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第百二十話 サバイバルのお話⑤

 何故か異常に多い、【異形の偽腕】の上位変化。

 なんだろうこれは。開発は無駄なところで力いれてるなぁ。

 まあ、困る訳でもないからいいけど。とりあえずどれにするか決めないとな。


 まず論外なのが、【操士の偽腕】【神行の戯腕】【神行の犠腕】の三つだ。

 Int値が関係してるとか俺にはどうしようもないし、後ろ二つに至っては数が制限される始末。これをとったら何のために『偽腕』使ってんだがわからなくなってしまう。状態異常対策はまぁ……なんとかなるだろ。うん。

 後、"あらゆるものに触れられる"という記述が地味に怖い。それってつまり、裏を返せば相手攻撃が『偽腕』に当たるようになる可能性が高い訳で。そうなると、ダメージを受けてしまうかもしれないんだよなぁ……紙以下の防御なのに当たり判定増やしたくない。ということで、ボツ。


 とすると、【隠蔽の偽腕】【全能の偽腕】【多従の偽腕】の中から選んでいくことになるんだが……


 まず、【隠蔽の偽腕】。対人戦ではかなり強いんだろうが……

 根本的に火力を上げられる要素が入っていない! あと、【惨劇の茜攻】を使うと『偽腕』からも瘴気が溢れ出すからな。透明にした意味が全く無くなってしまうだろう。ボツ。


【全能の偽腕】は……『偽腕』のステータスが、全て極振りになるということか。

 得られる恩恵としては、”Vit値極振りによって重い物が振りまわせるようになる”、”Agi値極振りによって剣速が速くなる”、”Dex値極振りによって投擲の命中精度が高くなる”、だな。

 確かに便利ではある。特に高いAgi値があれば、戦闘力はかなり増すと思うが……しかし、消費MP増加が怖い。というか、怖すぎる。最悪一本も出せないんじゃなかろうか。


 対して【多従の偽腕】の難点は、こちらも『偽腕』の数に依ったMP消費、なんだが……〝偽腕の行使者〟やこのスキル自身の効果にもある通り、『偽腕』が移動できるようになったからなぁ。

 それはつまり、”一度フィールド内で『偽腕』を出せば、その後はずっと連れて歩ける”ということだ。

 ペット的なね。黒い腕をぞろぞろと引きつれて散歩する……いやうん、それはなんか違うな。


 とにかくそんな訳で、戦闘になったら出す、という今までのようなことをしなくて済む分MP効率は圧倒的に良くなるはずなのである。したがって追加分の『偽腕』も、MPが溜まり次第適当に補充していけば問題なさそうだ。【全能の偽腕】よりも管理が楽そうなのは確かだろう。


 まぁ、フィールド移動をすると全てのスキルの効果は切れるから、ボス戦なんかには応用できない技だけど。それに今回みたいに武器を拾ったりできない状況では、主な使用用途は投擲になるだろうし。

 ……いや、あれ? それを考えると、【全能の偽腕】の方が安定はしているのか? いやでも、どのくらい消費MPが増えるのか分からないのが痛すぎるぞ。数が出せなければ安定も何もないし。


 ……むー……


 ……うん、よし。


 決めた。【多従の偽腕】にしておこう。

 ピッ、とウインドウに触れて、上位変化完了。


 なんだかんだ言って、やはりStr以外のステータスが上がるというのは嫌だしな……

 【多従の偽腕】の方は『偽腕』を動かせる範囲が広がるというのも結構魅力的だ。15mと言うと、ちょっとした遠距離攻撃並みだし。


 そんな訳で処理を全て終えた俺は、

 早速新しくなった『偽腕』と共に敵を倒すべく、襲撃を待つのだった。




 ―――




 朝。加速した仮想世界の時計でいうと、5時くらいだ。

 ようやく日が昇ってきて、視界を確保できるようになった。

 夜のうちに【多従の偽腕】の使い勝手を確かめた俺は、上機嫌である。


 いやぁ、やっぱり『偽腕』と共に移動できるって凄い便利だわ。これまでは相手の出方を窺って、カウンターをするしかなかったからな。その分手間もかかっていた訳だ。

 それが自分から迫って(歩いて)いけるようになった途端、やりやすさが格段に上がった。やっぱり自分で距離詰めて、行動制限をかけていかないとね。面倒だった『ヘルウォルフリーダー』も、増えた『偽腕』を操って追い立てて、孤立したところをさっくり撃破だ。くっははは、人間様の力を思い知ったか狼共め。


 ただいま使える『偽腕』の数は、【多従の偽腕】の効果込みで最大なんと26本。

 しかし流石にいきなりこれだけ増えると、出したは良いものの上手く思考が行き渡らなくて、同時操作ができない『偽腕』も現れ出したが、概ねなんとかなると思っている。


 最初に『偽腕』の操作に挑戦した時を思い出すとよく分かるが、こういうのは所詮慣れだからな。数が増えた所でやることは変わらず。こちらがもっと努力すればいいだけの話だ。


『「できない」なんて台詞は、頑張って頑張って、死ぬほど頑張って、そして死んだらあの世で言えばいい』


 なんていうのは、祖父さんの言葉である。

 同時操作ができる本数は、実戦の中で追々増やしておけばいいだろう。幸い、そのための環境は整っているしな。


 後でエリザに剣の追加注文をしておかないと……


 あ、言い忘れていたが、実は夜のうちにもう一つ、スキルが上位変化をした。

 さほど劇的な変化でもなく地味な部類だが、地味に凄く役に立つと言うスキルだ。

 このイベント、もしかしてスキルが上位変化しやすいとかそういう側面もあるんだろうか? フレイはその点について何も言っていなかったが……隠し効果的な? うーむ。



【武器制限無効化(真)】PS


 武器制限を無効化する

 武器に対する装備の所持数制限を無効化する

 武器アーツ使用不可



 武器に対する装備の所持数制限を無効化!

 つまり、インベントリに剣を入れ放題!


 剣を10個より多く入れた状態で他の装備……例えば『茨の黒手』なんかを入れられるのかどうかは気になるところだが、【多従の偽腕】との相性たるや、恐ろしいものがあるな。やはりこちらを選んで正解だった。

 思考のみで取り出せない剣が多くなってしまうが、それはまぁ大丈夫。直接メニュー開いて実体化させるくらいの時間は、最初の頃と違って充分にあるし。なんせ十本は思考のみで取り出せるんだ、『偽腕』に持たせてモンスターに応戦しながら、悠々とメニューを眺める余裕さえ今の俺にはある。


 しかし、ショートカットは出来た方がいいので、エリザに色々改造できないか聞いてみるつもりだ。インベントリの最大収容数も、30から増やしたいしなぁ。


 そうそう、あとは少し気にかかっていた『偽腕』の移動速度のことだが、これがなかなかに速かった。ちょっと測ってみたらなんと戦闘中の、〝ベルセルク〟によって移動速度低下が掛かっている俺よりも速かったのだ。


 ……これはあんまり、良い比較じゃなかったな。

 要するに、歩きよりも速いってことだ。走るくらいとは言わないが、早歩き程度の速度は出ているんじゃないだろうか? 


 加速や減速は出来ずに、スー、と空中を滑ってピタッと静止する感じである。ものの二、三時間で動かし方をマスターできたところを見るに、かなり扱いやすい挙動といっていいだろう。


 と、『偽腕』についておさらいしながらコキコキと首を回す。

 さて、それじゃあ今日も楽しい狩りの時間といきますかね。夜もやってたから実質ぶっ通しだけど。しかし、気力は充実している。むしろ、イベントに挑む前よりも調子がいいくらいだ。


「【多従の偽腕】」


 MPをほぼ全て使って、まずは『偽腕』を13本出現させる。先程消滅時間のラグを計るため、26本一斉に消したのだ。結果、ノーラグで一斉に消えたけど。


 空間が侵食されるように黒い靄が大量に現れたかと思うと、そこから漆黒の腕が這い出てくる。この光景はなかなかにSAN値を削られるものがあるかもしれないな。俺はもう慣れっこだけど、今度カリン辺りを囲んでやろう。反応が面白そう……いや、流石に可哀そうだろうか。


 そういえば、『偽腕』自体は上位変化しても見た目とか演出は変わらなかった。【多従の偽腕】だけがそうなのか、他の上位変化もそうだったのかは、今となっては分からないことだけど。まぁ性能面さえちゃんとしてくれれば言うことは無い。


 よーし、じゃあ今日は更に奥を目指すぞ。レッツゴー。

 『偽腕』のそれぞれに『黒蓮』や、『ヘルベアブレード』『ヘルヴァイパーレイピア』『ヘルウォルフソード』などの剣系統のドロップ武器を持たせて、いざ出陣だ。


 ……ちなみに。

 『偽腕』が動かせるようになった利点として、木々の伐採が物凄く楽になっているのはどうでもいい話か。




 ―――




 サバイバル二日目のお昼頃。

 26本の『偽腕』で周囲の木々(何か色が黒っぽくなってきて、不気味な雰囲気)を切り倒しながら歩く俺。レベルは73である。

 ついでに言うと、また新たなスキルが上位変化した。といっても【長剣強化(中)】が【長剣強化(大)】になっただけだが。



【長剣強化(大)】PS

 武器『長剣』のStr上昇+30%

 武器『長剣』の損耗値を1/3にする



 順当に強化されているようでなにより。


 さて、探索を続けている俺だが、ここら辺の木は斬り倒すと『三叉邪神樹材(地獄級)』というアイテムになった。……"邪"?

 マップを確認すると、もうかなり中心部に近づいてきたな。


 小腹がすいたので携帯食料をもしゃもしゃと口に含めながらふと、『ヘル』の残存人数を見てみた。


『IWOサバイバルゲームin三叉神樹の森・ヘル


 参加人数:86

 残存人数:9』


「少なっ!? まさかの一桁」


 まだ丸一日くらいしかたっていないと言うのに、滅茶苦茶減ってるんですけど……

 確かにモンスターは軒並みボスレベルだが、なんとかならない程では無いと思うんだけどなぁ。俺以外の八人って……ミカエルやフィーアは、残っているんだろうか? あとはオルトスさん辺りが参加していたら残っていそうだな。



 キキキキキキイィィィィイイイイイイイイ!!!



 と、突如として不快な鳴き声を上げながら、頭上から襲いかかって来るでかいコウモリとカラスの大群。レベルは82だ。


 何匹いるか数えるのも億劫なそれを、俺は【バーストエッジ】で吹き散らしながら大量の『偽腕』を操って殲滅していく。


 投げナイフの残量が心許なくなってきたな。少し節約するか。


 キキキ……キ……


 最後の一体をザシュッと斬り捨てて、俺は頷く。

 『偽腕』の操作精度が格段に上がっている。完璧に同時に操れる本数も、今では20本を超えた。この分だと26本を完全にコントロールできるようになるのはすぐかもしれない。

 まったく……サバイバル様様だな。くっはははははは!


 素晴らしい環境に感謝しながら、俺はモンスターを蹴散らし蹴散らし、森の中心部を目指すのだった。


 そして、遂に。

 マップ上では森の中心部に辿り着く。

 そこにはなにやら、古びた大きな神殿のような建物があった。

 入口の両脇には、二体の人型モンスターの像がある。エジプト辺りにありそうな、仮面をかぶって槍を持った巨大な像だ。


「動きだしたりしねぇよな……?」


 神殿の前は開けているので戦闘には丁度いいが……

 警戒しながら慎重に進んでいくが、入口の前に立っても像が動き出す気配は無かった。

 その代わりに、こんなウインドウが表示される。


『ボスフィールドへと転送します Yes/No』


「ボス……あれ? ボスなんか居たっけか」


 確かこのイベントは、ただ二泊三日戦い続けるだけのイベントで、標的とかは特に無かった記憶しているが……まぁ、獲物の一部として一際強いモンスターも設置されているということかな。


 ならば是非も無し。

 俺は『偽腕』を消して、両腕に『黒蓮』を呼び寄せる。フィールドが変わるため、スキルは全部解除されるからな。

 さて……どんなモンスターが待ち構えているのかね? 俺は高揚感を胸に、Yesを選択した。



「おい! どういうことだ。『ヘル』モードがいとも容易く攻略されていってるぞ……こいつ、本当に人間か!?」

「さぁ、どうなのでしょうね」

「あーあ、敵を強くしたのが裏目に出たっすね……遂に【武器制限無効化(真)】まででちゃいましたか」

「んあ? そういやあのスキル、変化条件なんだったけ?」

「複数の武器を扱った状態で、自分よりレベルの高いモンスターを倒すんすよ。敵の強さによって変化に必要なモンスターの数が変わるっす」

「最低でも第五のボスのクリア前にでることは無いだろうって、局長が言ってたような気がするんですけど」


「フハハハ! ……流石にモンスターを強化しすぎたかもしれんな」


「局長!?」


「しかし案ずるな。あの程度では第五のボスは倒せんよ……そう、やつが極振りで居る限りはな。フハッ! フハハハ! フハハハハハハハハ!!」


「……俺は割とやばいと思うんすよねぇ」

「俺もだ」

「私も同感です。特にあの【バーストエッジ】の使い方がなぁ」

「あーあ。てか、このイベントって難易度ごとに動画つくるんすよね? 『ヘル』モードが多分クノの独壇場になるっすよ? 特に後半。三日目とか」

「フィールド内は隈なく記録してあるから、ポイント上位者の個人動画も作りますね」

「……動画の内容がほとんど被りかねん件について」

「『ヘル』の方はまぁ……なるべくクノくんの登場を抑える方向でいきましょう。うん」


「「「はぁ」」」


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