第百三十四話 バレンタインのお話②
今回のイベントの、俺風楽しみ方。それは多対一の状況下での血沸き肉躍るプレイヤー戦闘だ。
闘技場は一対一と二対二とか、とにかく同数でしか戦えなかったからな。それよりも自由度がある決闘システムなら多対一というのも可能だが、そもそも戦ってくれる相手がいないのでは意味が無いし。
そんな訳で、対戦相手が向こうからわんさかとやって来てくれるであろうこの仁義なきチョコレート戦争は、俺にとってはまさしくうってつけのイベントとなる。本命チョコを餌にするのは少し良心がとがめないこともないが、まあゲームだし。楽しみ方は人それぞれだよね!
ということで。
俺はひっそりとした第六の街のフィールドで、本命チョコをドロップするレアモンスターを探していた。沢山のプレイヤーと戦うなら第五の街がベストなんだが、何はともあれ、まずは餌の確保をしないといけない。
場所は南フィールド。なんというか、この第六エリアは街と戦闘フィールドを合わせて『一つの大きな街』だったようだ。
いま俺がいるフィールドは一つの大きな街の外側部分……このゲームの世界観に例えると、その昔、平民なんかが暮らしていたような場所。でもって『第六の街』は、街の中心部分……貴族が暮らしてたり、城があったりするような場所っぽい。その証拠に、まるでこの南フィールドは市街地のように入り組んだ構造をしているし、当然のように家らしきものの名残もあるのだ。
開けたフィールドよりかは俺の趣味に合っているので、こういうフィールドは嬉しい限りだな。
【危機把握】でフィールド探査を試みてみたところ、どうやらこのフィールドのモンスターはレベル75から80のようだ。同時に分かったことは、ここ第六の街のフィールドはいままでの街のフィールドよりも広くなっているということ。ホント、先ほどの仮定が正しいとするととんでもない規模の街だったらしい。その分出てくるモンスターのレベルの振れ幅も、少し大きくなっているな。
この調子だと、ここのボスのレベルは100といったところだろうか?
メルティールの思わせぶりな話の件もあるし、なにやらここは『IWO』において重要そうな予感。
……まあ、だからといっていきなりモンスターが超強化され、プレイヤーを狂喜させるということもないようで。
俺は目の前に現れた人型機械のモンスター『ロストソルジャー:格闘』に向かって、剣を持った『偽腕』を一つ送りこんだ。警戒心をあらわに、その『偽腕』にむかって大きな爪の付いた右手を振りかぶるロボット的な何か。するとその爪がにょきーんと伸び、更に暴風を纏いながら『偽腕』に襲いかかった。
……や、一応いままでよりも強化はされてるのか。なんか攻撃方法も随分攻撃的かつ個性的だし。伸びる爪による不意を突いた攻撃にプラスして、周囲の暴風によって追加ダメージを与える。この割といやらしく考えられたコンボ、『IWO』を作った人とは、少し気が合うかもしれない。やはり、いろいろなタイプのモンスターと戦えるのはこっちとしても嬉しいし。
とはいえ、俺に対してはそもそも効きようがないんだけどなぁ。
『偽腕』に迫る爪を、黒剣の一閃で粉砕。どうやら爪に対しては完全にダメージが入らないようなので、ひるんでいる所に真上から剣を突き立て、白い粒子に変換してやる。
鮮やかな手口で人型機械を倒した俺は、『偽腕』を自分の元に戻しながら、隣に待機していたレイレイに飛び乗った。
俺の狙いはレアモンスター狙いだからな。『誘香の腕輪』の特殊ポップじゃあ現れないと踏んで、こうしてレイレイの背に乗ってレアモンスターを目指しているのだ。
いつのまにか戦闘になっても俺の傍を離れなくなったレイレイが、クエーと鳴きながらモンスターを求めてひた走る。そういえば、騎獣にもHPとか防御力とか設定されてるんだよな。レイレイ――騎獣『ドラク・レイヴィアス』――のそれはとても低く、だからこそいままでは全力退避をしていたようなんだが。うちの可愛い騎獣は、種族ごとに組まれた行動パターンをねじ伏せたらしい。実に優秀なことである。
ポンポンと首を叩くと、クエーとスピードを上げるレイレイ。道中に現れる、初めて見るモンスターと戦いながら俺が目指す場所は、ただ一点。この南フィールドの右端、かろうじて原型をとどめているっぽい、比較的大きな建物の内部に居る一匹のモンスターだ。
その名を『チョコレートタイガー』。
「ふう、到着」
「クエー」
威風堂々とした、肉食獣の佇まい。爛々と輝く、紅い瞳。微妙に虎柄の入った、ベトベトとした茶色の毛皮。鼻腔をつくのは、甘ったるいチョコレートの香り。
……今回のイベントの、レアモンスターである。
―――
【[魔王様]バレンタインイベント・雑談用スレ[チョコ無双]】
1・名無しの弓使い
……タイトル通り、バレンタインイベント用の雑談スレです
タイトル通り、魔王様がチョコ無双なので立ててみた
魔王板消費するよりはこっちかな
そして、もうやだなにあれ
2・名無しの双剣使い
魔王様の本命チョコ率異常すぎワロタ
いやホント、なんなの……
俺いままで、魔王様が本命チョコゲットのアナウンスしか聞いてねぇ気がする
どんだけハイペースで虎狩りしてんのよ魔王様。ありえん
3・名無しの長剣使い
魔王様の本命チョコを集計してみた
名前の横は個数な
イベント開始後、二十三時間経過現在
「パトロア」1:『IWO』三姫の一人。広報担当のナイスバディ。自称じゅうはっさい
「クリア」1:『IWO』三姫の一人。公式トップで体育座りしてるちんまい娘。マスコット担当。兼、システム担当
「イリアナ・シルク」2:第一の街の道具屋のお手伝いのお姉さん。巨乳
「ファムシーア・ロロット」1:第一の街の平民街に住む女子中学生(仮)。可愛い
「アリア・ペルデス」1:同じく第一の街の平民街に住む。ファムちゃんの友達。眼鏡
「エーデルシー・タタラレット」1:第二の街の占い師。通称タタりん。美乳
「アデル・アクランド」1:第二の街の郵便屋さん。ショートカット。活発天然
「シャーリーン・エイミス」1:第二の街の女性騎士。絶壁。それがいい
「シャルロット・ビューマン」1:第二の街のお嬢様。おほほ可愛い。お馬鹿
「クラリッサ・ブルーム」3:第三の街の魔法具屋の女店主。ヤンデレっぽい。そこがいい
「クレメンス・コーガン」1:第四の街の孤児院の最年長さん。勝気。でもすぐ泣いちゃう
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「エレクトラ・ハーピー」2:不明。第六の街の女性キャラと思われる
「コンスタンティア・ディアラブ」1:不明。第六の街の女性キャラと思われる
以上。総チョコ数、二十四個。
魔王様のアナウンスで初めて、『本命チョコって被るんだ……』
って思った。あの魔王ホント、突然謎の爆発とかしねぇかな……(【バーストエッジ】除く)
そんな俺はタタりんのチョコを死守中。
俺、このイベントが終わったらタタりんと結婚(ry
4・名無しの手盾使い
>>3 まとめお疲れ様。そしてたった今追加があったよん
「ジャッジ」1:『IWO』三姫の一人。ヘルプ担当、我らが天使様。悪い子にはジャッジメントレクイエム(強制謹慎)が飛んでくゾ。他にもジャッジメントレーザー(物理)やジャッジメントタイフーン(物理)などがある
……おい。ジャッジさん出てんぞ。おい(血涙)
5・名無しの大鎌使い
>>3お疲れ
しかし、ジャッジさんついに出たって感じだよな……
これで魔王様は公式の運営側AIはコンプか。……信じられるか?
まだ一日経ってねぇんだぜ?
6・名無しの短剣使い
つか、魔王様はなんであんなホイホイ虎を狩れるの?
一応レアモンスターだよな? もしかして、第六の街では出現率高かったり?
7・名無しの弓使い
>>6 やっぱその線かねぇ。アナウンスを聞く限り、ずっと
『第六の街「アドルトーグ」にてクノさんが以下略』だもんなぁ
確かにここまでの報告を聞く限りではレベルの高い街ほど虎の出現率高いっぽいし
ましてや第六の街は明らかになんかあるもんな
……ちょっと無理してでも、メルティール殴ってこようかと
8・名無しの刀使い
>>7 いや、それにしても遭遇スピード異常すぎだが……
そういえば魔王様、感知能力系のスキル持ってるみたいな話が前に出たよな
それでもし、虎をサーチできたとしたら……
9・名無しの棍棒使い
>>8 それは流石にチートすぎるやろwww
……チートすぎる……よね?
10・名無しの氷魔法使い
こと魔王様に関してはなぁ……
チートといえばそもそもあの強さがチート級だし
しかし、VRでチートツールというのも考えにくいし
11・名無しの全属性魔法使い
クノはチートじゃなくて、素でアレだって何度も言ってんじゃんよー
あいつ、ただの化物だから
ありゃ多分、どっかの実験所から抜け出してきたモンスターだね
ところで、>>3はタタりんチョコ持ってんの? もしかしてプレイヤーネーム『多々良』ってお前?
ちょい待ってろ
すぐ、行く
12・名無しの長槍使い
>>3 お疲れ様でしたー(いろんな意味で)
13・名無しの長剣使い
>>11 いや待て。待って。待って下さいお願いします
ヤタさんは洒落になんない。マジで
このままログアウトするまである
……うかつに所持表明するんじゃなかった。ちょっと自慢したかっただけなのに……
14・名無しの全属性魔法使い
>>13 あ、てめーログアウトは卑怯だぞこのやろー
晒しに晒して吊るしあげて、小学校の時の帰りの会を思い出させてやる(迫真)
ところで、どうでもいい話だけどさー。別にいいじゃんね? 小学男子のお茶目ないたずらくらい。ちょっと女子のスカート奪ったくらいでさー。なにもあんなに怒らなくてもいいのににゃー
15・名無しの弓使い
>>14 あー、小学校の時はスカートめくりとかよくあるあr……ねーよ
流石に奪わねーよ。全俺がどん引きだよ
16・名無しの全属性魔法使い
いやさー。そいつまじ調子に乗ってたのよ
男子はいじめるは先生はいじめるは、上級生の女子は味方に付けるはやりたい放題!
というわけで僕がいっちょ天誅をくだしてやった訳なのです。いやー、流石僕。かっくいい。あの頃は輝いてたね。今もだけど
ちなみにその後僕は、妹に守ってもらってその女子の制裁から逃げ切りました
うちの妹まじ最強ですのん
17・名無しの片手剣使い
最後超かっこ悪い!?
っつーか妹ってクリスティーナさんだったっけ
……あー、うん。納得
18・名無しの大剣使い
おー、やってんな
俺だよー。みんなの大剣さんだよー
流れぶったぎって済まんが、ヤタさんも居るっぽいし丁度いいな
とりあえず、これを見てくれないか
つ【決起せよ! 魔王討伐隊! チョコレート強襲作戦】
……どう思う?
19・名無しの短剣使い
>>18 な、なんぞこれ……
まじで言ってんの? 勝てると思ってんの?
馬鹿なの? 禿げるの? 俺なの?
20・名無しの炎魔法使い
>>18 あいやー、流石に無謀感が……
……一人のプレイヤー倒そうってのにスレまで立てて、それなりに人が集まってて、それでも出てくるのはこの感想。魔王強すぎだろおい
21・名無しの短槍使い
ここに居るの、なんだかんだ言って魔王板の住人っぽいしなぁ
うん。魔王様の恐怖をある意味一番良く知ってるからな……
正直、俺もパスしたい感
22・名無しの大剣使い
人数次第では、どうにでもなるんじゃね?
……という『グロリアス』板、勇者板、その他の皆さんの意見
正直俺もどうかなー、とは思うが、なんか面白そうだし
この機会に魔王様に突っ込んで玉砕するのも良い思い出かなーと
何だかんだ言って、まじに魔王様の強さを実感したことは無いわけだし
23・名無しの刀使い
>>22 あー、なるほど。駄目元的なね
それなら確かに面白いかもしれん。イベントの楽しみ方が間違ってる? 知るかそんなもん!
俺は乗らせてもらうぞ、ジ○○ョー!
……それに死んでも、デメリットないからね。俺、本命チョコ持ってないからね
……後で>>3を闇討ちするだけの簡単なお仕事です
そういうイベだからな! しゃーなしだな!
24・名無しの長剣使い
魔王様特攻は面白そうだが、タタりんチョコがなあ
そして>>23、やめろよ。泣くぞ俺。ガン泣きだぞ
むさいおっさんのアバターが、地面に這いつくばり鼓膜を裂くような叫び声を上げ両手を我武者羅に振りまわしながら足もバタつかせてスタイリッシュだだっ子を披露するぞ
25・名無しの大剣使い
>>24 汚い。これは汚い
26・名無しの長槍使い
>>24 醜い。地上波ではお見せできない醜さだ。
あとで動画に収めてうpして全世界に発信してやる
27・名無しの素手使い
>>26 鬼か
そういえば、前話で合計150話目だった件
……200話までに終わるかなぁ