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第百三十一話 第五のボスのお話①

 2月9日、水曜日。

 学校で玲花に会うと、なにやらげっそりとした顔をしていた。

 いわく、今習っている物理が彼女にとって鬼門なのだとか。そんなことを言いながら、それでも昨夜のうちに概要を呑みこんで整理しようとしているのは凄いが……それなら、普段の授業でしっかり頑張れと言いたい。


「そんな訳で、テストまではログインできないっぽいんですよ……」

「そうか。まあ、頑張れよ」

「むー、冷たいですね。私は大変だっていうのにぃ……」


 ぷぅと頬を膨らませる玲花。


「ふーんだ、九乃さんなんか、私がいないうちに精々エリザさんといちゃこらしてればいーんですよーだ」

「ちょ」

「九乃さんなんか、今年のバレンタインはチ○ルチョコの刑です! チ○ルチョコ! ついでに貰うチョコ全部がチ○ルチョコになるといいですよ!」

「その呪いはやめてくれ」


 割とまじで。

 実は、エリザから何か貰えないかなーなんて期待してるんだから。

 それで結果チ○ルチョコだったら悲し……いや、エリザのくれたものだったら……


 ……ふむ。


「ありだな」


「ほへ? 何がです?」

「いや、チ○ルチョコ。俺、エリザからだったらチ○ルチョコでも大歓喜だわ」


 それだったら多分、近所のコンビニかなんかで買ってきてくれた奴だろう? 

 彼女が病弱な身体に鞭打ってまで俺のために手に入れて来てくれたチョコ……。


 今のうちに、神棚を入手しておくべきだろうか。


 あと、サ○ンパス。


「わかっちゃいましたが……なんというかこう、敗北感が凄いですね。

 そしてエリザさんに対して異常にチョロい九乃さんに、戦慄を禁じ得ないです……」




 ―――




 夕方。いつものように『IWO』にログインすると、エリザが追加の剣を用意して待ってくれていた。ボス戦ではエリア移動をする関係で四十本もの剣を使う機会はないかな? と思っていたので、そんなに急がなくてもいいとは言ったんだけど。


「数に関しては、一度作ったことのある武器を量産するだけだもの。素材さえあればそんなに時間はかからないのよ。それに『呪具』や『邪具』の作成は確かに通常の装備と比べて所要時間は長いのだけれど、それも私のスキルや称号で補正がかかっているから問題無いわ」


 とのことだった。

 そしてこの先は、『呪具』や『邪具』をメインに装備を作っていくそうだ。素晴らしい。ヘルモード素材が無くなっても、『呪具』までなら普通に作れるようになったらしいからな……俺以外のメンバーにとっては、デメリットが結構効いてくるんじゃないかとも思ったが、まあそこはエリザだし上手くやるんだろう。


 そんな感じでエリザと話をし、彼女から発せられる癒し成分――エリザミンとでも名付けよう――の補給を完了した俺は、いよいよ第五のボスに挑むため、北フィールドの奥地へと向かった。


「ふむ……やはり〈衰弱〉による行動阻害は無いな。この辺りはやはりゲームか」


 装備は万全、さぁどんなボスが出てくるのかな?


 一度【危機把握】で場所を特定しているボス前のセーフティエリア。そこに至る道は、途中から荒れ果てた石畳の道にかわり、左右には朽ち果てた石柱や建物が散見されるようになった。

 廃墟のような様相ながらも、どことなく神々しさを漂わせているそこを、俺はレイレイに乗って駆けぬける。途中のモンスターも全てぶっちぎって、早くボスと戦いたい一心でフィールドを吹き抜ける黒い風となった俺達は、あっという間に目的地までたどり着くのだった。ちなみに、戦闘はしていないが戦闘状態にはなっているので、俺のHPは【覚悟の凶撃】のパッシブ効果により1である。


「よし、っと。お疲れ様、レイレイ」

「クケー」

「……しかしお前、なんかスピードが上がってる気がするな。いや、スピードだけじゃなくて持久力とか、あと精神力とか。

 この間まではモンスターを避けて走るのにも大きく迂回してたっていうのに、今日は突っ込んでいって踏み台にする始末だもんなぁ。いやはや、素晴らしい成長ぶりだよ」

「クエッ!」


 俺がよしよしと頭(ずっと下げられていた)を撫でると、誇らしそうな声を上げるレイレイ。その丸い黒曜石の瞳からは、俺と同種の雰囲気が感じ取れる。やはり、ペットは飼い主に似るというやつだな。

 嬉しい限りだが、当然のごとく死んだような目なのでビジュアル的には不気味ですらある。いや、俺が言えることでは断じてないんだが。


 メタリックな鱗を持ち、何処か機械的なフォルムのダチョウモドキである彼(もしくは彼女)は、主人の俺と合わせて全身真っ黒だ。こういうところでもシンパシーを感じたからこそレイレイを騎獣にしたんだが、この活躍ぶりを見る限りやはり彼(もしくは彼女)を選んで正解だったな。


 一通り撫で終わると、俺はインベントリから黒い結晶を物質化させる。


「んじゃ、これからもよろしくな」

「クエー!」


 任せろとばかりに一声鳴いたレイレイは、そのまま黒い結晶に吸い込まれていった。それを再度インベントリに納めてから、俺は目の前の転移用魔法陣を見る。


「さて、それじゃあ行くか」


 剣を二本だけ出現させて両手に携えた俺は、白く光る魔法陣へと一歩踏み出した。




 ―――




 視界の暗転と復帰。

 次に俺が見た光景は、巨大な闘技場だった。


「【多従の偽腕】」


 取りあえず、非戦闘時でも使えるこれは遠慮なく発動させておく。数は勿論、十九本だ。ゾワッと周囲の空気が震え、異形の腕が這い出して来る。


 ……さて、ここはどんなところかな。

 周囲を見渡してみると、『ホーサ』の街の闘技場を、朽ちさせてでかくしたような感じ。ローマにある世界遺産のコロッセオを、ステージ部分だけ使えるように整備したらこんな感じになるかもしれない。


 そしてその闘技場の真上。

 まぶしく輝く太陽に照らされて逆光になっている場所に、ボスはいた。

 名前は『メルティール』。姿形は影になって良く分からないが、身の丈三メートルちょっとの人型のようだ。そしてメルティールが徐々に高度を下げるにつれ、その全貌が明らかになっていく。


 一言で表すなら、『機械天使』だった。

 顔は無くのっぺりとしていて、甲冑のようにも見える金属の身体は思ったよりもスマートだ。その背からは鋼鉄の翼が大きく突きだしている。そして頭上には、無数の金属の欠片が集まってできた歪な天使の輪。


 神々しさと同時に忌避感を覚えるような姿をしたメルティールは、地上から数メートルのところでピタと静止すると……


『ヨウコソ試練ニ立チ向カイシ者ヨ。我ガ名ハ"メルティール"。人ヲ司リシ我ガ主ノ試練ヲ受ケルノニ貴様ガ相応シイノカドウカ、マズ我ガ見極メテヤロウ』


 合成音声のような妙なイントネーションでもって、訳の分からないことを言ってきた。『千怨神樹』の前例もあるし、喋るモンスターにさほど驚きは無い、が。

 ……え、何。試練? ってか、その前座? どういうことだってばよ。【危機把握】の情報は、モンスターの挙動や弱点(ちなみにメルティールは頭への属性魔法攻撃が特に有効らしい。非常にどうでもいい)などの情報まで教えてくれるが、試練うんぬんについては全く分からない。


 うーむ、と少し考え込んだその時。


『デハ、行クゾ』


 喋り終わったメルティールが、大きく機械の翼を広げた。その瞬間、【危機把握】によって相手の攻撃が知らされる。


 メルティールの前方に白いエネルギー球が溜まっていく。どうやらこれがビームのように打ちだされるようだ。しかも、優秀なホーミング性能付き&オルトスさんの【アースブレイク】のように打ち消し不可。


 うわー、ずっこいわー……まあ、初見で敵の情報をバンバン引き出せる俺が言うことではないかもしれんが。

 ちなみに威力の方はかなり抑え目のようだが……まあ、俺の場合確実にアウトだな。他にももう一つくらい効果があるようなのだが、なぜか読み取ることは出来なかった。


 発射まで、約五秒。

 ……MPがあれば、この間に距離を詰めて攻撃を叩きこむか、【斬駆】でもぶっ放すんだがな。少し判断を誤ったか。


 バキッ、と中級MPポーションを踏み砕き、【多従の偽腕】で失ったMPを回復させる。効果のほどは"神樹を救いし者"で上昇していて、みるみるうちにMPが回復していく。てか……これ、回復量強化され過ぎじゃない? ポーションの効果時間は60秒固定だが、1秒間に3%は回復してる気がする。さすが『ヘル』モードボスキャラの単独撃破称号って感じか。


 さて。

 そろそろ、五秒だ。

 逃げ回るのに十分なMP量はあるな。


『エターナル・ゼロ』


 白い球体が一際膨らんだかと思うと、エネルギーの輪を作りながらこちらに突き進んでくる。


「……【惨劇の茜攻】、【バーストエッジ】」


 とりあえず【惨劇の茜攻】によって瘴気を纏い、両手の『黒蓮・魔式』から赤黒の爆炎を噴き上げると、俺は迫りくる白いビームを回避することに専念する。


「……っち! ――【バーストエッジ】――【バーストエッジ】――【バーストエッジ】!」


 ホーミング性能が凄くうざったい。

 幸いビームを出している間に何らかのアクションを取ることはないようだが……こちらも、回避となるとそれだけで手いっぱいなのである。


 そうこうして六回【バーストエッジ】を使った時点で、やっとビームは消えた。

 ああクソ……、疲れた。腕が痛い。『偽腕』との距離にも気を使いながら逃げていたため、少し連続で使いすぎたかもしれん……

 俺は石でできた闘技場の床にガリガリと剣を差し込みながら『偽腕』を呼び寄せ、周囲に配置する。彼我の距離は、二十メートルと少しといったところだ。


『ホウ、コノ攻撃ヲ避ケルカ……。ナカナカヤルナ。デハ、コレハドウダ?』


 機械天使メルティールが右手を掲げた。

 するとその周囲に、鉄屑を寄せ集めてできたような無数の"剣"が生成され、くるくると回り始めた。

 その数、ざっと五十。一つ一つは小剣程の大きさだが、威力はボスに相応しい程度にある。特に追加効果は無いらしいが、単純に物量で押してくるつもりだろうか。


 だとしたら――


『ブレード・ダンス』


「くっそ甘いわ」


 高速回転しながら一斉に俺に迫り来る剣の群れ。


 くっははははは。


 ……手数で俺を圧倒しようとは、随分と甘ったるい話だ。

 砂糖の砂糖漬け砂糖風味~砂糖を添えて~くらい甘い。さっきの攻撃で必死こいて逃げてた奴の台詞じゃないけど。


 周囲の『偽腕』――更に三本補充し、とりあえずは二十二本だ――全ての座標を瞬時に捉え、俺はインベントリから計五十本の『投げナイフ』を出現させる。

 そしてそれを『偽腕』に装填・・すると、迫りくる剣に向かって、投げつけた。


 ギャリギャリギャリギャリッ!


 金属同士が激しくぶつかり合う音が盛大に闘技場に響き渡り――そして、消えた。


 後に残ったのは、空高く突きぬけていく赤黒の瘴気を纏った小さなナイフと……キラキラと降り注ぐ鉄屑の残骸。

 ふむ、これはこれで綺麗だな、なんてことを思いながら俺は絶句した様子のメルティールを見据えるのだった。



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