して潰す。厄介なものは徹底的に確定的に優先的に、事前に潰す。


 そしてただ突っ込んでくるだけなら、話は簡単だ。結局俺一人に対して一度に挑めるのは、周りを囲んで精々十人かそこら。そんな数が、俺の四十本・・・の『偽腕』の敵になるわけがない。敵ではなく、的になるだけなんだよ。


 完全に制御された偽腕たちは、【危機把握】と相まって完璧なパフォーマンスを発揮する。時には自ずから動き、敵に追いすがり、蹂躙する。


 ――――こんな風に、安全だ。偽腕の要塞の内部には、アリ一匹入ってこない。


「ば、化物じゃねぇか……」


 あれほど雄々しかった諸君が、今はどうだ。『偽腕』が少し進むたびにびくっと飛び退り、大量の仲間のなれの果て――大量の光の粒子に囲まれて、呆然としている。


 どんどんと、どんどんと敵は数を減らしていき、


「ちっくしょうが、あり得ねぇ、認めねぇ、こんなことガッぁ……」


 最後は、逃げだそうとした者の頭をナイフと剣で射抜いて、第一波はつつがなく終了したのだった。


「くっははははははははははははっ!! はぁーっははははははっ!!」


 あぁーーーー。

 超楽しい。さいっこうに充実してる。


 そして悦に浸る俺の横では、引きつった顔のエリザが、


「……私、邪魔にすらならなかったわ……」


 と呟いていた。


クノ Lv76(【神樹の癒し】発動状態で死に戻りしたため、一度Lvが3下がっている)

最大HP:640

最大MP:6169

Str:2807

(上記はステ振り+ベルセルク分。通常戦闘時のStr:11261)

Vit:0

Int:0

Min:0

Agi:0

Dex:0

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