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第百三十五話 バレンタインのお話③

「……ふぅ。まあ、こんなもんか」


 第六の街『アドルトーグ』の東フィールド。

 レイレイの背中に跨りながら、俺はウインドウを開いてバレンタインイベントで獲得したチョコの一覧を眺めていた。獲得したチョコはイベントイベントの独自インベントリに入るので、どれだけチョコを溜めこんでも問題無いというのは嬉しいな。


 視線の先には、『○○○からの本命チョコ』という表記がずらーり。『ジャッジの本命チョコ』の部分でちょっとにやけそうになったのは内緒だ。……まあ、結局無表情だから気分的にはってだけなんだけど。


 本命チョコの総数は、今日一日で二十四個に達した。まあこのくらい集めておけば餌としては十分かな? できれば出てくる本命チョコをコンプリートして、全方位から襲撃を受けられる体制を敷きたかったのだけれど……残念ながら、流石に女性キャラの数が多すぎて無理だった。同じキャラからのチョコが被ってるのもあるしなー。


 ちなみにどこの誰からのチョコというのは、『本命チョコ』のアイテム説明文に書いてあって、イベント終了後にどこどこでミニイベント発生! みたいなのも書いてあるんだが……その大半の場所が、というかその前にまず大半のキャラが、俺の記憶に無かった。仕方ないね。戦闘要素以外の所は、かなりスルーしてるからね。


 wikiとにらめっこすればどうとでもなる問題なんだろうけど、いちいちそんなことをやるのは面倒だしな。誰だよ、『クリスティーナ・アルベルク』って。何処だよ、『第二の街ウウレ:第四区画:第五番ストリート:アルベルク魔法教室』って。こんなに細かく街の区分けがされていたなんて、初耳だわ。

 いやまあ確かに、『IWO』の街はどれも広いし、細かいところまで作りこまれているからちょっとした外国観光気分を味わえるとか言うのは聞いたことあるけどね。住民や個性豊かなサブキャラクターとの触れ合いがどうたらうんぬんとか、フレイも話してた気がするし。


 そうやって、街の探索なんかをメインに据え置くプレイングみたいなのも、ありかもしれない。ただの狩りゲーに留まらず、多様な楽しみ方を提供しているという点では『IWO』は高く評価されるべきだろう。……まあ、楽しみ方が多すぎる、自由すぎるってのも考えものだけどな。戦闘メインなのに極振りでなんとかなってる時点で、お察しです。


「レイレイ」

「クエー?」

「あれで終わりにするな。……っと」


 実は先ほどから、レイレイの背中に跨って何をしていたかと言うと、飽きもせずレアモンスターを追っていました。もうレイレイの学習能力が凄くてね。後半はフィールドのどの辺、と一言言うだけで、あとは勝手に走って行ってくれる有能ぶり。カーナビ搭載かっつーの。

 そんな訳で、走っている間は指示出しもなくなり、完全にぼーっとしていても虎が見えてくる訳だ。今日でその姿も見慣れた、茶色い虎さん。レイレイなんかは完全にもの珍しさを無くしたというか、もはや興味すら薄れたように「フン」と鼻を鳴らしている。


 そして虎の視界に入った所で、即座に姿勢をかがめたレイレイから飛び降り、『偽腕』を出して、送り込んで、ザクっとして終了。


 イベントモンスターとはいえ、所詮は強モブ。【惨劇の茜攻】も【特化型付加魔法:筋力】もかけずに、素の攻撃であっけなく倒れてしまう。……途中までは律儀にかけてたんだけどな。流石に数をこなすと戦闘の高揚感というのも薄れるもので。相手の力量を読み切っちゃうとどうしてもなー。むしろ素のままでもオーバーキルだから。

 最近、俺の火力は完全に対ボスになりつつあるようで嬉しいやら虚しいやら。そのボスでさえ、歯ごたえが足りない訳だし。運営はもっとモンスターを鬼畜改造とかしちゃってもいいのよ? というか切に、難易度変更とか出来ないもんかねーなんて。実はもう要望も送ってたりするし、次のアップデートに期待かな。


 ピロリーン、と音がして、システムが『本命チョコ』の獲得を告げる。

 ええと何々、『シルヴィア・ロストの本命チョコ』……いや、うん。


 誰。


 今回もまた、知らないキャラだった……。っつーか、もしかして俺が知ってるキャラってジャッジさんと、PvPトーナメントの司会やってたパトロアって奴くらいか? この二人は『IWO』のAI三姫とかいって、公式に運営側のAIだ。

 三姫というからにはもう一人いて、それがクリアとか言う名前らしいんだけど……なんか、少し調べてみた限りだと公式ページのトップでミニキャラになってる以外は誰も姿を見たことがないらしい。ちなみに、システム面を担当……つまり、実質的に運営体制の中枢にいるようだ。


 ……でも、俺が持ってる『クリアの本命チョコ』には


『ミニイベント発生/第六の街ホーサ:第二市街区域:フィールド東:廃教会』


 って書いてあるんだよな。

 ……ああ、第二市街区域というのは、西フィールドのことな。フィールドにはこうやって固有名称が付いてるけど、分かりづらいから方角でいいじゃん? ってなる。


 しかし……誰も実物を見たことがないAIか。

 このイベントが終わったら、AI三姫のミニイベントは見に行くことにしようかな。勿論、目玉はジャッジさんだけど。





 ―――





 狩りが終わって、ギルドホームに帰ってきたら、何故か全員集合していた。

 時刻はもう二十三時を回っている。……いつもなら、ノエルとリッカはもうとっくにログアウトしている頃だ。


「あ、クノさんやっと帰ってきましたね!? おっそいですよもう! こちとらまだ試験勉強をしなくちゃいけないんですからね! まったくもう!」


 フレイが俺の顔を見るなり文句を言ってくるのだが、どうして俺が怒られているのだろうか。

 ぷんすかと抗議するフレイには、スルーかなでなでが安定行動だ。……スルーしようと思ったら、先に頭を出された。撫でろと。どんな先回りだよ。仕方がないのでとりあえず絹糸のような金髪を、わしゃわしゃとしておく。フレイが、「私はこんなことには屈しなふにゃー」などと言っていると、カリンが状況説明を買って出てくれた。


「いやあクノ君。遅かったね……随分チョコ集めに精が出ていたようだけれど」

「まあな。今回プレイヤーキルが限定解禁されるだろ? だから、ちょっと他のプレイヤーとしのぎを削り合おうかなと。その辺り、エリザから聞いてない?」

「クノ君と削り合った時点で、私達プレイヤーのしのぎはあっという間に無くなってしまうだろうに。むしろ本当にしのぎがあったのかどうかさえ怪しくなるレベルだ……勝負にもならないと思うんだけどなあ。……あ、ちなみにクノ君、知ってるかい? 『しのぎ』って言うのはね、刀の刃と峰の間で稜線を高くした所でね、」

「知ってる知ってる。……てか、状況説明どうしたよ」


 しのぎ談義とかどうでもいいわ。


「あ、ごめん。……こほん。

 さてクノ君。我々が今ここに集まってる状況についてだけれど……一応君の予想を聞いてみようか?」

「え、なにそれ。もったいぶらずに教えろよ……」

「い、いやそれはね、その。なんというか、心の準備がいるというか……うん。ね!?」


 いや、ね!? って言われても。

 良く見るとカリンの顔はほんのりと赤い。もじもじと何かを言い出せずにいる様子は、普段とは違いまるで乙女のようだ。……や、この言い方は流石に失礼だけど。

 そんな自ら状況説明を買って出た割に、まったく役に立たないカリンに代わり、俺の右手の下から声がした。


「ふっふん。ではぁクノさぁん! 駄目駄目ーなカリンさんに変わって、私が説明致しましょー!

 ……あ、そろそろ大丈夫ですよー? 手をどけてくださいですよー? 

 ……ちょ、クノさん、手! 手! 重い、重いです!?」


 おっと。


 あまりにもフレイの口調がヤタガラスを彷彿とさせるものだったから、フレイの頭に置いたままだった手に、うっかり力を加えてしまった。失敗失敗。

 さて、それじゃあ一体何のために彼女達が揃っているのか、訳を聞かせてもらおうかな。



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