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第百四十話 チョコレート戦争のお話①

 

 二月二十日、日曜日。


 今日はいよいよ、待ちに待ったチョコレート戦争(仮称)の日である。戦争とか言うけど、俺側陣営に一人しかいないのが少し悲しい。あ、レイレイも入れれば二人……いや、人じゃねぇな。


 現在時刻は、午前十一時。なんか掲示板には、午後一時作戦開始とか書いてあった。一応俺も、そこをチェックしてはいるのだ。そこだけだけど。


 そもそも強襲作戦とか言っときながら、俺も見れる掲示板を使うのはどうかと思ったんだが、割とその辺りは適当らしい。まあゲームだしな。ただお祭り騒ぎをしたいだけという方が大きいのかもしれない。規模もなかなかのものになっているようで、参加人数は五百人弱だとか。……流石に、煽りすぎたかもしれない。燃えるけど。


 現在手持ちのチョコは百を超え、もう何人かぶっている事やら。途中から、確認することはやめた。これ対象キャラコンプしてんじゃないかな……。AI三姫でさえダブってるし。イベント専用のインベントリに入っているので、イベントが終わったら無くなる……のだろうか。いやでも、個別イベントあるしな……そっくりそのまま残るのだとしたら、結構処理に困ってしまう。

 捨てるのもなんかなーって感じだし。あれ無駄に一個一個枠を取るんだよ。流石に、イベント終わったら食べられるようになるかな?


 ログインすると、ギルドホームにはエリザとフレイの二人がいた。

 ちなみにカリンはログイン済み。中学生二人はまだログインしていない。カリンの行方は分からないが、まあソロで狩りに行くこともそれなりに多い奴だしな。チョコレート戦争はなんか遠巻きに観戦するとか言ってたけど。


「あらクノ、おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」

「昔から遠足の前もぐっすりな性質でな。それに良いもん食べたし、英気は十分だよ。ごちそうさん」

「そう。それなら良かったわ。……今日も、期待してくれてていいのよ?」


 エリザは悪戯っぽく微笑む。

 だがその頬は若干赤くなっていて、少しの照れ隠しが含まれているのが分かった。可愛いなこの。


「しっかしそう毎日って訳にも……」

「馬鹿。察しなさいよ……。つまり私が、その、期待してほしいって言ってるのよ……」


 むくれながらそう呟く我らが女神エリザさん。どうやら俺の、近衛家への連続訪問記録はまだ更新されそうだ。これホント、どうやって断るんだよ。そんなこと出来る男がいるとすれば、そいつはターミネーターかなんかに違いない。俺は普通に普通の人間なので、できることといったら預金通帳を確認することくらいだ。きたるホワイトデーにも備えにゃならんしな。


 そんなことを考えながらほんわかしていると、丸テーブルの方から視線を感じる。

 振り向くと、フレイが恨めしやー、って顔をしていた。なんか本当に呪われそう。


「……どしたん」

「いえー? 別にー? 仲良さそうだなーって思ってただけですけどー?」

「語尾疑問形にするのやめろよ……不機嫌感が隠せてないから」

「ぶー。クノさんはまったくこの……ホントにこの……!」


 お怒りである。フレイは土曜日……つまり昨日にエリザとのことを話してから、ずっとこんな感じだ。

 屋敷に呼ばれて茹で卵……もといエッグチョコ(ユデタマゴ・イン・チョコ)を渡されたのだが、丁度良い機会だとその時にことのあらましを語ったのだ。応援してくれるとか言ってたし、報告はしておかないとと思ったんだけど……どうやら、ご不満らしい。


 多分、告白をしたのに未だ付き合えていないという、小学生レベルかと思うほどの展開が気に食わなかったのだと思われる。エリザのなんやかんやは結局、充分な情報が無い。だからその辺りを省いて喋ったらあら不思議。お互い告白したのにそれだけで終了という、随分と不甲斐ないことになっていた。しかもそのパターンだと確実に男の方に甲斐性が無い、ヘタレだ。誰だそいつ。俺だよ馬鹿。

 早めにどうにかしたいものだ。


「ていうかそもそも私は、テスト期間中にそういう事をするというのがちょっとどうかなーと思う訳でしてね。学生の本分は勉強ですよ。ええ。その成果を発表する場である定期テストにおいて、それを疎かにして色恋にうつつを抜かすというのはいかがなものかとですね?」

「やめろ。エアメガネくいってすんな」


 普段の五割増しくらいでうざくなっていた。

 大体、仕方ないだろ……バレンタインとテストがかぶるから悪いんですー。それにテストは完璧だから問題無いんですー。俺に勉強させたいなら、『近衛理紗学』とか持ってこい。そしたら死ぬ気で猛勉強してやるよ。なんならテスト前だけじゃなくて、普段から血反吐はいて勉強するレベル。目指せ百点越え。字の綺麗さから頑張らないと。それから答案の裏には、美麗な女神のイラストとか書いとこう。なにそれ素敵。


 ひとしきりエアメガネを嗜んだ後、フレイは真顔に戻ってため息をつく。


「まあ、クノさんはそういう人だって知ってましたし。いいですけどね」

「そういう人て」

「変に真面目で、でも不真面目で、馬鹿みたいに一途で、無駄に行動力があって、呆れるくらい頼りになって、でも意外と甲斐性が無い、空気の読めないヘタレだということです」

「うわぁ、凄い言われよう」


 そしてちょっと自覚があるから、反論できない。すいませんね、そういう人で。


「でも」


 フレイはそこで言葉を区切って、俺を見据える。


「だからこそ、そういう所も含めて惹かれる人も、いるんです」

「フレイ……」


 その視線は俺と、そして俺を通り越して、カウンターに佇むエリザを捉えていた。

 呟くように声を発したエリザの方をちらと見やると、何故か申し訳なさそうに俯いている。


「……貴女、もしかして、」

「知ってますよ。見てればわかりますしー」

「……ご、ごめ「おっと! 謝らない!」……え?」

「エリザさんは、悪くないですから。むしろ謝るという行為の方が悪だと、私は感じます」

「……フレイ。……そう」 


 俺越しに会話を繰り広げる二人。

 どうしたのかと、フレイとエリザを交互に見て疑問を発する前に、フレイはパチン、と手を叩いてふんわりと笑った。


「なーんて。まあ要するにアレですね、アレ。ふぁいとですよ、クノさん」

「あ、ああ」

「私にはもう、資格がないですからねー。すっぱりすっきり綺麗さっぱりです。精々幸せになりやがれです」

「……ん? 資格?」

「こっちの話ですよ。……あ、それよりクノさん。昨日のチョコ、どうでしたか。メイドさんにアドバイスを貰って、自分の得意料理とチョコレートの奇跡のコラボレーションを目指したんですけど」


 フレイはいままでの空気を入れ替えるように、違う話題を持ちだしてきた。結局よくわからなかったが、これ以上続けていても良い予感はしなかったので、俺もそれに乗っかる。


「いやなんていうか……一つ言わせてもらうなら、茹で卵は作らないって自分で言ってたよな……」

「え? 茹で卵じゃないですよー。何言ってんですか。チョコエッグです。メイドさんも最終的にはにっこり笑って、『……もうこれでいいじゃないでしょうか』って言ってましたし。お墨付きですよ、お墨付き」

「最終的にはってなんだよ……」


 それ絶対メイドさん、どうしようもなくなって諦めちゃったよね。投げやりな感じで額を抑える理恵さん(お掃除担当メイド)の姿が思い浮かぶ。あのメイドさん達の心を折るとは、恐るべし、フレイ(の料理の腕前)。将来はメイドさんではなくお義姉さんと呼ぶかもしれないというマーべラスな可能性を考慮すると、あまり気苦労はして頂きたくないものだ。

 そういや昨日は、三人ともいなかったな。エリザの事を聞こうと思ったのに、肩すかしを喰らった気持ちだった。


「お味はいかがでしたか?」

「……個性的、かな。うん。人の好みはそれぞれだし、好きな人もいると思うぞ」

「……それ、不味かったっていうのと同義語ですから……」

「あー、いやー、そのー。申し訳ない」


 流石に、チョコレートコーティングのされた半熟茹で卵はなかった。一息に口に突っ込めた過去の自分を褒めてやりたい。……俺の粘土っぽいナニカよりは、味がする分ましなのかもしれんけど。


「……エリザさん」

「ひゃいっ……ん、んん。……何かしら」


 ゴゴゴゴゴと、フレイから凄みを感じる。エリザは委縮しかけたのを抑えて、努めて落ち着いた声で返した。……しかし、今の『ひゃいっ』はよかったな。良い感じに嗜虐心をくすぐられて……じゃない。違う。ごめんなさい。


 一歩前に踏み出して、フレイは言った。


「今度、料理教えてください。切実に」

「へ?」

「もうエリザさんしか頼れる人がいないんです……料理長さんは料理してる所を見せてくれませんし、メイドさんには諦められてしまいましたし、母は海外ですし……」


 おい、今諦められたって言ったよな。おい。それは分かってんのかよ。

 フレイの唐突なお願いにしばし戸惑うエリザだったが、徐々に落ち着きを取り戻したようで、少し思案してから言った。


「私の指導は、厳しいわよ?」

「はい! どこまでもついていきます、先生!」

「……ん、よろしい。じゃあ私で良ければ、教えるわ」

「ありがとうございます!」


 体育会系みたいなお辞儀の仕方をするフレイ。

 エリザはというと、嬉しそうというか、ちょっとほっとしたみたいだった。……さっきの微妙な空気は、一体何だったのかね。わからん……。


 そうして女の子二人が料理話に興じ始めてしまうと、俺は手持無沙汰になる。時計を見ると、十一時半。

 ミカエルとヤタガラスが俺を訪ねてくるのがいつか分からんが、そろそろフィールドに行こうかな。

 きゃっきゃうふふしてる二人に声をかけて、俺はギルドホームを出る。


「……おはようございます、クノさん」


 すると目の前にいるのは、軽装の金属鎧にマントを羽織った、金髪イケメン。


「流石に朝六時から待機は、きついものがありましたよ……」


『護光の勇者』ミカエルが、『花鳥風月』のギルドホーム前で、出待ちをしていたのだった。


一週間だらけて、執筆意欲が高まるかと思いきやそんなこともなく。

むしろ暑さと湿気を余計に感じてしまい、もう駄目かもしれない(白目)

敗因は、私の部屋にクーラーが取り付けられてなかったことです。嗚呼。

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